遊撃インターネット狂人雑記59
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2010 年 |
4 月16日(金)奥歯を抜く 対症療法でがんばったんだけど、もうどうにもならんということで、奥歯を抜くことになってしまいました。このままでは腐って自然に抜けてくるらしい。今なら間に合うので、全部抜くのではなく、二またになっている歯根の半分だけ抜くことになりました。歯を半分に割って悪くなっているほうを抜くわけです。生き残った部分は、根が一本だけしかないので銀歯をかぶせても支えきれない。そこでブリッジで補強するという治療方針です。保険がきくのであんまりお金はかからないらしい。別の歯医者では、全部抜いてインプラントを入れ、総額三十万とかいっていたので、それよりかはマシだろう。 よれよれと帰宅後、元気づけに録画していた脳天気 Hアニメ『B型H系』をみました。プールのシーンで親友の彼氏が「ぼくも古典が好きでね。トルストイやドストエフスキーや…」なんてセリフをしゃべっています。横でそれを聞いていた子供が「おとうさんのすきなご本だぁ」などと発言。三歳にしてドストエフスキーを知っているとは、なかなかやるのう。今度寝る前に読んでやろう。雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月17日(土)『毒入り』(あさりよしとお)/『萌え萌えナチス読本』/『小説 馬車馬戦記 ディエンビエンフー大作戦』/『真昼の暗黒』(アーサー・ケストラー) アマゾンでオススメされていたので、あさりよしとおの『毒入り』を読みました。あさりよしとおを読むのは、『なつのロケット』以来だなあ。十年ぶりくらいか…。 アマゾンをうろついていたら『萌え萌えナチス読本』なる本を発見。ナチス萌えとは、これいかに。四月二三日発売かあ。ロクでもないシロモノのおそれも大きいが、これは買わねばなるまい。予約しました。本当に最近は、なんでも萌えにしちゃうよな〜。今度はソ連の秘密警察萌え本を出してくれ。『萌え萌え KGB読本』とか。他にもベトナム戦争に派遣されたソ連空軍の女パイロットが、テンヤワイヤの活躍するという『小説 馬車馬戦記 ディエンビエンフー大作戦』なんていうライトノベルもみつけたぞー。こんな話しらしい。 ソ連空軍のパイロット、マーシャ・カルチェンコ大尉は、ベトミンを支援する軍事顧問団の一員として、インドシナ戦争真っただ中のベトナムへ送り込まれることとなった。 だが、スターリンの命令とあれば、乗らざるをえない。 時代遅れの機体を駆って、マーシャがベトナムの空を飛ぶ! お堅い政治委員、ベトナム美女、残留日本兵、さらには元ドイツ空軍、フランス空軍の外人部隊パイロットも登場だ。 マーシャの、ベトナムの未来をかけた戦いが、今始まる!! 面白そうじゃん。どこの図書館も入れていないので、これも買わざるを得ないなあ。 独房404号に収監された古参党員ルバショフ。三度の審問を通じて明らかになる過去と現在、壁を叩く獄中の暗号通信。No.1とは誰か? 自白はなぜ行われたか? スターリン時代のモスクワ裁判と大粛清を暴いたベストセラー、戦慄の心理小説。 ルバショフの外見はトロツキーを、理論はブハーリンをモデルにしているようです。この小説がすごいのは、作者の実体験が投影されているところです。著名なジャーナリストだったケストラーは、実はドイツ共産党の秘密党員でした。当時ドイツではナチスと共産党が抗争を繰りひろげており、ケストラーもナチスとの内戦的な地下戦争に参加します。ここらへんは、『ケストラー自伝 目に見えぬ文字』に詳しい。 ナチスが政権を握るとフランスに逃亡して、反ナチ文書の作成などをおこなう。さらにジャーナリストとしてスペイン内戦に参加。フランコの反乱軍の支配地域に潜入報道を試みますが、逮捕されて死刑判決をくらう。国際世論の圧力で釈放されると、ソ連に渡りスターリン全体主義体制を目の当たりにすることになります。そして共産党から脱党。 『真昼の暗黒』は、最も初期に大粛清を批判して書かれた小説であり、ジョージ・オーウェルの『1984年』に匹敵する衝撃をヨーロッパの知識人に与えたようです。体制に疑問を抱いた主人公が、拷問で洗脳され人間性を破壊されて独裁者ビック・ブラザーを愛しながら殺されていくという『1984年』のほうが内容の深さや文学性では上にあると思うけど、『真昼の暗黒』の歴史的な重要性はそれに劣りません。