革マル派講演会に行く
葉寺 覚明

 先日私は、非常に面白い講演会に参加した。以下は、その報告である。ただし、本講演会は録音が全面的に禁止されているという困難な状況にかんがみ、題意を損なわない限りにおいて、事実の順序、及び事実関係の一部を改変している場合がある。あらかじめご了承頂きたい。

 

 ゴールデンウィークも間近に差し迫ったある日、何気なく足を運んだある国立大学のどこかの教室の机に、大量のビラが置いてあるのを、私は発見した。 そこには、誰もいなかったし、電気もチキンと消されていた。

 なんだろうと思いつつも、面白いビラであることを期待しつつ、私は電気を付け、中へと入り、ビラを手にした。

 今はまだ新学期が始まって間もない。サークルの勧誘であろうか。或いはこの時期に行われる学生会総会のビラであろうか?因みに、そこには民青が出没することもあるので、そういうことも有り得る。

 ともかく確認すべく、私は電気を付けて、ビラを取りに行った。

 手にしたとたん、私はわが目を疑った。何と、神戸事件がらみで話題の革マル派が講演会を行うというのだ。

 

 革マル派は、今回おきた「神戸事件」が「国家権力の謀略である」という主張を機関紙や系列団体を通じて盛んに主張している。又、この事件に関する情報収集の段階で、目的のために手段を選ばないという日頃の行いからか、「検事調書」などの資料を「盗んだ」という容疑もかけられている。

 

 さらに、今回のガサ入れで明るみになったように、絶対に傍受不可能と言われる警察デジタル無線を傍受していたという驚くべき事実が明るみになり、公安当局と共産趣味者との熱い視線を浴びているのである。蛇足ではあるが、革マル派の技術力は驚嘆すべきものがあり、「世界一の水準にある」という者もいるほどである。有名なものとしては、過去、いくつかの電波ジャックなどを起こしたり、盗聴などの諜報活動を通じ、様々なスクープを暴露した事がたびたびある。

 

 ところで問題のビラは、「4・30講演会に参加しよう!」と呼びかけている。肝心の講演の題名はと言うと、「デジタル警察無線の解読と神戸児童殺傷事件の真相」なのだそうである。

 しかも、この講演会の講師は、革共同革マル派の広田啓二氏である。革マル派メンバー自らが、「デジタル警察無線の解読と神戸児童殺傷事件の真相」について、語るというのである。

 沸き上がる興奮を抑えて、私は食い入るようにビラを読んでいった。 以下、全文を引用する。

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「4・30講演会に参加しよう!

「デジタル警察無線の解読と神戸児童殺傷事件の真相」

講師:広田啓二氏(革共同革マル派)

とき:4月30日(木)17時から

ところ:東京大学駒場キャンパス7号館722番教室

主催:全都科学技術研究会

 ご承知のように、警察の幹部は「デジタル警察無線は純対に傍受されない」、「デジタル技術には絶対的な自信を持っている。解読できるとは到底思えない」(東京新聞4月10日付)と語っているそうです。

 これにたいして革マル派は解読の事実を認め、デジタル警祭無線の傍受は「国家権力内謀略グループの攻撃をはねかえすために、わが同志や仲間たちの人命を守り組織を防衛するために、それにとって不可欠な手段」と、その正当性を強く訴えています。だが革マル派が本当に警察のデジタル無線を傍受していたのでしようか。彼らに、そんな技術があるのでしょうか。興味はつのるばかりです。

 このことは、デジタル警察無線の情報を一切知らされていなかったマスコミや市民運動を闘う人々に大きな波紋をよんでいます。

 デジタル警察無線を革マル派はどのように解読したのか?

 警察庁幹部は、デジタル警察無線は傍受することが絶対不可能といっています。はたして、それは本当なのでしようか。

 革マル派の人は私たちのインタビューに答えて次のように言っています。「たしかに、一般的には暗号化されたデジタル信号を解読することは不可能だといわれています。」と。しかし、同時に,警察庁の幹部が『世界一』だと自負し、信頼をしているデジタル暗号技術は、「われわれの智力と技術力で解析できる」と豪語しています。

 そしてデジタル警察無線のポイントを、以下の五点だとしています。

  1. 伝送路が移動通信であるという特殊条件に、最新の暗号理論を適用したものであること。
  2. 三種類の異なった暗号方式を、組み合わせたものであること。
  3. 暗号鍵の長さが長い(320ピット)こと。アメリカの商用暗号規格である「DES」の暗号鍵の長さは56ビットであり、これの5倍である。
  4. ニケ月に一度、暗号鍵を変更していること。
  5. 盗難、忘失に憶えて、遠隔操作で暗号鍵データを消去できるようにしてあること。

 革マル派はこの5点をクリアして警察のデジタル無線を解読したと言明しています。それにしても驚きです。盗難防止のために警察の無線機に暗号鍵デ一夕をリモコンで消去する装置が付いているとは。

 ともかく、専門用語が多く難しい内容てすが、デジタル通信技術関係の学生には興味のあることでしょう。

 

革マル派のデジタル警察無線の謎にせまろう

 

 革マル派が開発した「デジタル無線暗号解読機は、スイッチの配置などが、実際に警察が使っているデジタル無線機と極めて似ており、実物か設計図などを参考にレた可能性が高い」といった新聞報道もありました。このことは草マル派が,警察の内部から回路図を入手したとでもいうのでしょうか。それとも革マル派が彼らの“お家芸”(ゴメンナサイ)で警視庁・東京都警察通信部の内部に忍ぴ込んでデジタル響祭無線を盗みだし、それをコピーしたとでもいうのでしょうか。憶測が憶測を呼んでいるのも事実てす。

 この際、ぜひとも革マル派の見解を聞きたいというのは、私たちだけではないでしよう。革マル派は、あくまで「謀略と対決するわれわれの不屈の精神と技術力によって可能となった」と言っています。真相はどこにあるのでしよう。「四・三○講演会」では、必ずや学生諸君のこのような大いなる疑問に、納得の行く回答が出されることを期待します。

 

  傍受不可能とされる、デジタル警察無線のベールに隠された、警察権力の知られざる内部世界

 

