『ゲリラ戦士の150問』前書き

北のりゆき

この文は、1990年に冥土出版が発行した冊子『ゲリラ戦士の150問』の前書きです。この冊子は遊撃インターネットでも通販をしています。

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はじめに

本書は、アルベルト・バーヨ将軍の著作、150QUESTIONS FOR A GUERRIILA 全訳の復刻である。アルベルト・バーヨは、スペイン内乱を戦ったのちメキシコに亡命し、キューバ革命の英雄フィデル・カストロやチェ・ゲバラなどにゲリラ戦の教育をほどこした人物である。グランマ号でカストロとともにキューバに上陸したゲリラの全てが彼の教育を受けていたといわれる。革命キューバ政府高官の多くは彼のゲリラ学校の卒業者であろう。実際にキューバ革命の勝利に貢献し、中南米の武装闘争に多大の影響を与えた点から見ても、本書の実践的内容の有用性は明らかである。

 本書は、1970年代に極左アナーキスト系の人々がごく小部数発行したものの復刻である。一読してわかるように思想的なものを切り捨てた純然たるゲリラ戦の技術書である。現在の日本では、対ゲリラの書籍は数多いがゲリラの側からの文献はほとんど見ることができない。本書の人手もほぼ不可能であった。これが復刻を思い立った理由である。本書はゲリラ戦に関する第一級の資料であり、また様々な創作活動に資するものと信ずる。大いに活用してほしい。

 今後も各種の非合法・地下文書の発掘と復刻を精力的に行う予定である。期待されたい。 1990年12月

解説

 アルベルト・バーヨは、スペイン内乱を共和国空軍指令部副官としてファシストと戦った。その際ゲリラ戦の有効性に着目したが、その戦略は共和国政府に入れられなかったという。ファシスト・フランコの勝利の後、彼は、メキシコに亡命しそのゲリラ戦理論を深めるとともに多くの革命家に軍事教育をほどこした。その中には多くの亡命キューバ人革命家がおり、その最優秀生があのチェ・ゲバラであったといわれている。バーヨの存在が無ければキューバ革命はありえなかったかもしれない。革命勝利後にキューバ革命軍少佐となり(革命後のキューバ軍の最高位階は少佐)、ただ一人「将軍」の愛称で呼ばれた。晩年はキューバで革命家の育成に尽力し1967年に死亡した。

 本書の原本は1959年にハバナで発行されたスペイン語版である。原訳者はこれを入手できず1963年にアメリカで発行された英語版により訳出したと語っている。またこの英訳自体が粗雑なものであり、できうるかぎり直訳を心がけたとのことだ。

 本書の原型は、1940年代には既に中南米の各地に流布されていたらしい。のちにゲバラの著書「ゲリラ戦争」によって、より体系化され完成されることになる。毛沢東の創始した「農村ゲリラ」、バーヨからゲバラに受け継がれ発展させられた「山岳ゲリラ」、カルロス・マリゲーラによる「都市ゲリラ」の三種に、ゲリラ戦の形態は大別できる。本書は、現在も中南米の反政府ゲリラに強い影響を与え続けている山岳ゲリラの手引書である。山岳ゲリラ戦とは、正規軍にとって最も不利な地形である山岳地帯において少数のゲリラ部隊が政府軍を持続的に攻撃し、よって独裁政府の弱体化をはかり人民のほう起を促すというものだ。面的で「農村が都市を包囲する」という農村ゲリラと比較すると、山岳ゲリラはより直線的であり少数精鋭主義であるといえる。実際にキューバ革命の勝利をもたらした戦術であるが、ボリビアにおけるゲバラの悲劇的な死に象徴される第三世界における武装闘争の敗北によって日本語訳が発行された1970年当時には、その座を都市ゲリラに譲ることとなった。これは対ゲリラ戦術の発達と共に、権力や情報、財の都市への集中といった国家の新形態によるものであろう。なおベトナム戦争における解放戦線の戦術・戦略はこの三種のゲリラ形態を、地形などの様々な制約により使い分けたものであろう。

 本書の図版や武器の製造法の多くは役に立たないばかりでなく、危険ですらある。とりわけ爆発物の製造法などは、正確な作業手順、道具の選択、原材料の入手法、安全処置などにほとんど触れておらず使い物にならない。たとえば25ページにある手榴弾を製造する場合、爆薬の原料の塩素酸カリウムを入手しようとした時点で逮捕される恐れがあるし、運よく無事に入手したとしても、図の通りに塩素酸カリウムの中にクギなどの鉄物を混入すると、鉄は一日で酸化して高熱を発し、完成させた爆弾を誤爆させるだろう。これらの図は専門家が描いたものとは思えない。おそらく地下活動家の間で回覧された時代に添付されたものであろう。むしろ26ページの「鉄道を破壊する場合、最も修復が困難になるように仕掛ける」といった「破壊の思想」をくみ取ってほしいとおもう。

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