今まで日本で絶版だったのが不思議なくらいです。 『真昼の暗黒』では、人類の進歩と党の勝利のためには自分が反革命の汚名をきて殺されなればならないとルバショフは自らを納得させ、ありもしない反革命活動を自白して処刑台に登っていきます。これは古参ボリシェビキが次々と反革命やスパイであると自白して処刑されていくという、あからさまにでっち上げであったモスクワ裁判の謎にひとつの回答を与えたものでした。 昭和二五年発行の古本↓を持っています。手に入れるまで十年くらいかかったんだぜ…。しかし、新訳版も買わなければなるまい。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月18日(日)『日本仏教をゆく』(梅原猛)を読む 週刊朝日百科に連載していた『仏教を歩く』を単行本にしたものです。宗派ごとの教義の解説書だと思ったら、仏教者の小伝記集でした。だいたい知っている坊さんたちでしたが、なにかといえば『怨霊』と『鎮魂』が出てくるのが梅原猛らしい。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月19日(月)『歌舞伎町・ヤバさの真相』(溝口敦)を読む 題名でずいぶん損をしていると思う。くだらない雑本みたいな題名だけど、内容はしっかりしています。『悪所』とはどのようなところかという定義にはじまり、江戸時代の内藤新宿までさかのぼって新宿の歴史を説いています。それによると、女郎の投げ込み寺として有名な吉原の浄閑寺の無縁仏が一万人くらい(浄閑寺は、眠狂四郎が住みついていることでも有名ですね)。内藤新宿の投げ込み寺であった成覚寺の無縁仏は、二千二百人くらいであったといいます。江戸中期から新宿がかなりの規模の色町であったことがわかります。 東声会は鄭建永(日本名は町井久之。以下町井と呼ぶ。一九二三年七月生まれ、〇二年九月死亡)が一九五七年に設立したが、その前から町井一家として活動実態があった。 東声会は、広域暴力団山口組の下部組織になり山口組の東京進出の先兵となった。その後、警察による徹底した頂上作戦により解散するが、その後継組織は現在も新宿に強い勢力を有している。他にも下のように絶対マスコミが書かないようなタブーに触れています。 町井は創価学会の熱心な信者だったし、東声会会員の中には創価学会信者が多いという定説もある。創価学会のため諜報謀略工作に従った東声会会員もいる。 暴力団を手先に使う宗教団体…。汚いことでは定評のある日韓政治癒着についても触れています。下痢で政権を放りだした安倍の爺さんあたりも関わっていそうだ 町井は敗戦直後から日米韓の反共人脈に強いパイプを持ち、とりわけ右翼の巨頭だった児玉誉士夫とは二人三脚を組んで六五年、日韓基本条約調印に漕ぎつけ、日本の経済援助金一千八十億円を韓国にもたらした。おそらくその功を賞され、六八年韓国から国民勲章である冬栢章を受勲し、七二年には韓国外換銀行からバックペイだったのか、六十億円の信用供与を得た。七三年には東京・六本木の千二百坪の土地に TSK・CCCビルを竣工するが、町井はこの土地とビルを担保に韓国外換銀行から五百四十億円を引き出して、終生返さなかった。 こんなことを書いて大丈夫なのかいなと思ったら、暴力団員に本人と長男が襲撃され重症を負っている。 歌舞伎町は住民から愛を注がれることが少なかった。警察と自治体は規制と取蹄りという体罰を加えた。訪問客からは愛と畏怖はともかく、少なくとも敬意は払われなかった。外国人マフィアは単に略奪をこととした。 そのために街自体が非行化し、犯罪以外には何もない罪の街、シン・シティと化したともいえよう。歌舞伎町の特色は許容され、面白がられる怖さから、虚脱して精気のない怖さに変質したのかもしれない 歌舞伎町は老いた街となり衰退しつつあるというのが結論のようです。 悪所が好きで、昔は意味もなくうろつき回ったものでした。歌舞伎町、新大久保、黄金町、堀之内、西川口…。真夜中にそんなところをうろついても危険を感じたことはありません。カネを落とすお客さんみたいな顔をしていたからね。客に危険を感じさせるようでは、だれも寄りつかなくなって、悪所に寄生しているヤクザは日干しになってしまう。むしろヤクザが辻々に立ているほうが安心な感じでしたね。 