  私たち全都科技研もまた、神戸児童連続殺傷事件の真相を究明する運動に取りくんできました。そこで、マスコミが、警察がリークする情報を鵜呑みにして、それを垂れ流し、神戸事件の報道を行っていたことにたいして強い疑間と不信感を抱いていました。聞くところによると、日本のすぺてのマスコミぽ、その技術カを駆使しても、デジタル警祭無線を解読することができていないそうです。それによって、警察の捜査や警備の情報などが一切マスコミに知らされなくなったといわれています。そして、そのかわりに,警察に都合のいい情報だけを、警察はマスコミにリークし、マスコミを意のままに探っているということだそうです。

 このような話を開くと、マスコミが、警察のリーク情報を鵜呑みにせざるをえない理由がなんとなく分かったような気がします。多くのマスコミにとって、警察の捜査内容がデジタル化された警察無線の厚いぺ一ルの中に隠されているからです。だとするならぱ、私たちは、デジタル警察無線を解読する技術を、マスコミ関係者だけでなく、神戸児童連続殺傷事件をはじめとした謀略的権カ犯罪を暴こうとする、すぺての労働者・学生・市民・マスコミ関係者に開示すぺきだと思います。これによって、警察の一方的な情報操作の根を断つ必要があるのではないでしょうか。革マル派は、神戸児童連続殺傷事件を謀略的権力犯罪だと主張していますが、ひよっとして彼らの主張は、デジタル警察無線の情報に何らかの形で基礎づけられているのかもしれません。(推測が誤っていたらお詫びします。)

 ともあれ私たちは、デジタル警察無線の「傍受不可能」の意味について考えていくと、警察がこの間、革マル派に対して違続的に徹底した捜索をおこなったり、革マル派のメンバーにたいする指名手配をおこなっているところの意味についても、「傍受不可能」を「可能」にした革マル派への弾圧の構造が少し分かってきたような気がします。

 いろいろな角度から、デジタル警察無線の解読と神戸児童連続殺傷事件の真相にせまってみようでははありませんか。多くのみなさんの講演会への参加をよぴかけます。

 1998年4月 全都科学技術研究会

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 「全都科学技術研究会」というのは、東工大で発生した学際的な革マル系団体であるが、このビラは一応第三者的な立場をとっている。ただし、「神戸児童連続殺傷事件究明する運動に取り組んできた」とビラにあるように、ちょっとみれば誰でも革マル派であることは分かる代物である。なにしろ、面白い内容なので、同団体に問い合わせようとしても、連絡先が書いていないのだ。怪しい怪しい。

 

 こんなにタイムリーで面白そうで、しかも明らかに理工系学生の興味を引くような内容にも関わらず、意外にもというか何というか、ほとんどの学生は感心がなかったらしく、案の定ほとんどのビラが遺棄されたというわけだが、私にとっては宝である。故に、私は我を忘れて机上のビラすべてを持ち帰った。おかげで用務員の仕事がだいぶ楽になったはずだし、何よりもこんなタイムリーで貴重な情報、見逃すわけにもいかないのだ。

 本当は内緒にしておきたいという反面、これほどの貴重情報を私一人で独占しておくのももったいないので、私が普段目を通しているインターネット上の掲示板に載せておくことにした。

 案の定、少なからぬ反響があったらしい。

 これは行かないわけにはゆかない。実は、当日は少し都合が悪いのだが、何しろこの話題に関しては、私は「言い出しっぺ」であるので、もしも「私は行っていない」などと行っても、どうせ信じてくれないだろう。

 事実、私自身、行きたくて仕方がない。当日は、どうしても抜けられない用事があったのだが、急いで切り抜けてきたおかげで少し早く到着してしまった。

 

 改札を通過して、先ず私がしたことは、凡庸ではあるが、帰りの切符を買っておくことだった。何しろこれだけのイベントだ。公安や私服がいてもおかしくはない。万一追いかけられたりしたら正直困るし、革マル派に怪しまれたり捕捉されたりするのはもっと困るので、まあそうしたわけだ。

 駅の階段を下りると、狭い道路一つを隔てて、もうそこは東大駒場キャンパスの入り口がある。東大というのは、結構面白いシンポジウムなんかがあるので、何度か足を運んだことがあるのだが、いつ来ても東大独特の何やら厳めしい雰囲気が感じられる。しかし、並木は綺麗で落ちつくので、公園のような感じで散策するのも、なかなか面白いのではないかと思う。ただし、キャンパスは汚い。

 

 入り口には何故かテレビ局の人がいた。もしかして今回の講演会をかぎつけてやってきたのであろうか?

 先ずは会場となる7号館722号教室の場所をチェック。ビラに案内図が書かれていたので、すぐに分かった。

 会場付近には私服と思しき人の姿もあった。妙に鋭い目つきをしているし、どう見ても大学関係者には見えないし、何しろイヤホンをしているので、すぐに分かるのだ。

 時間的に少し余裕があるので、食堂に行って、軽食をとってきた。

 食堂から戻り、7号館へと向かうと、開演30分ほど前である。マスコミが大挙して会場へと向かっていった。これはもう間違いない。それほどのイベントなのだ。

 しかしどうやってこの講演会を知ったというのだろう?もしかして私が書いた書き込みを見てくれたのならばすごく嬉しいのだが、そうでなくてもかぎつけてくるのがマスコミというものである。或いは革マル自ら、売り込んだのかも知れない。革マル派というのは、妙に饒舌なうえ、マスコミを利用したデモンストレーションが好きなので、大いに考えられる。

 これでは、いやがおうにも期待が高まるというものだ。

 

 17時からということなので、しばらく時間を調整して、私はその10分ほど前に足を運んだ。

 周りを見渡すと、授業は722号室のあたりでは行われていないようである。

 722号教室は、ご多分に漏れず、入り口が2つある。私が手前に入り口にさしかかったとき、志茂田景樹似の年輩のおっさんが、「受け付けはこちらです」というので、そっちにむかう。

 この人も、「科学技術研究会」の人だというのだろうか?どう見ても学生には見えないのだが。

 

 受け付けで名前などを書く。するとスタッフは革マル派のビラと、解放社の新刊「神戸事件の謎」の内容見本、そして感想と質問とを書く紙をそれぞれくれた。

 ビラは革マル派の署名があり、マスコミに呼びかけたもの。この講演会が学生とマスコミとを対象としていることが分かる。引用しよう。

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すべてのマスコミ人に訴える!

