SKI 

   マッターホルン・スキーパラダイス(ツェルマット)

第三章 マッターホルン・スキーパラダイスにて

2.初日アルプス初滑降

T.ゴルナーグラートからフーリー @

前ページでは先にクルムホテル・ゴルナーグラートの紹介をしてしまったが、ここでまた時系列順に話を戻そう。
翌日の国境越えイタリア方面への大滑降は現地ガイドを依頼してあったが、そのガイドさんから集合場所に指定されたのは
フーリー(Furi)というロープウェイ/ゴンドラ駅だった。上の地図を見てもらおう。一番下がツェルマット、そこから登山電車に
乗り、今は地図中央上部のゴルナーグラート(Gornergrat)にいるわけだ。
イタリア側へ国境越えスキーの起点は、地図は途中できれてるが一番右の上部エリア。つまりゴルナグラートとは別の峰と
なるわけで、そこに行くにはいったん下まで滑り降りてから新たにロープウェイを乗り継いで上がっていかなければならない。
ツェルマットの村の一番右のところからロープウェイのラインが始まってる。その最初の駅がフーリー。地図ではちょうど
リッフェルベルグ(Riffelberg)の下、標高1864mの地点にある。この待ち合わせ場所に行くには2通りある。
一つは登山電車でツェルマットに下り、バスでロープウェイ駅まで移動してゴンドラで上がる方法、そしてもう一つは
滑っていく方法だ。(リッフェルベルグからフーリーまでゴンドラの点線があるが、これは架設予定なだけで開通してない)
となると当然後者を選ぶわけだが、待ち合わせは朝10時だし、マッターホルンスキー初体験の僕らが約束の時間に
遅れない為には、この日のうちにフーリーまで滑っておいた方が無難だ。それにスキー経験わずか2年のちゃまが
滑れるコースかどうかもわからないのだ。
まだ14時過ぎだから滑る時間はありそうだ。かくてアルプススキー初日の幕が開けた。