著者の溝口敦は、ヤクザものだけでなく『食肉の帝王 -巨富を掴んだ男』という著書もあり、講談社ノンフィクション賞などをとっています。食肉といえば、屠殺業と不可分であり、屠殺といえば被差別民の主要な職業です。マスコミタブーとなっている同和ですね。余談だけど以前「屠殺業」と書くとサベツだと怒るキチガイ人権屋がいた。「屠業」と書かないとサベツなんだそうな。毎日食卓に上る肉が、いかにいかがわしい団体にカネを落としているか。そのカネがどこにどのように流れていくのか。鶴タブー(創価学会)、菱タブー(山口組)、それに同和のタブーと、数多くタブーに切り込んだ著者は、やはり大変に度胸のあるジャーナリストです。切り込みも鋭い。 癌になってボケてしまった感のある立花隆を別格とすると、現在は溝口敦と佐野眞一がノンフィクションの書き手の双璧ではないかと思う。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月20日(火)『スターリングラード 運命の攻囲戦』/『小説 馬車馬戦記 ディエンビエンフー大作戦』(富永浩史)を読むアントニー・ビーヴァーの『スターリングラード 運命の攻囲戦 1942-1943』を読みました。独ソ戦のスターリングラードをえがいた本は数多いが、これが一番の傑作らしい。唖然とするほどすさまじいスターリングラードの市街戦と、逆包囲された第六軍が餓死寸前にまで追いつめられ降伏するまでをえがいています。人間の持つ意志力のものすごさと、その意志力をもってしてもいかんともしがたい運命の歯車のようなものを強く感じました。これほどまでに膨大な人命とエネルギーが、絶滅戦争などという無意味なものに費やされたことには虚無感に近いものを感じさせられます。また、ある程度知っていましたが、両軍の捕虜の扱いの悪さにも驚かされました。餓死するままに放置され、生き残ることができたのは五パーセント未満という悲惨さです。ちなみにシベリア抑留された日本兵の生存率は九〇パーセント程度だから、明らかに扱いに差があります。日本は攻め込まれたほうだからね〜。 新たに発掘された独ソ兵士の手紙からの引用が多く、単純な戦記物に終わらないミクロとマクロの視点をうまく組み合わせた傑作だと思います。 しかし、重い。ヘビーです。ヘビーすぎます。そこで表紙からして楽しげな『小説 馬車馬戦記 ディエンビエンフー大作戦』を読みました。ソ連のドジっ娘パイロットがベトナムに派遣され日本軍がのこしていった隼を修理して、フランス傭兵部隊のドイツ人エースたちと対決する話し。ティーゲル戦車や象さん戦車も登場するぞー。ライトだー。
くだらないのではないかと危惧していましたが、まったくそんなことはなかった。面白い。戦闘機についてのうんちくなどは、ほとんど衒学的といっていいほど詳細です。よく意味がわかんなかったけどね。 チェキストというのは、チェーカー員ということです。チェーカーとは、『反革命・投機取締非常委員会』の略で、後のGPU - OGPU - NKVD - KGBと名称を変えて続いたソ連秘密警察の元祖です。だからチェキストとは秘密警察官ということになります。秘密警察は、粛清の名のもとに古参共産党員を殺しまくりました。「わたし、チェキストじゃありませんっ!」というセリフは、「わたしは(共産党員だけど)秘密警察官なんかじゃありませんっ!」という含意があります。共産党の上に秘密警察が立っていた当時の体制からすると、かなりやばいことをいっているわけです。うーん。マニアックだ。 他にも医師団陰謀事件(スターリンが侍医団を毒殺集団として逮捕・処刑した事件)やらスターリン暴落(スターリンの死によって朝鮮戦争が終結することが予想され西側の株が大暴落)やら、共産趣味者ならニヤリとさせられるエピソードが各所にちりばめられており、大変楽しめました。 この本は、表紙などのイラストを描いた速水螺旋人(なんと読むのだらう?)の絵物語が元になっているようです。だから挿絵も内容に合っていて大変よいものでした。ソ連のドジっ娘パイロットが銀色の隼を駆ってベトナムでドイツ人エースと対決なんて、よく考えたよなー。よく書けてるよ。オレもこんな小説を書きたーい。『萌え萌え大粛清 お昼の暗黒』なんてどうだろうか。 そうそう、主人公の名前は、マーリア・アルカージェヴナ・カルチェンコといいます。これがおかしいのではないかと思いつきました。