はじめに
この記事は、データハウスから発行された『危ない28号 2』に載せてもったものです。
この原稿と掲載後のものはずいぶん内容や文体などが異なります。ちょっと内容的にカタくてつまんないかなーという編集さんの意見でしたので、原稿送り後に自由に手を入れてもらったからなのです。読み比べてみると面白いかもしれません。
テロリストのための原子爆弾製造法
北のりゆき
ほとんど知られていない事件だが、1957年末ごろ旧ソ連のウラル地方で地中に埋めた放射性廃棄物が爆発し数百人が死亡、数千人が放射能障害を被った。原子力関係施設から出され地下に埋蔵されていた放射性廃棄物が核反応のため過熱状態となり、猛烈な爆発を起こしたのだ。放射能による汚染区域は1000平方キロメートルにおよび、付近は40年後の現在も立ち入り禁止だという。
当時の西側もこの事故の情報を入手していたのだが、反原発運動の高揚を恐れ公表しなかったという。この事件は現在でも謎が多く、本当に自然に核爆発が起こったのか、それとも放射性廃棄物の熱による水蒸気爆発だったのか不明だ。
しかし、核分裂物質さえ手に入れることができれば、思ったよりも容易に核爆発を起こすことが可能だ。放射能による被害も甚大だろう。
臨界未満の核分裂物質であるウラン235かプルトニウム239を非常に早いスピードで一緒にしてやり臨界超過状態にしたとき、瞬間的に核分裂の連鎖反応が起こる。これが原子爆弾の核爆発である。
ウラン235の原子が分裂すると、熱と波長の短い放射線という形で大量のエネルギーを放出する。分裂した原子は約2.4個の中性子を放射する。この中性子がほかの原子を次々と分裂させてゆく。この過程は100万分の1秒以内に起こり、膨大なエネルギーを放出する。これが連鎖反応である。中性子による玉突きを連想すれば分かりやすいだろうか。濃縮度100%のウラン235だと約50キロで臨界量に達し、何もしなくても核分裂をはじめる。つまり、50キロ以上のウラン235を早いスピードで一緒にすれば、それだけで核爆発が起こるわけだ。ウランの合体プロセスは、瞬時に行なわれなくてはならない。そうでないと核分裂がウラン塊のあちこちで順番に行なわれる「爆竹現象」となり、威力が弱まる。また同じ理由から、核分裂はより小さいスペースで行なわれたほうがよい。そのため通常の原子爆弾では、合体を爆薬の爆発力を用いて行なう。しかし、原理的にはウランを地面においてその上に長い筒をかぶせ、高い場所から筒の中に勢いをつけて別のウラン塊を落としてやればよい。合体して臨界量を超えればそれだけで原子爆弾になる。
プルトニウム239は、ウラン235と異なりそれ自体で連鎖反応を起こすことはない。バリウムやポロニウムなど放射性の強い物質を利用し中性子を放射することで連鎖反応を始めさせることができる。100パーセントのプルトニウム239の臨界量は16キロである。
原子爆弾では、ウランやプルトニウムをリフレクター(反射材)と呼ばれる物質で囲っておく。これは核分裂を起こすのに必要な中性子を反射させて外に逃がさないためである。玉突きの玉(中性子)が台の外に転がり出てしまったら、連鎖反応の効率が落ちてしまう。リフレクターにはベリリウムやウラン238、カドミウムといった重金属が使用される。100パーセントのウラン235が臨界に達するには50キロ必要なのに対し、リフレクターで囲めば15キロですむ。100パーセントのプルトニウム239の臨界量は16キロであるが、リフレクターで囲めば4.4キロに減らすことができる。ウラン235とプルトニウム239の臨界量を表にしたので参考にしてほしい。
臨界量(金属体での重さ)
ウラン235 プルトニウム239
濃縮度 反射材無 反射材有 反射材無 反射材有
0% --- --- --- ---
10% --- 1300kg以上 --- ---
20% --- 250kg以上 --- ---
30% --- --- --- ---
40% --- 75kg --- ---
50% 145kg 50kg --- 9.6kg
60% 105kg 37kg --- 7.8kg
70% 82kg --- 23kg 6.7kg
80% 66kg 21kg --- 5.6kg
90% 54kg --- --- 5.0kg
100
% 50kg 16kg 15kg 4.4kg
