トリオ・ジャパン・セミナー第5回(3)

移植医からの発言

総合司会

 どうもありがとうございました。それでは、患者及び家族からの発言を終わらせていただきまして、次に移植医からの発言に移りたいと思います。本日は京都大学移植外科の田中紘一教授にお願いしております。田中先生は皆様御存知かと思いますが、昨日までに遂に300例の生体肝移植を手がけられました。まさしく日本においても、世界においても、生体肝移植の第一人者でいらっしゃいます。それでは田中先生お願い致します。

 

京都大学における生体肝移植の現状

田中紘一先生

 私は移植を今実施している一人なんですが、いろんな方と出会いまして、苦労をかけることも多いですし、また喜んでいただけることも多くあります。そういう中で、今回の法案の成立を踏まえて、また、我々移植医がこの生体肝移植を日本で細々と続けてきた実績を踏まえて、移植を施設としてどう扱うかとかいうようなことも少しご報告したいと思います。

 ここ(スライド)にお示ししますのは、私自身が移植に入るきっかけとなった大切な方二人でございます。お二人とも同じ一万人に一人の難病といわれます胆道閉鎖症という病気のお子さんなんですが、左の方は、我が国で開発された葛西手術を受けて、元気になった後のお姿です。今も元気で、肝機能もほとんど異常なく順調に成長されています。一方、右の方の子は同じ病気で6回の手術を受けたんですが、最終的には肝硬変になって、どうしても生かしたいということで、その頃は我々がまだ生体肝移植に着手していない時期でしたので、家族の希望でサンフランシスコに送りました。ところが、向こうの病院では、繋げる血管がほとんどないということで、家族の希望にも関わらず、残念ながら日本にお帰りになってお亡くなりになった。そういう御家族から、是非移植のために役立てていただきたいということで、このフイルムに許可をいただいてお示ししていました。

 私はもともと小児外科ですから、胆道閉鎖症のお子さんや、そういうお子さんを持つ親御さんに出会う機会が多いのですが、現時点でも胆道閉鎖症の10年生存率は本邦でも40%でして、ここ十数年の間、ほとんど治療成績は向上しておりません。

 そういうお子さんを持つ両親の思いを次のスライドでお示しします。そういうお子さんを持つ方は、ほとんどが入退院の繰り返しであります。産まれてこのかた、病院から一歩も出たことがないという母親もおりまして、そういう中でクオリティ・オブ・ライフというものが著しく損なわれるわけです。

 次のスライドをお願いします。こういう患者さんに出会いますと、京都大学では「医の倫理委員会」に申請しまして、医の倫理委員会で詳しくご検討いただいて、医療と生体肝移植ということをいろんな面から論議されます。例えば、輸血がなぜ許されるかと言いますと、輸血が許されるのは、献血する側のデメリットと、輸血を受ける側のメリットと、そういうバランスの上で成り立つわけです。医療がこの生体肝移植を実施する中で、ドナーにどのようなデメリットを与えるのか。なかんずく、生体肝移植はどこでやってもいいのかということもありますので、ドナーとレシピエントの双方に、充分に応えられる医療を実際に行なっているかどうかというようなことが判断されます。さらに、インフォームドコンセントがいかにあるべきかということとか、実施した医療報告を医の倫理委員会にきちんと出すべきであるとか、あるいは患者のプライバシーをどのように守るかとか、そのような点もいろいろと審議されてから移植に入ります。

 次のスライドをお願いします。

 

 1990年から始まりまして、現在延べ300例(再移植は重複して数える)になっています。現在毎週2例ですが、ほぼ10時間から、12時間の手術を毎週2例やるわけですから、一回の手術は大変少人数でやっております。目の前に患者さんがいますから、必然的に個人個人が地道に活動するわけです。

 このように一番多いのが胆道閉鎖症、そして代謝性疾患、劇症肝不全というのが基礎疾患ですが、以下で見てお分かりのように、20歳以上が8.2%です。

 