ロシア語では、女性の名前はア音(あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ)で終わります。マーリア(名前)・アルカージェヴナ(父称・アルカージィの娘の意)に続く姓が『カルチェンコ』ではおかしいのではないか? 『カルチェヴナ』じゃないかなあ…。しかし、ちょっと調べたら、『カルチェンコ』というのはウクライナ人に多い姓で、男女同形なんだそうな。…むう、ぬかりないですな。たいしたもんだ。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月21日(水)『町でうわさの天狗の子』一巻/『僕の小規模な生活』三巻を読む 鬱で脳の状態がアレになってきたので、文字の多い本を読む気がしません。積んどいたマンガを消化することにしました。 続いて『僕の小規模な生活』(福満しげゆき)三巻を読みました。自意識過剰で根暗で愛妻家の作者の日常を描いた作品です。二巻を読んだ時には、売っ子に出世したのでつまらなくなったと思いました。でも、三巻で盛り返したぞ。奥さんの出産に立ち会ってビビりまくる福満氏がよかった。巻末オマケに少年マガジンに掲載された変なお色気マンガが収録されています。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月22日(木)『クーデタークラブ』一巻/『闇金ウシジマくん』一巻を読む『クーデタークラブ』一巻を読みました。『革命部』という副題がついています。『クーデター』(支配階級内での非合法な権力の移動)と『革命』(被支配階級が支配階級を打倒して権力を奪うこと)では、全然違うんだけど、まあいいや。一巻では、女装癖のある秀才の高校生が双子の女子高生に誘惑されて、悩んだあげく美術室の地下にある『クーデタークラブ』に入部申請するまでです。なんだか意味がわからんな〜。本番は二巻以降という感じですね。まあ、『革命部』という副題につられて二巻も読んでみようと思います。 続いて『闇金ウシジマくん』一巻を読みました。『ナニワ金融道』をくらーくして教訓的な部分をなくした感じですかね。闇金に金を借りたやつが破滅するまでを数話完結で描いています。悪人のウシジマくんが主人公のピカレスク漫画とでもいいたくなる作品ですね。闇金の周辺のいかがわしい雰囲気がよくでており、そこらへんが好みです。でも、くらーいので、こいつを続けて読んだら鬱が悪化しそうだ。気分が良いときに読もうと思う。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月23-24日(金-土)『釈迦とイエス』(ひろ さちや)を読んで『大審問官』を考える仏教学者のひろ さちやが書いた『釈迦とイエス』を読みました。釈迦とイエスを人間としてとらえ、対比してその人生から教訓やら教義やらを読みとろうとする試みです。ひろ さちやは、仏教学者なので、釈迦についてはたくさん書いているし、その本はオレも読んでいます。ひろ さちやが、イエスをどのように捉えているか興味がありこの本を読んでみました。とりわけ興味深かったのが、荒野の三つ誘惑に対するひろ さちやの解釈です。ちょっと長くなりますが引用します。 イエスが受けた「誘惑」は三つある。「マタイによる福音書」( 4)を見てみよう。さて、イエスは悪魔から誘惑を受けるため、″霊″に導かれて荒れ野に行かれた。そして四十日間、昼も夜も断食した後、空腹を覚えられた。すると、誘惑する者が来て、イエスに言った。「神の子なら、これらの石がパンになるように命じたらどうだ」 これが第一の誘惑である。 イエスはお答えになった。 ここでイエスが言った言葉 ― 「人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる」 ― は、『旧約聖書』の「申命記」(8)の言葉である。このイエスの応答はじつに見事である。彼はこう答えることによって、自分は神の子であることを立証したのだと思う。 悪魔の誘惑は、政治のほうからの誘惑である。 この地上には、飢えた人たちがいる。彼らはパンを求めて泣き叫んでいる。そういう現実を前にして、政治の世界にいる人間は宗教者に、 「この現実をなんとかしろ!」 と迫るのだ。つまり、そこらに転がっている石ころをパンに変えろ、奇蹟を起こせ、と要求する。