FATE 06 帰宅
「・・・で、キョウはどうしたんだ・・・?」
蔭時に呆れた目で言われ、擾暁はうつむいた。
「・・・すいません 逃がしました」
「またか・・・」
蔭時は溜息をつく。
「オレは人間だからどうしようも出来ないんだ。お前がしっかりしてくれよ・・・挙句の果てに・・・」
蔭時は視線を横にずらした。
「別の女拾って帰ってくるとはな・・・全くどういう兄弟なんだお前らは。で、こいつは誰なんだ?」
かなりご機嫌斜めのようだが正論なので仕方が無い。ふとまだ名前を聞いていないことに気が付いた。
「あ、お前なんていうんだ?」
自分の横にぴったりくっついている少女に視線を移すと、少女は擾暁を見上げた。
「・・・ひとにあったら・・・リボン・・・」
名前も聞いていないのかとまた溜息をつく蔭時の向かいで、擾暁はリボンをはずした。
「詩野・・・しの?」
《なんだお前名前あるじゃんっ!》
ヘルガーが擾暁の中で怒った。
はずしたリボンの裏側には細い糸で縫込みがあった。
「しの・・・わたしのなまえ・・・しの・・・」
自分に言い聞かせるように・・・詩乃は何回も自分の名前を繰り返した。
すると途中で何かに気づいたらしく、三人の方を見た。
「みんな・・・なまえある?」
きょとんと首をかしげる詩乃を見て三人は笑った。
「あるわよ。私は立花。よろしくね、詩野ちゃん。」 「俺は蔭時だ。」
「りっか・・・かげとき・・・。りっか・・・かげとき・・・。りっか・・・かげとき・・・。りっ・・・ りっき・・・かげとか?」
「立花、蔭時!オレは擾暁だ」
「りっか、かげとき。みさと。みさとしってる。みさとすきっ」
椅子に座ったまま笑顔でぴょんぴょん動く姿を見て擾暁は赤面した。
「な、何言ってんだよっ! オレはっ・・・!」 「そういう意味じゃないんじゃないの?」
突然の声に振り向くとダイニングの入口に御影を引きつれたキョウがいた。
「てめぇっ!」
「只今。月が隠れちゃったから帰ってきちゃった。」
「御影ちゃんっ!大丈夫だった!?」
立花は立ち上がって御影の元に駆け寄った。
「大丈夫。キョウいい人。擾暁もいい人。立花もいい人。蔭時は立花の旦那さんだからいい人。」
立花は最後の一言にドキッとして慌てて訂正した。
「違うわっ!蔭時様は私のご主人様よっ!」
「・・・旦那さんとご主人様さんは違う??」
「ち、違うわよっ!もう!キョウったら変な事教えないでよねっ!!」
立花は顔をまっかにしてキョウを睨んだ。
「蔭時は否定しないの?」
「・・・通り越して呆れた」
蔭時はぐったりとダイニングテーブルに倒れた。
御影は「違うのかぁ・・・」と言いながら知らない間に増えている少女に気づいた。
「その人だぁれ?」
「私も今聞こうと思ったよ」
話題が自分に移ったのが解ったのか、詩野は口を開いた。
「わたし・・・なまえ・・・りっきかげとか?」
「立花と蔭時!お前は詩乃!」
覚えの悪さに擾暁が呆れて怒鳴った。
「擾暁、駄目だよ、レディに向かって怒鳴ったら・・・」
キョウは詩野の前で跪くと微笑んだ。
「そうか、君は詩野って言うんだね。私はキョウ。このコは御影だよ」
「きょう、みかげ・・・ きょう 頭のりぼんおそろい 」
キョウの髪を縛っているリボンを見て詩野は手を伸ばし、笑った。
御影は無邪気に笑う詩乃をじっと見ていた。
・・・私 このコ ミタコトアル・・・?
2002/09/22