運送屋さんの不払い残業対策 |
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運送業は時間管理が難しい業種の一つです。当然のことながら、社外で行う業務のため、運転以外の業務についてはタコ グラフ等に記録されない為、労働時間を把握しきれない場合が多く発生します。 ただし、管理しづらいために、適用除外項目もいくつか定められていますので、ルールは守りながらも、利用できる項目は 最大限に利用しましょう。 最もしてはいけないことは、管理不能とあきらめて、出たとこ勝負の野放し状態にすることです。 労基法24条の全額払いの原則には、使用者に対し労働の対価である賃金の支払義務が規定されておりますが、労働時間では ない時間まで支払い義務が発生する訳ではありません。 不払い残業対策の第一は、コンプライアンスに則った労働時間削減の仕組みとルール作りであり、争いが発生した場合の争点 は、請求金額に対する時間が労働時間に該当するか否かということになります。 従業員が不払い残業を立証できる場合には、無傷では済まない!タダでは済まない!ということを肝に銘じて今すぐ対策に着 手しましょう。 |
自動車運転者の労働時間規定等 |
@36協定の限度時間
自動車の運転業務も2024/4/1以降は36協定の上限規制を受けるようになりますが、同時に”改正改善基準告示”により新たな拘束時間での管理を義務付け
られ、その運送事業者個別による限度時間を算定しなければなりません。これが、また結構やっかいではあります。
※また、残業についても法定時間を超えれば割増がつきますので、拘束時間と労働時間をWで管理しなければなりません。
A一斉休憩不要
運輸交通業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業、官公署の事業については、一斉休憩の除外が認められています。
(労基則31条)
※一斉休憩不要の為、任意の時間に休憩を与えることができます。事前に一定の空き時間が予測できる場合には、従業員への事前通知により、休憩時間を付
与し、労働時間の休憩化を図ります。
B手あき時間
貨物運送事業における自動車運転者及び助手の手あき時間は、労働者が自由に利用することができる時間であれば本条にいう休憩時間である。
(S39.10.6基収6051号)
※手待ち時間が通例化しており、休憩と何ら変わらない場合には、就業規則にその旨規定し、荷主と相談の上、事前に休憩時間を指定することにより、手待ち
時間を休憩化し労働時問から除外します。ただし、事後対応は不可ですので注意要!。
C休憩時間
休憩時間とは、単に作業に従事しないいわゆる手待ち時間は含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう。
(S22.9.13基発17号)
※手待ち時間が通例化している配送ルートでは、荷主との事前打ち合わせにより、休憩時間を保障することにより労働時間を休憩化します。
D休憩規定の除外
運輸交通業の運転手で長距離(所要時間が6時間を超える距離)にわたり継続して乗務する者については、休憩を与えないことができる。
(労規則32条、S29.6.29基発355号)
※これは、休憩を与えることができない場合を想定した除外規定ですので、この規定を根拠に休憩不可とは、安全運行の面からもしない方がよいでしょう。
E自動車運転者の労働時間等の改善のための基準
(令和4年12月23日第367号)告示は法律のような罰則はありませんが、事業者には遵守が求められ、違反すると労基署から是正が指導されます。平成
14年から、この基準の労働時間に関する部分が国交省告示ともなり、違反事業者は行政処分の対象になっています。
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不払い残業が発生する要因はいくつか考えられますが、大きく分けると荷主からの要望に対応するための長時間労働と、その現実 に対応できない労務管理の状況があると考えられます。 |
運送業を取り巻く労働環境 |

