『50年代共産党非合法軍事文書集成1.2』前書き

北のりゆき

この文は、91年12月に冥土出版が発行した冊子『50年代共産党非合法軍事文書集成1.2』の前書きです。この冊子は遊撃インターネットでも通販をしています。

遊撃インターネットに戻る


本書は、1952年当時、非合法下に軍事路線をとった日本共産党が密かに配布した地下文書を、70年安保時の新左翼・アナーキスト系出版社が再刊したものの再復刻である。そこには、のちに東アジア反日武装戦線に加わった佐々木規夫が参画していたという。一読して分かるように本書の「軍事技術」は拙劣なものであるが、閲覧や入手は現在ほぼ不可能である。このため歴史的文書として、小部数を復刻することとした。本書収録の「われわれは武装の準備と行動を開始しなければならない」と「新しいビタミン療法」は、以前「球根栽培法」の題で発行したが、ごく小部数であり手書きで原版の印刷状態が極めて悪いものであったため、タイプ判を再収録した。了解されたい。また、読者の理解をたすけるため、難解な用語などに脚注を入れた。

1991年12月

 

解説

 1952年当時、朝鮮戦争を契機として広範な共産党員の公職追放(レットパージ)の重弾圧を受けた日本共産党は、コミンフォルム(『共産党・労働党情報局』 スターリン、毛沢東に指導された各国共産党の国際組織)に、その「愛される共産党」をスローガンにした穏健平和路線、野坂理論を批判され、武闘派とアンチ武闘派に分裂した。そして強硬路線をとる主流派指導部(所感派・徳田球一など)が地下に潜航し、過激な武装闘争を開始したのである。都市ゲリラ組織として中核自衛隊、農村ゲリラ組織として山村工作隊が結成された。最盛期には全国で約5百隊、1万人近くの武装組織を擁し、数百件の「事件」を引き起こしたといわれている。これは日本左翼の歴史上最大の地下軍事組織であり、また最も激烈な武装闘争であった。2人の死者を出した「血のメーデー事件」をはじめ、白鳥警部射殺事件、吹田騒擾事件、大須騒擾事件、蒲田事件、曙村山林地主襲撃事件などが当時の大事件として知られている。この他にも数々の警察署襲撃、拳銃強奪、交番爆破、放火、リンチ事件などが実行された。しかし武装闘争路線の理論的支柱である51年綱領は、日本は「高度の資本主義国」であるが「植民地」であり「近代的労働者1千万人以上」を擁しているが、人口の四割が農民」である「農業国」でもあるという完全に矛盾したものであった。さらに、その路線の上にコミンフォルムに与えられた「農村が都市を包囲する」という毛沢東路線と、ロシア革命型の「都市労働者の武装蜂起」を結合させるという折衷革命方式が取られた。当然この武装闘争は完全に失敗し、主な指導者は中国に亡命した。この後アンチ武闘派(国際派といわれる。宮本賢治など)が党内でヘゲモニーを握り、現在の選挙による平和革命路線への道を開くこととなった。この日共の暴力革命路線の破綻が直接の原因となり、現在の新左翼所党派が生まれたといってもよいだろう。現在考えると敗北は当然であった。日本においては終戦直後を除いて革命的状況などは存在しなかったのである。52年当時の「事件」は、共産党にとってはあってはならない歴史であり、党史からもほとんど抹殺されている。しかし、実際に軍事活動を担った者の多くが今も活動しており、現在も切れば血の吹き出す事件である。そのため、断片的なものを除いて、一般の書籍には当時の記録を見ることはできない。その意味でも本書は第一級の資料であり、創作活動の上でも貴重な資料となるだろう。

 

