認知意味論に基づく重複形容詞の分析
 高見澤孟先生古希記念論文集 所収

【キーワード】重複形容詞 派生元 中心義 転義 有契性

はじめに
 本論文は、認知意味論、特に認識の三角形(メタファー・メトニミー・シネクドキ)による意義展開の理論を元に、現代日本語の重複形容詞を分析・考察する。
 1では、重複形容詞を定義し、このカテゴリー成員と派生元の語を挙げる。
 2では、先行研究を概観する。
 3では、上記カテゴリーから選択された重複形容詞を意味の観点から再分類し、特に単独形容詞(注1)を派生元とする重複形容詞の多くは派生元である単語の中心義からの派生ではなく、転義からの派生であることを検証する。同時に、畳語の動機づけに「比喩性」を加えることを主張する。
 4は、まとめである。
 なお本稿における「中心義」とは、瀬戸(2001)、小森(2002)らが提唱する共時的な意味ネットワークの中心であり、母語話者の頭の中で中心的であると見られる意義である。中心義は他の意義を理解する上での前提となり、具体性が高く、認知されやすい意義であり、古義とは異なる場合もある。

1 重複形容詞の定義と分類
 日本語の形容詞には、たとえば「たどたどしい」のように、「しい」の前に同語の反復、いわゆる畳語を伴うものがあり、重複形容詞と呼称される。この形容詞のカテゴリーには、「寒々しい」のように反復時に連濁が生じるものも含み、かつ反復される当該の語が自立語として認識しうるかどうかは問わない。
 上の定義に従うと、現代日本語における重複形容詞のカテゴリー成員は、表1に示す45語である。作成にあたっては、「日本国語大辞典」「広辞苑」「逆引き広辞苑」「大辞林」および奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科自然言語処理学講座が作成した日本語形態素解析ソフトウェア「茶筅」を利用した。(注2)
 成員の決定に際しては、上記の辞典において、文語である旨が記載されているものは、原則としてこれを省いた。また「ずうずうしい」に卑しめの意を示す接頭辞「いけ」が付いた「いけずうずうしい」は省き、「はかばかしい」に関しては大辞林にある「現代語ではふつう舌に打ち消しの言い方を伴う」を尊重して、これを成員に含めた(注3)。
 また重複形容詞は単語Aの反復から生じた派生型の形容詞であるから、すべての重複形容詞には派生元の語Aが存在する。これは表1の( )内に記載した。派生元の決定に当たっては上に挙げた国語辞典に加えて吉田(編)(2000)および飛田・浅田(1991)を援用した。なお、派生元の語は語根とせず、単語とした。。

表1 派生元の品詞の別による現代日本語の重複形容詞

@派生元が名詞または形容動詞であるもの(25語)※(  )は派生元の語および読み方以下同様

ういういしい(初:うい)  うやうやしい(礼:うや) おおしい(雄:お)
かいがいしい(甲斐:かい)  ぎょうぎょうしい(仰:ぎゃう) しらじらしい(白:しろ)   
すがすがしい(清:すが) そうぞうしい(忽々:さうさう) そらぞらしい(空」そら)
どくどくしい(毒:どく) とげとげしい(刺:とげ) なまなましい(生:なま)
はかばかしい(量:はか) ばかばかしい(ばか) はなばなしい(花:はな)
ふくぶくしい(福:ふく) まがまがしい(禍:まが) まめまめしい(豆:まめ)
みずみずしい(瑞:みず) めめしい(女:め) ものものしい(物:もの)
よそよそしい(よそ) ゆゆしい(斎:ゆ) りりしい(凛凛:りんりん)
れいれいしい(麗:れい)

A派生元が動詞であるもの(4語)

いまいましい(忌む)     おどろおどろしい(驚く)    なれなれしい(馴れる)    
にぎにぎしい(賑わう)  

B派生元が形容詞であるもの(16語)

あらあらしい(荒し)    いたいたしい(痛し)     おもおもしい(重し)   
かるがるしい(軽し) けばけばしい(けはけはし) こうごうしい(神々し)
さむざむしい(寒し) ずうずうしい(図太し) たけだけしい(猛し)
たどたどしい(たづたづし) ながながしい(長し) にがにがしい(苦し)
にくにくしい(憎し) ふてぶてしい(太し) よわよわしい(弱し)
わかわかしい(若し)

