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運送屋さんの賃金制度

運送業の社長さんの抱えるいくつかの問題としては、低運賃、過重労働、燃料費の高騰、労働時間管理と残業代等々ありますが、つまるところ、「運送屋は儲からない」という話になってきます。

運賃の下落と並行するかのように運転手の賃金も下がっており、人件費がコストの半分を占めている状況から、もはや悪循環といった様相を呈しております。運送業の経営者のなかには、廃業か賃金カットかといった二者択一を迫られている経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また、最近では毎月のように、残業代の不払いや労働時間について是正指導を受けたというような話を伺います。どの業界でもそうですが、是正指導・勧告の発端は従業員の申告から始まることが多いものです。

まだ、それなりの手取り賃金が確保されていた時は良かったのでしょうが、従来からの賃金制度のままで、賃金カットだけをして、過重労働で残業代も出ないで、「嫌なら辞めろ」くらいの調子では、監督署へ行って文句の一つも言いたくなるのが人情ではないでしょうか。
そこで、運送屋さんの賃金制度についてもう一度考えてみたいと思います。

当然のことながら、運転手の賃金は、荷主の運賃から支払われるわけですが、運賃はベテラン運転手でも若手の運転手でも同じです。ですから年功賃金の場合は、ベテラン運転手の方が固定費は高くなり、会社の利益は少なくなります。

また、運送屋さんが運行管理でよく使う「運行効率(実車率・積載率・稼働率)」についても、運転手の個人的能力はあまり影響しないといえます。ミクロの部分では、荷主と運転手との人間的繋がりで仕事が入ることもないとはいえませんが、マクロの部分ではそれは、むしろ会社が解決するべき問題だと思います。
運転手個人の能力が発揮されるのは、「有効稼働率(労働時間・実作業時間・運転時間)」といった時間に関する効率の問題ですが、これを給与自体に直接反映してしまいますと、急いで事故でも起こされても困りますので今は省きます。

要は、一定のキャリアを積んでしまえば、それ以上は年齢によって差が出にくい業種であるということです。そのような業種に年功的要素の高い固定給を取り入れていれば、現在のような運送業を取り巻く状況のなかでは、当然のように運賃と賃金のアンバランスが起こってしまいます。


運送業の賃金体系
一般に運送業といっても多種多様です。荷主の業種によってトラックの形状、運転手の資格、労働条件も大きく違ってきます。同様にトラックも平ボデーと言われるカーゴ車からアルミバン、ウイング、冷凍バン、タンクローリー、ダンプ、ミニクレーン車、etc・・・様々です。運ぶ荷物の種類一つについて一種類のトラックの形状があるといっても過言ではありせん。

運送会社によっては、さらに細かく仕様が違ってきます。このようにトラックの仕様が違うように、荷主と積荷によって作業工程も運行方法も違ってきますので、結果として運賃も違ってきます。また、乗車するトラックは大型車なのか、中型車なのか、それとも小型車なのかによっても運賃が違いますので、賃金もそれによって変動できる制度としなければなりません。

そのような状況ですから、賃金体系一つとってみても、同じ運送業だからといって隣の運送屋さんに倣って同じ賃金体系を作っても巧くいくとは限りません。やはり貴社のオリジナルの賃金制度を目指すべきです。

荷主の業種はどうなのか、何トン車を使用するのか、運行時間・経路はどうなのか、荷積み荷降ろしにフォークやクレーンの資格はいるのか、長距離なのか、地場なのか、運賃はトン幾らなのか、付加価値による運賃なのか、・・・をよく検討します。次に荷主の種類によって運転手の賃金体系を変えることの必要性を検討します。高い能力を要する運行と運べればよい運行とを同じ賃金制度で運用すると、運転手のヤル気を維持できないからです。

賃金制度を作成・変更する大きな動機付けは、賃金制度の合理化と従業員のヤルの維持又はアップにおかなければ成功しません。合理化という名の賃金カットだけでは従業員のヤル気を削いでしまいますし、その逆では会社を維持できなくなってしまうからです。

また、運送屋さんの賃金制度を考えるにあたって、どうしても外せない重要なものが、運手の時間管理と残業代対策です。以降に残業代の比較を載せてありますが、その点に軸足を置いて検討するのであれば、完全なのか一部なのかは別にして出来高給(歩合給)は外せないと思います。
残業代を削減する大きな手立てが歩合給です。運送屋さんの賃金管理は基本的に賃金の総額原資から逆算して成立しておりますので、その枠の中で残業代を支払うのであれば、運賃を上げるか、残業時間削減を含めた賃金対策を立てなければ生き残りを図れません。

では、運送屋さんに向いた従業員のヤル気を維持又はアップする賃金制度とはどういうものがあるのでしょうか? 