自製原爆では、材料のウランやプルトニウムを全て核分裂させるのは困難だろうし、その必要もない。広島に落とされたウラン原子爆弾の威力は、
TNT火薬約1.5万トン相当だったと考えられている。このように巨大なエネルギーを放出したにもかかわらず、原子爆弾に詰められていたウラン235のうち、わずか1キログラム弱が核分裂したものと考えられている。長崎に投下されたプルトニウム爆弾の場合も、核分裂したプルトニウム239は1キログラム程度だったと思われるが、そのエネルギーはTNT火薬約2.1万トン分の破壊力に相当した。***
広島と長崎の被害状況の比較***項
目 広 島 長 崎爆発点の高さ
580±15m 500±10m瓦の溶けた範囲(爆心地からの半径)
600m 1,000mかこう岩の剥離(爆心地からの半径)
1,000m 1,600m
建物被害(被曝前の建物数)
約76,000戸 約51,000戸(1)
全壊全焼 62.9% 22.7%(2)
全壊 5.0% 2.6%(3)
半壊・半焼・大破 24.0% 10.8%計
91.9% 36.1%広島に比べ長崎の被害が小さいのは、曇天による盲爆撃により投下地点が市中心部から外れたため。
ウランを利用した原子爆弾は射出型と呼ばれる方式を使い、プルトニウムを利用した原子爆弾は爆縮型と呼ばれる方式を使う。
射出型は比較的単純で、ウラン235を2つの部分に分け通常爆薬の爆発によって瞬間的に合体させ、臨界量以上に到達させるというシステムである。
プルトニウムを利用した爆縮型は、これよりもはるかに複雑だ。核反応促進用のバリウムとポロニウムの混合物を中心に置き、それを囲んで正確に等量で同じ形の32個のプルトニウム239をそれぞれ45度の角度でサッカーボールのように設置する。核爆発を起こすには、起爆用爆薬の爆発によって1000万分の1秒以内にこの32個のプルトニウム239を起爆中性子源のバリウム/ポロニウム混合物と結合させなければならない。また起爆用爆薬は球形の内破衝撃波を作り出す特殊な燃焼特性を持っていなければならず、さらに球体を厳密に対象形に包むように配置しないと爆縮がうまくいかない。レンズ型の装薬が爆縮反応を起こすのに最適であるといわれている。米軍は起爆用の特殊爆薬としてトリアミノ・トリニトロ・ベンゼンを使用しているが、通常これは入手困難だろう。ウラン爆弾とプルトニウム爆弾の起爆にはプラスチック爆弾も使用できる。最良の爆薬は尿素硝酸塩である。
尿素硝酸塩製造法
*材料
濃尿酸溶液
(C5 H4 N4 O3)1カップ硝酸
1/3カップ耐熱性ガラス容器
フィルター4枚(コーヒーフィルター)
*製造法
濃尿酸溶液をフィルターに通して不純物を取り除く。
ゆっくりと硝酸
1/3 カップを濃尿酸溶液に加えて一時間おく。再びろ過する。硝酸尿素の結晶がフィルターに残る。
フィルターの硝酸尿素に水を注いで結晶を洗う。
フィルターから結晶を移して16時間乾燥させる。
ウランやプルトニウムを合体させるための十分な爆発力を得るにはこれよりも多い量が必要かもしれない。
プルトニウムを利用した爆縮型と比べると、ウランを利用した射出型は製造がはるかに容易である。ウラン235を入手できたと仮定し、設置型の原子爆弾の製造法を述べてみよう。
地下室のある一軒家を借り、そこを作業場にする。最初に重さが8キロの半球形のウラン塊を2個製作する。ウランの融点は2071度なので、バーナーなどを使用して成形する。耐熱レンガなどを使い小型の溶鉱炉を作る必要があるだろう。ウランを溶かし半球型の鋳型に流し込んで冷やす。ウラン成形の際に発生する放射性のガスは有毒で吸い込むと数時間で死亡する恐れがあるので、鉛などで遮蔽し遠隔操作するのが望ましい。また、ウラン自体が強い放射能を持っている。放射線対策に作業場は鉛で遮蔽し、ウラン粒子を吸い込まないためガスマスクを着用する。ウラン塊の成形ができたら、床に穴をあけて直径8センチ程度の鉄パイプを2階から地下室に立てる。長さは6メートル程度が適当だろう。鉄パイプの底部に半球の平たいほうを上にしてウランの塊を置く。そのまま地下室はセメントで固めてしまう。もうひとつのウランの塊をパイプの上端に固定し、さらにその上に起爆用の爆薬を取り付け、ふたをして時限装置をセットする。起爆用の爆薬が爆発すると衝撃により上端に固定したウラン塊が激しい勢いで落下し、2個のウラン塊が合体し核爆発が起こる。