2 先行研究
 重複形容詞の意味を扱った研究は、筆者が渉猟した限り、国立国語研究所(1972)のみである。国立国語研究所(ibid.)では、「ながながしい」と「ながい」の対立などを例示して、重複形容詞が単独形容詞と比して「主観的な実感性」によって区別される、としている。(注4)
 また重複形容詞の音韻上の研究としては、古語におけるシク活用について例証したものとして蜂矢(1981)および畳語における連濁についての原口(2000)の論考がある。
 一方、認知言語学のカテゴリー研究を踏まえて形容詞の考察を行ったものに上原(2002)があり、カテゴリーがその構造を有するには何らかの理由・動機が存在するという、「カテゴリーの有契性」を前提とする点で、本稿と共通性を持つ。

3 重複形容詞の意味分析
3.1 意味分析の前提
 日本語の形容詞は、歴史的に連用形が「〜く」となるク活用(第一種活用)と、「〜しく」あるいは「〜じく」となるシク活用(第二種活用)に分類されてきた。(注5)
 重複形容詞はすべてシク活用の形式であり、山本(1955)などの考察にある通り、シク活用の形容詞には心の動きを表すもの、つまり感情形容詞が多く、「大辞林」では接尾語「しい」を定義して『そういうさまである、そう感じられる、という意を表す』としている。(注6)
 上記の説明に従う限り、重複形容詞の意味は、たとえば「凛々しい」が「凛とした様子が感じられる、きりりとひきしまっていて勇ましい感じである」であるように、「反復される語Aの中心義である様子が話者に感じられる意味になる」という推論が成立する。しかし実際は、その例は上記「りりしい」を含めて14語で、全体の3割程度に過ぎない。特に派生元の語が単独形容詞である場合、上記の説明に合致する例はない。本稿では上記の意味のみを有する重複形容詞を、意味分類上、カテゴリーAの重複形容詞と呼称する。
 残りの重複形容詞は、以下のカテゴリーに分類可能である。
 一つは上記の意も有するが、「語Aの転義の意がそのように感じられる」意も有するものである。たとえば「重々しい」は「何かが物理的に重い様子を感じさせる」意と共に「落ち着いた態度を感じさせる」「重苦しい様子だ」の意も併せ持つ。これに合致する重複形容詞は9語であり、全体の2割に当たる。本稿では、このように「派生元の語の中心義と転義の双方の意味を話者に感じさせる」意である重複形容詞を、意味分類上、カテゴリーBの重複形容詞と呼称する。
 もう一つは上記の意は有さず、「語Aの転義の意がそのように感じられる」意のみを有するものである。たとえば「軽々しい」は「何かが物理的に軽い様子を感じさせる」意はなく、「考えが浅い様子を感じさせる」「軽はずみな様子だ」の意しか持たない。これに合致する重複形容詞は22語であり、全体の約半数に当たる。(注7)本稿では、このように「転義の意味のみを話者に感じさせる」意である重複形容詞を、意味分類上、カテゴリーCの重複形容詞と呼称する。
 以上の観点から、表1で示した現代日本語の重複形容詞を再分類すると、表2の通りになる。

表2 意味分析から分類した現代日本語の重複形容詞

@派生元の語の中心義のみが重複形容詞の意味になっているもの(14語)

うやうやしい    こうごうしい    ずうずうしい    すがすがしい   
そうぞうしい にぎにぎしい にくにくしい はかばかしい
ばかばかしい まがまがしい まめまめしい りりしい
れいれいしい わかわかしい

A派生元の語の中心義・転義の両方が重複形容詞の意味になっているもの(9語)

いたいたしい   
おもおもしい    さむざむしい    たけだけしい   
たどたどしい とげとげしい どくどくしい ながながしい
よわよわしい

B派生元の語の転義のみが重複形容詞の意味になっているもの(22語)

あらあらしい   いまいましい    ういういしい    おおしい    
おどろおどろしい かいがいしい かるがるしい ぎょうぎょうしい
けばけばしい しらじらしい そらぞらしい なまなましい
なれなれしい にがにがしい はなばなしい ふくぶくしい
ふてぶてしい みずみずしい めめしい ものものしい
ゆゆしい よそよそしい