ホテル前からエレベーターで下り、ゴルナーグラート駅前でスキー装着。いざ! と、ちゃまが相変わらず写真撮りまくってる。
「早く滑ろうよ〜〜〜」
美しい雲海も突っこんでみると・・・滑り出しから綺麗に圧雪されている。日本で4月6日と言えばぐちゃぐちゃ
だろうが、3千メートルの雪は硬く締まってエッジが喰いつく。
すぐに鉄道線路の下をくぐって山の稜線から大斜面へ。おおおおおっ!
すごいっ! 何て言えばいいのだろう・・・森林限界を超えてるため、
障害物のない雪に覆われた世界。その一部に幅30メートルほどの
圧雪されたコースが作られてるが、それ以外のところに無数の
シュプールの数。そう、作られたコース以外でもどこでも滑れる
オフピステの世界なのだ。エキスパートにはたまらないだろう。
未熟な僕らはもちろん圧雪コースを行くわけだが、ボーゲンで滑ってる
人が皆無なのでビュンビュン飛ばせる。すぐ真下に広がる雲海の波。
そう、この青空の中、雲海に突っこむように滑るなんて人生初の経験
なのだ。雲が迫る迫る突っこむーーっ! その瞬間、一気に何も見えなく
なった。ハノ字で急停止する。ちゃまは大丈夫だろうか・・・
「ちゃま〜〜」 叫ぶと、ズリズリ下りて来た。ホッ。それにしても
こうなってしまうとお手上げだ。コースがいくつか分岐しているが、僕の
持ってる地図は大雑把だからどこまで信頼できるかわからない。
それにどの程度の斜度のコースかもわからないのだ。普段直滑降で
ゴルナグラート鉄道近くのオフピステ。シュプールの跡が・・・駆け抜けられる15度の斜面だって、見えてるからこそ突っこめるので
あって、コースがまっすぐなのか曲がってるのかコブがあるのかないのか、
何も見えない初コースではまともに滑れる訳がない。
とりあえず登山電車に並行するコースを行こう。鉄道で登れる勾配なら
急斜面で落ち込むこともあるまい。それにいざとなったら駅から電車に
乗り込むことだって出来る。そう思って辿ったコースも、下れば下るほど
ますます視界が悪くなる。鉄道すらわからなくなり、次第に平衡感覚すら
麻痺しがちな状況に。うっ、何だか石打丸山の状況に似てきたぞ・・・
気持ち悪くならないように何とかしなければ。。。ちゃまは悲鳴をあげてる。
そりゃそうだ、彼女にとってこんなホワイトアウトは初経験の筈だから。
コースは完全に圧雪された締まった中斜面のため、パラレルターンでは
すぐにスピードが出てしまう。だから2人とも完全にプルークボーゲン、
速歩きくらいのスピードでとにかく平衡感覚を失わないように足に力を
入れてズリズリ落ちた。いきなり目の前に登山鉄道が立ちはだかった・・・
と思いきや、線路下がガードになっていた。こんな何てことはないことも、
ホワイトアウトの中ではびっくり仰天の現象となるのだ。それは韓国
ヨンピョンで冬ソナの2人がいきなり現れたあれと同じだ。
さぁ行くぞ! この時はワクワクだったが。。。右側にホームがある。リッフェルベルグとある。確か登山鉄道で雲から
抜け出たのが2,800メートル地点くらいだから、標高差200メートルくらい
を40分近くかけてやっとこさ下りてきたことになる。
そのままホテル&カフェの建物の前を滑っていくものの何かが違う。
これまではゲレンデ斜面というよりは完全にコースで、限られた幅の中は
硬く締まった完璧な整備状況だったが、今滑ってるところは斜面全体が
整備されてるようなされてないような、幅を限定したコースという感じも
しない。今まで滑ってきたところとは異質な、まるで日本のゲレンデを
滑ってるような感じなのだ。
「嫌な感じがするから戻ろう」ちゃまに声をかけ、近くにあったロープトゥに
つかまろうとすると、インストラクターのようなウェアを着た女性が
急に現れて怒鳴られた。
「チャイルド オンリー!」
どうやら子供専用らしい。ということは、僕らは子供用エリアに彷徨い
こんだか・・・ ヒーヒー言いながらもと来たところを登り、景色も何も
見えないカフェで酒飲んでる人にフーリー行きのコースを尋ねると、
建物をまわりこんでいけと言う。やっぱりコースアウトしてたのだ。
滑り始めたバーンはさっきまでと同じ足で感覚だ。コースに戻ったことを実感。次第に人影が増えてきた? いや違う。
霧が薄くなってきたのだ。速足から駆け足くらいへ、さらにプルークボーゲンからシュテムターンへ、そしてパラレルターン・・・
そう、どうやら雲海の下に出たようだ。すっきりクリアーとはいかなくても、150メートル程の視界が効けば普通に滑ることは
可能だ。ひゃっほ〜と調子良かったのも残念ながらものの数分だった。高度を下げるにしたがって段々雪が緩くなり、
2,200mくらいまで下りると湿ったぐちゃ雪に変わってしまったのだ。雲海の中のボーゲンで必要以上に負担をかけてた膝も
笑いはじめてる。あぁ、これじゃあ日本と変わらないなぁと思いながら周りを見渡すと、いつの間にか樹木に囲まれ景色も
日本と大差ないことに気付く。コースの分岐点で、フーリー直進の標識に従い行くと、すぐにコースは終わってしまった。
正確に言うと、道はあるが雪がないのだ。みんな板を担いで歩き始めてる。ロープウェイの駅らしき青い建物は見えてるが、
400メートル近くはある。ヤレヤレ・・・

ゴルナーグラートから1時間半近くかけてようやくフーリー到着。
「彷徨ってた時間もあるし、あまり参考にならないけど、1時間15分あれば滑ってこられるってことだね」
「でも、こんな天気ならもう滑りたくないね」
「大丈夫。こんな天気なら国境越えも中止でしょ」
アルプススキーの第一歩はほんの滑り出しの数分堪能出来ただけだったが、とりあえず今日の目的は果たせた。
さて、ここからゴルナーグラートに帰る為にはいったんツェルマットの鉄道駅に戻らなければならない。
シュヴァルツゼー(Schwarzsee)からツェルマット方面に延びる下山コースを滑ってくスキーヤーは多いが・・・
「さっきのこと(歩いたこと)思えば、あのコースも途中で雪がなくなって歩かなきゃいけないかもね」
「もう足もパンパンだし、ゴンドラで下りようよ」
と、フーリーからはゴンドラに乗って下山した。滑ってる人よりゴンドラ使って下りてる人の方がはるかに多い。
よし、この選択は正しかったかも^^ 僕らは普通にチケットを購入したが、スイスカードを見せたら半額になったらしい。
知らなかった・・・半額適用は鉄道だけだと思ってた〜。

