この記事は白夜書房から発行されている『インターネットマニア』6月号に書かせてもらったものです。字数の関係で書ききれなかったところを書き足しました。


ゲリラはインターネットがお好き 北のりゆき

 インターネットはゲリラに好かれている。世界中のゲリラ組織がネット上にHPを開設し、主張や動向を公開している。安価に大量の情報を世界中に発信できるからだろう。自国政府の手の届かない外国から情報を発信し、宣伝戦を展開しているのだ。

 主なものをあげよう。自殺テロでインドの首相を爆殺したシーク教ゲリラ『タミル・イーラム解放の虎(LTTE)』がイギリスで開設していたLTTEニュースブリテインがある(現在は閉鎖)。ここでは、ほとんど日本で報道されないLTTEとインド軍との戦闘やテロの犯行声明などを読むことができる。どうやらLTTEはスリランカに警察や軍も手が出せない『解放区』を作っているようだ。インド軍との衝突のニュースでは、自分たちの戦死者を「××名が殉教を果たした」というように書いている。同じくインドからの独立を求めるシーク教徒が開設した『シーク教徒統治の歴史』ページでは、拷問の跡も生々しい仲間の死体写真をアップしてインド政府の残虐性をアピールしている。

 差別されてきたマヤ系先住民が、人間らしく暮らす権利を求めて94年1月1日に一斉蜂起したメキシコのゲリラ『サパティスタ民族解放軍(FZLN)』も、ネット上でユニークな活動をしている。最初の衝突でFZLNに150人ほどの犠牲者を出したが、国際世論の支持がFZLNに集まり、メキシコ政府も停戦を余儀なくされた。 現在もFZLNの支配地域の境界線でメキシコ軍とにらみ合っている。95年にはFZLNの主張の賛否を問う『国際諮問』を行い、ネットを利用して世界数十か国から十万人以上が参加、日本からも6人が投票に参加している。

 現在ペルーの日本大使公邸を占拠している『ツパク・アマル革命運動(MRTA)』も、大いにインターネットを活用している。公式サイトの設置はもちろん、メールでメッセージなどを配信し、有志が各国語に翻訳してそれぞれのHPにアップしている。MRTAのコミュニケ7号によると、「(ネット上でMRTAの声明などをやり取りする)我々は、サイバー飛行士であり、飢えと闘い正義を求める人民にとって連帯の力である」とのことだ。

 日本語のMRTA情報は、東京経済大学の山崎カヲル氏のHPに置かれた『トゥパク・アマルー革命運動情報』と、富山大学の小倉利丸氏のHPに置かれた『緊急情報/リマ大使館占拠』などで読むことができる。しかし、最近『夕刊フジ』のコラムで、このページに対する悪質な記事が掲載された。要旨は「インターネットでMRTAを支援するページがあり、警察庁を怒らせており」、警察幹部の「交通違反でも何でもいいから、すぐに逮捕したい」などという言葉を引用している。しかし、ここで批判されたHPは、賛否取り混ぜてMRTA関連の情報を提供するという趣旨のもので、とてもテロリストを支援しているなどとは言えない。それに公邸を占拠することは違法だろうが、その事件に関して情報を発信することは、違法ではないという原則が無視されている。「オマワリさんが怒っている」と書けばケチつけになるだろうという、この記事の書き手は何とも幼稚だ。ここには、自己検閲に余念のない既成メディアを飛び越して市民が自由に情報を受け、発信することへのマスコミと権力の恐怖が如実に現れているように思える。

 このほかドイツ赤軍政治囚、トルコからの独立を目指すクルド民主党、トルコ革命を目指し武装闘争を闘う革命的人民解放党/戦線、 イギリスに対する爆弾攻撃で有名なIRA、MRTAよりさらに過激なペルーの極左毛沢東主義組織センデロルミノソ、動物解放を主張し毛皮をあつかうデパートなどに放火攻撃を加えるRAFなどが直接開設したり近い筋が開設したページがある。

 このように世界中の反体制派がネットを利用しているというのに、日本の新左翼は、アナキスト系団体が今年中にホームページを開設するといった程度で非常に遅れている。まだある程度機関紙などを自由に発行できるからなのだろうが、マルクスが当時最新のメディアだった新聞の記者になって宣伝を行ったということを想起し、この新しいメディアを大いに活用してもらいたいものだ。

遊撃隊TOP