神戸事件の真相の隠蔽とわが同盟へのフレームアップに狂奔する警察・検察の先兵=「朝日」を弾劾せよ!

「検事調書」のインチキ性・神戸事件の謀略性をさらに全社会的に暴き出せ!

日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派(革マル派)

東京都新宿区早稲田鶴巻町525─3 電話3207─1261

「朝日」への調書提供を隠蔽するために出された4・16法務省勧告

 

 四月十六日、法務省東京法務庁は、「文藝春秋」三月号にA少年の「検事調書」を掲載した文藝春秋社にたいして、「再発防止策と被害者・遺族への謝罪などの被害回復措置」を講じるように勘告した。

  このことこそは、このかん彼ら法務省・東京地検が,『文藝春秋』の調書掲載をめぐって、その「入手ルートを解明する」と叫ぴたて警察と連携しながらわが革マル派にたいして仕掛けてきたフレームアップ攻撃が、わが同盟の的確な反撃によって打ち砕かれたことを、彼ら自身が自認したものにほかならない。右の勧告が「入手ルート」についてはいっさい触れることなく、もっばら『文春』が「検享調書」を丸ごと掲載したことのみに問題を絞りあげていることこそは、その証左にほかならない。

 このかん,警察・検察はマスコミを使って”革マル派が調書を盗みだし『文春』などに流した”というキャンペーンを叫ぴたててきた。だが、これにたいしてわが同盟は、それが朝日新新聞に調書などの「捜査資料」を丸ごと渡してきたという彼ら自身が犯してきた公務員としての守秘義務違反を隠蔽する、ためのデマゴギーにほかならないことを断固として暴きだしてきた。まさにこのわが同盟の反撃に打ちのめされて彼らは、なんとしても「朝日」ヘのリークを隠蔽しとおさなければという自己保身に駆られて、「入手ルート」を問題にすることそのものから尻尾を巻いて逃げだし、「朝日」はなんら間うことなく文藝春秋に謝罪させることで落着させようとしているのだ。

〔「産経新聞」によるならば、文藝春秋の南宮社長は「調書を私用して,書かれたことが明らかな新聞記事について勘告がなされていないとすれぱ、腑に落ちない」と語ったという。明らかにそれは「朝日」の問題をウヤムヤにするためにみずからがスケーブゴートとされたことへの不満の表明以外のなにものでもない。〕

 

調書をいちはやく貰い受けて「暗い森」を連載した「朝日」

 

  神戸家庭裁判所がA少年に「医療少年院送致」の決定を下した翌日である咋九七年十月十八日から「朝日新聞」は、「暗い森」というシリーズを連載した。「捜査資料や関係者の証言をもとに」書いたというそれは、朝日新聞が検事調書(および警察調書)をひそかに貰い受けて作成したもの以外のなにものでもない。

 もちろん、このことは他面からいえぱ、検察ならびに警察内部の一定の徒輩(謀略的権力犯罪としての神戸事件を仕組み、その隠蔽工作をも主導してきた、恐らくはアメリカCIAともつながる部分)が公務員としての守秘義務逮反を承知のうえで敢えて「朝日」に資料を投げ与え、神戸事件を「精神異常者であるA少年」の犯行として社会的に印象づけるための情報操作をおこなってきたということにほかならない。それは、わか同盟を先頭とする神戸事件の疑惑を暴きだす闘いの進展に驚きあわてた彼らの焦りにみちた隠蔽工作以外のなにものでもなかった。

 だが、『文藝春秋』に「検察調書」が掲載されたことによって、──『文春』の意図とはかかわりなく──この「朝日」を活用した隠蔽工作が明るみに出されてしまった。検察・警察の特定の官僚の守秘義務違反と、これを承知で貰賞い受け掲載してきた「朝日」の犯罪とがあらわになったのだ。まさにこのゆえに、自己保身にかられた警察・検察内の一部の幹部が、これをごまかすためにわが同盟にたいするフレームアップの攻撃にうってでているのだ。そしてまた、同じく自己保身にかられている「朝日」は、この権力のデマ宣伝の先兵役をかってでているのだ。

 そもそも「朝日」の犯罪は、「捜査資料」を賞い受けての「暗い森」の連載にとどまらない。かの「犯行メモ」や「バモイドオキ神の絵」をいち早く掲載したのも「朝日」であった。いや、『文藝春秋』や「フォーカス」などでそれらの「実物」が明らかにされることによって、彼らが掲載にあたって謀略性を隠蔽するための改作さえをも施して一いたことが明らかになっているではないか。そのような行為は、特定の警察・検察官僚あるいはこれを背後であやつっているであろうアメリカCIAの指示にしたがってのことにちがいない。

 

「検事調書のインチキ性」・A少年の冤罪は明らかだ!

 

  それにしても、「朝日」が「検事調書」を貰い受けたり、「捜査資料」を敢えて偽造してまて情報操作の先兵をつとめてきたことそのものが、A少年が冤罪であり神戸事件が権力犯罪にほかならないことを雄弁に語っているではないか。

 いや、『文春』にリークされた「検事調書」そのものが、これまでの警察のリークにもとづくマスコミ報道との食い違いを随所であらわにすることによって、警察・検察による情報操作=冤罪の隠蔽工作を立証しているではないか。そして、少年自筆の「挑戦状」の筆跡(『噂の真相』四月号に掲載された、少年が取り調べで書かされたもの)は、少年が犯人ではありえないことのなによりの「物証」ではないか「三年生になって」という少年の最新の作文は、彼が「国語がとても苦手であって、「第二犯行声明」や「懲役十三年」という名文の筆者ではありえないことを鮮やかに示しているではないか。

 

”日本のVOA”と化した「朝日」を弾劾せよ!