 次節では、各カテゴリーの重複形容詞が派生元の中心義・転義といかなる関係を有するかについて詳述する。転義については、メタファー(類似性にもとづく転義)、メトニミー(時間や空間などの近接性にもとづく転義、いわば現実世界における意味の横滑り)、シネクドキ(カテゴリーの類と種の入れ替えにもとづく転義)の3分類から分析する。

3.2 カテゴリーAの意味分
 カテゴリーAの重複形容詞は派生元の中心義をそのまま踏襲して、「いかにもそのように感じられる」意を示す。これは国立国語研究所(ibid.)にある通り、その感じられ方が実感性を帯びていることを示すが、筆者は語の反復が意味の強調によって動機づけられている点を指摘したい。
 いわゆる畳語の意味の一つに強調があることは「日本国語大辞典」に示されているが、さらにこれを示す論拠として、カテゴリーAの重複形容詞が、新たに強調を示す副詞とは共起しにくいことが挙げられる。たとえばgoogleの検索では「憎々しい」が用いられているサイトは約37,600件に上るが、「とても憎々しい」はそのうちわずか10例に過ぎない。これはすべてに合致する例ではないが「はかばかしい」「禍々しい」などに顕著である。

3.3 カテゴリーBの意味分析
 カテゴリーBの重複形容詞は「派生元の語の中心義、転義の双方の意が話者に感じられる」という意味を有する。分析に当たって参照した資料は3.1の通りである。
 たとえば「寒々しい」は、形容詞「寒い」を派生元とし、これを重ねて重複形容詞にしたものである。「寒い」は「気温が低いために皮膚に不快な刺激を感じる」意であり、寒々しいは「いかにも寒そうな感じである」の意で用いられるが、同時に「取り立てて評価すべきものが見られない」意にも用いられる。これは季節が冬に向かうと、木の葉や草が枯れ果て、視界に入る目立つものが少なくなることを身体経験とする転義である(原因で結果を示すメトニミー)。(注8)
 以下は上記を図示したものである

寒々しい

寒々しい冬の夕方 ←寒し:気温が低いために皮膚に不快な刺激を感じる 

メトニミー
(原因で結果)

見るべきものがない 
(例)ひとり者の
寒々しい部屋

 以下、カテゴリーCに属する重複形容詞の意味分析を図示する。例文は主に「大辞林」および飛田・浅田(2000)から検索した(一部改)。

痛々しい

松葉杖で歩く様が痛々しかった。←痛し:肉体的に苦しい、苦痛を感じる 

メトニミー
(原因で結果)

かわいそうな 
(例)子どもたちの手足は
痛々しいほど細かった。

重々しい

重々しい鉄の扉 ← 重し:目方が多い。そう感じられる 

メタファー
(特性類似)

いかにも威厳がある
(例)遺言を読み上げる彼女の口調は
重々しかった

猛々しい

アイヌ犬は猛々しい気性だ。 ← 猛し:勇猛で強い

メトニミー(原因で結果)

無遠慮で図々しい (例)盗人猛々しいとはお前のことだ。

たどたどしい

老人はたどたどしい足取りで歩いた。← たづたづし:足取りがおぼつかない

シネクドキ
(種で類)

行為が遅く、不確実だ 
(例)彼女の英会話はまだ
たどたどしい

毒々しい

毒々しい色のキノコ ← 毒:生体、特に人体に有害な物質

メタファー
(特性類似)

派手でけばけばしい 
(例)彼女の化粧はいつも
毒々しい

メタファー
(機能類似)

悪意を含んでいる様子だ 
(例)彼女は
毒々しい言葉を投げつけた。

刺々しい

刺々しい木を差し込んだ花瓶 ←刺:植物の体表にある尖った針状の固い突起物

メタファー
(特性類似)

刺激的で不快な様子だ 
(例)
刺々しい顔つきで子どもを叱る。

長々し

長々しい説明書 ← 長し:ある点からある点までの空間的な隔たりが大きい 

メタファー
(特性類似

時間がかかる 
(例)彼は遅刻の理由を
長々しく弁解した。

※国立国語研究所 (ibid.)ではまれな用法としている。

弱々しい

日本の選手は外国選手に比べて弱々しく見える。← 弱い:力や勢いがない

メタファー
(特性類似)

