不払い残業が発生する要因はいくつか考えられますが、大きく分けると荷主からの要望に対応するための長時間労働と、その現実に対応できない労務管理の状況があると考えられます。
長時間労働
@手待ち時間と休憩
長時間労働の最大の原因は、手待ち時間だと言われています。
倉庫・デポ等での積み込み待ち、海コンターミナルでの待ち時間。当然に拘束時間は長くなりますし、何の対策もしなければすべて労働時間となって、残業が増え、不払い残業発生の大きな要因となります。
A不規則な勤務時間
出発時間と帰社時間が個人、配送ルート又は荷主によってバラバラのうえ、社外での労働時間が管理できない。デジタコ対応にも無理があり、走行時間は管理できても、手待ち時間と休憩の区別を含めて労働時間の管理は難しい。
配送ルートは掌握していても、大まかな判断となるため、会社としての基準を設け、制度として確立しておかないと最終判断はドライバーに委ねざるを得ず、残業増加の要因となります。ドライバーの判断に任せっきりにしておいて、不払いが発生したら、「監督署にでも行ったろうか」くらいには思うのではないでしょうか。
Bサービスの高度化
「Just In Time」方式による配送の定着化が、運送業には更なる長労働時間をもたらしているのではないでしょうか。
時間通りに配送する為には、当然のことながら余裕を持った運行が必要になり、時間前の到着待機が必要になってきます。その時間は当然のことながら労働時間となり、残業の発生要因となります。その業種は、コンビニから製造業まで広まっており、運送屋さん一企業だけでは対応できなくなってきています。運送業の時間短縮には荷主の参加が不可欠な状況です。
「多品種・小ロット配送」トヨタに代表される”かんばん方式”を、運送業に取り入れて「必要な物を・必要な時に・必要なだけ配送」するためには、それなりの準備が必要で、積み込み・配送にも時間がかかります。中小の運送屋さんでは、その業務増加分は人手に頼らざるを得ず、運賃も増えないとなれば、残業増加の可能性は、不払い残業増加の可能性と同意語となってしまいます。
荷主の効率化が運送業の非効率化になっているのです。
運賃と人件費の削減
アベノミクスも運賃アップまでは、まだまだ届かないようですし、経営者にとって経費の削減も頭の痛い課題です。削減可能なものと言えば、車両、人件費、燃料代となるのでしょうか。もちろん最も大きい固定費と言えば人件費となりますので、「仕事が増えても、人を増やさず」がスローガンとなり、残業が増えて、不払い残業が発生し、最後に労働問題勃発となります。
免許制度の変更による人員不足
平成19年6月に施行された道路交通法改正により、普通・大型自動車に加えて、車輌総量5トン以上11トン未満等の自動車が「中型自動車」となり、「中型免許」が新設されました。
以前は普通免許を取得すれば4トン車の運転が可能でしたが、平成19年6月以降取得者は、2年経たないとトラック運送における主力の車輌総重量5トン〜8トンの車には乗れません。
2トン車でも荷台がアルミバンや冷凍機、パワーゲートを架装した場合には5トンを超える可能性があります。結果として、実質2年間の運転経験と中型免許試験合格が無ければ、運送業のドライバーにはなれなくなり、その間のドライバー不足により、労働量が増加し、残業が増え、不払い残業が増えることが懸念されます。
賃金制度
残業込みの歩合給や手当
経営者としては、できるだけ残業代と残業管理及び計算の手間を省きたいのが本音でしょうから、給与や手当に残業代を含めておけば一石二鳥となり、こんないいことはない訳です。ただし、これで安心して、ほったらかしにしていると後で2倍返し・3倍返しとなって真っ青なることがあります。
賃金と残業の判別なし + 清算なし + 明細なし + 規定なし = 不払い残業
まして、従業員がその規定自体を知らないというのでは、ケンカになりません。
さらに、使用者には労働契約に伴い安全配慮義務(労契法第5条)があり、長時間労働による健康管理上の配慮のため、労働時間管理義務があるとされています。結局、残業代込みの賃金や手当にしても「時間管理」から免れるこはできないということになります。
それならばしっかり管理して、「残業代込みの賃金や手当」が有効活用できるような仕組みを作らなければ、会社にとって意味がありません。
時間管理
@手待ち時間
経営者の一言:手待ち時間を労働時間とは認めないし認めたくない。その前に、手待ち時間なのか、休憩時間なのかの区別もつかないのに、賃金など払えない。
運転手の一言:積み込み待ちでいつでもトラックを移動できるように待機しているのだから、労働に決まっている。会社がその時間分の賃金を支払うのは当然の義務だ。
お互いの言い分はそれぞれごもっともです。
この線引きが曖昧なことが、大きな原因であると思います。順番が着たらすぐに動けるようにしておかなければならない待機時間もあるでしょうし、休憩と同様にぐっすり昼寝モードの待機もあるのではないでしょうか。
Aその他業務
運転以外のその他業務(日報書き、洗車、朝礼等)時間を労働時間に算入していないケースも散見されます。運転日報分の時間しか賃金に算入していない企業もあると聞きますが、「ない袖は振れない」では済まないでしょう。
B割増計算
●不払い残業の発生要因
1.一定時間で足切り 2.年俸制で残業手当なし 3.名ばかり管理職 4.端数時間の切捨て
5.残業手当なし
●除外賃金
住宅手当・家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・臨時の賃金・1ヶ月を超える期間毎に支払われる賃金
※全社員に一律で支給される上記手当は、名称に係わらず除外賃金とは認められず、算定基礎に算入されます。除外すると不払いが発生します。
(結論)
●管理と実態の乖離
管理上の労働時間と実態労働時間とがあっていない為に、不払い残業が発生しています。
会社としては、労働時間と休憩、さらに休息期間までを含んだ設定を検討して、残業時間削減に取り組まなければなりません。長時間待機がある場合には、会社主導で荷主と調整し、休憩時間への転換を図りましょう。
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