焦点 武装闘争特集合本前書き

北のりゆき

この文は、98年12月に冥土出版が発行した冊子『焦点 武装闘争特集合本』の前書きと解説です。この冊子は遊撃インターネットでも通販をしています。

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  この冊子は、警察庁が発行している広報誌『焦点』の各号を収録したものである。『焦点』は警察署や役所などの公共機関、大学やマスコミなどに配布された。官公庁の発行した調査統計資料や広報誌などは著作権保護の対象外になるし、丁寧に毎号「本誌に掲載された記事は自由にお使い下さい」という表示があるので、法的に問題ないと考え、使わせてもらうことにした。

 『焦点』はその時々の治安問題などを取り扱っており、70年代は過激派関係の特集が圧倒的に多くなっている。今回収録するにあたり、特に武装闘争に関わる号を中心に集めた。

 もちろん『焦点』は警察が発行した広報誌であり、権力イデオロギーに満ちている。基本的にウソは書かれていないようだが、個々の情報が警察に都合良く歪曲されていることは十分に考えられる。しかし、その点を踏まえて読みこめば貴重な情報の宝庫であり、きわめて示唆に富んでいるだろう。

 最初に収録した「過激学生の「城砦(とりで)」」と「孤立のなかの尖鋭ゲリラ」は、学園紛争と街頭における大衆的実力闘争に関する記事だ。67年から始まった学生運動の高揚期も70年には下火となった。街頭での衝突を繰り返しつつも圧倒的な戦力の機動隊のまえに連続的に敗北し、同時に大衆からは孤立しつつある当時の新左翼の状況をうかがうことができるだろう。

 「指名手配」、「ノー・モア手づくり爆弾」は、大衆運動の高揚が過ぎた70年代中ごろから末にかけて頻発した小グループによる爆弾闘争に関するものだ。この時期における爆弾闘争に対する評価は別として、高度な武器を使用した闘争は「革命」を考える上で避けて通れない問題であり、70年代中ごろの爆弾闘争は戦術的に高次の武装闘争であると考え収録した。ただし、武装闘争における一定の質を求めて爆弾闘争に踏み切ったグループはわずかで、多くは依拠すべき人民大衆を失い、大衆の代用として爆弾を引っ張り出してきたという側面はやはりとらえておくべきだろう。

 「内ゲバの実態」、「内ゲバとその周辺」、「陰惨化する内ゲバ事件」は、党派間の内ゲバに関する記事である。内ゲバを武装闘争と見ることに抵抗がある人も多いと思うが、特に73年ごろから顕著になった綿密な計画のもとに実行された個人テロ型の内ゲバは、党派による組織された暴力の最高形態として権力に対するテロ・ゲリラ攻撃の前駆をなしたものと考えられる。学生による素人臭い運動であった新左翼の組織と暴力を飛躍的に高めただけでなく、情報収集の高度化、スパイに対する組織防衛、死を恐れずにたたかうことが出来る活動家の創出など、内ゲバ戦争により多くの点で党派は軍事化や革命のプロ化を推し進めることとなった。後の革命軍などの地下組織の創設には、中核・解放・革マルによる三つ巴の内ゲバがとりわけ大きく影響を与えている。100人近い死者を出し数千人が負傷したといわれる内ゲバ戦争を無視しては現在のテロ・ゲリラ闘争を理解できないだろう。また、中核派と解放派は、革マル派との闘いを戦争と規定していることも付け加えておきたい。

 今後も広報誌『焦点』の過激派関連記事を収録した冊子を発行したいと考えている。期待されたい。


解説

「過激学生の「城砦(とりで)」」

 「暴力学生」の拠点であるという名目があれば大学に警察が自由に踏み込んで良いという、治安対策のため学園の自治を制限しようという主張を述べた冊子。しらじらしく「正規の手続きを経て秩序正しく行なわれる学内の集会等について警察は、何ら関知するものではない。」などと述べているが、日常的に警察が学内に入り込んでスパイ活動をしているのは周知の事実。いかにも警察に都合のいいことばかり書いている。以上のような点を踏まえた上で当時の実力闘争を知る参考にしてもらいたい。

 

「孤立のなかの尖鋭ゲリラ」

 集団による火炎ビンなどを使用した街頭闘争の時代から小人数による爆弾闘争への過渡期の資料。市民の敵・暴力学生対正義の警察という図式。しかし、警察が市民を味方につけようとそれなりに努力している点は評価すべきだろう。大衆の支持を失った新左翼が武器に傾斜していく様が良く見て取れる。

 

「指名手配」

 爆弾グループがおおむね逮捕され、爆弾闘争も下火になりかけたころ出された冊子。警察の「密告のススメ」には反発を覚えるが、爆弾闘争に対する批判はもっともなものに思える。現実問題として人民の海が存在し得ない状況下で地下に潜り、苦闘の末についに自首した人物を描いた「出頭してきた爆弾犯人」の記事が、地下闘争の一面をリアルに示しているようで特に興味深く感じられた。

 

「ノー・モア手づくり爆弾」

 「指名手配」の少し前に出た冊子。主に東アジア反日武装戦線による一連の爆弾闘争や、爆弾を仕掛けられた際の注意などが書かれている。これは、武装闘争に関するものというより、爆弾闘争に対する当時の社会の拒絶反応を知るのに良い資料だろう。

 

「内ゲバの実態」

 72年の革マル派による川口君殺害事件を中心に内ゲバについて述べている。かなり陰惨な内容だが、まだこの頃の内ゲバはリンチの挙句の突然死や集会での衝突などが中心で、殺害を目的としたテロ襲撃などは行なわれていない。しかし、この川口君殺害事件がきっかけとなり、党派間の内ゲバが軍事化・テロ化することになった。

 

「内ゲバとその周辺」

 殺害を目的とした個人テロの様相を帯びてきた73年ごろの内ゲバ戦争を述べている。実例をもとにかなりプロ化したテロ襲撃の手口が詳細に書かれている。内容的に立花隆の名著『中核vs革マル』と似た記述があるが、この冊子が出た方が先なので、立花隆が参考に使ったのだろう。

 

「陰惨化する内ゲバ事件」

 内ゲバ戦争が最高潮に達した75年から76年にかけて発行された冊子。個人テロの技術についてよりも、内ゲバの背景や労働戦線への波及などに多くのページが割かれている。

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