気持ちに勢いがない、困っている 
(例)彼は
弱々しい声でつぶやいた。

3.4 カテゴリーCの意味分析
 カテゴリーCの重複形容詞は、派生元の語の転義の意のみが話者に感じられる、という意味を有する。分析に当たって参照した資料は3.1の通りである。
 たとえば「初々しい」は、名詞「うひ」を派生元とし、これを重ねて重複形容詞にしたものである。「うひ」は生まれたて」の意であるが、「初々しい」は「いかにも生まれたてのように感じられる」の意ではなく、「「世慣れ、世間ずれしておらず。気恥ずかしそうにしているように感じられる」意である。これはコトを時間軸の上で表した場合、生命の始まりとコトの始まりが特性的な類似を持つこと(メタファー)が転義の動機付けであり、さらに物事が初めての場合、それに慣れないうちは気恥ずかしさを感じること(原因で結果を示すメトニミー)が転義の動機付けとなる。
 以下は上記を図示したものである。

初々しい

初(うひ):生まれたての

メタファー
(特性類似)

初めての  
(例)新入生の
初々しいランドセル姿が目に浮かびます。

メトニミー
(原因で結果)

世慣れない 
(例)彼女たちの
初々しい態度が、私達を刺激してくれました。

 以下、カテゴリーCに属する重複形容詞の意味分析を図示する。例文は主に「大辞林」および飛田・浅田(2000)から検索した(一部改)。

荒々しい

荒し(あらし):勢いが強く激しい

メタファー
(特性類似)

行為や態度が乱暴・粗雑である 
(例)
荒々しく床を踏みならす。

→風景を性格に写像したメタファー。天候→感情のメタファー(彼は低気圧だ)も類例。

忌々しい

忌む(いむ):禁忌だから口にしない、触れないなどとして避ける

メトニミー(原因で結果)

悔しく腹ただしい (例)あんな男に騙されるなんて忌々しいったらありゃしない。

→禁忌にふれる縁起の悪さが原因で対照への嫌悪、不快という結果を生じせしめる。

雄々しい

雄(を):男

メトニミー
(もので特性)

勇ましい   
(例)その雄々しい戦いぶりは人々を感服させた。

おどろおどろしい

おどろく:はっとする、びっくりする

メトニミー
(結果で原因)

不気味で異様だ   
(例)その小説は
おどろおどろしい印象を与える。

甲斐甲斐しい

甲斐(かひ):努力の結果としての効果

メトニミー
(結果で原因)

てきぱきと勢いがある 
(例)彼女は
甲斐甲斐しく病人の世話を焼く。

軽々しい

軽し(かろし):目方が少ない

メタファー
(特性類似)

思慮が足りず、軽率である 
(例)
軽々しい行動はつつしんで欲しい。

仰々しい

仰(ぎゃう):上を向くこと

メトニミー
(結果で原因)

おおげさな   
(例)歓迎式は場違いなほど
仰々しかった

けばけばしい

けはけはし:人目に立つ、きわだっている

メトニミー
(原因で結果)

派手すぎて品がない、どぎつい 
(例)
けばけばしい色の服を着ている人。

白々しい

白(しろ):太陽光線をすべて反射したときのような色。雪のような色。

メタファー
(特性類似)

真実でないことが見え透いている 
(例)容疑者は
白々しい嘘をついた。

生々しい

生(なま):火を通して加工していないこと。

メトニミー
(特性類似)

その場にいるような、臨場感ある
(例)洪水の
生々しい傷跡。

馴れ馴れしい

馴れる(なれる):経験の結果、それを当然と受け止めるようになる

メトニミー
(原因で結果)

不快なほど親しく振る舞う様子だ
(例)彼は誰にでも
馴れ馴れしい口を利く。

苦々しい

苦し(にがし):舌にいやな味を感じる

メトニミー
(原因で結果)

非常に不愉快だ  
(例)娘の話を父は
苦々しく思った。

華々しい

花(はな):種子植物の有性生殖に関わる器官の総体

メタファー
(特性類似)

言動が派手で人目を引く   
(例)新人歌手が
華々しくデビューした。

福々しい

福(ふく):幸い、幸せ、幸運

シネクドキ(類で種)

頬が柔らかくふくらんでいて満ち足りている(例)福々しい笑顔。

ふてぶてしい

太し(ふとし):棒状、ひも状のものの差し渡しが大きい。

メタファー
(特性類似)

非を認めずに平然としている   
(例)彼は
ふてぶてしく開き直った。

→モノの太さが心根の太さに写像された例。類例は「線が太い(細い)」「ふてえ野郎だ。」

瑞々しい

水(みず):酸素と水素の化合物で無色、無味、無臭の物質。

メトニミー
(原因で結果)

