トリオ・ジャパン・セミナー第5回(4)

第二部

総合司会

 それでは、移植医以外の先生方のパネルディスカッションに入りたいと思います。パネルディスカッションのコーディネーターは、トリオ・ジャパン運営委員の若林正さんと、トリオ・ジャパン副会長兼国際理事の野村祐之さんにお願いしています。

 今回は野村さんのご提案で、若者を中心にして、このパネルディスカッションを進行していったらどうかということで、若林さんがメインで、野村さんはサブでサポートしていただくという形でパネルディスカッションを進行していくことに致しました。

 それでは簡単に若林さんと野村さんのご紹介を致します。若林さんは昨年の1996年1月に慢性肝内胆汁鬱滞による肝硬変で、東大病院における生体肝移植の第1例目として生体肝移植を受けられました。現在は、東京大学大学院の修士課程に在籍されています。野村さんは、1990年4月にB型肝炎からの肝硬変のため、アメリカのベイラー移植センターで肝移植を受けられました。現在は青山学院大学及び青山学院短期大学で教鞭を取っておられます。それでは、若林さんと野村さんにバトンタッチを致しますのでよろしくお願いします。

 

パネルディスカッション

「我が国の現状から移植医療が進展するために」

若林

 それでは、ここから司会を務めさせていただきます若林と申します。よろしくお願い致します。最初に、お手元のプログラムをご覧いただきながら、今日お話していただきます先生方のご紹介をさせていただきます。

 お手元のプログラムの4枚目から先生方のご紹介がございます。最初に大塚敏文先生にお話ししていただきます。大塚先生は日本救急医学会の理事長であり、日本医科大学の理事長でもいらっしゃいます。

 それでは、先生方に各自7分間ずつお話ししていただきます。なお、お手元に質問用紙をお配りしておりますので、先生方にご質問がございましたら、どの先生にどのような質問をされるのか、また出来ましたら質問者のお名前も書いていただいて、挙手していただくと質問用紙を回収しに参りますので、よろしくお願いします。それでは最初に大塚先生、よろしくお願いします。

大塚敏文先生

 ただいまご紹介賜りました日本医科大学の大塚でございます。7分ということなので、少し早口でお話しをさせていただきたいと思います。

 私は、今、日本救急医学会の理事長をやっておりまして、ドナー提供施設の代表者と言えば代表です。私の立場を少しお話ししておきますと、私は元々消化器外科医でありまして、当時から臓器移植に関心を持っておりました。その関係で、かなり前から私どもの若いドクターをブリスベンに研修に出しておりまして、おそらく今日おいでの皆様の中でも、私どもの局員に面倒を見させていただいたといいますか、逆に面倒を見ていただいたとという方がいらっしゃるかもしれません。

 そんなわけで臓器移植ということに対しては、大変関心を持っているわけですが、たまたま私どもの大学に救命救急センターが出来ました時に、私がそこに出向して参りました。今度は立場が逆転致しまして、ドナーを提供する立場ということになったわけです。

 日本救急医学会では過去3回にわたりまして、脳死と臓器移植とに関して理事会見解というものを出しております。その骨子は皆さん方のお手元に書いてありますので、後程お読みになっていただければよろしかろうと思います。

今回成立した臓器移植法案の問題点

 今日は時間がございませんので、私の私見をまじえて、この間可決致しました法案の中で、こういう点が問題であるというところをご指摘していきたいと思います。ご存じのように、中山案ということで衆議院を通ったのですが、参議院に入りまして、修正案というものが出ました。これは脳死の患者さんから臓器を提供する場合に限って脳死を人の死とするということでございます。私どもは医学的に見た場合、脳死は死であると思っておりますし、現在も考えているわけでございます。そういう中で、脳死は人の死である、いや脳死は人の死ではない、という両方の意見の折衷案のような形で、この修正案が可決致しましたことにつきましては、私ども大変遺憾という感じを持っているわけでございます。これは、多くの方々がご指摘していますように、状況によって、つまり臓器を提供する場合は死であるが、そうでない場合は死ではないという、脳死に二通りの状況が出てきてしまったということは、大変問題になっております。

