お や お や

11月

朝のはなし

 
 私の朝は二番目に生まれてきたKちゃんの目覚まし時計の音から始まります。しっかり者のKちゃんは一度寝坊して学校の準備や支度が間に合わず大暴れしてから五時に目覚まし時計をセットしました。さすがに五時は家族が辛いので六時にしてもらいました。寝起きすっきりなKちゃんを羨ましく思いつつ、一緒に朝の仕事に取り掛かります。時々力尽きて何も手伝わない日もありますが、Kちゃんは私をいつだって褒めてくれる強い味方です。
 次に起きてくるのは三番目に生まれてきたMちゃんです。起きてすぐはおそらくお腹が減っているのでしょう、ありとあらゆることに難癖をつけます。例えば声の掛け方、椅子の位置、コップを置いたらその配置や中身までとにかくありとあらゆることです。今は空腹のせいだとわかっているので「お願いだから何か食べてちょうだい。」と言います。食べる物にもその日その日で好みがあります。昨日まで好きだったものが急に嫌になったりするようです。気にそぐわないものだと、知ってる限りの悪い言葉が出てきて六歳の知恵にこちらもめげそうになります。そこで思いついたのは甘い飲み物です。甘い飲み物を自分で用意すれば朝のいざこざが一つなくなりました。今は砂糖をたっぷり入れて作るコーヒー牛乳がお気に入りです。甘いものを口にした時の幸せそうなMちゃんの笑顔が好きです。
 そして最後は初めに生まれてきたWくん。四年生にもなると帰りも遅いし友達と遊ばなきゃいけないし、遅くまで宿題をしているので、だいたい起きてくるのは遅いです。人一倍こだわりは強いけれど、朝は自分でさっさと動きます。Wくんは私が作ったものはだいたいおいしそうにガツガツと食べてくれて、それだけで毎日ごはんを作って良かったと思えるので感謝しています。
 朝の短い時間に三人が揃った時、始まるのはソファの取り合いです。子どもたちの争いごとに声をかけないようにしようと理想の私は思っているのですが、あまりの激しさに「明日こそソファを捨てる!」と毎日叫んでいます。
 チャイム生活に慣れている小学生たちに合わせてアラームをセットし、七時三〇分になったら学校へ行く支度を始めます。私も準備には立ち合い、ドタバタし、二人を見送ります。こんな時、Mは少しさみしそうに、そして解放されたようにソファで横になります。兄姉が学校へ行くとMちゃんはゲームがしたくなります。うちはゲームもテレビも存分にしてもいい家です。心の中ではメディアを一切排除した生活に憧れることもあります。でも私はテレビが大好きなのです。テレビや映画、ゲームがいかに考えて作られているか知っていて、それらに憧れて青春時代を過ごしました。それを糧に生きていこうと思っていた私でさえ、今はテレビを見る時間はなく、家事をしながらでないと大好きな映画も見られなくなりました。今のメディアはよく考えられていて、いつでも始められていつでもやめられます。見ていたところで止まって、続きから再生されます。便利です。それに日々過ごすうちにルールはできていきます。朝は忙しくてできないし、夕方は宿題やご飯を食べるからできない、木曜日は習い事でできないなど。私が本当はそうしたいように、子どもたちも家では大好きなことを好きなだけしたらいいと思っています。
 Mちゃんは朝ゲームをしたら幼稚園に間に合わなくなることを知っています。そこで始まるのは工作です。机に向かってガリガリと何かを描いています。ずっとそのままにしてあげたいくらいの集中力です。
 私が仕事をし始めてもうすぐ三年が経とうとしています。働こうと決めた時、Mちゃんはまだ三歳でした。時期も中途半端で、まだ小さいので保育所に行こうと思っていましたが、待機児童の一人になり数ヶ月は預かり保育しかありませんでした。いろんな所を見学してむらさき幼稚園とあまりに違う保育環境に驚きました。高尾先生に泣く泣く相談した結果むらさき幼稚園に通うこととなり毎日プレイホーム生活が始まりました。
 姉と手をつないで乗っていた園バスも一人で乗るようになり、今では私と一緒に自転車で幼稚園まで通っています。私はMちゃんを送ってそのまま職場へ行くので幼稚園に着くと「お仕事がんばってね!」と逆に私を送ってくれます。後ろめたい気持ちがある一方、力が出てくるうれしい言葉です。
 気を抜けばすぐに挫けそうになるけれど、毎日少しずつ三人から自信をもらって、前を向いて、今日も自転車で走っています。



このウィンドウを閉じる