 

 もはや明らかではないか。神戸事件において「朝日」が果した犯罪的役割は。かつての”日本のプラウダ”は今や”日本のVOA(ボイス・オプ・アメリカ──アメリカの海外むけ謀略放送)”と化したのだといわなければならない。

 まさに神戸事件は、「朝日」をはじめとしてすぺてのマスコミの腐敗をあらわにした。事件発生直後から、警察がたれながすリーク情報をまことしやかに報道してきただけでなく、A少年逮補後には、それまで自分たちが自分の足でかせいできた情報をさえ投げ捨て倒錯した自己批判までして、A少年を犯人として描きだすための権力情報を報道し冤罪のデッチあげに加担してきたのが、ほとんどすぺてのマスコミであったのだ。このことこそは、今日のマスコミが「社会の木鐸」という使命すら放棄して、国家権力の支配を補完するものにまで転落していることをしめしてあまりあるでばないか。まさに今日版の産業報国会と化した労働組合や批判精神を喪失した学者・知識人とともに、今日のマスコミは〈政・官・財〉の支配体倒を補完しているのであり、日本型のネオ・ファシズム支配体制の一支柱をなしているのである。

 まさにそうであるからこそ、今こそすぺてのマスコミ人は、「朝日」をはじめとするマスコミの腐敗を根底的に覆していくという決意をもって弾劾の声をあげるぺきではないか。時あたかも、神戸事件の真相と深層を全面的に暴いた『神戸事件の謎』が四月十一日に発売され、全国の主要書店で爆発的な完れ行きを示している。いまや、心ある労働者・学生・市民・知識人諸氏が続々と神戸事件の真相を暴きだす闘いにたちあがりつつあるのだ。すぺてのマスコミ人諸君もともに奮闘しようではないか。

一九九八年四月二七日

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 それぞれの用紙には、住所、氏名、学校名、電話番号を書く欄があり、主として学生を対象にしていることがここからもうかがえた。

 中でも質問用紙が含まれていたことは、私をワクワクさせた。革マル派の広田氏が、人々の疑問に答えてくれるというのだろうか?是非とも質問したいぞ。

 

 受け付けを済ませて、後ろの入り口から入ると、本がずらりと並んでいる。

 ほとんどが革マル系出版社「こぶし書房」(名著を刊行している結構いい出版社だ。解放社に隣接。おしゃれな外装である)の本であるが、その中でも共産趣味者必読文献「革マル派の20年」があるのが印象的である。

 もちろん待望の新刊である「神戸事件の謎」もあるし、「週刊新潮」でも採り上げられた「神戸パンフ」もすべて置いてある。ちきしょう、金持ってくればよかったなあ。

 ちらりと一瞥すると、「解放」号外があった。日付は4月30日。当日出たばかりの代物であ。50円という手頃なお値段なのでもちろん購入。

「神戸事件 「A少年=犯人」はでっち上げだ! 謀略的権力犯罪を糾弾せよ!」

とぶち抜かれている。よく見ると、昨年のロシア革命80周年レニングラードデモに参加したときの革マル派の写真が掲載されている。

「全世界の労働者と共に闘う革マル派」

と書いてあって、思わずワクワクしてしまう。

 

 座席に目をやる。どうせならばいい席に座りたいものである。

 後ろの方に、「報道者席」という紙が貼ってある机があり、報道者はそこから後ろに座れということのようである。

 マスコミ席にはほとんどのキー局の姿が見える。他は週刊誌などが少々。その中には「ラジオライフ」の人の姿も見える。来ると思っていたが、やっぱり来ていた。

 逆に前の方は一般席ということになるのであるが、正直ガラガラである。ただし、机の配置からか、真ん中の席から順に埋まってゆくと傾向が見られたのは面白かった。

 ところで、肝心の学生はどれくらいいるのだろう?ビラの文面からすると、学生の参加を呼びかけているので、少なからぬ学生が参加しているのではないかと思ってはいたのだが、それらしき人間は、あまり見あたらない。

 中には、主婦の姿も見受けられた。神戸事件がらみのダミー団体あたりから引き込んだのであろうか。何しろ、一般席には30人もいないだろう。

 それも、スタッフも一般席に座っているのだから、それらを差し引いても、推して知るべし。

 私としては、「警察無線」というところに飛びつくおたくが潜んでいるのではないかと期待していたので、これには拍子抜けである。まあもっとも、私がビラを発見したところでは、ほとんどが遺棄されていたので、無理はない話ではあるが。

 もう少し「粘り強く」宣伝した方がいいんじゃあないの?

 

 正面を見ると、黒板には大きく「デジタル警察無線の解読と神戸児童殺傷事件の真相」などと書かれた紙が貼られている。

 又、その脇には、タテカンが2つある。「神戸事件パンフ」が東大生協で発売中であるというものと、「解放」を駆使して神戸事件の矛盾を暴いているものとである。

 当然カーテンが閉められている。恐らくスタッフが閉めたのだろう。当日は暑かったというのはもちろんだが、何しろ革マル派メンバーが来るというのだ。もしも閉めなかったら、私はその「革命的警戒心」なるものを疑うところだが、さすが革マル、そこら辺はバッチリである。

 会場の様子を一通りチェックしたら、先ずは席に着く。

 座席が確保されたとはいえ、いやがおうにも緊張感が高まる。

 

 会場の後ろの方では、マスコミを対象に、指示が繰り返されている。「会場の皆さん、大変申し訳ないのですが、テープ等による録音は一切禁止とさせて頂きます。又、撮影をなさる場合にも、参加者の顔が写るような撮影も一切お断りしています。一応、そういう約束で来てもらっているわけですし、いろいろとデリケートな問題とかがあるわけですから」

 まあ当然であろう。特に公安やら敵対セクトなどは、過激派関連の行事に対しても、神経質になるものだし、私とて、ニュースか何かで顔が写ってしまったりして、あらぬトラブルに巻き込まれるのはまっぴらなので、納得は出来る。