 それから次に、脳死判定にも脳死になる前の意思表示がなければダメだということになったわけでございます。私から言わせていただきますと、ドナーカードをお持ちであるのは、脳死判定をしてもいいという意思表示だと思っていたんですが、それは違うんだということになったわけでございます。

 そういうことが実際に行われますと、現場ではどういうことが起こってくるかといいますと、まず臓器提供の意思がある、つまりドナーカードをお持ちであり、ご家族の方も提供を致します、脳死の判定をどうぞやって下さいということになるわけですけれども、この場合には、それから脳死の判定をするわけですから、患者さんは脳死なのか脳死じゃないのかわからない状況の下に、「もしも脳死だったら臓器をいただきますよ」ということになるわけです。

 つまり生きているうちに臓器提供を示唆することになるわけでございます。これは現場としては大変難しいことでございます。それから次に、第1回目の検査を致しまして脳死であるということが分かったとします。6時間後にもう一度脳死判定をしなくてはならないんですが、2回目の時に、家族が2回目の検査はやめて下さいとおっしゃったら、これは生なのか死なのかという問題も実は起きてきます。

 それから、もう一つは本人の意思が不明な場合、つまりドナーカードをお持ちかどうかわからない場合で、私どものところでは、脳死になった患者さんは通常患者さんの家族に断ることなく脳死判定を行なっております。そのような状況ですと、後で「ドナーカードが見つかりました、先生提供します」ということになった時に、その患者さんからドナーを提供出来るか、摘出出来るかという問題が起こってくるわけです。つまり事前に家族の意思表示があって脳死判定の検査をして下さいということではなく、検査しているわけですから、これが有効かどうかという問題が起こってくるわけです。

 それから次は、提供の意志がある、つまりドナーカードをお持ちである、それからご家族の方も結構でございますと、検査をして下さいとおっしゃった時に、今度は医師あるいは医療側に拒否権があるのか。我々の病院では脳死の判定はしませんよということが言えるのかどうか。これもかなり問題となっております。現実に日本国中の救急施設を見てみますと、必ずしも私どものところのように、全ての症例に脳死判定をしているわけではございません。家族の方から脳死判定をしてくれとおっしゃった時に、医療側から拒否権があるのか、「いや、やりません」と言えるかどうかという問題が残っております。

 それからもう一つは検視の問題です。このような法律が通りますと当然のことながら警察庁も、これから検討に入って下さることだと思うんですが、脳死の段階で検視をして下さるかどうかという問題が残っております。そう致しませんと、交通事故なんかでその後脳死になられた方の摘出というのは極めて難しくなってくるということがあるわけでございます。

 それから、実際に現場でどういうことになるかと申しますと、摘出といいますか、誰がいつどなたにお話をしたらいいのか非常に困るわけです。脳死というのは、体験された方、身内にお持ちになった方にはおわかりでしょうが、つい前日、あるいはその2日くらい前までぴんぴんされていた方なんですね。それが突然脳死になって、検査を致しまして「脳死ですよ」と私どもが言った時に、ご家族の方が私どもの医師の話を落ち着いてお聞きになれるかということがまた問題なんです。多くの脳死のご家族の方は、「えっ、どうして」というのが普通なんです。本当に精神状態が乱れてしまいまして、冷静に医師のお話を聞いていただけない。そういう時期がかなりございます。最低4日から5日ぐらいしませんと、脳死というものを冷静に受け止めるという心境にはならないですね。その辺が難しい問題が起こってくるわけです。例えば癌の末期でございますとか、あるいは数年来寝たきりの方がおかしくなった場合には、ある程度ご家族の方が覚悟されていると思いますが、脳死の場合はほとんど99%の方が、突然襲ってきた脳死に対してきちんと受け止める精神力はないんではないかと思います。