固定給  〜仕事給(職務給)〜
運送業の場合、元々職務給が多いのですが、荷主との契約が月極の場合は、固定給(職務給)でも良いでしょう。ただし、日給月給でも、時給でも、年功的な部分は排除し、荷主毎の仕事内容によって分別します。要は細かく「職務給」としてランク付けします。当然のことながら、仕事内容によって運賃に差がなければなりません。

例えば、新人の場合は、小型車で比較的近距離のルート配送にして、レベルが上がるに従って、仕事の内容と「職務給」のランクを上げていって賃金も上がる仕組みを作ります。ランクアップした仕事の中に、「資格」が必要な仕事があれば「資格」を取得することによって、「資格給」を支給するようにすれば、従業員のスキルアップの目標にもなります。もちろん職務給のなかに、「資格」要素を組み込んでも良いと思います。要は自分の運転手としてのスキルが上がれば、職務内容をグレードアップすることによって賃金も上がるという意識を運転手に持ってもらうことが大切です。

                 固定給制
所定内賃金(固定部分)
基本給(職務給)
資格手当(F/L,クレーン他)
通勤手当
所定外賃金(変動部分)
時間外割増賃金
休日割増賃金
深夜割増賃金


【固定給の割増賃金】
固定給(所定内賃金)の割合が大きければ、時間外労働が発生した場合には残業代も同様に大きくなりますので時間管理はしっかりする必要があります。
尚、全体的な労務比率は、運賃全体の適正な範囲(40〜45%)に抑えていきませんと仕事自体が成立しなくなってしまいますので注意が必要です。

また、ターミナルやデポでの手待ち時間が長く、長時間労働が常であるような業務内容であれば、固定給は割増賃金の計算の基礎となる時間単価が高くなる為、月極運賃といえども検討の余地は大いにあると思います。

                 固定給の割増計算

固定給の割増賃金                   所定内賃金(固定部分)     
                          1ヶ月の平均所定労働時間数    =時給

                        時給 × 1.25 × 時間外労働時間数 = 割増賃金 

ex
基本手当   220,000円
資格手当    30,000円        250,000円  =1,420円
通勤手当    22,000円        176時間   (1円未満四捨五入)
        (除外賃金)
  合計    272,000円
                                                       1,420円 ×1.25 × 74時間 = 131,350円
所定労働時間 176時間                                                                      (1円未満四捨五入)
残業時間     74時間     
総労働時間   250時間                        


完全歩合給
完全歩合給といっても、フルコミッションという訳にはいきません。保障給 + 歩合給というのが一般的ですが、歩合の支給率は運送形態や使用車両によって異なりますし、運送会社毎に、売上に単純に掛けるか、燃料費や高速代を引いた元金に掛けるのかによって違ってきます。いずれにしても、運送屋さんが賃金制度を変更する場合には、運賃から経費を引いて労務比率を算出し、その枠の中で割増賃金を含めて収まるようにしなければなりません。

【歩合給の保障給】
労働基準法第27条 出来高払いの保障給
出来高払いその他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。という規定により、労働時間数に対応した賃金を保障する必要があります。

労働時間に応じた保障給を支給するわけですから、保障給は時給で決めなければなりませんし、毎月労働時間数によって変動した賃金を支給することになります。
さらに、成績が悪くて歩合給がゼロでも保障給は支給しなければなりませんし、最低賃金もクリアしていなければなりません。
ただ、毎月の労働時間数によって保障給を計算するのは、実務上手間が掛かりますので、一定の労働時間数を設定した固定保障給として、超過部分は清算するという措置をとることも可能です。