U.ツェルマットの電気バス

朝夕の移動の時間は通勤ラッシュのようになる地図にある通り、ツェルマットのゴンドラ駅と鉄道駅はかなり離れてる。
(2キロくらい?) 板を担いで歩いていく距離ではない。右も左もわから
ない僕らなので、外国人さん達についていった。ゴンドラ降り場から
エレベーターで数階下り、川を渡ったところでずらり行列してる。そこが
バス乗り場だった。タクシーも次々に発着するが、駅まで200スイスフラン
もすると聞いていたので乗れない。たった2キロ弱で2千円。ひょっとしたら
世界で一番高いタクシーかも。
バスが来た。行列してるくらいだから前と後ろの扉からぎゅうぎゅう詰め。
ラッシュアワーの満員電車状態だ。皆さんはスキーパスをお持ちだから
フリーだろうけど、僕らは持ってない。かといって後方に詰め込まれて、
チケットを買いに行ける状態でもない。
「これ、もし無券乗車見つかったらどんなペナルティなんだろうね?」
「さぁ。でもこの状態で検札出来ないでしょ」
途中2ヶ所ほどバス停で止まる。ブザーも呼び鈴もなく、当たり前のように
バス停で止まって乗降させるのだ。10分ほどで鉄道駅に到着。
何事もなく無事降車、ということは無賃乗車成立・・・ 
払う意思はあったんだけどねぇ、タイミングがなかっただけなのだ^^

さて、話のついでなのでこのバスの案内を先にすませよう。
このツェルマット循環バスは、ツェルマット駅〜スネガ行き地下ケーブル駅〜シュヴァルツゼー行きゴンドラ駅〜ツェルマット駅
の順に途中いくつかのバス停で泊まりながら一方向に巡回してる。ツェルマットに来られた方は、まずはこのバスで循環して
みることをお薦めする。乗車場所に戻るまで20数分だし、村を左右に横断するので位置関係を把握するのにもってこいだ。
スキーパスを持ってれば乗り放題だが、乗車券を購入する場合いくらかかるかは不明。僕らも何度か乗車したが、
結局検札は一度もなしだった。宿泊場所やスキー場へのゲートウェイが分散してるツェルマットでは、誰もが必ず世話になる
乗り物だが、それだけに注意しなければならないことがある。
みんなが移動する時間帯は、降り客の多いバス停でない限りまず乗れない・・・降り客が一人もいないと通過してしまうことも
多いのだ。ちょっと考えればわかることだが、スキーをするためには3ヶ所の駅に移動しなければならない。ということは
朝方と夕方は大移動が起こるわけだ。
例えばシュヴァルツゼーorクラインマッターホルンへ行く為に朝方バスに乗るとしよう。周辺にホテルの多い鉄道駅で
ほぼ満杯となる。スネガ行き地下ケーブルカー駅で若干降りるので、ここなら乗車できるだろうが、この先のバス停はもう
アウトだ。待てども待てどもバスは通過することになる。尤もこのエリアはバスの路線ルート上、逆向きも乗れる位置なので
ぐるっとまわってくればいいのだけど不便な話だ。一方夕方の時間帯は、ゴンドラ駅からのバスが満杯状況でそれは
鉄道駅の一つ手前のバス停まで続く。この間のホテル宿泊者が乗ろうとしても厳しい状況なのだ。ホテルの選べるツアーや
個人旅行の場合は、ただ単にバス停の近くというだけでなく、こうした点も考えてホテルを選ばれるといい。
ウイークデイなら空いてるかって? それは日本のお話です。こちらのバカンスは1週間単位ですからウイークデイだろうと
関係ないのです。(この辺の事情はホテル選びの項で紹介します ←今後制作予定))

ツェルマット駅から再びゴルナーグラート・モンテローザ鉄道に乗っての42分列車旅は前頁の紹介と全く同じ。
車窓から何も見えない雲海を進んでるときは、よくこんなところ滑ったもんだと感心するやら呆れるやら。
滑るっきゃなかったんですけどね。
二度目とはいえ、雲海を突き抜けたときの感動はやはり何ら薄れるものではありません。抜けるような青空のもと、
ほんのすぐそこに頂上を覗かせ連なるアルプスの山々、広がる白一面の雲海・・・・天上人になった気分ですよ〜〜!



第三章 3.2日目の異変 につづく

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