原子爆弾を製造するにあたっての最大のポイントは、いかにして核分裂物質を入手するかという点である。考えられる入手法は「自力で製造する」、「購入する」、「奪う」というところだ。ひとつずつ検討してみよう。
プルトニウム239はわずかな痕跡を除いて自然界には存在しない。製造には原子炉でウラン238(核爆弾に使用するウラン235ではない)を処理する。高速増殖炉を利用する場合、プルトニウム燃料を包み込むように、ウラン238を並べておくと中性子を吸収してプルトニウム239に変わる。実際問題として国家レベルの事業として行わない限りプルトニウム239の製造は不可能だろう。
もうひとつの核分裂物質、ウラン235の製造で最も困難な問題は、連鎖反応を可能にするための濃縮ウランを十分に生産することである。ウラン235は、抽出するのが非常に難しい。25000トンのウラン鉱石から、50トンのウラン金属しか精製することができない。ウラン鉱からウラン金属への変換比率は500:1である。そのうちの99.3パーセントは、核爆発に使用できない安定した92個の陽子と146個の中性子からなるウラン238である(92+146=238)。これに中性子が146個しかないウラン235が0.6パーセント混じっている。ウラン235は核分裂が可能で、そのため「核分裂性」とよばれ原子爆弾の製造に使用できる。ウラン238はどのような核反応も起こさないが、中性子を反射する特性を利用してリフレクター(反射材)として使用できる。
ウラン235とウラン238は化学的な性質が全く同じである。通常の化学抽出では分離することはできない。これはブドウ糖の溶液からショ糖を分離させようとするのと似ている。ウラン235とウラン238を分離する唯一の手段は機械的な方法を利用することである。
ウラン235はごくわずかにウラン238よりも軽い。気体拡散のシステムは、この2つの同位元素の分離を始めるのに使用される。ウランを6フッ化ウランガスを形成させるため、フッ素と合成させる。つぎにこの混合物を低圧ポンプで多孔性隔膜に通す。ウラン235原子は、ウラン238原子よりも軽くて早く動くのでより多く隔膜を透過する。多くの隔膜を透過した後、ウラン235の濃度は高くなる。数千の隔膜を透過した後、6フッ化ウランは高濃度のウラン235を含むようになる。原子炉燃料となる純度2から3パーセントのウランを使用してこの過程を進めれば、理論上は原子爆弾に必要な純度95パーセントのウランを生産することも可能である。
気体拡散の過程がいったん終わると、ウランをもう一度精製しなければならない。前に濃縮したウランをさらに精製するために磁気分離を使用する。4塩化ウランガスに充電し、弱い電磁石で誘導する方法である。ウラン235粒子は軽いので、磁気牽引力によるガスの流れにそれほど影響されない。徐々に分離することができる。
2回目の濃縮の後に3回目の同位体濃縮を行なう。ガス遠心分離機によって軽量のウラン235をより重い同位元素から切りはなす。遠心力で2つのウラン同位元素を分離させるのである。これらの過程がすべて完了したら、核爆発を容易にするように弾頭に設置するウラン235を成型する必要がある。
次にヤミでの核物質の購入を考えてみよう。
93年7月にフィンランドの夕刊紙がロシアで核の密売人に接触して本物のプルトニウムを入手した体験ルポを報じた。そのルポによると、モスクワでプルトニウム密売の話を持ちかけている男に記者らが身元を隠して接触した。真偽を確かめるために二つの試料を借り出し、放射性物質を扱うロシア国内の研究所に持ち込んだところ、ひとつには核爆弾製造に使えるほど高濃度のプルトニウムが入っていたという。プルトニウムの売人は密売価格はキロ当たり1500万ドル(約21億円=1ドル140円として計算。以下同じ)で、「15、6キロのプルトニウムを用意できる」と話したという。ちなみに日本がフランスに再処理を委託したプルトニウムの価格は1キロ約130万円程度といわれている。オモテ価格の1600倍以上の値段だ。純度50パーセントのプルトニウム239でも反射材を使えば9.6キロで核爆発を起こすことができるので、これは核兵器の製造に使用可能だ。ただし10キロ購入すると210億円という天文学的な価格になってしまう。ほかにもイギリスの技術者がロシアの地方都市でプルトニウムの売り込みを受けたという報道があったし、ドイツでもロシアから密輸されたと見られるプルトニウムが押収された。核技術者と称してロシアを丹念に回れば数百グラムずつプルトニウムを集めることができるかもしれない。ただし前にも書いたとおりプルトニウム爆弾の製造は非常に難しいので、1グラムで2百万人を殺すことができるというプルトニウムの毒性を利用した使い方を考えたほうがよいかもしれない。