 スタッフの指示は更に続く。

「すいません、マスコミの方。カメラでの撮影は、スタッフが認めるとき、つまり2回だけにして欲しいのです。

 1回目は後ろから全体の雰囲気をつかむための撮影、2回目は今回持ってきた暗号解読器、これは今回公開しますが、その撮影の際です。そのときにはスタッフが撮影してもよいと指示を出しますから、そのようにお願い致します。又、スタッフが止めるようにと申したら、直ちに止めて頂きたいと思います。」

 このような指示は、2回ほど出された。

 

 手元の時計はもう17時を少し過ぎている。始まりそうでなかなか始まらないという焦燥感が、高まる感情を更に増幅している。

 開演の17時を少し過ぎて入ってきた人もいたが、ちょうどそのあたりで、そろそろ開演だ。

 マスコミを除く全員が着席したところで、後ろから会場の全景を映すという最初の撮影が始まる。

「始めます。どうぞ!」

というスタッフの指示を合図に、マスコミ人が一斉に撮影を始めた。

 カメラのシャッター音が不気味にこだまする。

 万一私の顔が写ってはいないだろうかと不安になるのと同時に、後ろを振り向きたくなる衝動に駆られるが、ここはじっと我慢。

 しばらくして、再びスタッフが

「そろそろよろしいでしょうか?」

と尋ねる。それは同時に、撮影をそろそろ止めてもらおうという合図に他ならない。

 

 一般席に座っていた30歳代後半ほどの人がすっくと立つ。

 どう見ても学生には見えないので、もしやこの人が広田氏か、と思ったのだが、彼はこの講演会の後援をしている「全都科学技術研究会」の人らしい。

 何でも東大の研究生だそうだ。

 彼は挨拶と前置きとを始めた。なかなか堂に入った澱みのない口調である。しかしマイクの調子が悪く、ときどき聞こえなくなってしまう。

 これでは肝心の広田氏の後援がつつがなく進行するか不安になってしまったが、結局最初だけであった。

 彼の話の内容はというと、先程引用した講演会の案内のビラをなぞったものであった。

 10分ほどの前置きが終わり、司会者は再び席に着く。

 そしてすぐに、やはり座っていた年輩の男性が壇上へと足を運ぶ。遂に革マル派メンバー、広田啓二氏とご対面だ。今や、会場のすべての視線は彼へと注がれている。

 因みに、このときの時計は17:20ほどである。

 

 グレーの服を着た広田氏は、いっけん大学教授風の、50歳後半か或いは60歳代あたりと思しき、年輩の落ちついた紳士である。白髪混じりの髪と、皺と、銀縁の眼鏡の奥の細い目をたたえた彼は、長年の闘争のせいもあるのだろうが、もの静かながらも、なかなかの気迫である。

 中でも、目を引くのは、その視線の鋭さである。彼は講演の最中、何度もきょろきょろと会場を見回すのだが、これは長年にわたる闘争の結果得た、不審者を見極めるために見出したものに他ならない。実は講演の途中、私は何度か目が合ったような感じがしたので、さすがにビビってしまった。

 もっとも、革マル派の幹部は、生半可な知識では到底書けないような難解な文章を書くことでも知られているので、もしも彼がまっとうな道を進んでいたとしたら、大学教授にでもなって、孫に囲まれた生活をしているはずなのかも知れないと思うと、何とも言えない気持ちになった。私が生で革マル派幹部の顔を見たのは、これが初めてである。

 これだけでも意外であるが、広田氏が素顔で出てきたことである。私はてっきり、革マル派最高幹部ネモジンや或いは本多勝一みたいにカツラとサングラスで現れるものとばかり思っていたので、私は少し混乱してしまった。

 

 そんな私の感情なんぞ知ってか知らずか、広田氏は更に続ける。「わたしたち革命的左翼は、権力に対して怒りと情熱とをもって闘ってきた。今回の浦安での不当弾圧、なんでも『電波法違反』なんだそうだが、このとき権力は我々が警察デジタル無線を傍受していることに震撼した。

 我々は早くから警察無線のデジタル化という事態に備え、10年来これに取り組んできた。ところが警察は、この事実を今回の不当弾圧でようやく認めたにすぎない。そう、10年たって、警察はようやく我々の水準に追いついたに過ぎないのです!」

 勝ち誇る広田氏。

 更に彼は、70年代、いわゆる「内ゲバ」が激しかった頃に革マル派が口にし出した「権力の謀略」について言及しだした。

 

 そもそも革マル派は、73年ほどまでは、中核派との内ゲバでは、優勢を保ち続けていたが、74年の「第2次法政大会戦」以降、その優勢にかげりが見られたときに出てきた説で、連中によると、中核派或いは解放派の中のスパイや、権力内謀略グループが革マル派襲撃に手を貸しており、場合によっては、中核派などが謀略の追認を行うものであるという説である。

 当時、この謀略論は、革マル派が敗北するたびに唱えられてきたことから、敵対セクトは「第n次謀略とは、n回目の大敗北のことだ」などとせせら笑っていた。

 更に、革マル派の主張は中核派や解放派の最高幹部や、空港反対同盟の戸村一作氏(故人)や北原鉱治氏も「権力のスパイ」と主張したり、「グリコ森永事件」、「朝日新聞社阪神支局襲撃事件」、「O−157」、更には「地下鉄サリン」も、「謀略」と主張するという、一見信じがたいものなので、革マル派シンパのような人からも「狼少年」などと言われてしまうことがあった。

 ただし、警察という組織の行動様式の不可解さや、不透明さとにたいする批判を前に、「革マル派の主張にはそれなりに筋が通っている」と主張する者がいることも又、事実なのである。

 

 ともあれ、特に74年あたりの事件は、かなり衝撃が大きく、未だにそれを引きずっていることは、広田氏とて例外ではなく、

「私のすぐ前で人が殺されたんです」

などと言われてしまうと、ものすごく気分が重くなってしまう。

「我々は、権力が我々の仲間を次々と虐殺しているという現実を目にして、もうこれ以上仲間を殺させてはならないんだという思いで、必死に謀略と闘ってきました。」

「そのとき、マスコミはどのような態度をとっていたか。なんだ、革マル派の言い分ではないかとせせら笑っていたではないですか」

「あれは内ゲバなどというマスコミが勝手に読んできたものではないんです。謀略なんです。」

 熱っぽく語る広田氏。予想してはいたのだが、マスコミ批判が目立つ。

「我々は74年以来厳しい中で闘ってきました。荒れ狂う弾圧に抗して・・。」

「そして、遂に勝利しました!デジタル無線も又、同じことなんです」

「それにしても、何故革マル派が解読できたかはと言いますと、ただ単に技術主義的にではなく、信念、情熱、理性。これこそ、我々が世界一の水準にあり・・」

 技術主義を否定するあたり、いかにも革マルらしい。

 