そして、それを拒めば、 「宗教は阿片だ」 と、宗教への攻撃をはじめる。それが政治の世界にいる人間のやり方だ。彼らは宗教を利用したいのだ。悪魔というのは、そういう政治の世界にいる人間である。悪魔は、イエスを自分たちの世界に取り込み、イエスの持っている宗教的な力 ― 神の子としての力 ― をうまく政治の世界に利用しようとしたのである。 オレはバカなので、てっきり童話にでてくるような黒くて矢印みたいな尻尾の悪魔が出現して、「石をパンに変えてごらん」とイエスを誘惑したと書いているのかと思った。それどころか、腹が減っていて石をパンにかえる能力があるなら、パンに変えて食えばいいじゃん。なんでそれが悪魔の誘惑なの ? というとらえかたでした。しかし、ひろ さちやの解釈によると、悪魔というのは、現実の悲惨を前にしたイエスの心の迷いのようなものらしい。売れっ子作家の佐藤優も、黙示録に登場する獣とは『国家』を象徴するのだとたしか『神学部とは何か』で書いていた。黙示録は、世界の終わりに天使やら怪獣やらが暴れる話しではなく、キリスト教の国家観をあらわしているのだとか。聖書はそういう読みかたをするべきらしい。 しかし、イエスは、そういう誘惑に負ける人間ではない。彼は毅然として誘惑をはねつけた。 考えてみるがいい。わたしはイエスに成り代わって言いたい。そもそもパンを求めて泣き叫ぶ者をつくったのは政治ではないか。政治は、どの時代の政治であれ、どの国の政治であれ、国家主義の政治、全体主義の政姶、社会主義の政治、共産主義の政治、デモクラシーの政治、いかなる政治形態であろうと、一部の人間の利益に奉仕し、残りの人間を泣かせることをする。貧しい人から搾取し、金持ちに分配する。いや、搾取されて貧しくなり、搾取した奴が金持ちになる。貧しい人間を泣かせ、金持ちをうはうは喜ばせる。それが政治だ。政治とはそういうものだ。 石をパンに変えるというのは無茶なようだけれども、石炭を掘ってカネにかえ、それでパンを買って人々に配れば文字通り石がパンに変わりますわな。鉄鉱石を輸入して車や船に加工して売りさばき、それで世界中から小麦を買っている日本なんて、ぴったり当てはまるじゃないか。しかし、それで人々は満たされているだろうか。それに宗教が政治に関わって人々の生活に口をはさんだり、金持ちになることを賛美しはじめたら、うっとうしいよなあ。 イエスは悪魔の誘惑に対して、自分はいっさい政治に関心がない― と答えたのだ。これほど見事な言葉はないであろう。 ― 略 ― 「人はパンだけで生きるものではない」 ― わたしは、いまは、イエスのこの言葉に賛成である。だが、この言葉は危険だ。きっと世人の反撥を招きそうだ。「馬鹿を言うな! 人はパンなしで生きることはできない!」 そうした言葉が撥ね返ってくるかもしれない。 いや、何を匿そう。若いころのわたし自身が、イエスのこの言葉に反撥していた。インドで、アフリカで、何千万という飢えた子どもたちがパンを求めて泣き叫んでいる。針金のように細い手足で、腹だけが不思議に膨れている子どもたち。泣く力すら失ってしまった子。 その彼らに、冷然と、 「人はパンだけで生さるものではない」 と言えるのか?! そう言える奴は冷血漢だ! パンを求める者にはパンを与えねばならぬ。以前のわたしはそう考えていた。 ― 略 ― しかし、イエスの主張は違う。パンを与える仕事は政治のやるべきことだ。宗教は宗教の仕事をすればよいのであって、宗教が政治の仕事をすべきではない ― というのがイエスの主張である。わたしは、いまは、このイエスの考えに全面的に賛成である。 なぜか? 理由はすでに述べた。政治というものは、本質的に、 ― 依怙贔屓(えこひいき) ― だからである。誰かを泣かせ、誰かを喜ばせる。それが政治だ。宗教が政治に関与すれば、多くの場合、権力者に胡麻を擂り、底辺に生きる人を泣かせることになる。それが逆になって、宗教者が民衆の味方をし、反権力闘争の先頭に立ったとしても、権力の側にいる人間を宗教者が宗教の名においていじめることになる。それは、つまりは神の愛、ほとけの慈悲が一部の人々に及ばないことである。果たしてそれでいいのであろうか……。 『カラマーゾフの兄弟』という小説に『大審問官』という章があります。この部分は、文学・神学上の大問題作とされており、考察本が何十冊となく出版されています。オレは、『カラマーゾフの兄弟』を三回通して読み、『大審問官』の部分だけを五回は読んだけど、どこが問題なのかすら、さっぱりわからんかった。