ウランもヤミ購入することができそうだ。92年に核燃料用棒状ウラン2.6キログラムを密売しようとした男がハンガリーで逮捕されている。このウランもロシアから密輸されたものだった。核燃料用ウランには核兵器に使用できるウラン235は3パーセント程度しか含まれていないので、濃縮する必要がある。しかし、この点さえクリアすれば原爆の製造に十分使用できるだろう。密売価格は、2.6キロで2万5千ドル(約350万円 1キロあたり134万円)とプルトニウムに比べてずいぶん安い。ちなみに原発用ウラン燃料のオモテ価格は1キロ120万円程度だ。市場があるとも思えないので、密売グループによって価格に大きな開きがあるのだろう。もっとも核爆発を起こすには100パーセントのウラン235が最低16キロ必要なので、このグループから購入したとしても、全てそろえるとおよそ7億1千万円になってしまう。そのうえ濃縮する資材の経費もかかる。国家レベルのプロジェクトでもない限り、核分裂物質の購入は資金的に難しそうだ。実際イスラエルは、諜報機関を使い非合法に入手した核分裂物質を利用し、100発以上の核兵器を所持していると言われている。
わざわざ原爆を自製しなくても、既製品を手に入れるというのはどうだろう。レベジ元ロシア安全保障会議書記によると、スーツケース大の携帯型核爆弾が旧ソ連時代に作られ、100個以上が行方不明になっているという。国家保安委員会(KGB)により1970年代に製造されたもので、特殊部隊による原子力発電所などの破壊を目的としていた。威力については不明だが、テロに使用するには十分なものだろう。ロシア当局はスーツケース核爆弾の存在自体を否定しているが、最近使い方の講習を受けたという情報部大佐が名乗りをあげ、この情報に信憑性が出てきた。レベジ氏は、チェチェン共和国の武装勢力が10万人を殺害する破壊能力のある戦術核兵器を所有しているという情報が寄せられたとも証言しており、購入にはチェチェン周辺の内戦状態にあったあたりを訪ねればよいかもしれない。実際オウム真理教幹部が武器の買い出しにチェチェン周辺を何度も訪れており、ロシア製の毒ガス探知器やLSDの原料など、それなりに役立つものの入手に成功している。スーツケース核爆弾については数ヶ月ごとに部品を交換しないと使い物にならなくなるという情報もあり、まがい物をつかまされないように、気をつけてほしい。
次に核分裂物質を奪取する可能性を考えてみよう。
日本ではウランは原子力発電所の燃料として利用されているし、プルトニウムもウランと混ぜ混合酸化物燃料として軽水炉に使用するというプルサーマルが計画されている。過去の個人テロや強奪事件の例を見ても、目標が通常存在する本丸を襲撃するよりも移動の最中に攻撃するほうが成功率が高い。銀行強盗よりも現金輸送車を襲ったほうがうまく運ぶことが多いのと同じことだ。その例でいくと原子力発電所を襲撃するより、核燃料輸送中に攻撃するほうがよいだろう。
国際原子力機関(IAEA)の核物質輸送のガイドラインにより、輸送ルートなどの情報は公開されていない。そのため、マスコミの注目を浴び多くの報道がなされたプルトニウム輸送と、ある程度情報を公開しているフランスの例を参考にしたい。
ウラン、プルトニウムといった核燃料などを運ぶ場合、所有者である電力会社などが搬入先施設の所在地の自治体に1週間ほど前に到着日時、場所、核物質の種類を連絡している。ほとんどの自治体は輸送情報を警察や消防など警備関係以外には知らせていない。確実に情報を入手するには原発のある県の警察や消防、それに県庁などに協力者をもぐらせればよいだろう。それが難しい場合はインターネットなどを利用し原発反対の住民運動などに接触すれば、前回の輸送経路やおおよその輸送時期がわかる。
