はじめに
この記事は、データハウスから発行される『危ない28号 2』に載せてもらう予定で書いたものです。もうじき出版されると思いますので書店で見かけたら読んでみてください。
ばくだんガーデニング入門
北のりゆき
自衛のため自宅や仕事場に爆弾を仕掛けてみたらどうでしょうか。
アメリカでは、ガーデニングされた爆弾に対抗するマニュアルを警察が発行しています。ブービートラップ(仕掛けわな)を仕掛けるのは、もちろん普通の家や職場ではありません。そこはマリファナを栽培する農地だったり、麻薬を製造するラボだったりするワケです。そんな場所に爆弾を仕掛けて、踏み込んできた捜査官を殺したり怪我でもさせたらかえってヤバイのではないか。罪の上に罪を重ね、逮捕されたら重刑になってしまうのではと思うのですが、アメリカの犯罪者は攻撃的でそんなことに頓着しません。このアメリカ警察内部マニュアルを参考に、爆弾ガーデニングについて勉強しましょう。
爆弾ガーデニングの目的は、敵の接近を警報すること、接近を妨害すること、傷害を負わせたり殺すことです。爆弾でケーサツを混乱させ、時間を稼いで逃走するわけです。自宅や仕事場に押しかけて、手塩にかけて育てたマリファナくんや苦労して作った麻薬くんを奪ったうえ、拉致監禁をしようというのですから自衛しなければならないということでしょう。
このたぐいのガーデニングには、主に爆弾を使用します。どこでどうやって手に入れるのか、既製の手榴弾を使うことが多いようです。他にも自作のパイプ爆弾や地雷、焼夷装置も利用できますし、地雷の代用に地面に弾丸を固定したり、ピストルなどの小火器を仕掛けることもあります。
重要なのは、ブービートラップの起動方法です。主に5種類の方法で爆発させたり弾丸を発射させたりします。一番多いのは「引っ張りトリップワイアー」です。わな線を伸ばし、侵入者がそれに引っかかるとブービートラップが起動して大怪我をするというわけです。逆にピンと張ったわな線をはずすと起動する「解放トリップワイアー」もあります。地雷のように圧力をかけることで起動する「圧力トラップ」は最も基本的なものです。反対に、置いてあるものを持ち上げることで爆発する「圧力解放トラップ」もあります。これはねずみ捕り用パチンコ罠を利用すれば簡単に作ることができます。最後は振動によって起動するトラップです。
ブービートラップで重要なのは、敵を引っ掛けるわな線です。長い間に腐食して切れてしまったり、肝心なときに敵に発見されてしまっては何の意味もありません。カーキ色に着色した軍用トリップワイアーが手に入れば最良ですが、釣り用のフライラインが代用できます。同じ釣り糸でもナイロンのものは光を反射して簡単に発見されてしまうので適当ではありません。
爆薬や焼夷材は、軍用のものやアメリカでは容易に買える銃用火薬、その他さまざまな薬品を使用できます。警察マニュアルでは代表的なものを13種類あげています。
1.アセトアルデヒド 2.塩化アリル 3.アンモニア 4.ベンゼン 5.ブチルアミン 6.二流化炭素 7.エーテル 8.臭化フェニルマグネシウム 9.水素 10.オキシラミン 11.水酸化リチウムアルミニウム 12.過塩素酸 13.硝酸トリウム
この中ではエーテルが特に危険とされ、煙が立ったら爆発する恐れがあるのですぐに避難しなければなりません。エーテルを入れた容器をドアと電熱器の間に置いて、ドアが開いたらこぼれるようにした装置が実際に使用され、ガサ入れの最中に発火して効果をあげたということです。
もちろん爆弾を利用するなどといった大げさな仕掛けを作らなくても、敵を撃退するためのガーデニングは創意と工夫次第で簡単に施すことができます。たとえば毒蛇です。こいつを一匹部屋の中に放しておけば、立派なトラップになるでしょう。「そんなバカな」と言う人がいるかもしれません。でも、警察のマニュアルに書いてあるんだから、実際やったヤツがいるのでしょう。見知らぬ者を襲うように調教した番犬とか、さらに手軽に動物用の罠を部屋や庭に仕掛けてやるという手もあります。目の高さに釣り針を仕掛けるというのもあり、なかなか悪らつだし効果がありそうです。
ブービートラップの設置位置は、人間の習慣、好奇心、欲望が利用できる、実際に引っかかりやすい場所や物を選ぶのがポイントです。人間は習慣的にドアを開けたり電灯をつけたり受話器を取り上げたりします。このような習慣を利用するわけです。また、人間は好奇心を持っているものなので、この心理を利用して書類や珍しい物品にブービートラップを仕掛けます。貴重品などを置いた欲望を刺激するような場所に仕掛けるのも効果的でしょう。自衛のための爆弾ガーデニングの場合は、ターゲットは踏み込んできてあちこちを調べて回る捜査官が主です。そこで、わざと調べられそうな目を引くポイントを作り、ブービートラップを仕掛けてやるのもひとつの手でしょう。
警察マニュアルを眺めると、さまざまなブービートラップや武器が図解されています。粗末な代用品を使って、軍用の装置とそう違わないものができてしまうのには驚きです。たとえば地雷の発火装置の代用品は、缶詰のフタがあれば簡単に作ることができます。缶切りで完全に開けた缶詰のフタを2枚用意します。それぞれのフタにプラスとマイナスの電線をとりつけ、間に絶縁体として紙ヤスリをはさんで重ねます。これだけで完成です。誰かがこの缶詰のフタを踏みつけると、缶切りで開けたギザギザの切り口が絶縁体の紙ヤスリを破ってもう一方のフタに接触し通電して起爆します。他にもあります。雷管に当たるように底に撃針をつけた小さな筒の中に小銃弾を弾頭だけ出るようにして入れます。これで超小型地雷の完成です。弾頭だけ出るように地面に埋め、誰かが踏めば弾丸が発射され足を撃ち抜きます。まったく犯罪者の英知(?)には感心させられます。
このような装置を見ると、ベトナム戦争当時にアメリカ軍が発行した特殊武器マニュアルとよく似ていることに気がつきます。ほとんど真似といってもいいくらいです。ベトナム戦争でゲリラ戦に引きずり込まれたアメリカ軍が、ベトコンに習う形で覚えていった自製武器に瓜ふたつなのです。おそらく爆弾ガーデニングを作っているマリファナ栽培者や麻薬製造者は、ベトナム戦争でゲリラ戦をたたかった「ベトナム帰り」の人も多いのでしょう。そういえば、議会で認められない特殊活動の資金を集めるためCIAが麻薬取引に関与して米兵に麻薬を売りさばいたのが、アメリカで麻薬が流行るきっかけのひとつとなったといわれています。
警察や秩序派の立場からすれば、戦争なんてするもんじゃないといったところでしょうか。
遊撃隊TOP