お や お や

12月

タッチ、あくしゅ、ギュッ

 
   Sは私達夫婦にとって初めての子供で一人っ子です。入園前の一年間はプレイルームに通っていました。プレイルームはものすごく居心地の良い空間で親子共々お気に入りでしたが、それだけでは満足しないS、隣の遊戯室や園庭で楽しそうに遊んでいるお兄さんお姉さん達の輪に入って行く事も多々ありました。テンションの高いS以上のテンションで一緒に遊んでくれたり、教室を飛び出して行方不明になったSを一緒になって探してくれたり、むらさきの子供達の懐の深さに一目惚れしてそのまま入園しました。
 楽しい事が大好きで誰彼構わず輪に入っていく一方、甘えたで少し気が弱く、年少の頃はほぼ毎日「幼稚園行きたくない」「ママと離れるのが寂しい」と駄々をこねるように。泣き叫ぶSを先生に託して無理矢理離れたり、バス登園のお友達が来るまでぐずるSと一緒にバスプールで待っていたり、近所の公園で遊んでから登園する事もありました。
 幼稚園に行きたくないSと幼稚園に行かせたい母との攻防戦が続いていた年少の終わり頃、新型コロナウイルスの流行で長期間休園に。Sにとっては嬉しいお休み、私自身も毎朝のストレスから解放され(違うストレスがありましたが…)しばし休戦の日々を過ごしていました。が、ようやく幼稚園が本格的に再開した登園初日、地べたに寝転んで「イヤッーー」と泣き叫ぶSの姿を見て、あぁ、またあの日々(戦い)が始まるのか…と憂鬱になったその日の夜、思わずSに「もう年中さんだけど、いつまでやる予定?」と聞くと、「もう幼稚園で泣かない、泣かないって決めた」と突然の終戦宣言!半信半疑でしたが本当に宣言通りその日から泣かずに教室まで行くようになり、あっけなく私とSの攻防戦は幕を閉じました。
 代わりに始まったのが毎朝、登園時にするタッチして握手してギュッと抱きしめる見送りのやりとりです。年中にもなると、親の仕事や周りの状況をきちんと理解出来るようになってきました。相変わらず朝は幼稚園行きたくないモードになるS、けれど、私も仕事があり構ってあげられない事は本人も十分解っています。Sにとってこのやりとりは気持ちを切り替えるため、頑張るためのおまじないなのかもしれません。私にとっても頑張れーとパワーを送る大切な行為です。毎日しているとタッチの仕方や握手の強さでその日のSの気分が感じ取れるようになるもので、最近はまた少し様子が変わってきました。ちょっと前まではSの私と離れたくないという寂しさを感じていたのが、今ではそういった寂しさを感じないのです。むしろ幼稚園を楽しむぞという前向きな感情が出てきたような気がします。この変化は幼稚園での過ごし方が影響しているのかな?と考えています。Sから聞く幼稚園の話、特にネガティブな話の時、以前は『〇〇が嫌だった』で終わっていたのが今では『〇〇が嫌だったからこうしたんだ』と、嫌な事に対して何かしらのアクションを起こすようになった話を聞く事が増えたからです。年少の頃はネガティブな事を丸ごと受け入れる事しかできずその気持ちが“幼稚園に行きたくない”に繋がっていたようでした、年中になりお友達や先生方との関わり合いの中で徐々に“悲しい”“悔しい”と言ったネガティブな感情に対して向き合っていく方法を学べているのかなと思います。それが少しずつSの強さになり、その強さが嫌な事も良い事もまとめて全部楽しもうという前向きな“タッチ、あくしゅ、ギュッ”に変化してきているのかなと思います。
 これから先、泣かない宣言をした時のように、もうしないと宣言する日が来るかもしれません。朝のやりとりも雑にさっさと教室へ向かう日もちらほら…めちゃくちゃ寂しい…(案外私の方がSからパワーをもらっていたのかもしれません)私としてはまだまだまだまだ続けていきたいこの触れ合い、そんなに急いで成長しなくていいよと心の中で呟きながら、今日もタッチ、あくしゅ、ギュッーーしていってらっしゃーい!



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