警備に関しては、日本では輸送当日に核燃料輸送用として特別警ら隊が出動するが、パトカー1、2台が同行する程度という報道があった。しかし、154億円もかけてプルトニウム輸送用の護衛船を建造するなど、警備に力を入れていることを考えるとどうも信じられない。
フランスでの警備を参考にしよう。再処理工場から港まで、プルトニウムを特別製トレーラーで運ぶ。運転席は管制所との連絡用衛星電話があり、防弾ガラスがつけられている。車体全体が強い装甲で覆われており、ドアは外側からは開かず、荷物のとびらを開けようとすれば後部から煙が出て煙幕をつくり、側面からは催涙ガスが噴射できる。荷台が分離されそうになると、仕掛けてある火薬の爆発で車軸を固定し動かなくする。パンクしてもスピードを落とさず走ることができ、車の位置、速度、運転席の温度などは常に管制室で把握されている。プルトニウムは10キロずつ小容器に分けられ、その容器が8から10個まとめられてコンテナが作られる。トレーラー1台にはコンテナ1個しか載せられない。容器には発信器が取り付けられており、常時人工衛星がスキャンしている。さらに軍部隊が常時付き添って警備している。
日本では対テロ部隊以外に警察は小銃を所持していない。輸送用トレーラーの前後をトラックなどで挟んで立ち往生させた上で、小銃などで武装した10数人のグループが襲撃すれば、護衛を制圧することは可能だろう。ガスマスクなど催涙ガス対策も必要だ。特別製トレーラーに対しては、指向性爆弾の使用など装甲車に対する攻撃を応用すればコンテナまで行き着くことはできるだろう。しかし、日本の加圧水型原子炉のウラン燃料容器は、鋼鉄製の円筒形で長さ5.3メートル、直径1.2メートル、重さは1.9トンもある。よほど手際よくやらないと、ブツが大きすぎて追跡を振り切って運び出すことは困難だ。これらの点を踏まえた上で作戦を立ててほしい。原子爆弾の製造よりも、爆弾を核物質容器に仕掛けて要求が拒絶された場合は爆破して猛毒のプルトニウムやウランを放出させると脅迫するのが現実的かもしれない。核爆発よりもその後の放射能の影響のほうが社会的コストが高い。チェルノブイリ原発の事故では、GNP(国民総生産)の5パーセントが事故処理に使われ、ソ連崩壊を早める結果となった。
国家権力も核テロに対して手をこまねいているわけではない。アメリカのエネルギー省内には核テロに対応する「核緊急捜索チーム」が存在する。「NEST」と呼ばれ、国立研究所の科学者や核兵器関連機関の専門家で構成される。特別訓練を受けたチームと探知機器をつねに備えており、核脅迫事件を捜査するFBIを支援する。組織の全容はベールに包まれているが、その能力は、情報、捜査、安全確保、被害最小化、医療など多岐にわたる。NESTの中の核科学者、放射線技術者、通信専門家からなる少人数の捜査班は、空軍基地内でつねに緊急出動態勢を維持している。アメリカ国内だけではなく、要請があれば海外にも出動する用意があるということだ。
アメリカでは核による脅迫事件は年に五、六件あり、NESTは過去百回以上出動準備態勢をとったといわれる。多くはいたずらで核兵器を所持していたケースはなかったが、本物の核物質による脅しはあった。エネルギー省には、放射線緊急事態に対応する組織がNESTを含めて七つある。事故、盗難などの犯罪、輸送などの担当に分かれ、年間総予算は約七千八百万ドル。うち約
l千万ドルがNESTの予算とされる。
以上、テロに使用できる核兵器の入手法について述べてきた。原子爆弾の製造には原子炉工学、原子核物理学、原子核理論、高温物理学、高圧物理学などの専門知識が必要とされる。
ここまで手間とカネをかけられないのならば、はるかに低予算で大量に製造できる毒ガスの使用はどうだろうか。オウムが使ったサリンのような高度なものでなくても、ナチスがユダヤ人虐殺に使用した青酸ガスなら青酸と濃硫酸があればごく簡単に製造できる。硫酸はそこらの車のバッテリーを抜いて煮詰めれば製造できるし、青酸もメッキ工場などから比較的容易に盗み出すことができる。
テロとは相手を脅迫して屈服させ要求を通す手段である。敵が屈服するのであれば、何も大都市の真ん中で原爆を爆発させる必要はない。相手を屈服させるには与える恐怖が大きければ大きいほど効果的だ。その意味で原子爆弾や放射能は相手に恐怖を感じさせる、脅迫には最適のアイテムなのだ。
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