フォークゲリラ冊子集前書き
北のりゆき
はじめに
この文は、
1999年に冥土出版が発行した『フォークゲリラ冊子集』の前書きです。この冊子は遊撃インターネットでも通販をしています。 遊撃インターネットに戻るはじめに
この本は『フォークゲリラ』の集会で配られた冊子を合本したものです。『フォークゲリラ』とは、1968年末から70年にかけて主に高校生や予備校生らにより自然発生的に生まれた反体制的なプロテストソングを歌う集団を指します。べ平連といわれる反戦市民運動系の人たちが中心となったようです。
新宿駅の『西口広場』がフォークゲリラのメッカとなり、週末には数千人の若者が集まり反戦歌などを合唱しました。しかし、そのような自由で反体制的な集会を権力が見逃すはずもなく「西口広場は広場ではなく通路であるから道路交通法に抵触する」という口実で弾圧を加え、ギターを持って歌を歌っていただけの人が機動隊に現行犯逮捕されたり、令状逮捕までありました。
『フォークゲリラ』は自由な集会だったので反戦運動などの経験がないプロテストソングなども知らない人たちも参加しました。そのためフォークゲリラの歌を集めた歌詞集が手作りされ、配られたり販売されたりしました。集会が終わったら捨てられてしまったものが大部分だったと思いますが、フォークゲリラ集会に実際に参加し現在まで保存していた方に資料として提供していただくことができました。
以下の文はこの資料を提供して下さった
Tさん(匿名希望)からいただいた説明です。---------------------------------------------------------------------------------
69年当時、全国の多くの都市の街頭で無許可の定例フォーク集会が開かれており、それらはみなフォーク集会ないしはフォークゲリラと呼ばれていました。無許可で、時には警察の弾圧を受けつつやるから「ゲリラ」という名が付くわけです。この歌集は、名古屋の中心街の「栄」という所で毎週土曜の夕方に開かれていた集会で販売されていたものです(ちなみに当時私は高校1年生でした)。場所はバスターミナルの近くの舗道が広くなっている所で、法律上は「道路」扱いの場所ですから当然無許可で、毎回のように警察とトラブルがあり、トラブルの結果、集団で歌いながら別の場所へ移動、という事もあったと記憶しています。
私も当時は年少の一参加者にすぎなかったので、あの集会の全体像はわかりませんが(以下は昔の記憶のみに頼って書きますので、あるいは事実と違っているかもしれません)、「歌集」は主催者による製作・販売であるとは限らず、参加者が勝手に作って集会の場で販売するというケースが多かったと思います。主催者の了解なしにそういうことをするのは全く自由、という雰囲気でした。主催者というのも輪郭がはっきりしない集団で、「栄フォークゲリラ」と名乗っていたような記憶がありますが、はっきりとはおぼえていません。その中の一部は高校生で、赤軍派に加入して名古屋市内の交番に火炎瓶を投げて逮捕されたメンバーが含まれていました。2年後に連合赤軍による浅間山荘事件がおこり、浅間山荘で逮捕されたメンバーの中に名古屋の東海高校(私立高校で、生徒によるストライキもありました)の卒業生がいましたが、あるいはこの時のメンバーと重なっているのではないかと思います。
集会は、多くの人が知っている歌を参加者全員で4〜5曲歌い、次にギターを持ったメンバーの一人が即興的な弾き語りをして、その時には集まった人々は聞き役にまわり、拍手で反応する、という形だったと記憶します。毎週定例で行われるので、闘争中の各大学・高校の情報交換をしたり知り合いと出会う場所でもあり、闘争カンパを集める人もいました。
このように各都市で行われたフォーク集会ないしフォークゲリラは、東京の新宿西口のフォークゲリラの影響で始まったのですが、こんどはこれらの集会に影響されて、各大学や高校で、広場等で数人がいきなりギターを弾いて歌い始め、たちまち人垣ができて合唱になり、それが定例となるとどこからか歌集も出現する、というパターンが至るところで見られました。それらはおおむねフォーク集会と呼ばれていました。私の出身校(愛知の県立高校)でもそれがありました。ですから、ガリ版刷りのフォーク歌集というのは当時は至る所で見かけられたもので、私も数冊持っているのですが、たいていは歌詞だけのもので、楽譜がついているのはお送りするこれだけです。
さらに蛇足ですが、手作りの「歌集」文化というのは、全共闘運動の終焉以後も続き、80年代の半ば、カラオケが普及するに至って終わりました。大学のコンパや高校の修学旅行の前には「歌集」を製作・印刷するのが幹事役の仕事のひとつだったのです。
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このフォークゲリラ歌集は、当時の雰囲気を知る上でも、また今は無きガリ刷り文化の遺産としても極めて貴重な資料であると考え、今回復刻させてもらうことにしました。原版は一冊20ページ程度の小冊子のため、4冊収録し合本としました。できるだけ原版に近い形で収録するようにつとめましたので修正や再編集は最小限にとどめました。そのため字がかすれて読めない部分や、重複して収録した曲がいくつかあります。ご了承下さい。
遊撃隊/冥土出版は、今後も貴重資料を発掘・復刻する予定です。ご期待下さい。
1999年8月 通信販売ページ(カートあり)