この20歳以上の8.2%を示す意味はどういうことなのかと申しますと、我が国で肝臓疾患のために末期状態になった患者さんが海外に出ていけない。そういう状況下で、生体肝移植が少しずつ成人へ展開されてきたことの一面ですが、多くの問題を含んでいます。しかしながら、多くの問題を含みながらも、やはりこの誠意を求めるという姿勢、それから我々がそれにどのように協力出来るかということが、両者相俟って、20歳以上の症例が大変増えてまいっています。

 また、移植をしようかしまいか悩んで悩んで、最終的にICUで管理しなければならないほどの重体になって移植を決定するということもあるわけでして、生体肝移植の場合は、この子に私の臓器を提供したいというドナーが側にいるにも関わらず、結果的にICU管理になって初めて移植を決意した人も17%いらっしゃるということは、まさに移植に踏み切るまでの家族の悩みというものがいかがなものであるか、思い知らされるわけでございます。

 次のスライド。そういう中でこの生体肝移植は日本で着実に実績を積んでいます。しかし、やはり海外へ移植を求めて出ていく方も、このように依然としてほとんど人数は変わらないといっても過言ではないと思います。

 次のスライドをお願い致します。我々は生体肝移植を本邦で地道に進めて行ったのですが、海外でも臓器不足は深刻であります。そういう中で、今まで日本が受けた恩というんですか、日本が移植を学んだ海外にとって、日本がどうなのかということでありますが、これは京都大に生体肝移植の見学に来た国々でございます。アメリカからもたくさん来ました。カナダからも来ました。ヨーロッパからもたくさん来て、そういう国がまた生体肝移植を導入しているわけです。少しでも恩返しが出来ているのではないかと自負しているのですが、いずれにしましても、世界各国で移植希望者が増えたために、相対的なドナー不足が深刻であるというところであります。

 次をお願いします。移植手術を受ければ、後は成功するのを待つだけということでしたが、京都大学に来ても、何一つ良いことがなかったというお子さんもございます。ある日、研修医がその子を動物園に連れて行こうと言うことで、だいぶ患者さんの具合も悪かったのですが、動物園に連れて行きましたら大変喜んでいただきました。合併症の連続ということもございまして、移植の辛さもございます。

 次、お願い致します。こういう中で移植医療を成功させるには、どうしても支援体制が重要でございます。そばにいるコーディネーターの重要性もさることながら、これは移植チームのみならず、倫理委員会のとの関係、あるいは経済的な問題に関わる事務当局、これは大学ですが、内科、手術部、ICU、病理と、あらゆる面のサポート、つまり移植を支える人たちの存在というのが、移植医療の成否にとって、極めて重要でございます。その点を少しお話しさせていただきます。

 次、お願いします。これは手術室のナースと病棟のナースですが、特に手術室のナースは患者と実際にふれあえないんです。従って、そのふれあえない手術室のナースにとりましては、10時間、15時間とかかる移植医療に対して、どれだけ協力するか、協力していただけるかということになりますと、そういうことは、やはり患者さんに対するふれあいがあってこそ初めて成り立つわけです。従って手術室のナースに、必ず術前に訪問してもらいます。それから、「術後経過はこうですよ」と、退院後の子供の変化、写真、あるいは家族の思い、そういうものを手術室のナースに話すわけです。コーディネーターと手術室のナースが密な連絡を取り合う。こういうきめ細かい体制が要るということが重要です。

 次、お願いします。内科の協力なくしては移植が成り立ちません。特に生体肝移植の場合の集中画像診断ですが、このスライドでは放射線科の先生の画像診断を受けています。これは術前の評価です。移植医だけでやりますと、ついついドナーが多くの問題を持っていても、それをドナーとして使ってしまうということもあり得るわけでありまして、やはりドナーに対しては内科の先生方の厳しい評価が必要となるわけです。内科のサポートなくしてはドナーの安全性はあり得ないと言っても過言ではありません。