 このような諸々のことがございまして、現場ではかなり混乱致しますけども、この法律が出来ましたことにつきましては、私はまあ将来臓器移植の道が開けたということで評価をしてもいいんじゃないかと思います。本来脳死や臓器移植の問題を法律で決めるのはおかしいというふうに私は思っておったわけですが、このように昨今、世間で脳死臓器移植というのが大変話題になっておりました関係で、ここに至ったならば、何らかの法律があった方がいいんではないかなと。私と致しましては消極的賛成ということながらも、一歩前進かなと見ております。実体は私が申しましたように、諸々の問題がまだ山積しているということだけはお話し申し上げておきます。もう時間になってしまいました。ありがとうございました。

 

若林

 大塚先生ありがとうございました。プログラムの次にあります通り、匂坂馨先生をご紹介致します。匂坂先生は東北大学の法医学の教授でございまして、日本法医学会特別委員会の方で、脳死に関する特別委員会の委員長や、医の倫理特別委員会の委員長を務めておられまして、脳死に関してお詳しいということで、日本法医学会の方からご推薦をいただいております。それでは匂坂先生お願い致します。

 

匂坂馨先生

 法医学会の匂坂でございます。法医学者は死体はよく扱いますけれども、脳死を扱ったことは今までございません。それから脳死の診断もやったことはございません。

 それで、本日のシンポジストでは私は場違いではないかと感じているんですが、しかし死体をきちんと観察する、それから生から死への過程を私たちはよく調べますので、そんなことで私にお声がかかったんじゃないかと思います。今日は法医学会でこれまで考えてきた経過を皆様方にご説明すれば私の責任が果たせるのかなと思っております。

日本法医学会の脳死問題に対する対応

 法医学会が脳死に関わりました一つの理由は、生活反応の規定が変わるのではないかということです。そこで、我々は早期から脳死に関わってきました。というのは、死体を見て出血を伴った損傷があれば、これは生前に生じたものですから、傷害や殺人事件となりますし、出血がなければ死後の損傷であり、死体損壊の疑いが生じるからであります。

 それからもう一つの理由は、脳死体の場合、いつ亡くなったのか、死後経過時間はどうなのかということです。もし脳死が個体の死ということになりますと、死後の体温低下など、従来の考え方を変えなければなりません。それから後で申し上げますが、臓器摘出が司法解剖に支障を来たしては困るということです。

 法医学会では1985年に脳死に関する委員会を理事会の下に作りました。この委員会の委員長は桂秀策教授でした。そして3年後の1988年に私が委員長を引き継ぎました。それから、本年3月で任期が終わりましたが、医の倫理委員会でも私が委員長を務めてまいりました。

 桂委員会ではだいぶ議論を重ねた末に、その成果を理事会で承認していただきました。結論は、脳死は個体の死であるということと、死期は脳死診断時であって脳死確認時ではないという結論を出しました。この内容は当時マスコミの注目を集めまして、たぶん脳死を扱う、あるいは脳死を考える領域の中では、少し先走ったという批判を受けたかもしれません。これは桂委員長がだいぶ苦労してまとめた結論でございました。

 1991年にタイトルが変わり、理事会の下に検視制度検討委員会というのが出来ました。これは鈴木庸夫教授が委員長で、異状死体から臓器を取り出すにはどうしたらいいかまとめました。そして、法医学会からの提言という文書として、警察庁や国会議員にも提示致しました。ここで異状死体と申しますのは、疾病以外の死因で死亡したもの全てを言います。

 法医学会では1994年に医の倫理委員会が出来まして、私たちが前述の鈴木委員会から引き継いだ内容を検討してまいりました。この4月に任期が満了致しましたが、この中で私たちは法医学者の守秘義務や剖検材料の取扱いなどをまとめました。また同時に、脳死体の検視時に法医学者がどのような対応をするのかまとめました。脳死体の検視というのは、先程大塚先生が触れましたが、異状死体の場合は必ず警察に届けて検視を受けなければなりません。検視は警察の仕事ですが、その時の法医学者としての役割をまとめました。これは理事会の承認を得て、法医学会の評議員会でも承認されています。