@手待ち時間と休憩
長時間労働の最大の原因は、手待ち時間だと言われています。
倉庫・デポ等での積み込み待ち、海コンターミナルでの待ち時間。当然に拘束時間は長くなりますし、何の対策もしなければすべて労働時間となって、
残業が増え、不払い残業発生の大きな要因となります。
A不規則な勤務時間
出発時間と帰社時間が個人、配送ルート又は荷主によってバラバラのうえ、社外での労働時間が管理できない。デジタコ対応にも無理があり、走行時間は
管理できても、手待ち時間と休憩の区別を含めて労働時間の管理は難しい。
配送ルートは掌握していても、大まかな判断となるため、会社としての基準を設け、制度として確立しておかないと最終判断はドライバーに委ねざるを得ず、
残業増加の要因となります。ドライバーの判断に任せっきりにしておいて不払いが発生したら、「監督署にでも行ったろうか」くらいには思うのではないで
しょうか。
Bサービスの高度化
「Just In Time」方式による配送の定着化が、運送業には更なる長労働時間をもたらしているのではないでしょうか。
時間通りに配送する為には、当然のことながら余裕を持った運行が必要になり、時間前の到着待機が必要になってきます。その時間は当然のことながら労働時
間となり、残業の発生要因となります。その業種は、コンビニから製造業まで広まっており、運送屋さん一企業だけでは対応できなくなってきています。運送
業の時間短縮には荷主の参加が不可欠な状況です。
「多品種・小ロット配送」トヨタに代表される”かんばん方式”を、運送業に取り入れて「必要な物を・必要な時に・必要なだけ配送」するためには、
それなりの準備が必要で、積み込み・配送にも時間がかかります。中小の運送屋さんでは、その業務増加分は人手に頼らざるを得ず、運賃も増えないとなれ
ば、残業増加の可能性は、不払い残業増加の可能性と同意語となってしまいます。
荷主の効率化が運送業の非効率化になっているのです。

運賃アップもまだまだ難しいようですし、経営者にとって経費の削減も頭の痛い課題です。削減可能なものと言えば、車両、人件費、燃料代となるのでしょうか。もちろん最も大きい固定費と言えば人件費となりますので、「仕事が増えても、人を増やさず」がスローガンとなり、残業が増えて、不払い残業が発生し、最後に労働問題勃発となります。

平成19年6月に施行された道路交通法改正により、普通・大型自動車に加えて、車輌総量5トン以上11トン未満等の自動車が「中型自動車」となり、「中型
免許」が新設されました。
以前は普通免許を取得すれば4トン車の運転が可能でしたが、平成19年6月以降取得者は、2年経たないとトラック運送における主力の車輌総重量5トン〜8
トンの車には乗れません。
2トン車でも荷台がアルミバンや冷凍機、パワーゲートを架装した場合には5トンを超える可能性があります。結果として、実質2年間の運転経験と中型免許
試験合格が無ければ、運送業のドライバーにはなれなくなり、その間のドライバー不足により、労働量が増加し、残業が増え、不払い残業が増えることが懸念
されます。
運送業の管理制度の傾向 |


残業込みの歩合給や手当
経営者としては、できるだけ残業代と残業管理及び計算の手間を省きたいのが本音でしょうから、給与や手当に残業代を含めておけば一石二鳥となり、こんな
いいことはない訳です。ただし、これで安心して、ほったらかしにしていると後で2倍返し・3倍返しとなって真っ青なることがあります。
賃金と残業の判別なし + 清算なし + 明細なし + 規定なし = 不払い残業
まして、従業員がその規定自体を知らないというのでは、ケンカになりません。
さらに、使用者には労働契約に伴い安全配慮義務(労契法第5条)があり、長時間労働による健康管理上の配慮のため、労働時間管理義務があるとされてい
ます。結局、残業代込みの賃金や手当にしても「時間管理」から免れることはできないということになります。
それならばしっかり管理して、「残業代込みの賃金や手当」が有効活用できるような仕組みを作らなければ、会社にとって意味がありません。

@手待ち時間
経営者の一言:手待ち時間を労働時間とは認めないし認めたくない。その前に、手待ち時間なのか、休憩時間なのかの区別もつかないのに、賃金など払えない。
運転手の一言:積み込み待ちでいつでもトラックを移動できるように待機しているのだから、労働に決まっている。会社がその時間分の賃金を支払うのは当然
の義務だ。
お互いの言い分はそれぞれごもっともです。
この線引きが曖昧なことが、大きな原因であると思います。順番が着たらすぐに動けるようにしておかなければならない待機時間もあるでしょうし、休憩と同
様にぐっすり昼寝モードの待機もあるのではないでしょうか。
Aその他業務
運転以外のその他業務(日報書き、洗車、朝礼等)時間を労働時間に算入していないケースも散見されます。運転日報分の時間しか賃金に算入していない企業
もあると聞きますが、「ない袖は振れない」では済まないでしょう。
B割増計算
●不払い残業の発生要因
1.一定時間で足切り 2.年俸制で残業手当なし 3.名ばかり管理職 4.端数時間の切捨て 5.残業手当なし
●除外賃金
住宅手当・家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・臨時の賃金・1ヶ月を超える期間毎に支払われる賃金
※全社員に一律で支給される上記手当は、名称に係わらず除外賃金とは認められず、算定基礎に算入されます。除外すると不払いが発生します。
(結論)
●管理と実態の乖離
管理上の労働時間と実態労働時間とがあっていない為に、不払い残業が発生しています。
会社としては、労働時間と休憩、さらに休息期間までを含んだ設定を検討して、残業時間削減に取り組まなければなりません。長時間待機がある場合には、
会社主導で荷主と調整し、休憩時間への転換を図りましょう。
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現在、残業代をまったく支払っていない事業所や根拠規定がないにも拘らず、残業代込みの賃金を支払っていると思い込んでいる 事業所が、今後、残業代を法定通りに支払うためには、賃金制度や時間管理制度の再構築が必要です。 それが入口対策です。 |