こんな話しです。 魔女狩り時代のスペインにキリストが復活して奇跡を起こす。すると通りかかった魔女狩り大僧正(大審問官)がキリストを逮捕させ、牢屋にぶち込む。そして夜、キリストの独房にその大審問官がやってきて、キリストを責めるわけです。荒野の三つ誘惑を拒否したのは大変な間違いであると。第一の誘惑の拒否によって、おまえは民衆にパンを与えず自由を与えた。しかし、民衆はそんな自由には耐えられずパンをもとめる。だから私(大審問官)がおまえ(キリスト)にかわって、民衆の自由を奪いパンを与えているのだ…。 なんでイエスが石をパンに変える奇跡を起こすことを拒否したら、民衆に自由を与えたことになるのー〜〜 ?????しかし、ひろ さちやの説明で少しはわかった気がしてきました。石をパンに変える奇跡というのは、イエスの教えの政治化を象徴的にあらわしているのだ。政治というのは、現世における強制力だから、イエスは政治を拒否して信仰を、換言すればこの世のものではない霊的な価値観を民衆に与えようとしたんだな。強制力をともなわないその新しい価値観を、大審問官は自由とよんでいるのだろう。 悪魔の第二の誘惑については、より明瞭に理解できました。 荒れ野において悪魔の第一の誘惑を受けたあと、イエスはつづけて第二の誘惑を受ける。 次に、悪魔はイエスを聖なる都に連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて、言った。 これが第二の誘惑である。 イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』とも書いてある」と言われた。 悪魔のそそのかしに乗って屋根から飛び降りたほうが神を信じているようにみえるけど、実は違うんですよね。飛び降りてみせるという行為に、神を試すという意志がひそんでいる。イエスのように神を信じ切っている者は、神を試すようなまねはしない。 次に悪魔は、第三の誘惑をする。 更に、悪魔はイエスを非常に高い山に連れて行き、世のすべての国々とその繁栄ぶりを見せて、「もし、ひれ伏してわたしを拝むなら、これをみんな与えよう」と言った。すると、イエスは言われた。「退け、サタン。 ここでイエスが引用した言葉も、「申命記」( 6)にある言葉だ。この第三の誘惑でもって、悪魔の誘惑は終わる。 そこで、悪魔は離れ去った。すると、天使たちが来てイエスに仕えた。 (同上) ということは、イエスが「神の子」であることが、以上で証明されたわけだ。 ところで、第三の誘惑はどういう意味のものか……? この第三の誘惑は、第一の誘惑と同じである。ここで問われているのは、 ― 宗教か? 政治か? ― の選択なのである。悪魔はイエスに、この地上を統治する政治的権限をおまえに与えよう、おまえはその政治権力を使って、この地上を自由に統治しろ、そうすすめたのである。そしてイエスは、悪魔に、 これに対しても大審問官は、イエスが地上を統治すべきであったと責めます。イエスがその責任を放棄したから、自分たちが教会組織をつくりアメと火刑などの恐怖とで社会を統治しているのだ。民衆は、支配されることを望んでいるのだと。 ここはオレの解釈だけど、たぶん大審問官は、「汚れ仕事をやらせやがって」とキリストに対して腹を立てているのだと思う。そしてキリストは、正しい信仰に意志的に背き、汚れ仕事を引き受けている大審問官を赦しているのだろう。…たぶん。 蛇足ですが、『カラマーゾフの兄弟』は、一八七九年(明治十二年)に発表された小説です。エーリヒ・フロムが『自由からの逃走』を発表したのが一九四一年(昭和十六年)。ドストエフスキーの思想は、六十年以上も先を走っていたようです。やっぱり天才だよなあ。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月25日(日)『山椒魚戦争』(カレル・チャペック)を読む「ロボット」という言葉を作ったことでも知られるチャペックの『山椒魚戦争』を読みました。一九三五年発表ですから、 SFの古典といってもいいでしょう。道具をあつかうことができてしゃべることもできる大山椒魚が発見され、産業用に大量に養殖されます。気がついたら軍事目的に使われる山椒魚までつくられ、山椒魚の数が人類の数倍にまでふくれあがっている。