水分を含んで新鮮な   
(例)畑で摘んだ
瑞々しい青菜を茹でた。

メタファー
(特性類似)

感覚が新鮮で美しい   
(例)その詩は
瑞々しい感覚に溢れている

→上記メタファーはメトニミーからの転義で、モノから感覚への写像。

女々しい

女(め):おんな、女性。

メタファー
(特性類似)

(男が)勇気に欠け、思い切りが悪い 
(例)男が泣くのは
女々しいものだ。

物々しい

物:形があり、存在が関知できる対象。

シネクドキ
(類で種)

いかにも重大で深刻そうだ   
(例)会場には
物々しい警備体制が敷かれた。

→「物」が「大層な物事」へ特定の種に変換されたシネクドキ。類例「不幸を物ともしない」

よそよそしい

よそ:他のところ、別の場所

メトニミー
(もので特性)

うちとけず、親しみを見せない様子だ
(例)彼女は妙に
よそよそしかった

3.5 反復の有契性
 上記のような分析結果からは、重複形容詞において、なぜカテゴリーB、Cが優勢であるか、という疑問が生じる。以下の推論から、そのうちのいくつかは説明可能である。
 まず、派生元の中心義が5感で即座に認知できる場合は、「いかにも?のようだ」と推論する必要はない。たとえば「白々しい」の派生元「白」は視覚で認知可能であるから、「いかにも白く感じられる」は意味をなさない。(注9)
 また派遣元の語の通事的な意味変化から、説明可能な例もある。たとえば「忌々しい」は、古義では派生元の「忌む」をそのままタイプAのように踏襲した「はばかり、遠慮するべきである(大辞林)」の意味であったが、現代語ではこの意味はもう持たず、タイプCのカテゴリーに入る。
 しかしながら、上記2点の説明でも、説明不可能な重複形容詞は残る。たとえば「重々しい(カテゴリーB)扉」はありえるが「*軽々しい扉」はなぜ言えないのか、説明不可能である。
 筆者はこの解答として、反復の動機付けに、比喩性が存在しうるという仮説を提示する。同語の反復による畳語がその構造を持つには、意味機能の上で存在する理由や動機があり、これは認知言語学では言語形式一般の「有契性」を示す。(注10)「日本国語大辞典」では、畳語は「語の意味を強めたり、事物の複数、動作・状態の反復・継続などを示したりする」と挙げられている。以下はgoogleから渉猟したそれぞれの例文である。
(ア)山田さん、待って待って!(強調)
(イ)インドネシアは大小約13,700の島々からなる。(複数)
(ウ)彼らはたびたびその店に立ち寄る。(反復)
(エ)それを食べ食べ、ブログを書く幸せ。(継続)
 上記の動機だけでは説明が困難な反復のグループは、いわゆるオノマトペ(擬音語・擬態語)である。重複形容詞にも古語の「つやつやしい」「くどくどしい」などオノマトペを派生元とするものが見られる。芋坂(編)(1999)にあるとおり、オノマトペは言語音が感性フィルターを通って音や様態を示したものであり、広義の比喩である。
 田守・スコウラップ(1999)は、オノマトペにおける反復は用いられる音が現実の自然界に間接的、比喩的に近づこうとした結果であることを述べているが、筆者はこれを含め、反復そのものが「まるで?であるかのようだ」と比喩をしめす意図に動機づけられていると考える。これは本来、限定された言語音という記号体系で、あらゆる事物とその関係を描写しなければならない人間の必然的な工夫であろう。いわゆるトートロジーが意味の再確認を目して用いられるように、反復は冗長さをつきまとわせながらも、敢えてひとつの語を繰り返すことによって説得力を増し「まるで?であるかのようだ」という比喩的な実感を話し手。聞き手に付与するものだと言える。現代日本語でも、反復が比喩・強調のいずれにも取れる例として、「あの人は若いくせにおばさんおばさんしている」などの例が観察できる。この仮説に関しては派生先の意味変化や変遷と共に、通事的により深く考察すべきであろう。

