お や お や

3月

大切な居場所

 
 シャイで内弁慶で実は超お調子者、まわりを良く見過ぎる小心者。一人でどこでも行くタイプではないけれど賑やかなことは大好き。そんなHは、少人数で園児や先生との関係も濃く、あるがままを受け止めてくれるこの園が合っているに違いないと思い入園を決めました。私も、子ども達同士が自分で壁を乗り越えて成長していく姿をこの目で見ていきたいなと思ったのでした。
 入園式から早速泣いていたH。初当園日も、あるきのために余計に母から離れ難く、九時に着いても一緒にしばらく遊んで十時半頃に“こそっと”帰って、十二時よりも少し早めにお迎えに来る日が続きました。この“こそっと”も先生と色々試して、振り返らずに帰ったり、あえて手を振ってみたり。ある日「ご用事あるし、遊んで待っててね」の言葉をかけてみると、拍子抜けする程すんなり「うん」と言ったのです。「お母さんさえよければ、つき合ってあげてください」の先生の言葉を信じて、Hの気持ちに寄り沿い、それをさせてもらえる丁寧な先生方の情熱にも胸を打たれたのでした。そしてそこからHの幼稚園という新しい居場所での冒険が始まったのです。
 しばらくすると、三人程の仲良しのお友達もでき、帰り道に遊んで帰ったりもするようになりました。親がそばにいなくても、キャッキャッと楽しそうに戯れる姿さえ新鮮に感じました。また、私が二人目のつわりや出産で大変な時は少し寂しい思いもあったと思います。でも、幼稚園に楽しく通っていたお陰で私もHも安心して過ごせました。
 年中からは引き続き年少からのお友達をベースにしつつ「○君と遊べるようになった」等、日に日にお友達の名前が増えてきました。本人もそれが嬉しく“友達が増えた”という事に対して自信もついたように見えました。私はどんどん世界が広がっていく中で生き生きとしているHを見るのが幸せでした。
 年長に進級する時も、年中のひとクラスの持ち上がりだったので特に心配な様子もありませんでした。そんな中、大切なお友達が海外へ引っ越しました。その二ヶ月程後のある金曜日の雨の朝「今日、幼稚園行きたくない」と言いました。体調不良以外で行きたくないと言ったのは初めてでした。どうやら、お友達の引っ越しをきっかけに仲間関係が変化していく中で悩みや疲れが出てきているようでした。また同時に、他のお友達の中にもそれぞれの想いの中で揺れ動いて不安定になっている子達がいることもよく分かってきました。“色んな子と遊べるようになって嬉しい”というただただ純粋な気持ちだったのが、より複雑になった人間関係の中で“楽しいだけじゃないんだ”という初めての経験や感情を体いっぱいに感じたことでしょう。
 結局その日一日だけ休んで、次の月曜日からは「行く」と言いました。でもすぐに解決することではなく「今日も思うように遊べへんかった。」「やめろって言ったけど全然聞かへんねん」あげくは「色々やったけどな、もう方法がないねん」等、もがきつつも毎日通っていました。気が弱く(=心優しい!?)あまり強く自分を出せない部分があり、見ていてもどかしく辛い時もありました。でも本人の目の前の壁は本人が乗り越えなければ意味がないので、私はただ見守る日々。そうしているうちに、「今日はうまく遊べた」とか「もう大丈夫な時もある」等、ゆっくりと変化がありました。最初は何も言えなかったのに勇気を出して言ってみたり、行動を起こしたりできるようになったのは、成長の証。また、周りのお友達の成長でもあるんだなと感じました。
 二月の今も色んな日があります。五~六歳の子ども達の、逞しく大人顔負けの心のぶつかり合いを目の当たりにしたら、子どもの世界も大変やなと思うのですが、なんだか羨ましくて眩しくもあります。最近ふと「そらさんのみんなともう一度しろさんになりたいなぁ」と呟きました。小学校も意識しつつ・・・でもやっぱりまだ幼稚園で遊びたい仲間がいる。大切な居場所になったんだなぁと、私はその言葉を噛み締めました。



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