●通達:基収第6051号 S39.10.6
作業開始前の手待ち時間 = 手空き時間については労働者が自由に利用できる時間であれば休憩時間として差し支えない。
※事業所全体で何時から何時までと休憩時間を決める必要がないため自由に設定できます。
会社内での積荷待ち時間は、事前に時間を指定できれば休憩時間にすることができますし、荷主先での手待ち時間についても、明らかに荷主の指定積荷時間
前の待機時間であれば休憩時間にできます。
また、順番待ちの待機時間の場合は、通例によって待機時間が予想できて、その時間が1時間以上であれば、その一部または全部を休憩とすることも可能です。ただし、荷主との力関係もあり、現場対応ではなく会社として荷主さんと制度として調整しておくことが大切です。
また、就業規則へ「そのような対応が発生する可能性がある旨」の規定も必要です。

運送業のように労働時間では業務の成果が計りずらい職種では業績給として、出来高給の導入を検討します。保障給等の条件はありますが、残業代の計算方法が違いますので、残業代削減効果が期待できます。
成果は所定内労働時間だけで生み出すものではありません。
賃金計算期間の歩合給の総額を、その期間の残業を含めた総労働時間で除して時間給を算出しますので、割増賃金の算定基礎賃金を低く抑えることができます。
さらに、割増率については、通常は時間外労働が1.25倍、法定休日労働が1.35倍するところを、歩合給については、残業時間を含めた総労働時間によって得
られた成果であるため、割増率の1の部分は、歩合給によって既に支払済みであるという考えに基づいて、割増率は0.25となります。
もちろん、変動費化というのは残業代削減の為だけにするのではありませんが、残業が多い事業所では、残業代削減効果が期待できるのも事実です。

もし現在、何らかの形で不払い残業が懸念される事業所であれば、みなし残業手当も一つの検討材料です。
現行の所定内賃金総額をそのままに、一定の残業代分を「みなし残業代」として組み込むことにより、所定内賃金額を引き下げ、残業単価をさげることができ
ます。限度時間程度の残業時間であれば、現在の残業時間分をクリアできるように設定することも可能でしょう。
現行所定内賃金と新受け取り賃金は、表面上変わりませんが、所定内賃金を下げることと、本来は現在の賃金の他に残業代(不足残業代を含む)が必要だった
わけですから、実質的には賃金の減額により不利益変更となります。
ただし、不払いが生じている企業でも、従業員の理解を得られれば、事業主にとっては、将来にわたって法令遵守となります。

もちろん、「みなし残業代」の設定時間分を毎月残業しなくてはいけないわけではありませんし、労働時間削減の努力も必要です。さらに、「みなし残業代」
の設定労働時間をオーバーした場合には残業代の精算が必要となります。
いずれにしても、就業規則等への規定による根拠づくりと、従業員の「同意書」を取り付ける必要がありますが、ちゃんと手順を踏んで会社の実情を説明すれ
ば同意を得られる可能性もあり、同意を得られれば実現可能です。
以上のように、不払い残業の最大の防御は、事前対策です。個別紛争の発生は企業にとってお金と時間の浪費を意味します。
残業代の節約がかえって出費を呼び、個々の従業員や退職者を相手にする必要が生じ、そのコストは御社の競争力をかえって低下させることになります。
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