4 まとめ
 本稿ではあまり省みられなかった重複形容詞の意味機能を派生元の語から再分類し、それらがメタファー、メトニミー、シネクドキのいわゆる「認識の三角形」によって転義した例と重複形容詞の関連を考察した。合わせてタイプB、Cの重複形容詞群がなぜ派生元の中心義からの派生を行わないかについて、反復の比喩性という試問を提示して説明を試みた。
 今後は上記の試問をより詳細に検証しつつ、反復(reduplication)の動機付けをオノマトペとの関連および他言語との比較・対照から探りたい。


1)「単独形容詞」を、蜂谷(1981)は重複形容詞との対照における仮称としているが、吉田(1999)もこれを採用している。
2)「茶筅」の概要については http://chasen.naist.jp/hiki/ChaSen/ を参照のこと
3)現代語に含めなかった重複形容詞は以下の20語である。うだうだしい、うとうとしい、かどかどしい、くだくだしい、くどくどしい、けいげいしい、ことごとしい、こまごましい、さえざえしい、すきずきしい、すねすねしい、ちょうじょうしい、つやつやしい、はればれしい、びびしい、ふさふさしい、ほねぼねしい、まざまざしい、まましい、やつやつしい。
4)ただし国立国語研究所(ibid.)は重複形容詞・単独形容詞という用語は採用していない。
5)現代語では「楽しい」「悲しい」など形容詞「〜シイ」の語尾「シ」は語幹の一部とし、形容詞の活用は1種類としている。
6)山口(1971)、慶野(1976)は個々の観点からこれに異を唱えている。また吉田(編)(2000)は「甲斐甲斐しい」をク活用語としており、山崎(1984)が述べる名詞性形容詞の分類を参照したとも考えられるが、筆者は誤記の可能性を採る。
7)「生々しい」「馴れ馴れしい」「忌々しい」「白々しい」に関しては派生元の語の中心義を感じさせる意もあるが、現代日本語ではすでに使われていないことを考慮し、このカテゴリーに含めた。
8)気温の低さが景色の際だちと反比例する言語的例証には「荒涼」「寒村」などがある。また「寒い」には視界の際だちと物事の際だちの間にある類似性により(特性類似のメタファー)「お寒い陣容」といった用法も見られる。
(9)類例として、形容動詞「きれい」は、伝聞以外では「きれいそうだ」が成立しないことが挙げられる。
10)これと対立する言語理論は言語形式の「絶対予測性(absolute predictability)」や「自立性(autonomy)」である。詳細は Langacker(1991)およびTaylor(1989)を参照のこと。

分析および分類に使用した国語辞典
 『広辞苑 第五版』(1998)岩波書店
 『逆引き広辞苑』(1992)岩波書店
 『大辞林 第二版』(1999)三省堂
 『日本国語大辞典 第二版』(2001)小学館

参考文献
 蜂谷真郷(1981)「重複形容詞の構成」『同志社国文学』55-67
 原口庄輔(2000)「新・連濁論の試み」『先端的言語理論の構築とその多角的実証』明海大学・平成11年度COE形成基礎研究費研究成果報告.715-732
 飛田良文・浅田秀子(1991)『現代形容詞用法辞典』東京堂出版
 慶野正次(1976)「形容詞ク活用・シク活用の遅速について」『形容詞の研究』笠間書院.3-28
 国立国語研究所(1972)『形容詞の意味・用法の記述的研究』秀英出版.
 小森道彦(2002)「多義語の記述とコロケーション」『英語青年』研究社.44-45.
 Langacker, R. W. (1991)Foundations of Cognitive Grammar, Vol. 2, Descriptive Application, Stanford University Press.
 芋坂直行(編)(1999)『感性のことばを研究する』新曜社.
 瀬戸賢一(2001)「意義関係を記述する」『英語青年』研究社.9-11.
 田守育啓・スコウラップ、ローレンス(1999)『オノマトペ ?形態と意味?』くろしお出版.
 Taylor, J, R. (1989)Linguistic Categorization, Oxford University Press.
 山口佳紀(1971)「シク活用」松村明(編)『日本文法大辞典』明治書院.286-287
 山崎馨(1984)「形容詞とは何か」『研究資料日本文法3』明治書院 
 山本俊英(1955)「形容詞ク活用・シク活用の意味上の相違について」『国語学 第23巻』明治書院.
 吉田金彦(編)(2000)『語源辞典 形容詞編』東京堂出版.
 上原聡(2002)「日本語における語彙のカテゴリー化」大堀壽夫(編)『認知言語学II:カテゴリー化』東京大学出版会.81-103