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名ばかり管理職とリスク管理


名ばかり管理職とは
平成20年6月17日
 今年の1月にマクドナルドが東京地裁で敗訴し、NHKで「名ばかり管理職」の特集が放送されて以降、すっかりこの名称が定着してしまいました。
 「名ばかり管理職」とは、労働基準法第41条で労働時間関連規定の適用を受けない3つの項目のうちの1つである、「管理監督者」の適用範囲外の者までも「管理監督者」に含めて、時間管理の適用を除外された人達を指します。
「管理監督者」には、残業手当(深夜業を除く)を支払う必要もなく、36協定の締結や届出義務も生じません。 と言うことは、「名ばかり管理職」には本来支払わなければならない、「残業手当」が支払われないということです。

 「日本マクドナルド事件」とは、マクドナルドの直営店店長が、「店長を管理監督者として残業代の支払を認めないのは違法だ」として、1300万円の未払い残業代と慰謝料を求めた裁判で、東京地裁は、直営店店長は「管理監督者には当たらない」として残業代約755万円の支払を命じた事件です。
この後会社は控訴しておりますが、この判決はそのような事実を世間に知らしめたという意味で大きな効果をもたらしましたし、その後のファーストフード、コンビニ業界の会社側の対応に大きな影響を及ぼしました。
 
名ばかり管理職かどうかの判断基準は、「労働基準法41条2項」及び「監督又は管理の地位にある者の範囲」という通達により法律上、実務上、以下の3点で総合判断することとされています。
                      
管理監督者の判断基準
1.権限の有無  経営者と一体と言えるだけの権限があるのかどうか
2.勤務態様 
労働時間の自由裁量があるのかどうか
3.その地位にふさわしい待遇
 一般従業員に比して十分な処遇かどうか
今回のマクドナルド判決では、以上の3点について全て否定され、店長は管理監督者とは認められないと判断されています。

会社の対応
 終身雇用が崩れ、成果主義による賃金形態の中で長時間労働を強いられることとあいまって、実態が伴わない「管理監督者」に対する不満が爆発した形になっています。
 行政の対応も、今後強化される可能性が高く、潜在的な名ばかり管理職抱える企業、特に中小規模以下の企業においては、”対岸の火事”とは言っていられない状況です。
 マクドナルド判決以降の各企業の対応を見ても、「社内管理職」としての職務はそのままに「管理監督者」を外す動きが活発化しており、今後更に社内管理職定義の確立賃金体系の見直し労働時間の削減、「裁量労働制の導入」、「変形労働時間制の導入」等の動きが具体的になってくると思われます。


名ばかり管理職が発生する2つの要因
 1つ目は、「人件費の削減」です。権限を持たない労働者に”管理職”の名称をかぶせ、残業手当、休日等の適用を逃れると経営者が考えていた場合。
 2つ目は、「管理監督者の適用除外規定」を単に知らない、又は理解しないで、「名ばかり管理職」を作ってしまったケース。
経営者としては”管理職”として「会社側」に立って仕事に取組んでもらいたいという希望は当然ですが、そのような”要望”と、”処遇”が一致していない場合です。
 マスコミ等では経営者ばかり槍玉に上がっていますが、実際には1つ目の経営者ばかりではありません。しかし問題なのはどちらのケースにしても、実態としては”違法行為”になってしまうことが多いことです。
 特に中小企業では管理職が”現場”と”管理”の両方を担うケースも多いことから仕事の負担が大きく、不払い残業の問題だけでなく、過重労働、メンタルヘルスを含む労災問題、これから派生する損害賠償といった事例も多く見られます。
 労働時間問題が発覚する発端は、”従業員の申告”(内部告発)からが殆どと考えてよいと思います。経営者が2つ目のケースのように、単に知らないだけのケースでも、従業員が「社長に直接言えない不満」を感じていたら、会社にとって常に大きなリスクを抱えて仕事をしていることになります。
さらに問題なのは、経営者がそのことに気が付いていないことが多いことです。

名ばかり管理職とリスク管理
 監督署の是正勧告を受けますと、最大2年間遡って残業代を支払わなくてはなりません。特に管理職となると、一般の従業員より割増賃金の「基礎賃金」が高いことが想定されますので、会社の受ける影響も大きいものとなります。
 