そして、山椒魚総統があらわれ、人類に戦争を挑んでくる。圧倒的な山椒魚の戦力に人類は敗北し、大陸は沈められ山椒魚の生存に適した浅瀬だらけになってしまう。ところが最後に、山椒魚も民族に分裂してアトランティス山椒魚とレムリア山椒魚が戦争をはじめるというオチです。 人類がエゴでつくり出したもの(ロボット・生物etc)が暴走してしまい、反乱をおこすというパターンは、手塚治虫が『鉄腕アトム』などでさんざん使っています。もちろんパクッたのは手塚先生のほうですよ。 ファシズム批判の本でもあります。ナチスの人種理論をからかって山椒魚にあてはめ、アーリア山椒魚はドイツだけの優秀山椒魚であるとかなんとかいう理論を書いてみたり、山椒魚のリーダーは、実は人間でアンドレアス・シュルツという元曹長だったとか、あからさまにヒトラーをモデルにしてみたり…。連載中にファシストに爆弾を送りつけられたりしたらしい。チェコがナチスドイツに占領されると、自宅にゲシュタポがやってきた。幸い? チャペックは、もう亡くなっていたので、どうしょうもなかったらしいが。 ナチスとともに共産主義もからかっています。ソ連のモロトフ外相がモデルの『モロコフ』なる人物による共産主義インターナショナルのアピールが面白い。チェコがソ連の衛星国になると検閲で削除されてしまった。ちょっと長いけど転載します。 山椒魚の同志諸君 ! 資本主義制度は、最後の犠牲者を発見した。階級意識に目ざめたプロレタリアートの革命的昂揚によって、資本主義の暴政は、すでに決定的に崩壊しはじめたが、海の労働者諸君、腐敗した資本主義は、奉仕させるために諸君を駆り出し、ブルジョア文化によって諸君を奴隷化し、諸君をおのれの階級的法律に服従させ、諸君のすぺての自由を奪い、罰せられないことをいいことにして、諸君をむごたらしく搾取するために、あらゆる努力をおこなっている。(十四行削除) 階級的・民族的権利をたたかいとれ! 山椒魚の同志諸君! 全世界の革命的プロレタリアートは、諸君に手をさしのべているのだ。(十一行削除) すべての手段をつくして、工場委員会をつくれ。代表をえらべ。ストライキ基金を積み立てよ! 自覚した労働者階級は、正義の戦いにある諸君を見捨てず、諸君と手を取りあって、最後の攻撃をおこなうものであることを、銘記せよ。(九行削除) 全世界の革命的被圧迫山椒魚よ! 団結せよ! 最後のたたかいは、すでに始まったのである! モロコフ(署名)
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月26日(月)『あふがにすタン』/『萌え萌えナチス読本』を読む 先日注文した『あふがにすタン』と『萌え萌えナチス読本』を読みました。『あふがにすタン』は、いわゆる擬人化萌えというやつです。アフガニスタンを擬人化して、萌えつつその近代史を学ぼうという欲張りな企画。…で、読んでみたんですけどね。つまんない…。 雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月27日(火)『キャノン先生トばしすぎ』(ゴージャス宝田)を読む なぜオレがこうもエロに関心があるかというと、もちろんもともと好きというのもあるけど、それと同時に『エロ』と『死』は、日常を浸食して最も破壊的なものになりうるからじゃないかと思う。まあ、しゃれた言いかたをすればエロスとタナトスに関心がある。俗に言えば露悪的なのが好きだということだぁ。
コレハヒドイ…。「スゴイ」じゃなくて、「ヒドイ」ね。いい意味でですよ。ここ数年これほど激しいエロマンガは読んだことがありません。人によっては、エロを飛びこしてグロの水準にまで達していると感じるかもしれない。細君にみせてやったら拒絶反応を示された。 うーん。絶版が多いなー。『オトナなんかだいっきらい!!』や『性と文化の大革命』なんて、アマゾンにすら登録されていない。好きなエロマンガ家は他にもいるけど、二五年くらいエロマンガを読んできて(描いたりもしたけど)、「こりゃすごい」と思えたエロマンガは、これくらいです。『キャノン先生トばしすぎ』は、こいつらの水準に達してますよ。 ゴージャス宝田の本は、ずいぶん昔に『空とぶ妹』という同人誌を買ったことがあります。あのころとくらべてずいぶん技量があがっているうえに、全然枯れずにぶっ飛ばしているところが偉い。それにセックスしてるだけじゃなくて、ちゃんとテーマやストーリーがある。思わず感動しちゃったよ。 売れない三十才のエロマンガ家がアシスタントに入ったのは、超売れっ子エロマンガ家の巨砲キャノン先生。その正体は十二才の美痴少女でした。キャノン先生は、お嬢さんなんだけど性欲過多の女の子で、スイッチが入ると狂気の性行動に走ります。特にシリの穴にオシッコを射精してもらうのが好き。…まあ、くわしくは買って読んでくださいな。スゴイというか、なんというか…。