 次、お願いします。これは病理カンファランスの一コマです。移植の後に拒絶が起こるか起こらないか。直ちに診断して、直ちに治療しなくてはいけません。従って病理学者、中央の先生が病理の先生ですが、その病理の先生を中心に、移植医も自分たちが採った肝生検の試料をその都度見て、臨床症状と照らし合わせながら治療計画を立てるということです。病理の側の診断能力、そしてそれを常に迅速に診断していただけるという体制が重要です。

 はい。次、お願いします。免疫抑制剤についてですが、特に肝移植においては、日々の肝臓の状態によって免疫抑制剤の血中濃度が大きくばらつきます。しかも小さな子や大きな子がいますから、薬が投薬されたら一律に吸収されて一律に有効性を示すわけではございません。どれだけ吸収されているのか、実際有効な薬剤の量はどうかということを、毎日きちんと数字で出せるという薬剤部との協力も大切でございます。これはその日に出ました免疫抑制剤の血中濃度のデータを基に、移植医全員と看護婦さんを含めて、その日の夜、次の日の夜の免疫抑制剤の量をどうするかという毎夜の一風景でございます。

 次、お願いします。服薬指導も大切です。長期的になりますと、お薬と食べ物の関係、あるいはお薬を飲む時間と食べ物の関係、そういうものがどうしても影響しますし、薬に対する認識をきちんと持っていただかないと、家族にとってはときどき、まあいいかということもあるわけでして、必ず薬剤部が退院時に服薬指導をしておりまして、その風景です。

 次お願いします。とりわけ大切なのはコーディネーターの存在であります。ドナーにとりましては、我が子も心配、自分の体も心配ですが、医師は忙しい。看護婦さんも忙しくて、もう一つ踏み込めないような精神的な側面、そういう側面をサポートするコーディネーターというのは欠かせません。

 はい。我が国において、生体肝移植のために京大に来た各地域ごとの患者数ですが、このように全国的に見ますと、移植後のフォローを行う各施設との連携がしっかりしていないと、一旦帰った後に、免疫抑制剤の投与量が多すぎたり少なすぎたり、あるいは麻疹にかかった際の問題にも対応出来ないわけでして、まだまだ十分とは言えませんが、出来るだけ関連施設との連携を図るよう努力しております。

 はい、次。生体肝移植を実施するに当たっては様々な捉え方がございました。1989年に島根医科大で実施されました時には「この生体肝移植は脳死肝移植の緊急避難的な手術である」、すなわち脳死肝移植が始まれば生体肝移植は無くなるという捉え方でした。また、移植を受ける側が脳死肝移植とうまく選択し分ければ良い、それぞれが車の両輪であるという考え方がありました。いずれにしましても、病める人に対して移植という治療で次の生をいただくためには、どうしても単に患者と医師がいるだけではなく、臓器提供をする人が欠かせないわけです。従って、生体肝移植においてはドナーの思い、ドナーへの安全性、そういった配慮に加えて、いつまでもドナーにありがとうと言えるような体制が重要でありますので、脳死肝移植においてもドナーの方への思いやりといいますか、移植を受けた人がドナーに対してありがとうと言えるようなシステムが維持されるような、そういう姿が我が国において定着する一つの道だと思います。

 今回の移植法案をどう捉えるか、様々な考え方があると思いますが、しかし、一歩がなければ二歩もなしですから、移植医に取りましても、この状況を厳しく捉えつつ、皆さんから評価されるように少しでも努力していく以外にないと考えてます。以上、移植医からの発言でした。どうもありがとうございました。

 

総合司会

 田中先生どうもありがとうございました。先程の星下さんや物部さんのご発言に対しても、ある部分答えて下さったのではないかと思います。

 予定では10分間の休憩ということでしたが、だいぶ時間の方も押せ押せになってまいりましたので、大変申し訳ないのですが、5分間の休憩ということで、14時25分には再開したいと思っております。


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