 では脳死体の検視における法医学者の役割は何かということですが、法医学会としては司法解剖の障害となるような脳死体からの臓器摘出は出来るだけ避けて欲しいというのが基本的なことです。脳死の診断や確認は医師の仕事であり、検視を担当する警察の仕事ではありません。それで脳死の診断や確認は検視の業務ではないと私は思っております。10月15日をもって臓器移植法が施行されようとしています。脳死体からの臓器摘出の第一号とか第二号には、たぶんマスコミの方がたくさん集まると思います。その時に脳死者本人の意思が確認されたかどうか、あるいは家族の意思が確認されたかどうか。または、脳死の診断や確認がきちんとなされていたかどうかということが問題になってきます。その時に法医学者が臨床医と検視を担当する警察官との橋渡しをしたらいいのではないかと私たちは思っております。

 それから、脳死体がどのような事情で入院したのか、入院時にどのような損傷があったのか、それから入院後の臨床経過などについて、担当医から事情を聞き、それを検視担当者に伝達することも法医学者の仕事かと思います。検視担当者は警察官ですから、脳死の条件や診断などの細かなことまではわかりませんので、それをきちんと説明するのは法医学者の仕事だと考えています。

 一般に入院した方が脳死になり、検視を受けるまでの流れを図で示してみました。まず、外因で入院します。外因というのは病気以外の原因で入院した場合ですね。私は救急医療の実際はわかりませんが、臓器提供者として一番多いのは、たぶん二輪車を運転していて自損行為で転倒した場合、あるいは衝突して脳外傷を受けて脳死に至るケースだろうと思います。その方が入院したけれども治療の甲斐なく脳死状態になったとします。ここで本人と家族の臓器提供の意思、そして脳死診断の同意があれば、ここで警察に届けていただければと思います。そして脳死が確認されます。もう一度脳死の診断がなされますね。ここで、その確認が終わりますと警察は速やかに検視を行います。私が「警察に届ける」というのを前に書きましたのは、脳死確認のところの担当医の仕事に警察が立ち会って、目の前で確認をすれば、その後の検視が割合速やかに行くだろうということでこういう順序にしました。

 それから、外因で入院して治療後に脳死になったけれども、本人と家族の同意がなされないという場合もあります。この場合は従来通り心臓停止後検視が行われます。

 この図は先日の朝日新聞に掲載されていた脳死判定から移植までのフローチャート(流れ図)でありますが、これには全く検視が入っておりません。原死因が疾病である場合は確かにこれでいいのですが、原死因が疾病以外の外因の場合はどうなるのでしょうか。脳死判定の次に検視が入らないと困ります。これは関係者の方々に十分わきまえていただきたいと思います。

 以上が法医学会がこれまで取り上げてきた流れでございます。

 次に、検視を担当する警察官にお願いすることについて話を進めます。変死体については警察官が検視を行いますが、脳死体の検視はこれまでの死体の検視とかなり違います。まだ心臓が動いていますので、そのことを十分認識して検視を行うべきだということです。

 臓器を提供する死体であることを認識していただき、検視の場所を病院側とあらかじめ打ち合わせて、必要最小限度の人数で行うこと、感染を避けるために白衣やマスク、滅菌手袋等を用いること、それから必要最小限の時間で検視を済ませるという配慮が必要です。通常の検視では、死体現象の観察から始まりますが、脳死体には死斑とか死後硬直はありません。外傷が元で脳死体になったことが疑われている場合は、受傷時の損傷、これは入院時の損傷ですね、それを警察は確かめるべきでしょう。それから医療行為に基づく損傷があれば、その目的と時期について医師から説明を受けるべきだと私たちは考えております。

 私が3年前に医の倫理委員会の委員長をお引き受けした時に、すぐに警察庁に飛びました。それで警察庁の検視を扱う担当者と、当時は臓器移植法案が国会に上程されていまして、場合によると早期に成立するかもしれないという時期でしたから、警察側の考えと私たちの考え方のすりあわせをしようと思ったのですが、当時の警察は前途悲観という感じで積極的には乗っては来ませんでした。しかし私たちの考えは警察庁には申し出てあります。