↑コマ割りや書き文字の位置などを工夫して目線を誘導するなど、よくみると構成にかなり高度な技術を使っているよね。 キャノン先生、じゃなくてゴージャス宝田先生は、この調子でがんがんトばしていってほしい。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月28日(水)『日本のミイラ仏』(松本昭)を読む 最近なぜか即身仏が気になってしょうがありません。学者さんが書いた本なのに、くだけていて面白かったですよ。 現在公開されているミイラ仏は、全部で十五体らしい。大半は湯殿山系列の真言宗の寺にまつられています。ネットで調べてみると、寺院で「即身仏一覧表」なんてものを配っているらしい。この一覧表を片手にミイラ仏全十五体と対面する旅をした人のホームページを発見しました。同じようなことを考えている人がいるもんですねー。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月29日(木)『珍世界紀行ヨーロッパ編』(都築響一)を読む よい意味で素晴らしく悪趣味な本です。ヨーロッパに点在する怪スポットを見事な写真で紹介しています。カテゴリー別にそれぞれ『蝋人形』『信仰』『性愛』『暴力』『病理』『アウトサイダー』『カタコンペ』などなどです。特にグロな解剖標本や死体を平気で露出するところは、日本人と死に関する感覚の相違が露わになって実に興味深い。以前読んだ『珍日本紀行』と見くらべると、民族性が根本的に違うんだなと思わされます。 文庫版を購入しましたが、あまりにも内容が素晴らしいので高価な大判がほしくなってしまった。
雑記TOP 遊撃インターネットTOP 4 月30日(金)トロツキーの胸像が届く/『トロツキーの挽歌』を読むウクライナから注文していたトロツキーの胸像が届きました。思ったよりも状態がよく満足できるものです。
トロツキーとは、ロシア革命を指導したレーニンと双璧とされる革命家です。十月革命時には、ペトログラードソビエト議長としてレーニンの武装蜂起を強力に支持。ボリシェビキ単独の蜂起をソビエトによる蜂起に転化し、十月革命に決定的な役割をはたします。革命後は外務人民委員(外務大臣)、軍事人民委員(国防大臣)を歴任し、赤軍を創設し内戦に勝利をもたらしました。中国革命でいえば毛沢東に対する朱徳、明治維新だったら大久保利通に対する西郷隆盛みたいな人物でしょうか。スターリンは山県有朋かな。 値段は送料込みで二万五千円くらいでした。これを高いとみるか安いとみるか…。オレにとっては、収集家が隠れキリシタンのマリア観音像を二万五千円で手に入れたようなもので、安いというのもバカらしいほどの激安でしたね。でも、こんな人物でも細君にかかると「サザエさんみたいな頭のおじさん」になってしまう〜。 トロツキー胸像入手記念に 『トロツキーの挽歌』(片島紀男)を読みました。著者はNHKのディレクター出身。学生時代に慶応大学で社学同をつくり、六十年安保の国会突入闘争に参加しています。NHKでは、『埴輪雄高・独白「死霊の世界」』などを手がけたとのこと。まあ、金持ち老トロツキストの道楽といったところでしょう。とりわけ目新しいことが書いてあるわけではなく、ドイッチャーのトロツキー三部作、プルーエ『トロツキー』、ヴォルコゴーノフ『トロツキー・その政治的肖像』、『トロツキー自伝』などから面白いところをつまんで、失脚から暗殺されるまでのトロツキーの姿をえがいています。オレもここらへんの本はだいたい読んでいるけど二十年以上も昔のことです。すっかり忘れていました。『トロツキーの挽歌』は、独創性はないけどよくまとまっていて、昔読んだものの内容を思い出すのに役に立ちました。ちょっとトロツキーについて知りたいという人におすすめです。
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