「ラジオライフの方、お見えになっているでしょうが、単なる技術主義的には不可能なことは、お分かり頂けるはずです」 

 そうなのだ。もちろん私もそうだが、だからラジオライフの人はそのあたりを知りたいと思い、今回の講演会に足を運んだのだ。

「このことは、皆さんもご存知の通り、我々がデジタル無線を傍受しているということは、先の浦安アジトに対する不法弾圧で明るみになりました。」

 いよいよ核心を語ってくれるのだろうか。ときあたかも、今まさに浦安アジト捜索へ言及していることと、当該の事件が公安当局に与えた戦慄とが、見事にシンクロナイズされる。

 会場の前面に掲げられているタテカンにちらりと目をやる広田氏。

 タテカンには「解放」を用いて神戸事件に言及しているものと、「神戸パンフ」が東大生協で発売されていることを広告するものとがある。

「神戸パンフ、・・発売されてますが、この神戸事件の矛盾を暴いているのは、我々革マル派だけです。違いますか?皆さん」

 記者席を鋭く一瞥する広田氏。当たり前だが、誰も反論しない。

 

 しかし、今の台詞は決定的である。「神戸パンフ」が「我々」であることを、広田氏は公然と認めたのだ。この「神戸パンフ」なるもの、及びこれとの革マルとの関係が最初に大手マスコミに紹介されたのは「週刊新潮」が最初であったが、なにしろ革マル派は当初、「神戸パンフ」との関係を否定していたのだ。

 

 更に彼は、神戸事件が謀略であることを強調しつつ、アメリカ帝国主義の謀略、いわばCIA謀略について言及し始める。

「謀略というと、ここにいる皆さんはぴんと来ないかも知れない。しかし、南米を見て下さい。南米はアメリカの裏庭と呼ばれています。そこでは日常的にCIAが暗躍し、日常的に殺人すら行っています。」

「昔、水本君、彼は私の友人ですが、水本君謀略というのがありまして、彼をCIAが謀殺したうえ、彼の死体と別人の水死体とをすり替えたという事件があったのですが、77年から80年頃のことです。

 『権力の謀略を告発する会』はこの事件の真相を究明する運動に取り組んで参りました。

 この事件というのは、いわゆる上智大事件を発端としており、デベラという当時の上智大副学長がCIAに連なる人物が上智大の戦闘的自治会を潰すために深く関与していたことが暴露されたのです。」

 更には革マルパンフを出してきた「権力の謀略を告発する会」が、革マル派そのものであることを自認する発言も。

 

 このような重大な発言を次々と出す広田氏は、遂に今回の講演会の題目でもある「神戸事件」について口を開こうとしていた。

「神戸事件とは?何であろうか?誰でも知っているように、この事件には、犯人の挑戦状というものの存在があります。そう、『懲役13年』というものなどです。」

 彼はおもむろに傍らの本を取り出してみせる。つい最近刊行された「神戸パンフ」の第3弾と、解放社の新刊「神戸事件の謎」である。会場の後ろで売っているやつだ。

「主題ではありませんが、本の紹介をしておきます。読んで下さい。」

 その割には長いことこれらの本について言及している。ただし、口調はいたって真面目である。

「このような事件は、少年に出来ますか?

 本当に内気な少年なんですね。なめくじの絵を描くことが好きな少年なんです。国語が不得意なんです。少年にあの名文が書けますか?実際に書いてみて下さい。」

 革マル派の見解を滔々と述べる広田氏。一見にわかには信じがたいのだが、話術と信念との為せるわざか、迫真をもって伝わってくる。

 

「当時は警察をはじめとした捜索が厳重に行われていました。このような厳戒態勢の中で、事件が起こせますか。警察無線を受けていなければ、絶対に出来ないんです」

 もう一方の主題である「神戸事件」についても核心を述べようとしている広田氏。ついに「デジタル無線」と「神戸事件」との関連について語ろうというのだ。もはや一言も聞きもらすことはできない。マスコミ諸君も、思わず熱い視線を更に熱くして聞いている。

 

 その論法はこうである。すなわち、普通は傍受することが出来ない警察無線を傍受することが可能であるというのであれば、(犯人は)そこで初めて(捜索している)機動隊の動向をつかむことが出来るのであり、そうでなければ、捜査網を逃れる術はないので、(あの事件のような)高度な事件を逮捕されずに起こすことは不可能である。しかるに、このような事件を少年に起こせるなどということは不可能であり、それ故に少年を犯人と見なすことは出来ないし、そうであれば、少年以外の何者かが存在することは疑い得ない、というのである。

 しかしながら、犯人は少年であるというのは、事実として受けとめられている。それは、以上のような矛盾にも係わらず、マスコミが警察のリークに従い、無批判にそのようなキャンペーンを張っているからだ、ともいうのだ。

 

 広田氏は更に現在の社会に対しても言及しだした。

「現在の社会は、子供を異質なもの、モンスターと見る社会です。その最たるものがA少年がサイコパスであるという近頃のキャンペーンです。このことは最近のきれる少年の事件と、見事に対応しています。」

 ピグマリオン効果を思い起こさせる見解である。

「この、特定の人間を異質なもの、モンスターととらえる社会、これはファシズムなんです。」

「30年代のナチズムは、ご存知のようにユダヤ人をモンスターと見なし、これをスケープゴートにすることで国内の、社会の矛盾を乗り切ろうとしました。しかるに、現在の社会派というと、ガイドライン問題、経済危機をはじめとして、深刻な問題を抱えています。権力は、この危機を乗り越えようとしています。その方法というのが、立花隆と文春とが結託して、A少年を異常者、犯人と見なしてスケープゴートにしようというのです。現在起こっていることは、まさにファシズムではないですか。

