作品解題
9  Yohey Arakawa: Annotation of My Own Works

9.1 もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら
(クロスカルチャーライブラリー)
 ☆電子版発売中

     
【データ】
2004年5月、スリーエーネットワーク(1,200円+税)。単著。ISBN-4:88319-307-1
【解 説】
 本作はわたしの最初の単著であり、この続編と「とりあえず日本語で」に続く「もしも・3部作」の一作目でもあります。
 前職の国際交流基金から本学のREX研修に至るまで、わたしはこの年代の教員にしては、教師への研修をする機会が多かったように思います。ところが、既に教壇に立っている経験者の (in-service)研修はともかく、これから教えようという(pre-service)教員に対する良い入門書がないことはずっと気にかかっていました。外語大に移って研究の時間がいくらかは取れるようになったので、自分なりの理想の日本語教育入門書ー徹底的に具体的で、読み通すことができ、かつ読み通せば一通りの知識が身に付くものーを書き始めたとき、偶然にもスリーエーネットで当時、営業課長をされていたSさんと知り合う機会ができ、彼に草稿をお見せしたのが、本書誕生のきっかけです。
 幸いにも本書は2012年で9刷を数え、『日本語という外国語』(講談社)と並んで、わたしの著作では最も売れた1冊となり、三部作への扉も開いたものになりました。アマゾンでは今なお日本語教育部門では年に数回、1位を取っていますが、日本語教育関係者には一通り行き渡ったはずの現在、どんな方が読んだり買ったりしてくださっているのかは分かりません。
 定番の教科書『みんなの日本語』を初めとして、生真面目な印象があるスリーエーネットワークが、けっこうお笑いも入っているこの本を出してくださったことは、英断だと思います。また、いまは取締役になられた編集者Nさんに会えたことも貴重な財産でした。
 

9.2 続・もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら
(クロスカルチャーライブラリー) ☆電子版発売中

     
【データ】
2007年4月、スリーエーネットワーク(1,200円+税)。単著。ISBN978-4-88319-424-7
【解 説】
 題名のとおり、前作の続編です。ストーリーもその続きであり、読者対象も日本語教員としてもう少し経験を重ねた人になっています。また、日本語教育の場を国内から海外にも広げ、そこで突然、日本語を教えることになった相馬くん(モデルは元L⇔Rのギタリスト、黒沢秀樹さん)を新しいキャラクターに迎えました(本書がご縁で秀樹さんと知り合い、ライブにも呼んでいただきました。ありがたいことです)。
 もう少し進んだ内容を、ということでテーマには教材論と教授技法の2つを立てました。教材論はこれを書いた当時、大学院でその科目を担当していたので、いわば自分のまとめとして、また教授技法はその必要性に反して資料が少なかったので、それぞれ執筆しておこうと思いました。
 しかし、反省としては、この本は上記のようにマーケティング指向が強すぎたこと、また認知言語学の知見を反映させることができなかったことがあげられます。教材論を書く場合でも、より日本語教育寄り・認知言語学寄り(たとえば東大の近藤安月子先生や明大の姫野伴子先生のようなアプローチ)ができなかったかと思います。
 前著同様、こちらも電子化され、また2012年秋には増刷が決定いたしました。


9.3 日本語という外国語
(講談社現代新書 #2013)