 宮城県の話を致しますと、検視担当者の最高責任者、これは刑事調査官と言うのですが、調査官が変わる度に病院のICU(集中治療室)に連れていって、脳死体を直接見せて検視のやり方を説明しております。たぶん10月までには警察庁の脳死体検視マニュアルが出来て、大きな混乱なく進められるだろうと思います。そして、その時に10月から一年間ぐらいは各県の法医学者が検視に立ち会うことになるだろうと思います。以上が法医学会の脳死体の検視への対応の現状でございます。

 

若林

 匂坂先生ありがとうございました。次に、神野哲夫先生は、藤田保健衛生大学の脳神経外科学教授でいらっしゃいまして、救命救急センター長でもあります。大阪大学の早川先生からご推薦を受けまして、「脳神経外科学会からは是非神野先生に」ということでお話しいただきます。それでは神野先生よろしくお願いします。

 

神野哲夫先生

 ご紹介いただきました脳神経外科医でございます。現役でやっておりますので、たぶん現場の現状をしゃべれというご下命だと思います。

救命救急センターの現場で

 最初の数枚のスライドではバックグラウンドの説明をしたいと思います。私は桶狭間の古戦場にある1,500床の病院で働いております。そのうち150床を脳外科が使っております。ここには極めて重症の脳卒中と頭部外傷の患者が運び込まれてくるというのが特徴でございます。日本の大学病院の脳外科の中では、年間の手術数が一番多い施設でございます。頭の病気で首から下は丈夫であるという、臓器提供者になり得る患者さんを扱う機会が幸か不幸か多いところに勤めております。私は過去19年間に約920例の脳死の患者さんを拝見させていただきましたが、全ての脳死患者は惨憺たるものでございまして、脳の半分の血流がないということもあります。

 私どもの脳死判定には私どもの大先輩である竹内一夫先生による厚生省の判定基準を用いておりますが、私が経験しました920名の患者さんでは、この竹内基準で何か困るとか、この基準で十分でないという経験は一度もございません。ですからこれについては全く議論の余地は無いと思っております。

 脳死の判定基準の第一は深昏睡、つまり全くうんともすんともいわない状態で、その次は無呼吸です。そして脳波が平坦であること。あのピクピク動いているのは心電図です。さらに脳幹の反応が全くないことです。

 これで脳死判定基準は全く問題ないのですが、その運用に当たりましては、私が医局員にいくつか注意していることがあります。その一つは「脊髄自動反射」でございます。このおじいさんは脳死判定基準を全部満たしまして、ご家族に脳死であるということを宣言しました。これは宣言後の現象でビデオから取ったのですが、手を見ていただけるとわかる通り、医者がほんのちょっとオッパイのところを触りますと手が動いてますね。これは脊髄自動反射と言いまして、カエルを断頭した後でもピクピク動いているのと同じでありまして、脳死判定基準を疑わせるものでは全くございませんが、家族の方が「もう一度お父さんに逢いにベッドサイドに行ってから帰ろう」なんていう時にこの反射を見られると、「これ本当に脳死なんですか」ということで、やっぱり驚かれます。もちろん、ご家族にいろいろご説明致します。ご説明致しますと、理解はしていただけますが、納得はしませんね。ですから、今まではこういう反応が出るうちは、脳死判定基準を医学的に満たしていても、ご家族に告知するのは控えております。

 私どもの脳外科、特に救命救急センターの脳神経外科部門からは、過去1979年から96年までの間に、164名の方から心臓が止まった後に、腎臓の提供をいただいております。腎臓の数は二つずつですから、300いくつかの腎臓をいただいてきたわけです。

 この数は一施設としては全国でも圧倒的に多いわけでございますが、うちのコーディネーターが調べました144例の段階では、全日本の約一割が私どもの脳外科教室からの提供であるということでございます。たぶんこんなことで今日お呼ばれいただいたというふうに理解致しますが。

