お や お や

1月

“心が動く”経験を

 
 
 我が家は転勤族です。現在年長のSと小学2年生の姉のMが初めて経験したのが、東京から愛知県への引っ越しでした。当時はSがまだ8ヶ月、Mが2歳の引っ越しは本当に大変で、未就園児2人を抱えて、母の私も見知らぬ土地でひたすら奮闘した日々でした。それでも、人間とは逞しいもので、愛知県の暮らしも楽しめるようになりました。あっという間にMも幼稚園に入り、その2年後にSも無事に入園することになりました。
 そして、年少の夏休みに引っ越して来た、M君と運命の出会いをしたのです。2学期の初日から打ち解けた2人は、周りも驚くほど仲良くなり、Sにとって、毎日がM君との冒険でした。楽しくてたまらない!と全身で訴えているようでした。それでも、やはり引っ越しの時期は来てしまいました。せっかく同じクラスになった年中の夏休みでした。
 最後の日は、園の夏期保育でギリギリまで一緒に遊びました。Mと夫と3人で迎えにいくと、Mもお世話になった先生達も集まってくださり、私も色々な思い出で胸が熱くなりました。そして、駅に向かうタクシーに乗り込む段になって、それまでふざけていたSもいよいよ悟ったのか、表情が一変しました。タクシーの中から“M!M!”と何度も叫び、見えなくなると下を向いて“MーMー”と泣きながら長い間叫んでいました。その姿に、私も涙をこらえることができませんでした。そして、こんなにもSの心が動く出会いに、感謝の気持ちでいっぱいでした。
 京都に引っ越して、むらさき幼稚園に通い始めると、思ったより楽しく過ごしているようでしたが、M君のいない生活に心がついていかず、幼稚園に行きたくない、という時期がありました。それでも担任の先生に助けて頂いたり、M君とテレビ電話をしたりしていると、いつの間にか嫌がらずバスに乗れるようになりました。新しいお友達の名前をちらほら聞くようになった頃でした。
 Mの方も、新しい小学校で、最初は自分の気持ちが言えず、辛い想いをしたことがありました。初めてのことに親子で戸惑いましたが、先生にも助けて頂き、自分の気持ちをきちんと言えるようになりました。
 引っ越しは、MとSにとって辛い出来事でしたが、2人の心が大きく動いた経験でもありました。また、そういう“心が動く”経験で人は成長していくということを、私自身が改めて実感した出来事でもありました。
 これまでもそういうことがありました。子ども向けのクラシックコンサートに連れていった時、途中で天井から大量の紙吹雪が落ちてきて、2人とも音楽よりもその紙吹雪に大興奮でした。すると、かなり経ってからですが、その日は帰宅が遅くなり、バタバタと夕食の準備をしていました。その間何やら工作をしていた2人に呼ばれて振り向くと、大量の紙吹雪がおもちゃのバケツに入れられて、今まさにひっくり返されようとしていました。私は必死の形相で止めて話を聞くと、そのクラシックコンサートの話をするではありませんか!楽しかったから、イライラしている私を励ましたい、ということでした。私は嬉しくて、料理の手を止めてしばらく子ども達と紙吹雪を思う存分楽しみました。
 “感動“というと、いいことにしか使いませんが、“心が動く”というとどんなことにも当てはまる気がします。子育ては、大変ですが、“あ、今この子の心が動いたのかな”という視点で見てみると、いいことも悪いことも前向きにとらえられるように思います。なんでそんなことするの!と思わず怒りたくなることも、紙吹雪事件のように、思わぬ“心が動く”経験が隠されていたりします。現実は難しいですが、なるべくそういう気持ちで接しているとMとSも自分の“心が動く”ことを大切にしてくれるようになる気がします。そして、またそれがずっと未来に、2人の周りにいる人の“心が動く”ことを大切にしてあげられることにつながっていくといいな、と期待しています。




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