では、幾らぐらいだとよいのでしょうか。通達によりますと、「一定額の保障」とは、通常の賃金が保障される額」とされており、休業手当を目安に「平均賃金の6割」程度を保証することが」妥当とされています。
実務的には、最低賃金を保障給として固定部分にしている運送屋さんが多いと思いますが、過去の一定期間の賃金総額をその期間の総労働時間で割って、最低賃金と比較して6割を超えているかどうか確認してみてください。

                     完全歩合給制
基本給(保障給)
歩合給
通勤手当
時間外割増賃金
休日割増賃金
深夜割増賃金
                 
                 【歩合給制の割増賃金計算】
歩合給の割増賃金
    歩合給    
その月の総の労働時間数 =時給

時給×0.25×時間外労働時間数=割増賃金
ex
売上 × 歩合率=250,000
保障給 + 歩合給  250,000円
通勤手当      22,000円
         (除外賃金)   
 合計       272,000円  


所定労働時間 176時間
残業時間     74時間
総労働時間   250時間
 250,000円(算定基礎賃金) = 1,000円
   250時間        (1円未満四捨五入)
   


1,000円 ×0.25×74時間 =18,500円     
      (1円未満四捨五入)


歩合給の場合は、賃金計算期間の歩合給の総額をその期間の残業を含めた総労働時間で除して時間給を算出しますので、時給単価はかなり低く抑えることができます。
そして、保障給としての基本給も実質は歩合給ですので、歩合給の総額に含めて計算します。
さらに、割増率については、通常は時間外労働が1.25倍法定休日労働が1.35倍するところを、歩合給については、その成果が所定内労働時間だけでなく、残業時間を含めた総労働時間によって得られた成果であるため、割増率の1の部分は、歩合給によって既に支払済みであるという考えに立って、0.25倍となります。

結果として、残業代は、一つの例ではありますが、上記固定給の16%程度に抑えられることになります。また、全体の賃金額をみながら、歩合率を調整することによって、歩合給と残業代を総枠の中に収めていきます。
ただし、いろいろなパターンがありますので、賃金制度を作るときには貴社の内容でシュミレーションして検討してみてください。

固定給 + 歩合給
固定の基本給(職務給)と成果給を組み合わせた賃金制度です。
賃金形態としては一部歩合制になりますので、原則として保障給が必要になりますが、固定の基本給が、給与全体の6割以上の場合は、歩合給制には該当しないこととされており、その場合は保障給は必要ありません。最も一般的な賃金制度といえます。

                  固定給+歩合給

所定内賃金(固定部分)
基本給(職務給)
資格手当(F/L,クレーン他)
通勤手当
所定外賃金(変動部分) 歩合給
時間外割増賃金
休日割増賃金
深夜割増賃金

                 【歩合給の割増賃金】
固定給の割増賃金
  所定内賃金(固定部分)  
 1ヶ月の平均所定労働時間数    =時給

時給 × 1.25 × 時間外労働時間数 = 割増賃金
歩合給の割増賃金
      歩合給         
  その月の総労働時間数    =時給

 時給×0.25×時間外労働時間数 = 割増賃金 
ex
基本手当        60,000円
保障給 + 歩合給  160,000円
資格手当       30,000円
通勤手当       22,000円
          (除外賃金)
  合計      272,000円


所定労働時間 176時間

残業時間     74時間

総労働時間   250時間  (固定部
分)
(固定部分)

  90,000円   = 511円
  176時間   (1円未満四捨五入)         

 511円 ×1.25×74時間 = 47,268円     
              (1円未満四捨五入)


(歩合部分)

 160,000円  = 640円
  250時間   (1円未満四捨五入)
                          
640円 ×
0.25×74時間 = 11,840円      
             (1円未満四捨五入)


(固定部分)+(歩合部分)=    合計 59,108円


運送屋さんの賃金体系では、売上によって歩合率が上昇するような、累進歩合の制度は、安全運行の観点から禁止されています。
刺激的な賃金形態をとることによって、運転手間の競争と過重労働をもたらし、交通災害を頻発させる要因となる可能性があるからです。その視点から言えば、歩合給自体も問題があるように見えますが、中小の運送屋さんにあっては、従業員のモチベーション維持と賃金の総額原資内での残業対策としては一定の必要性を感じます。

このような制度を取り入れる際には、是非とも割増賃金の削減と同時に労働時間の削減にも取組んでいただきたいと切に願います。