 これをかなり多いと思われるかどうか、この辺のところが議論の分かれるところでございます。1993年までに、私が「心臓が止まった後でいいから腎臓をいただけませんか」とご家族にご説明したのは約820例の方でございます。その中でご承諾いただいたのは117例でございます。ということは、7家族に1例ご承諾いただいたということで、同時に7家族中6例は断っているということでございます。今日、先ほどから拝聴しておりますと、移植医療というのは非常に素晴らしくて、日本中皆さんが賛成で、皆さん善意にあふれているという、そういう国民であるという錯覚を覚えますが、現場では全くそういうことはございません。7例中6例はお断りなさいます。

 私どもはだいたい、今でもそうですが、1週間に1〜2回家に帰る程度でございます。その間必死に戦っておりますが、ご家族の方はそれを目の当たりにしておりますので、非常に感謝していただいております。少なくとも口ではそうおっしゃいます。

 それがですね、刀尽き矢折れて、「心臓が止まってからで良いから腎臓をいただけませんか」とご家族にお話しますと、ご家族の態度ががらっと変わります。そして7例中6人がお断りになります。今までこんなに感謝していただいていたのに、何でこんなに急に変わるんだろうと思います。私どもがあっけに取られるくらいですし、また私ども脳外科医も、それまで一生懸命救うために何回も何回もご家族にお会いして、「何とかお互い頑張ろう」ということでやってまいります。そういう中で、ある瞬間から突然死んでから後の話をするのには、極めて強い抵抗感がございます。こういう中で、臓器の提供が行われているのが現状です。

 ところが、過去3年間に限ってみますと、承諾率が多少上がってまいりました。3〜4年前までは、14.4%のご承諾率が、現在は50%にまで上がってまいりました。これはマスコミの方々の啓蒙の結果とか、日本人が多少成熟してきたということになるのかもしれません。確実に変化していることは変化しています。こういう変化を現場では感じておりますので、今度の法律が通過したということについても、「そういう時代がきても当然じゃないかな」というのが私どもの実感でございます。

 それで最近の過去3年間だけの例ですが、ご承諾いただいたご家族に理由を尋ねてみました。複数回答でございまして、いろいろな理由があるのですが、これを私なりにまとめてみますと、やはりいわゆる博愛主義と言いますか、フィランスロピー philanthropy ですね。他人の役に立つ、こんな幸せなことはないと。他人に幸福をもたらすとは、こんなに良いことはないという、これはキリスト教精神christianity の基本的な考え方だと思うんですが、これが一番多い理由でございます。

 その他に本人の意思というものがございます。ドナーカードというものもありますが、過去19年間僕がこれだけ見てきても2枚しか見ていませんから、ほとんど普及していません。これからも普及するとは僕はあまり思いませんが。いずれにしましても、「テレビを見ていてうちのお父さん、自分がこうなったらこういうことやっても良いよと言っていた」ということをご家族が言ったら、それは本人の意思であるというふうに理解してまいりました。

 逆にお断りになった理由ですが、これも沢山あります。それを私なりにまとめてみますと、要するに日本人の死生観と宗教観です。これはものすごいものでございまして、日本の死生観、宗教観というのは、仏教、キリスト教、儒教、道教、それから密教、いろんなものが混じっています。

 私は、第一の専門は脳外科でございますが、第二の専門は宗教学をやっております。各宗派や、ヒンズーとかムスリム(イスラム教徒)に聞いてみましたが、とにかく日本人ほど曖昧な死生観と宗教観というのは無いのではないでしょうか。これは普段は何ともないのですが、最後に脳死の段階であるということを、夜中にご家族ご親戚が集まる中で、目の前で話しますと、ご家族ご親戚は普段は死生観だとか宗教観だとか、そういうことは全然考えていないんですが、ああいう土壇場になりますと、ご幼少のみぎりから培われてきた、何とも言えない日本人の死生観ですとか、宗教観ですとか、むくむくと出てまいりまして、お断りなさいます。極めて強い固い姿勢でございます。