 更にいえば、ファシズムは、謀略によって為されるのです。謀略。これは社会を作り替えるために行われます。そう、権力が、危機を乗り切るために。」

 

 ここで遂に広田氏は衝撃の発言を口にする。

「(謀略の)物証が、あるのです。」

 そうだ。その「物証」なるものを、革マル派は「警察デジタル無線」によって、得たというのだ。すごいなあ。是非とも公表してくれよお。

 ここで革マル派がお待ちかねの傍受やら、秘密テープ録音やらをお披露目してくれるのではないかと私はドキドキしてしまったのだが、広田氏の講義は更に続く。

「しかるに、今日のマスコミは、いっこうに沈黙している。家裁でも矛盾が暴かれ、無実でありながら医療少年院に移送された少年。これはホロコースト路恐ろしいほど類似している。A少年は怒りに声をふるわせながら「騙されたんだ」と口にしているのです。

 この事件は冤罪という人権問題でありますが、それに留まるものではないのです。謀略というどす黒い影が渦巻いている問題であり、戦後民主主義の根幹がまさに根本から揺るがされている問題なのです。」

「現在我々の前で繰り広げられている世界。それはバーチャルな現実だ。空想と現実との区別が付かないような事態・・。」 

 数年前から少年犯罪に対して投げかけられている言葉である。

 

「皆さんは『フレンドリー・ファシズム』或いは『笑顔のファシズム』という言葉をご存知でしょうか。70年代のアメリカで唱えられた概念です。・・」

 次から次へと色々な用語を繰り出す広田氏。

「いいですか。子供というのは、昔からどろんこになって遊んだものです。そうでない限り、自然に対する適切な知識が、実際として身に付きようがないのです。 だから、もしも少年が淳君と格闘したというならば、泥だらけになっているはずだという当たり前のことが、理解できなくなるんです。」

 意外にも(?)ノスタルジックな一面を見せる広田氏。もっともこのような論法も又、クロカンの本にかなり見出されるのではあるが。

 

「このような事態を、マルクスは疎外と称しています。インターネット人間なんかまさにその典型ではないですか。マルキシズムが物神崇拝や倒錯といっているのは、電子情報の物神崇拝という、今日のバーチャルな現実に生きている人間の存在を、見事に証明している。」

 遂にマルクスに言及しだした広田氏。まさか連中がマルクス主義者だから解読できたんだなどと言うのではあるまいな。そういえばやけに精神性を重視していたぞ。まあもっとも、Zの観念性の強さは有名だし、大方予想は出来たのだが。因みに、結論から先に言うと、やはりそうだった。

 

「ここにおられる大学生の皆さん。」

 今まではマスコミに対して語っていた広田氏だが、今度は学生に対して語りかけ始める。

「いかに生きるべきかという問題を、今日の大学は教えていない。純粋に技術的なことばかりしか教えない。だから、オウムが今回起こした事件を見てみなさい。技術主義的なことしかない連中が技術の根本にあるものが何であるかを知らないからあのような事件を起こしたんだ。

 いかに生きるかという問題。これに回答を与えるもの。これこそが弁証法なんです。」

 これこそが革マル派広田氏の言いたいことなんだろう。しかし、ここにいるマスコミ諸君はデジタル無線解読の技術的な秘密なのである。もしかしたらそのあたりを事細かに解説してくれるのではないか、と期待してしまい、専門書を買いあさり、しっかりと「予習」してきた私としては、ちと期待はずれの感は否めない。もっとも、革マル派メンバーの講演会に足を運び、この独特の雰囲気をつかめただけでも今回はよしとしたい。何しろ、話の内容はとても面白かった。それに、無料なんだし、出費はといえば交通費と「解放」号外の分だけなのだから、腹がたつととかということではない。でも、せめて解読器の装置は、公開して欲しいものだ。

 

 すでに1時間以上話している広田氏を横目に、白い布が掛けられている装置に目をやる。

「若い方は覚えておいででしょうか、グリコ森永事件というのがありました。これは、警察無線を傍受していた事実が明らかになっています。そこで警察の動向をつかんでいたから逃げ仰せたのでしょう。」

 ちなみに革マル派は、この「グリコ森永事件」は謀略であると主張している。

「更に、中核派の自民党放火事件。これも警察無線の妨害にあっているんです。」

「これらの事件はこれまで安易に傍受されていた警察無線のテコ入れとなりました。

 警察無線のデジタル化。それは何を意味するかというと、マスコミは犯罪報道を警察発表のみに委ねることになる。警察が都合のいい情報のみを流し、マスコミは単に警察のリークに流されていくだけになりつつある。現に今のマスコミはそうじゃあないですか。」

 このあたりはまあ納得できるのだが、その一方で

「CIAのエージェント立花隆が・・」

とおっしゃったので、私は吹き出しそうになってしまった。革マル派にかかっては、対立している人はスパイとか何とか言われてしまうことを覚悟しておいた方がよい。

 実はちょうどそのとき、スタッフがビデオカメラを回していた。座席を撮っていたので、会場の雰囲気を記録することと、参加者の顔のチェックとが目的であろう。こんなときに目が笑っていたら、かなりやばいので、私がポーカーフェイスを得意とするアダルトチルドレンであることを、このときほど感謝したときはない。

 

 いよいよ広田氏のお話は佳境を迎えつつある。

「更に、最近印象的な事件としては、国松長官事件がありました。このときも警察無線が関係していました。詳しい本が出ているからご存知でしょう」

「このような状況の下で、無線の秘密性が急速に高まりつつあります。日本の警察無線は先進国の軍事無線よりも高度なものです。 同時に、先程私が申しました『フレンドリー・ファシズム』、『笑顔のファシズム』も進行しつつあります。・・・・現在の新しいファシズムは、危機感をも持ち得ない人々の笑顔の中で、進行するのだ!」

