ブービートラップ前書き
北のりゆき
はじめに
この文は、93年8月に冥土出版が発行した冊子『ブービートラップ』の前書きです。
2004年にオフセット版を再発行しました。通信販売カタログから購入できます。 遊撃インターネットに戻る訳者序言
本書は、1965年にアメリカ陸軍が発行した『FM5−31 BOOBY−TRAPS』(フィールドマニュアル5−31 ブービートラップス)の翻訳版である。原版は、全一冊で132ページのものであるが、日本語版では二冊に分け、下巻に参考文献を収録することとした。
数ある兵器の中でも、ブービートラップはかなり特殊なものといえるだろう。しかし、アングラ文献のメッカともいえるアメリカでは、通常の爆発物を解説したものよりも数多くのブービートラップに関する本が発行されている。やはりブービートラップの持つ意外性やアイディアが、おもしろく感じさせるからであろう。本書には基礎的なアイディアが主だが、奸知に長けた、まさに殺人芸術といえるようなものも多い。ブービートラップに引っ掛かると、たとえ被害が小さくても過大な心理的衝撃を受けることが知られている。最も卑劣であり、やってはならないとされる「ワナに掛けて人を殺傷する」という事を、淡々と無機質に述べている点が、本書の興味深いところだろう。
狩りに使用するワナという形で、有史以前からブービートラップは存在した。しかし、最初に戦争に大規模に使用したのは、第二次世界大戦時のドイツ軍であるといわれている。バトル オブ ブリテンの際には、オモチャやお菓子に偽装した爆弾を飛行機からイギリス本土に大量にばらまき、多くの犠牲者を出している。地上作戦に使用されたブービートラップは、ロンメルのアフリカ軍団により大いに発展させられた。ブービートラップを含む極めて巧妙な地雷原は、ロンメル自身により『悪魔の園』と呼ばれ、開けた砂漠地帯を完全に封鎖することに成功したのである。ブービートラップを使用した作戦で最も成功した例は、東部戦線で1943年3月に20日に渡って発動されたルジェフ撤退作戦『水牛』である。25個師団25万人を敵の面前で移動する未曾有の撤退作戦は、特殊訓練を積んだ工兵による徹底したブービートラップの設置により、追撃するソ連軍が大混乱に陥りまんまと成功した。ベトナムでアメリカ軍が解放戦線のブービートラップに苦しめられた例もよく知られている。これらを見ても分かるように、ブービートラップとは本来防御的な兵器である。アメリカ軍がブービートラップを「ダーティートリックデバイス」などと呼ぶのは、圧倒的な物量を誇り、常に敵を攻める側にいる事のできたという歴史性に理由があるのだろう。
本書を翻訳するにあたり、数多くの書籍を参考とした。とりわけ自衛隊の発行した教範や辞典類には多く負った。日本の一般書店で売られている関係書は、遊びの要素が強すぎ、水で薄めたようなものが多くてあまり役に立たなかった。しかし用語などで一部参考にしたものがある。詳しくは文末の参考資料一覧を参照してほしい。
本書内の特殊な軍事用語や名詞は、おおむね自衛隊の教範に従った。しかし、独自に使用したものが若干がある。例えば、『trip wire』という語は陸自教範では『わな線』と訳しているが、本書ではそのまま『トリップワイアー』とした。その他にも、細かい部品の名などは英語をそのままカタカナ表記したものがある。単位は原版のインチ、フィート表示のままとした。この様な本を訳す場合は、実際にブービートラップを扱った者でないと完全な翻訳は不可能であろう。その意味でいくつかの誤訳があるかもしれない。気付かれた点は、奥付の住所までお知らせいただければ幸いである。
下巻は、1993年12月に『TM31−200−1 UNCONVENTIONAL WARFAE DEVICES AND TECHNIQUES(不正規戦の装置と技術)』上巻と2冊同時発行する予定である。期待されたい。
参考資料文献一覧
1.一般に入手可能なもの(絶版書も含む)
*殺人者の科学 作品社
*ザ・殺人術 第三書館
*中国軍事教本 龍渓書舎
2.通常入手困難なもの
*野戦築城第3部(陸自教範7−04−11−52−2) 陸上幕僚監部
*米和軍用語辞典 陸上幕僚監部
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