 19年間で、脳死の段階でご家族が「臓器を提供してもいいよ」と言っていただいた方はわずか4人でございます。脳死は904名の患者さんを診させていただきましたが、その中で今まで19年間で4人に過ぎません。お一方は両親とも医者で、本人が医学部の学生でございますが、体育の時間中に心臓発作が来まして脳死状態となりました。あるいは家族全員がキリスト教徒であるとか、本人の強い意思であるとか、あるいは家族の方の様々な事情、息子が先天性糖尿病で親父さんが脳死だから、奥さんが「取ってくれないか」と言う。まだ法律が制定されていませんので、実際、この段階では脳死段階での臓器提供はやってはおりませんが、今までは極めて少ない数であったということを申し上げておきたいのです。

 最後のスライドだと思いますが、私ども医局員と過去19年間やってまいりまして、脳外科の教室員も古い者から若い者までいろいろございますが、皆それぞれ考えがあります。脳死を人の死として認めるかどうか。科学的に脳死は人の死として認めないという脳外科医はございません。しかし、それが人の死であるかどうかということは、医局員、新入生からてんでんバラバラでございます。これはいくら教授といえども、考え方を強制するわけにはまいりませんので、これは私はご自由だと思います。

 ただ職業人として救急の場で、脳みそだけやられて首から下は丈夫だという患者さんを扱う、まさに脳死段階での臓器移植に関係するドンピシャの職業にいる職業人としては、出来るだけご協力しようじゃないかと医局員には言っております。その理由は二つございます。一つは移植医療というのは、極めて大切な医療であるということは皆認識しているからです。これから輝かしい未来があるということも認識しているからです。それが第一点。

 それからもう一つは、私どもが医者の免許をいただいた際には、患者さんサイドに立つというのが、世間様に対する契約でございまして、たとえその患者さんが全国民の中でほんの数%であっても、そういう患者さんがおられるならそのサイドに立つというのが、私どもが医者の免許をもらった時の世間様に対する契約事であろうということで、医局員の意志統合を図っております。そういうふうにして今日までやってまいりました。

 今日は現場の実状の一端をお話しさせていただきました。どうもありがとうございました。

 

若林

 神野先生ありがとうございました。1980年に角膜及び腎臓の提供に関する法律が制定されて以来、献腎移植というのはこれまで約1,500例行われていますが、先ほどのお話ですと、そのうちの144例もの提供がなされているということで、これは素晴らしいことだと思います。

 次に、プログラムでは藤原先生になっておりますが、藤原先生は台風の影響で遅れていらっしゃいましたので、最後にお話しされるということですので、先に矢崎義雄先生にお話ししていただきます。矢崎義雄先生は東京大学の第三内科の教授でいらっしゃいます。本日は日本循環器学会の理事長としてお話ししていただきます。それでは先生よろしくお願い致します。

 

矢崎義雄先生

 ただいまご紹介にあずかりました矢崎でございます。私は従前から、この心臓移植の対象となります重症心不全の患者を診療している立場から、是非この心臓移植が医療として定着して欲しいと願っておりました。

心臓移植と日本循環器学会

 最重症の心不全患者の生命予後は、一年生存率が約30%と、いかなる悪性疾患よりも生命予後が悪いわけです。従いまして、是非その重症の心不全の患者さんを救う手立てとして、移植が定着して欲しいと願っているわけですが。それでは公的な立場の日本循環器学会としまして、今までの対応についてお話ししますと、1992年に脳死臨調の答申が出されまして、循環器学会としては心臓移植が開始されるということで、まず専門医の循環器学会の評議委員の先生方に、ご自分でどのくらいの重症の心移植の対象になる患者さんを診察しておられますかということと、心移植の対象となる心疾患としてどういうものを考えられますかということについて、アンケートを行うと同時に、心臓移植が行われた場合に適応となるレシピエントの適応基準を決めて、個々の症例を検討しようということになりました。

 その時のアンケートでは、だいたい120名の患者さんに心臓移植をしたいという結果でした。対象疾患は拡張型心筋症ということでアンケートがまとまりました。それを基準にしますと、我が国において心臓移植を医療の選択枝の一つとして考える患者さんは、だいたい500人から600人くらいはおられるだろうというふうに我々は感じているわけでございます。それから、だいたい今日まで5年を経過しているわけですが、適応検討委員会に、患者さんのインフォームドコンセントを取って適応患者として申請していただいた患者さんは、70例しかございません。70例の患者さんは、だいたいは外国で臓器移植をされる一つの前提として、この循環器学会適応委員会に登録されたということであります。

