医療機関の労務リスクもその他業種の労務リスクも基本的には同じです。一般企業に起きる労務リスクは、医療機関でも起こり得る、又は、起こっている労務トラブルです。
どの業種でも一緒ですが、最も問題なのは労務リスクが表面化して問題となるまで、そのトラブルに気が付かないことです。
これでは、手の打ちようがありません。
確かに医療スタッフは、専門分野に特化していて、医療業務への貢献意識が強く、労働法規にまで手が回らないのも事実でしょうが、放置したままでは、結局、患者さんへの貢献もすることができなくなってしまいます。
シフトや夜勤を含む不規則な業務があり、有期雇用も多いのが医療機関です。規模によっては、病棟勤務や外来勤務、職種によっても勤務内容も変わることもあるでしょうし、宿日直の有無も含めて詳細な労働条件を明示して労働契約書を作成しましょう。
個別の労働条件は労働契約に明記し、スタッフ全体の労働条件は、包括的労働条件として就業規則に規定します。小規模医療機関では、10人未満のスタッフの場合も多いかと思いますが、医療従事者への安心観を優先して、就業規則を規定されることをお勧めします。就業規則に規定することにより、細かな労働条件を見直すきっかけとなります。
医療機関等には、医師、看護師、コメディカル、技師、事務職等の様々な職種の方達が様々な業務に、様々な労働シフトで働いておられます。また、シフトの交代だけでなく、病棟の変更により働き方が変わる場合もあるでしょう。
小規模医療機関では、労働時間と休憩の線引きすら難しいこともあるのではないでしょうか。
労働時間の算定にもいろいろあります。時間外労働時間、休日労働時間、深夜労働時間、深夜残業時間、変形労働時間の時間外労働時間の算定もあります。
代休の場合の処理は?、振替休日の場合の処理はどうするの?
これを勤務日も所定労働時間も違う人たちを、一律に管理するのは至難の業ですので、人員配置的にも全体的な配置及びシフト管理が必要となります。
また、ソフトを使うにしても、アウトソーシングするにしても、一定の基礎知識は不可欠です。
どんな業種であっても、時間管理は使用者の責務ですし、過重労働からくるメンタルヘルスにも注意が必要です。過重労働や不払い残業、安全配慮義務等の労働問題まで発展すると、損害賠償請求と背中合わせの課題ですので、見逃しのないよう取り組む必要があります。
労働時間管理、シフト管理、人員配置は、メンタルを含んだ健康管理に繋がりますので、単に数字を記録する事にとどまらず、常に確認して対応策を講じる必要があります。まさしく、PDCAサイクルの実行ということになります。
医療機関の賃金制度の設定も難しい問題です。資格とキャリアがものをいう世界ですし、中途採用も多いので、基本給を年功賃金や勤続給等にすると機能不全に陥ることも考えられますし、経営面においても負担となる可能性があります。
基本給の設定を、周りのスタッフのキャリアや年齢を見ながら決定して、諸手当で調整するといった場当たり的な手法から、きちっとした制度設計によって、医療スタッフがモチベーションを維持でき、優秀なスタッフが他の医療機関から引きぬかれることがないような、将来設計がキチンとできるオリジナルの賃金制度を提案します。
長時間労働とサービス残業
それぞれの労働問題は複合的にリンクしており、一つが発生する事業所では、すべてが発生する可能性がありますので、根本的に、かつ、繰り返し改善していく必要があります。
医療従事者は、貢献意欲があり、誇りを持って業務に従事し、仕事の達成感も高い為、悪く言ってしまうと無理が利いてしまう傾向にありますので、医療機関が細かな労働環境の整備を見落としがちな傾向にあると感じます。
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