    
【データ】
2009年8月、講談社(740円)。単著。ISBN-13:978-4062880138
【解 説】
 専門出版社ではない、いわゆるメジャーからの唯一の本です。
 もともとは「もしも」第1作を読んだ現代新書の堀沢さんが連絡をくださり、2008年夏から翌年の春にかけて書き下ろしたものです。「もしも」は教育の実践に重きを置いた内容ですが、こちらは音声や文法など、かなり日本語学寄りの中味になっています。
 数作の著作がそれ以前にありましたから文体や提供できるコンテンツについてはある程度の自信はありましたが、メジャーな大出版社の要求は非常に高く、それに応えるプレッシャーは大変でした。書き下ろし中の年末には薬を飲んでも偏頭痛が止まず、それが終わると胃痛、次いで腰痛と経験したことのない不調が襲い、執筆上のストレスを相当味わいました。
 結果として、新書としての螺旋階段状の論旨やクリスプな文体が身に付き、現在では4刷と快調です。また講談社現代新書は、わたしを日本語教育の世界に誘ってくださった恩師・倉谷直臣先生が名著『英会話上達法』を著していらっしゃるので、書き終えてようやっと師の背中が見えてきたように思いました。
 なおアマゾンの書評で、モダリティについて触れられていない、というものがありましたが認知科学ではモダリティとは外界を認識する手段のすべてを指します。それゆえ、言語形式に絞った場合は「ムード」がより正確に意図を伝えると考えたのですが、いわゆる「検定勉強」だけの方には分かりにくかったようです。
 本書はわたしの著作中、入試問題に用いられる頻度が最も高かったのですが、平成24年度からは光村図書の中学『国語2』の「ひろがる読書」欄でも紹介されました。今後、読者層が中学生にも広がっていってほしいと思います。


9.4 日本語教師のための応用認知言語学
(An Introduction to Applied Cognitive Linguistics for Language Teachers)

    
【データ】
2009年5月、凡人社(1,500円)。単著。ISBN-13:978-4893587176
【解 説】
 現在のところ、認知言語学と言語教育一般の関連について論じた唯一の書籍(日本語教育との関連を論じたものには池上嘉彦先生らが編著の書籍があります)。
 わたしは瀬戸賢一先生のレトリック論に始まる広大な研究領域に影響を受けて認知言語学を勉強し始めたのですが、そのスタート時に
@言語教育との関連を論じた本を書く 
A認知多義理論を用いた辞書を書く 
B仮想世界のメタファー論に関する本を書く 
 ことを目標としました。そのAが9.1の辞書であり、@に相当するのが本書です。メタファーやメトニミーに関しては触れられましたが、コーパスやコロケーションについては紙数が避けず、この点は今でも残念に思っています。
 刊行直後に京都大学大学院の山梨正明先生が月刊『言語』で名前を挙げて取り上げてくださり、大阪大学大学院の堀川智也先生、元大阪大学大学院の河上誓作先生も人づてに評価してくださるなど、いわゆる玄人目線で一定の評価を頂いているのは嬉しいところです。また。ほぼ同じ時期にRandal Holme が言語教師向けの認知言語学書を出しており、そういうニーズが国際的にあったことが伺えます。
 なお本作は、この分野の先達・先輩であり同志でもある、森山新先生(お茶の水女子大学大学院)との初めての仕事でもあります。森山先生はわたしの前著をお読みくださり、プロデューサーとしてのわたしの内容・文体の要求を即座に見抜いてくださって、共著でありながらシームレスな内容を書き上げてくださいました。その器の大きさに甘えて、9.1の辞書をお願いしたという経緯があります。


9.5 とりあえず日本語で
(副題:もしも…あなたが外国人と「日本語で話す」としたら)
☆電子版発売中

    
【データ】
2010年5月、スリーエーネットワーク(1,200円)。単著。ISBN-13: 978-4-88319-525-1
【解 説】
 この本で述べているのは、日本の国際化、という曖昧なことばに対するわたしなりの見解です。
 そもそものきっかけは、外国人に道を聞かれたときに恥ずかしいから、という動機で英会話を学ぶ人が多い、という話を聞いたとき、日本語を学ぶ外国人がこれだけいるのに、なぜわたしたちは日本語で話さないのだろうか、と考えたことです。
 そして外国人の学習者たちから、日本人と日本語で話した時の数々の愉快ではなかった経験を聞き、それはなぜ起きたのだろうか、また母語話者でない人たちによる英語のコミュニケーションはどうなっているのだろう、といった疑問を調べ、行き着いた先が「対外日本語コミュニケーション」というキーワードでした。
 本書が刊行された当時、弘前大学や国語研究所の人たちが「やさしい日本語」という概念の研究や実践を発表したり、またわたし自身も「たけしのニッポンのミカタ」で取材を受けたりしたので、タイムリーな刊行だったとは思います。しかし、本書の論旨はまだ普及どころか、人々の意識にも上らないのが現状です。
 本書の仕立てはスリーエーの前2作と同じで読み物の体裁であり、またわたし自身が「対外日本語コミュニケーション」を学術的にどう取り扱ったものか分からなかったのですが、「アジアの英語」で有名な青山学院大学名誉教授の本名信行先生が「国際言語管理」という枠に位置づけられることを示してくださり、ようやく拠って立つ基盤と先行きが見えました。
 50代の10年間は、認知言語学の知見を踏まえつつ、この分野を開拓することが、研究者としてのわたしの最大のテーマであると考えています。


