お や お や

7月

小さな後輩(息子)の成長

 
  約三十年前、むらさき幼稚園で大好きな折り紙や泥だんご作りに没頭していた私にとって、幼稚園=好きな遊びを思いっきり極められる時間・場所。Sにもそんなかけがえのない楽しい三年間を過ごしてほしくて、当然のように、いや、何かに導かれるように、昔と変わらないベレー帽に茶色の制服、子どもにはちょっと渋めの鞄のむらさき幼稚園に親子二代でお世話になることにしました。
 Sは長男で両家にとっても初孫。大人ばかりの中で寵愛されて育ち、元々の性格なのか環境によるものか、よく言えばおとなしく穏やかな性格で喜怒哀楽の少ない、どこかぼーっとしている子でした。公園で自分のおもちゃを取られても泣きも怒りもせず、何事もなかったかのように別の遊びに切り替える。当時はそれなりに悩みもありましたが今から思えば育てやすい子だった気がします。そんな温室育ちのお坊ちゃま息子が、逞しい子(が多いイメージ)ばかりのむらさきでやっていけるのか、揉まれて強く逞しく育ってほしいと願う反面、親としては不安もありました。加えて入園後間もなく弟が産まれるという、Sにとって人生最大の試練もあり、慣れない生活が園でも家でも始まりました。
 入園後は、登園を嫌がるようなことはなかったもののやはりバスに乗って園に行って帰るだけで精一杯なのか、帰宅後は無言でお昼ご飯を貪り食う日が続きました。何かに取りつかれたようにただひたすらもくもくと食べ、一時は痩せ型の息子の頬がふっくらする程。安心をここで得ているのだと感じ、食べたいだけ食べさせるようにしました。間もなく弟が産まれ、家での生活も激変。赤ちゃんの泣き声が嫌だと自分も泣きだすかと思えば、わざわざ泣かせるために大きな音や声を出す。親には無理難題をふっかけ言い出したら今、今と聞かない。今まで優しく穏やかだった子が急に別人になったようでした。しかし私もそんな息子の姿に戸惑いながらも初めての二人の子育てに日々精一杯、Sの小さくも大きな変化にしっかりと寄り添ってやれたのだろうか…、前日の夕食すら思い出せない私の代わりに、園では担任の加藤先生にとても丁寧に温かく寄り添って頂きました。私の知らないSの姿がそこにあり、園では変わらず穏やかでお友達と衝突することも泣くこともなく、楽しんで過ごしているようでした。少しずつ安心できる存在が同じバスやクラスのお友達へと広がり、自分のペースで遊びに集中できるようにもなってきたと同時に、お友達と衝突する場面も出てきました。これまでは、衝突しそうになるとさっとその場からいなくなるのが得意技だった息子の姿とは思えない、驚きの変化でした。
大きく成長した年少期でしたが、年中に進級するとまた更に成長中?です。初めての進級で戸惑う中、大好きな元カノ(笑)の加藤先生に対する態度が進級後ほんの数日で完全無視に。これも新しい環境に慣れようとする子どもなりの精一杯の術だと知りました。また新しい環境に慣れるため今やルーティンワークとなった、登園すると同時に園庭に出てダンゴムシを探して捕まえ、箱に入れて持ち帰る。担任の川口先生に、ダンゴムシが今のSちゃんの心のよりどころなんですと聞いた時、いよいよSもむらさきっ子らしくなってきたなと嬉しく感じました。
家ではイヤイヤ期か!と突っ込みたくなるほどの反抗期で、年中さんになりできることが急に増えた反面、できないこともまだたくさんあることに気付いても、自分で気持ちの整理ができずにイライラし泣き叫び私に当たる…。年中の時期は難しい年頃なのでしょうか、ほんの数年前のSとは全く違う姿になり今も驚きと戸惑いはありますが、こんな変化すら安心して見守っていられるのはまさにむらさきだからこそ。子どものありのままの姿を受け止め、一つ一つの変化を成長として見守っていてもらえる。一人遊びが大好きで自分の世界にどっぷり浸かり、自分のイメージを存分に膨らますこともでき、心のよりどころをダンゴムシにすることもできる。
素晴らしい三年間を強く逞しく、そして何よりかけがえのない時間を、母と同じむらさき幼稚園で過ごしてもらえたらと願います。



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