50年代共産党非合法軍事文書集成1

 一巻は戦術編とし、武装闘争技術を記した文献を収録した。また、理解を助けるため公安関係資料も少数収録した。

1、日本共産党地下組織の全貌

 『現場写真集 戦後労働運動大争議』(非売品)より転載した。社会運動通信社発行となっているが、内容の一部が次の『回想』に酷似しており、出所が知れる。

2、火炎びん闘争

 警察庁警備局発行『戦後主要左翼事件 回想』(非売品)より転載した。これは警察イデオロギーにまみれているが、武装闘争時代の共産党に関する最もまとまった資料である。3、栄養分析表

 最も初期の爆弾教本である。しかし技術は拙劣で、時限装置の製法などはおよそ役に立たない。爆弾の心臓部である雷管の製法は極めて貴重なもので、実際に爆破に使用されている。今まで繰り返し過激派によって復刻されてきた。米軍と旧陸軍中野学校が制作し日共に流した謀略文書だという説もある。詳しくは三一書房刊『テロ爆弾の系譜』を参照のこと。これは、当時爆弾製造にたずさわった技術者の手記で、爆弾闘争と謀略についての必読書であるが、『栄養分析表』と『球根栽培法』を混合しているようだ。 

4、新しいビタミン療法

 この中で述べられている塩素酸カリは、爆弾材料になるため現在入手不能である。

5、非合法活動について

 現在の新左翼組織の非合法活動とは多くの点で異なる。1950年という時代性を考慮にいれ参考のこと。現在は公然と非公然を画然とわけ、非公然組織の構成員を完全に地下に潜らせる。

6、健康闘争を強化するためZ活動を組織せよ

 健康闘争とは武装闘争、Z活動は武器活動を指している。専門部局を設けて武器を獲得するのではなく、大衆組織を使って武器を入手するとしている。これでは暴力的な政治闘争は可能でも、本格的な軍事闘争は不可能である。

 

50年代共産党非合法軍事文書集成2

 二巻は、戦略編としてより広義の軍事文書を収録した。戦術編と比べると、読んで面白いものではないかもしれないが、武装闘争の政治目的を知ることは、「軍事行動は形を変えた政治の継続である」というクラウゼビッツの命題の通り、その戦術を理解するために必要不可欠であり、戦術編の完全理解につながるだろう。

7、共産主義者と愛国者の新しい任務

 暴力革命武装闘争路線の指針。折衷革命とスターリン主義の完全に誤ったテーゼであるまた、戦前の社民主要打撃論の影響が見られる。当時行うべきことは、階級情勢の後退局面における社共共闘による合法闘争であっただろうが、完全にこれに逆行している。敗北は必然であったようだ。

8、なぜ武力革命が問題にならなかったのか

 『共産主義者と愛国者の新しい任務』をもとに、武装闘争論を述べている。レーニンの『国家と革命』などからの引用が見られるが、いささかお粗末なものだ。個人的な問題提起といった側面もある。

9、山鳩(軍事方針について)

 80ページからなる『山鳩』から一部を抜粋した。一「一般闘争方針」、二「全面講和方針」、三「軍事方針について」、四「組織問題について」、五「政策遂行のために」の5章からからなっている。初期の戦略書である。

10、われわれは武装の準備と行動を開始しなければならない

 『球根栽培法』の題で知られる。『球根栽培法』は、発禁となった『内外評論』30から36号までの偽装誌名であり、かならずしもこれだけを指すものではない。他にも『たべある記』、『益鳥と害鳥』などの偽装誌名で刊行されている。

11、中核自衛隊の組織と戦術

 『われわれは武装の準備と行動を開始しなければならない』を発展させたものである。武装闘争の戦術がより具体的に示されている。

12、孟子妙・講孟余話 

 内部組織にごく少数配布されたものと思われる。専門部局の活動を隠語を用いて指導している。本来一巻に収録すべきものだが、ページの関係でここに掲載した。

13、中核

 中核自衛隊の機関紙『中核』に掲載されたもの。なお、ここは新左翼党派の中核派とは無関係である。

通信販売ページ(カートあり)
通信販売ページ(カートなしメール注文)


 遊撃インターネットに戻る