お や お や

9月

一人になれる力

 
  キラキラの瞳に人懐っこい笑顔、好奇心旺盛で、いつも明るく、誰とでもすぐに仲良くなれる…それがBのお兄ちゃん(小2)です。この兄は幼児期に於いてもその可愛さは抜群で、赤ん坊のBを差し置いて、道行く人々を魅了し続けました。そんな兄と勝手に比べられ、正直な人からは「あんまり可愛くないのね。愛想がない」、気を使える人からは「頑固そう。男らしく育ちそうね」と言われるB。主人は「Bの可愛さがわからないとは、残念な人達だなぁ」と、怒れる私をなだめていました。
 公園等に出かけると、自分から周りの子ども達に声をかけて遊び相手を見つける兄や、ザ・天真爛漫な弟を眺めながら、好きなことを黙々としているような人です。
 友達いっぱいじゃなくてもいいじゃない、Bが好きと思える人、Bの良さを分かってくれる人と、いつか一人でも出会えたらいいね…
 そんな母の思いもよそに、入園すると、Bは自分から“楽しそう!”と思える相手をすぐに見つけることができました。長いこと固い殻に入っていたわりには、あっさりと脱ぎ捨て自由に遊ぶBを見て、母は拍子抜けです。もちろん、その“初めて”には、本人なりのドキドキする場面もあったのでしょうけれど。
 兄の周りにもいた、憧れの《オレの仲間》と呼べる人を自分も見つけることができ、毎日元気すぎるくらい遊んで帰ってきました。でも、三つ子の魂とはよく言ったもので、本人は認めたくないでしょうが、本来はわりと大人しいタイプの子どもなのです。エネルギーが切れて「幼稚園行きたくないー」ということもありました。静かに遊びたい、一人になりたい時でも友達に合わせてしまっていたのです。
 友達に囲まれながらも、自分のペースを保ち、時には一人で過ごすことをあっさり選択できる兄は、実はすごいんじゃないかと、改めて思いました。一度、仲間と過ごす楽しみを知ってしまうとそこから一人になるのは勇気のいることですから。
 BはBの方法を見つけることができるといいね。母は助けてあげることができないから、いっぱい抱っこするよ。
 年中になり新しい仲間ができました。クラスの環境ががらりと変わったことで戸惑いながらも、新しい気の合う友達を見つけた姿に成長を感じました。
 春、Bが一人もものへやの奥で涙をポロポロと流しながら、無言でソフト積み木をゴンゴン蹴っているのを、偶然通りかかって見てしまいました。Bはこちらには気づいていません。悔しいことがあったのかな、悲しいことがあったのかな、家では見せない顔でした。今すぐ抱きしめたいのをぐっとこらえて、その場を去りました。
 バスで帰ってきたBは、いつも通りの姿です。母の知らないところで頑張っているBを誇らしく、いつも以上に可愛いと思いました。
 6月のある日、Bが自信たっぷりの表情で言いました。「B、秘密の場所見つけた。そこいたら、誰にも見つからないから、遊びたくないとき隠れられんねん。すごいやろー」
 そこでずっと過ごしているわけではないけれど、一人になれる場所の存在は、Bに勇気を持たせてくれました。
 隠れるとこ見つけただけでしょっと思いますか?いいえ。
 こういう性格の人だから、これからの人生で何度も悩むことが出てくるのでしょう。悩みながらも、自身で自分の方法を見つけることができたことは、Bにとって大きな一歩となるです。
 思慮深い切れ長の瞳に、静かな微笑み、独特の価値観を持ち、勘が鋭く、人の姿をじっと見てよく考えて、時々驚くほど大胆な行動するBを、私達夫婦はとても可愛いと思っています。B自身によるBらしい育ちを、心から応援できる、この環境に感謝しています。



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