「何か、十一篇」より


(#11)

煙がゆっくりとただよってくる
酔った勢いでかすみを喰う
先輩方のお達しには目もくれなかった
信じられる神様のふるまい
芥子の実
酒種を静かに少しずつ注意深く作れば
黙ってあの島から飛んでくる
コウモリがひとりで皮膜をたたむ

蜜柑の木を植えた
竜巻にあわないように方違えをした
凛と鳴る鐘
けだものがけだものらしく道を譲った
きっとぼくの名前を何度も何度も叫んでいる
下積み生活だけで人生が終わる
見たこともない影が世界を覆っているのに



(#5)

神様は鳥に姿を変えることがある
とてつもなく大きな鳥
翼をわずかに動かそうとしただけで雷鳴が轟く

ほとんどの時間は眠っているのだ
だがいったん飛翔するときになると
地表は逆にほとんど変化がない
ただ人々の心に根底から転換が起きる
ひとりじゃなくたくさんのひとのこころに
いやすべてのひとのこころに一斉に
鉱物や植物だったころの記憶が蘇り
それとは気づかないかもしれないが
決定的に再新再生するプロセスが
起こりはじめ止まらなくなる

感謝するものと感謝されるものが一体になる
いっさいの分け隔てというものがなくなる



(#1)

今日は朝からたくさん鯖が降って来たので助かった
最近あまり魚は食べなくなってはいるんだけど
二ヶ月に一回位はこれからも食べるかもという予感はあるもんだから
早速たっぷり塩漬けにさせてもらった

これにはたぶんマッコリとか何か強い酒があいそう
そして着流しをはおって暑い時もそうでないときも
夕方きっかり16時半になったら
まずはベランダに長机を出していっぱいひっかける
そこから一日の最も良い時間が始まる

おれたちの場合はだいたいそういう風に人生が出来ている
つまりいつだって夕方だってことだ
朝起きてもそれは夕方
夜更かしして幾ら電気をつけたって
ロウソクをしこたま焚いたって
真っ暗で真っ暗で仕方がないとき
それも夕方
海辺で太陽がマッサンサンと真上から熱と輝きを惜しみなく与えてくれるとき
それも夕方なんだよ

おあいにくさまと言うべきか?
うってつけだと言うべきか?
神様ありがとうと言うべきか?

ところかまわず鯖受けの缶が並んでいる
路上に、畑に、駅の待合室に、
自動車のボンネットに、溝のなかにも、



(#4)

そば喰ってる場合じゃないよ
エンドウ豆にハシゴひっかけてる
こだわりの沙悟浄がケツまくってよいしょしてる
からたちの花は咲いたんだけど
ポーツマス条約以来のご機嫌斜めさ
ツノで突っつかれてひょいと持ち上がる
カレンダー通りにはいかないんだよ
町並みが整わなくても啼くんだよ
神様の調べが聴こえて来る
金輪際ためいきをつかなくなる
見目麗しくスイッチが入る
そんなこんなに対応しきれなくなっても
この道に沿って輩(ともがら)に出合う
七面鳥は堂々とした態度
女が男の股ぐらに顔をうずめる
叫び声がこっそりと伝わる
今だって明日だって来年も去年になる
その甲斐あって歌う人生
苛(いじめ)られて鵯越(ひよどりごえ)を越える
帽子をかぶって出直して来な
木漏れ日の悪口と告げ口がひっくり返る
サンダルごと水に落ちる
マンガ抱えて笑ってる場合じゃない



「続 何か、十一篇」より


(#20)

雨の日の、そのまた翌日の雨の日の、
そのまた翌日の雨の日の、三日後は必ず曇

後ろから振り向きざまに人生が転換する
そんな経験もせぬままに
気付かぬうちにそっと忍び寄っていた変化
真正面から見据えても 風は横ざまに吹く

晴れの日の、そのまた翌日の晴れの日の、
そのまた翌日の晴れの日の、四日後はいつも雨

アフガニスタンの十一歳の子どもが発見した法則
スウェーデン王立協会からは何の祝福もなく

南米から渡来して 大分県で繁殖し
宮崎の光をたっぷり浴びて育ったという
あの蜘蛛は 巣を張るのに三日かけた
何といっても完成した暁には
幅五メートルを越えるのだ

互いに遠く離れた二つの島がゆっくりと架橋される
熱帯できたえられた身体と心で
ひとりづつ渡って行け
長い長い旅
手をつないでもいい
でも 一足跳びに越えようとしてはいけない
時間をかけて ゆっくりと
ゆっくりと 歩いて行け







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