9.6 日本語多義語学習辞典 名詞編
(A Learner's Dictionary of Multi-sense Japanese Words: Nouns)

    
【データ】
2011年11月、アルク(2,800円)。編集と執筆を担当。ISBN-13: 978-4757420472
【解 説】
 企画そのものは、アルクのウェブサイトで「こぐまのお助け」が終了したとき(2006年)からありました。ちょうど大阪市立大学(当時)の瀬戸賢一先生にお誘いいただいて執筆を担当した『英語多義語ネットワーク辞典』が刊行されたところで、アルク編集のTさんと「このコンセプトで日本語辞書ができたらいいね」と話していたのです。
 その翌々年、応用認知言語学の本でお茶大の森山新さんと共同執筆した折に彼の凄まじい力量を目の当たりにし、あの企画をお話してみようか、と恐る恐る相談してみました。すると編集主幹をご快諾くださり、しかし辞書編纂なのに編集委員2人というのも心もとないので、長年の友人であった山口大学(当時)の今井新悟さん(現・筑波大学大学院教授)にも呼びかけて、企画がスタートしました。
 認知多義理論で日本語の基本語を分析するのはとても楽しく、また東京外語大を中心とした仲間との仕事もやりやすかったのですが、単著とも共著とも違う辞書という作業は予期しない事態が次々に起こり、自分の著作では最も苦労したものです。
 幸い、2010年10月から半年、大学から研修期間(いわゆるサバティカル)を頂いたので、それを利用して追い込み、4年がかりで何とか仕上げました。
 シリーズはこのあと今井さんの形容詞・副詞編、森山主幹の動詞編が刊行され、国際的な評価も受けてタイ語版・中国語版(繁体字版・簡体字版)の刊行も決定いたしました。3.11後に沈滞した日本語教育界にあって、さほど利益の見込めない辞書刊行をしてくださったアルクと、それからアマゾンのレビューなどでも好意的に述べていただいているイラストを描いてくれた秋本麻衣さんに感謝です。


9.7 悩める日本語教師のためのこぐまのお助けハンドブック
(32 Advice Columns by Prof. Yohey Arakawa for Japanese Teachers in Trouble)

    
【データ】
2007年12月、アルク(1,600円)。単著。ISBN978-4-7574-1327-6
【解 説】
 アルクには国際交流基金に在職のころ、『日本語教師読本』というムックにかなり長い記事を書いて以来、長いおつきあいになります。といっても、わたしはアカデミックなところで主流にいるわけではないので、もっぱら教師研修や日本語教育入門といった啓蒙的な記事がほとんどです。
 本書はその啓蒙シリーズの中核で、同社のウェブサイトに半年連載した『こぐま准教授のココが知りたい授業のポイント』に加筆訂正したものです。連載を始めたときが、ちょうど日本語教師を開業して20年目だったので、自分で答えられることなら、と反論も覚悟して始めたのですが、なかなか貴重な自省の経験になりました。
 私見では日本語教師には生真面目で考え込むタイプの方(つまりわたしの真逆ですね)が多いように見えたのですが、それは送られてきた質問からも明らかでした。文法はじめ、言語的な質問以外の答えは、ひとくくりにすることができます。それは、良い外国語の教師になるためには、まず自分なりに「良く生きてみる (to live well)」ことです。
 なお本書は上記7冊の拙著のうち、もっとも売れていない一冊です。理由は明白で、本書の内容の3分の2が、いまだアルクのウェブサイトで読めてしまうのです。アルクのみなさん、あちらは削除して、こちらを宣伝なさってください…。