 ファシズムについて述べたかと思うと、今度は再び無線について言及する。話の内容がいろんなところにいくのだが、講演の主題が2つのあるのだからまあ仕方がない。

「デジタル無線の解読、それは興味だけでは絶対に不可能なんです。ラジオライフの方。」

 何度も「ラジオライフ」誌の人に呼びかけるあたり、同誌のことを、広田氏や革マルは案外気に入っているのかも知れない。

 

「我々は、不断に技術を磨き、地道に調査活動を行ってきました。ここにビラがありますが、「革マル派のお家芸」とか書いてありますが、決してそんな違法なものではなく、全部合法なんです。今回の不当弾圧では電波法違反とか言っていますが、傍受するだけならば、合法なんです。」

 最後になって、広田氏は今回の企画の真の目的である、学生のオルグに乗り出した。

「若い学生の皆さん、『きょうそうりょく』、これは牧野昇が言った言葉ですが、「協創力」です。その技術をもって、我々と「協創力」をもって、是非参加して欲しい。」

 ブル経の牧野氏を持ち出すあたり、私には少し奇異に感じられる。また、「皆さんの技術」と言っているので、学生の中でもとりわけ理工系学生のオルグであることがはっきりと分かった。

 何しろ当該のビラは、理工系の学部でまかれ、理工系学生の興味を引くような内容で宣伝し、受け付けの際も「一般の方は」という表現ではなく、「学生の方は・・」と言っていたし、学生は「理工系ですか?」などと尋ねられたというのだから。

 

 最後に広田氏は締めくくろうとする。

「我々が何故、警察無線にこだわったのか。我々と権力とでは、まさしく『象と蟻』ですよ。その蟻のような我々が何故立ち向かっていったのか。そして、如何にして解読に至ったのか。 そもそも暗号というのは隠すという目的があり、これを使っている警察には独特の思考法というものがあるんです。ですから、我々がずっと謀略と闘ってきた中で、警察の思考法というものがどのようなものであるかを血の滲む思いでつかんできた。・・ですから、そういうことなんです。」 

 どうやらマルクス主義言語学の駆使が決め手だと言いたいようである。どうやらこれが主題らしい。

 このとき、スタッフが機材へと近づくのが見える。警察権力を心底震撼たらしめたデジタル解読器がいよいよその姿を現すのだ。

「それでは。今回はこれが目的でお見えになっているのでしょうから、ちょっとだけ秘密を・・。」

 それを合図に、機材に掛けられてきた白い布がどけられる。

「おおっ」

 一斉に起こるどよめき。皆の視線は徐々に姿を現す無線機に一斉に注がれる。

カクマルデジタル無線解読機の勇姿(写真) 撮影/葉寺 覚明

 

 家庭用ビデオデッキと同じくらいだろうか、意外にも小さい2つの装置とアンテナとが姿を現す。 上は市販の無線機。どうやら3つのつまみが付いている下の機械が問題の解読器に違いない。

「これが、問題の解読器です。この小さい装置の中に、スーパーコンピューターも遠く及ばない英知が詰まっています。しかし、これを開発した人間の中にこそ、真の英知があるのだということを忘れないで頂きたい。」

 マスコミが一斉に動く。私もさりげなく近づくが、沸き上がる興奮を抑えることが出来ない。

 スタッフが再び撮影の許可を出すと、再びけたたましいシャッターを切る音が部屋中にこだまする。

 喧噪のさなか、広田氏の方に視線をやると、録音したというテープをマスコミに聴かせている。ラジオライフをはじめ、テレビ局だ。

 そんな中、フジテレビが広田氏に懇願している姿が見える。やはりデジタル無線が聞きたいらしい。

「すいませんが、フジテレビの方は今回はダメです。そうですね、日頃の放送の内容を反省して頂いてから・・」

 可哀想なフジテレビ記者。上司に怒鳴られなければいいのだが。

 やり取りも面白いのでしばらく見ていると、どうやら一部マスコミ一人ひとりに聞かせているようである。私もあの場所に行って、

「私にも聞かせてくださいっ!」

と駆け寄りたいのだが、人だかりが出来ているのを押しのけるのは目立つし、何よりも身分証明書を出せとか言われたりするのはイヤなので断念した。なんでも、警察関係者が混じっていることを警戒しているようだ。マスコミはいいよなあ。 

 無事にデジタル無線を聞くことが出来たラジオライフの人。羨ましくて仕方がない。聞くところによると、なんでもデジタル独特の「間引いた」音なんだそうだ。それと、意外にも(?)音質は悪いらしい。

 マスコミとやり取りをする広田氏を横目に、もしかしたらこれが記者会見や質問の受け付けを兼ねているように思える。同時に、手元の「質問用紙」を見つつ、これを一向に活用する気配もないことに、少々焦りを感じる。

 

 再びこのようなやり取りがスタッフの指示で中止される。そして、広田氏が最後の挨拶を述べ、壇上を退くと、先程の司会者氏が再び壇上へ。

 月並みな挨拶と、再びこのような講演会を行う旨を会場の人々に伝えている。そして、感想や質問があれば、入り口で渡された用紙に書いて欲しいとも言う。その割には慌ただしい。書く時間などありそうにないし、質問をしようにも今は回答を得られそうにはないのだから、ちと計画性に欠ける。質疑応答の時間を設けるとか、もう少し考えておくれ。

 もっとも、肝心の学生はもちろん、一般人の数が少なすぎるのだから仕方がない。その中の多数が、恐らくは共産趣味者なのかも知れないとも思えるので、苦笑してしまう。 最後になって、スタッフは「感想を聞きたいと思いますので、学生の方は集まってくださーい」と言っていた。いよいよ連中の最たる目的である学生のオルグに着手しようということらしい。

 カーテンが降ろされていない窓を見ると、もう真っ暗である。

 私はオルグされたくてたまらなかったのだが、後がこわいのでマスコミに紛れてそそくさと退出した。

 階段を駆け足で下り、すぐに7号館を離れ、気が付いたときにはもう正門をくぐり、駅の改札を通っていた。

 ちょうど良いタイミングで電車が来たので、それに飛び乗り、間もなく私は群衆の中へと、消えていったのであった。

おわり


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