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4.夢のアルプス大滑降
X.マッターホルン山麓の大滑降(グレーシャーパラダイスからツェルマットへ)
プラトーローザ(Plateau Rosa)3,480m、ここから今度はスイス側を一気に
滑り降りる。無風の今日はロープウェイ運転中止の心配はなかったが、
風のある日のイタリア国境越えスキーの場合は、ここに至ってほっと一息
だろう。とにもかくにもここからなら、もう戻れない心配はないのだ。
マッターホルンスキーパラダイスの中でも最上部に位置するこの「マッター
ホルングレーシャーパラダイス」(グレーシャーは和訳すると氷河)は
他のエリアと比べて開放感が際立っている。ここはテオデュール氷河の上に
織り成す一面雪雪雪の大銀世界。障害物は何もない。だだっ広くさえぎる
もののない完璧に整備されたコース、ターンする度にザッと唸るエッジング
のサウンドが心地よい。スピード出しすぎでコースアウトしても、大雪原の
オフピステに突っこむだけだ。そう、右の写真のような感じ。
このエリア = クラインマッターホルンからトロッケナーシュテグまでは
サマースキーのメッカでもあり、ロープウェイ・リフト・ロープトゥ合わせ9本が
一年中稼動してるそうな。
圧雪コース脇に広がってる大雪原、面白い光景に出会った。
セスナ機が不時着してるのかと思いきや、写真には移ってないが左側で
ヨーロッパ人がピクニックしてるのだ! 広げたテーブルの上にはビールや
ツマミがわんさか用意され、ワイワイ楽しんでる。何とまぁスケールの違う
遊びをしてるのだろう。セスナ機の脚にスキーが備えられた水上飛行機
ならぬ雪上飛行機は、だだっ広い緩斜面があればどこでも離着陸出来る
のだろう。宴もたけなわだったのだろう、15分後くらいにプロペラ音を
轟かせながら頭上を飛び去るセスナ機を見送った時は、日本では想像も
つかない遊び方に唖然としたものだ。仮に日本のスキー場でこれをしたら、
もしコースに誤って飛行機が進入したらと大騒ぎになることだろう。
このグレーシャーパラダイスでは、マッターホルンをちょうど南東壁から
北壁に向かうようにまいて滑り降りるのだが、ただの岩の塊山に過ぎな
かったイタリア側とは全く違う姿を披露してくれている。この辺りだと、まだ
左肩をぼこっと突き出したような姿をしているが、東壁正面に至るにつれ
この左肩が隠れ二等辺三角形の屹立した迫力ある姿へと変わり、北壁が
見える頃になるとテレビや雑誌でお馴染みの優美な美しい姿を披露して
くれる。マッターホルンに近いからこそ(真下とも言える)滑るにしたがって
角度が変わり、様々な表情を楽しめる。これもまたこのエリアの醍醐味と
言えるだろう。
河野さん(ガイド)はトロッケナーシュテグを通らないルートを選択し、その
下部に展開するシュヴァルツゼーパラダイスの中心 フルッグ(Furgg)
2,432mまで一気に滑り下りてきた。
ここからほんの短い、しかし急勾配を一気に上がるゴンドラに乗車。
写真を撮らなかったが非常にユニークなトレインゴンドラで、4台近く固定
されたゴンドラが連なって乗客を運んでくれる。したがって次々に出発する
いわゆるゴンドラとは異なってなかなか出発しない。運用としてはゴンドラと
ロープウェイのあいのこ? にしても何でこんなの作ったんだろうなぁ^^
ほんとこのマッターホルンパラダイスはおよそあらゆると言っていいくらい
色んな乗り物の集まってる宝庫です。大小様々なロープウェイ・ゴンドラ・
トレインゴンドラ・高速リフト・ちんたらリフト・ロープトゥ・ケーブルカー・
登山電車、加えて希望者にはヘリコプターなども用意されてるのです。
このトレインゴンドラで上がった地点シュヴァルツゼー(Schwarzee)2,583m
に、河野さん曰く「マッターホルンを見るためだけなら」一番お薦めの
シュヴァルツゼーというホテルがある。なるほど、ここからのマッターホルンは
美しい。河野さんに言わせると、マッターホルンは一つの壁ではなく二つの
壁が見渡せるところでなければダメということだ。余りに極端で笑ってしまう
が、そう言えばグラビアを飾るマッターホルンの写真はいつもこの角度だ。
(後述する有名なスネガエリアからのマッターホルンもこの角度だった)
つまり東壁正面からのゴルナーグラートからの風景で感動してちゃダメ
なんだそうな。あれはあれで素晴らしいと思うのだが^^
ともあれ、ここシュヴァルツゼーのホテルが絶妙の角度というのみならず
最もマッターホルンに近い宿であるのは確かなので、次に行く時は是非
泊まってみたいものだ。(但し星なしの宿なので、施設その他のサービスに
ついては保証しかねます・・・)
