園 長 と 語 ろ う

平成31年3月

― 巣立ち ―

 新入園の三歳児の新学期は初めて先輩になった四歳児や満三歳で数ヶ月の園生活を経験した同級園児が四月当初泣いたり困ったりしているとそっと側に寄り添ったり、上靴に履きかえる事やロッカーに鞄やリュックの仕舞い方など、自分がしてもらった経験を生かして困っている子に役立つと言う自分の存在感を感じ取ったことでしょう。三歳の一年の経験は人生の三割にも値するのですから自分で体験した事を嬉々として実践するのです。

 二学期の後半頃まで職員室に居続き先生達の机の中身を外にばらまいたり、静かだなーと思っていると修正テープを引っぱり出し細い指でテープを引き出すものですから「ああ、もう直らないよー」と大騒ぎすると、ニコニコと大喜び。愛くるしいその子の笑顔が愛おしくなり、ついつい甘くなるのですが、私が先生達のクラスだよりの原稿を何回も見直すことになったり美里先生の会計の記帳が検算を繰り返す破目に。二人ともお手上げで担任の先生にお引取り願うのです。担任も慣れたもので昼食を早めてでもクラスメートと共に食事を楽しんでいます。
 共食は食を得た安堵感で自然に一斉保育ができ「手を合わせていただきます」というセレモニーは三学期にもなると担任の代わりまでしてしまうのです。三学期の今はもうこの子の姿は職員室で見かけなくなりました。しろのクラスメートがこの子を受け入れたのでしょう。自分の存在を認めてほしいと職員室の行動だったのです。忙しい時には「もうヤメテー」の声もかけられない必然が起こり、クラスメートになる・・・これこそ社会性の芽ばえだと私は思います。

 四歳児は五歳児がキッシーのつり輪に血豆が出来るほど熱中する姿を羨望の眼で見て、自分でイメージトレーニングしたり、雲梯でその感覚を試行したり、又砂場ではダイナミックに遊ぶ姿・・・時に水は高きより低きに流れる事を認識するような遊びに加えて、高い所へ砂場道具やデコボコのヤカンなどで運んで流し込む事など豊かな知識を眼底に刻み込んでいるのです。四歳児が試行するチャンスは必ず起こります。真似るのですが原理を知るまでには至ってませんのでまだまだ羨望の眼で見る事を繰り返すことでしょう。このように探究心が深まるにつれ、求道者が一人二人と増え、気づくと四・五人と共に知恵を出し合える仲間が出来ました・・・。と仲間が増えることは社会性の芽は一層太く逞しくなるのです三学期の生活発表会をご覧になって四歳児が実に逞しく育っていると実感された事でしょう。

 五歳児は自分が成長するには、より難易度の高い仲良し友達から集団と言われるクラス全員を巻き込む程までに社会性を発揮します。これは貪欲と言われるほど成長する意欲をコントロールされないほどに発揮するから。遊びが多人数で複雑化されれば必ずルールが必要となり、真似事なりのルールはできるのですが体験から出来上がったルールではないので、年長者より教わったルールを自分流に解釈してリードするのですが新鮮さがあって楽しいうちは良かったのですが何か不信に思える事は年長者のルールをしかも未経験の自己流ですのでズッコイと感じてその遊びから離れていく者が増え、リーダーが変わったりルールを作る知恵を出し合ったり・・・と手作りのルールができるようになり。そのルールも常に変更されていく・・・といった共に成長するという理想的な社会作りになってきました。  このような手作りの社会は他の力でセーブされるわけではないのでストレスが貯まり過ぎます。

 このストレス解消はパンクする前に日頃は保護される家庭での生活により守られます。夏、冬、春と一〜三学期の長期休みで充分癒されることとその都度悲しいこと、辛いこと、苦しいこと、などを受け止めてくれるお母さんやおばあちゃんが待ち受けてくれること、幼稚園では先生達が受け入れてくれることです。

「そうか・・・それは悲しかったなー」とゆっくりとゆれてハグしてあげてください。決して“早く泣き止んで・・・”と策を練らないでください。ハグしている人の気持ちが安定していると立ち直りは思ったより早いものです。この効果は勇気付けですので。

 自分で悲しいこと、辛いこと、苦しいことに立ち向かうことができ、成長させてくれる相手を尊重できるようになると自尊心や自己肯定、存在感などの豊かな感情が芽生えるのです。

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