   マック判決がどうなったかを見てみますと
割増賃金
請求 517万2392円+年6分の金利(給与支払日〜)
判決 503万985円
付加金
請求 517万2392円+年5分の金利(給与支払日〜)
判決 251万7493円(割増賃金の5割)
慰謝料
請求 300万円+年5分の金利(H17,1,16〜)
判決 0円  (割増賃金及び付加金で慰謝される性質のものとして認めれれない)
                            合計755万2478円
となっております。裁判になりますと割増賃金プラス付加金(未払い賃金と同額)の請求ができる事になっていますし、裁判所は同額までの支払を命じることができることになっています。
 この数字は、1人の金額ですので、現在の名ばかり管理職に相当する全管理職に対する数字がいくらになるかは簡単に想像できるかと思いますし、会社の受ける影響がどうなるかもご理解いただけると思います。

名ばかり管理職の傾向と対策
指導強化
 平成20年4月1日厚労省は「管理監督者の範囲の適正化について」により、企業等へ    の周知や指導の強化を各地の労働局長に求める通達を出す。
平成20年4月「労働時間等見直しガイドライン」(労働時間等設定改善指針)の改正
    平成20年4月、厚労省は「管理監督者の範囲の適正化について」により、企業等への周知    や指導の強化を各地の労働局長に求める通達を出しました。
     「名ばかり管理職」の残業代未払いが社会問題化しており、法の趣旨を徹底させたいとしてい    ます。

対 策
このような状況の中で、「名ばかり管理職」を解決する為の模索も始まっていますが、まずは実態調査から始める必要があります。
 実態調査
 管理職の比率確認
      管理職の人数を絞る(非管理監督者=社内管理職の割だし)
      適正管理職比率の割だし
 管理職の時間外労働は何時間か?   直近の部下との比較
 管理職の年収はいくらか?         直近の部下との比較
 時間外労働に対する割増賃金と役職手当の比較
 管理職に与えている権限は?
      課長の権限は?  部長の権限は?
      人事権はあるのか?  決裁権はあるのか?
 管理職が出席する会議は、経営と一体と言える内容か?
      単なる情報伝達の会議になっていないか?
 中間管理職の不満の受け皿はあるか?
      管理職が申告に走らないような社内システムはあるのか?
      上司の対応の定義はあるのか?

以上の実態調査をもとに、管理職の定義づけと管理監督者以外の「社内管理職」への対応が必要となります。

 管理職の範囲の明確化
 管理職の権限及び勤務態様・処遇の明確化
 法的な「管理監督者」以外の”管理職”に役職手当を支払う場合は、「時間外労働分を明記」
 ”資格のみ管理職”への対応
   役職定年制で「役職」を降りた方への割増賃金の支払はどうなっているか

労働時間対策
最後に、名ばかり管理職対応としては、どうしても労働時間の削減が必要となります。
 賃金体系の見直し
 見直しの際の注意点
● 役職手当と残業代の兼ね合い
   マクドナルドが残業代への変更をした際にも、労働者側の弁護士さんのコメントにもありましたが、全体の賃金をどうするか   よっては、「不利益変更」の可能性がありますので、注意が必要です。
    役職手当は固定だが、残業がなくなれば残業代も当然なくなる。→賃金が下がる。   

    不利益変更に対する厚生労働省の判断 
   「管理監督者から外れた場合には責任の重さも変わる。既存手当の減額・廃止は違法とは一概には言えない。就業
   規則の変更に合理性があるかどうか個別に判断していく」という。
  【合理性の根拠】
  就業規則による労働契約の内容の変更
  @労働契約法9条  合意の原則
   使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である
     労働条件を変更することはできない。

  A労働契約法10条  9条の例外規定
   使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させかつ
   就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相
   当性、労働組合等との交渉状況その他の就業規則の変更に係わる事情に照らし合理的なものであるときは、労働契
   約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
   
   要するに
   周知+@不利益の程度、A変更の必要性、B変更内容の相当性、C労組との交渉状況
   上記要件を総合的に判断するということのようです。
   いずれにしても、労働条件の変更には注意が必要です。

 残業削減への取組み
   「名ばかり管理職」と言われる管理職の年代層は最も残業が多いことが想定されますので、対応策としては残業削減の
   取組みが必要となります。
   これには、管理職だけでなく、全社的に取組むことが重要です。
● 残業管理改革
  
@ 意識改革
    A 残業に対する承認権限の再検討
    B 作業工程の見直
● 労働時間制の検討
    @ 一部の部署については「裁量労働制」への移行検討
    A 全社的には「変形労働時間制」への移行による残業削減の検討
  労働時間管理の徹底を図る同時に、年間を通しての効率的な労働時間の運用を計ります。

以上のように、企業としては法的な管理監督者にとらわれることなく、自社の「社内管理職」の定義づけをし、どの役職から「
管理監督者」として扱うかをハッキリさせることが必要です。
そして、それに伴う労働時間管理と賃金制度の改革を管理職のモチベーションを下げることなく行うことが大切となるでしょう。