それに標高2,583mなら、ゴルナーグラートのような高度障害が起こる心配も
格段に減るし^^
そう言えば僕の高山病はどこに消えたのだろうか・・・ 忘れてたくらいで
いつの間にか軽い頭痛もすっかり消えていた。午前中の最高所、クライン
マッターホルンに至るまでは不安緊張と実際に頭痛に悩まされていたの
だが。。。
さぁ、シュヴァルツゼーからは一路ツェルマットまで下るだけだ。
河野さんは最後まで僕らにマッターホルンを満喫してもらおうと、北壁正面
までぐるりと回りこむコースを滑ってくれた。もうこの辺りはマッターホルンの
独壇場。他のコースは他のアルプスの山々との連立した美しさと共に
スキーを楽しめたのだが、ここはマッターホルン唯我独尊のコース。
これはこれで素晴らしいのだが、これまでのアルプスビューを通じて僕は
どちらかというと「King」よりも「One of them」のマッターホルンの方が
お気に入りだ。好みの問題ですけどね。
北壁を回りこむコースの一番右端のポイントで、河野さんが立ち止まった。
「ここがスキーコースの北壁で一番端の地点です。ちょうどこの正反対が
さっき滑り降りたチェルビニアで、ぐるり半周と言うより3分の2周近くしてきた
ことになります。これを歩いて回ろうとしたら1日2日じゃ絶対無理なわけで、
スキーはまさに交通手段ですね。」
ここからコースは大きく右に回りこむと同時に標高2,200mをきるくらいとなり、
樹木の中の林間コースへと趣が変わる。振り返ってもマッターホルンは
見えなくなり、雪質も次第にシャーベットに。最高の雪の中、忘れていた今が
4月という現実を思い出す。途中、緩やかな上り坂が200メートル近く続く
苦痛ポイントを汗噴き出しながら通過し、朝、河野さんと待ち合わせした
フーリー(Furi)に到着。
このマッターホルン北壁堪能コースは途中ロープトゥのかかるコースを
横切ってしまうと、あとは逃げようがない。北壁のコース最右端を味わえば
あとは後半のしんどい思いが容赦なく待ってるわけで何とかならんものかと
思うのだが、他にコースがないのだからどうにもならないらしい^^
「2人ともよく滑りましたね。私の予定より30分以上早くここまで来れました
よ。ちゃまさんがスキー2年目と言う話でしたから、どこまで滑れるかって
考えてたんですけどね。今日どのくらいの距離滑ったと思いますか?
45キロくらいですよ。お2人の場合はゴルナーグラートからですから軽く
50キロ以上ですよね。いやぁ、よく滑りました」
聞いてびっくり。そんなに滑ったという実感がまるでないのだ。机上の計算
すれば、スイス・イタリア・スイスとマッターホルンを半周以上してるわけで
それ位は滑ってるのだろうが、快適な高速コースでビュンビュンいけて
しまったせいか距離感がまるでないのだ。それに50キロ以上滑ってるのに
膝が笑ってない。いかに圧雪のコブなし快適コースだったかよくわかる。
脚への負担がそれほどでもないということだ。フーリーを9時過ぎに出て
3時前に戻ってこれるとは。何て素晴らしい体験だったのだろう!
「それじゃあ、ツェルマットまで滑って終わりにしましょう」
エッ? あの下山コース滑るの? 昨日来た時はロープウェイに乗って
下山してた人の方が多かったし(僕らもそうした)、
ゴンドラから見てたら確かコース途中で雪が消えていたような・・・
と言っても河野さんが行くと言うなら行くっきゃない。
「きゃ〜〜っ 板が汚れる〜〜〜 土踏んじゃったぁ ぎゃ〜〜〜」
何度ちゃまの悲鳴を聞いたことだろうか。確かにひどいコースだった。日本の春スキーと同じべちゃべちゃの溶けたカキ氷
状態。ところどころ土が剥き出しになっていて、わずかに雪のあるところを人が滑っていくものだから荒れたコブのように
なってる。4月の快晴、ここに極まれりといった状況だ。
案の定、コースは途中で完全に土と変わっていた。スキーを担いで泥道を歩く。ブーツが真っ黒に^^ それでも300メートル
ほどでバス停に到着。
ここで河野さんとお別れとなった。貸切ガイド代500フラン=日本円にして4万7千円、2人でこの値段だからめちゃ高な訳だが
僕らにとって生涯忘れられない大満足の一日となった。彼がいなければ半日でこれだけ満喫するのは不可能だった。
雇ってよかったと心底思えたアルプス大滑降だった。
バスでモンテローザ鉄道ツェルマット駅まで行き、少し街を散策した後、ここから昨日と同じく登山電車でゴルナーグラートへ。
但し昨日と違うのは車窓からの風景。昨日は雲に包まれ何も見えなかったのだ。
では、快晴のゴルナーグラート・モンテローザ鉄道を紹介しよう。
第三章 5.快晴のゴルナーグラート・モンテローザ鉄道 につづく
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