 従いまして、心臓移植が我が国で行われない状況で患者さんに説明し、そのインフォームドコンセントを取るというプロセスがなかなか難しかったのではないかなというふうに思われたわけでございます。今年この法案が通ったということで、私は理事長の立場から、循環器学会としてはやはり従来の適応検討委員会では組織としての活動が不十分であるということで、組織換えをして、心臓移植委員会ということで4つの小委員会を形成しまして、一つは、従来のようにインフォームドコンセントを取って、患者の適応を申請していただき、それを判定する委員会であります。もう一つは、適応患者のネットワークが出来ますけれども、今のような状態ではとても申請する患者が得られないということで、我々はドクターに是非このネットワークに登録して欲しいと、今は日本でも移植可能な状態になっているので、積極的にインフォームドコンセントを取って申請して欲しいというキャンペーンをする委員会を作りました。もう一つは移植学会あるいはその他の学会と共同でドナーカードの普及に取り組むという会でございます。もう一つは実際に心臓移植が実施された時に、ある施設の移植医の先生とその施設の内科医の先生だけで行われるというよりは、やはり情報の開示ということで、何かプロセスに問題というものはおそらく無いとは思いますが、医療は全て結果で問われますので、結果が悪ければその間のプロセスに何か問題があるのではないかというふうなディスカッションがある時に、ある施設の中だけで全て終結してしまうということは如何なものかということで、私どもはナショナルチームを編成しまして、移植が実際に行われる時に側面からサポートすると共に、もし結果として何か問題があった時に、十分にそのプロセスを評価して、問題がなければそこで問題がないということで、移植医もサポートしていきたいと考えています。

 先ほどからもお話がございますように、移植医療はコーディネーターの方々を含みました、あらゆる医療関係者が総合して関わる大変幅の広い集学的な医療でありまして、これは我が国で今までこういう医療が行われていませんでしたので、21世紀に向けた医療を展開する一つのテストケースになると思って、我々は期待しているわけであります。

 これから高齢化社会を迎えまして、在宅医療あるいは介護の問題を含めまして、この移植医療が多くの方々の患者さんあるいは家族の方々のサポートを受けて初めて成功する医療でございますので、これは新しい我が国における医療の展開として極めて重要な課題であるということで、私ども単なる循環器の専門医ということだけではなく、21世紀の困難な我が国の医療のおかれた場面で、なるべく国民のみなさんに最良の医療を提供するための、極めて重要なプロセスになるかと思っておりますので、私どもはこれから頑張っていきたいというふうに思っております。

 病院でいろんな事情があると思いますが、例えば私どもの東大病院では、数年前にたびたびトラブルが起こりましたもので、経営状態を立て直すという指導方針から、移植医療などの高額な医療を行ってはいけないという方針が立てられました。しかし、95年に私が学部長になった時に、領域が違って差し出がましい意見ではございますが、外科の医療に関しましては、将来は移植あるいは人工臓器がメインになるので、大学病院で移植を行わないのはいかがなものかということで、相当な反対を押し切って、幕内先生に生体肝移植を施行していただいたわけであります。その第一号が今日の若林さんになるかと思いますけれど、そういうことで、各施設できっちり対応することも大きな責任ではないかと思っております。

 私はそういう立場で今後とも循環器学会の公的な立場として、心臓移植の定着を目指して努力していきたいと思いますので、もちろん移植を望んでおられる方々ももちろんのこと、是非ともマスコミの方々、あるいは移植に現在関係のない国民の皆様にも、移植医療が医療として定着しますように、これからも情報を十分開示しながらご理解を得ていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。どうもありがとうございました。

 

若林

 私が東大で生体肝移植を受けられると決まるまでには、だいぶかかりまして、待っている間はずいぶん長かったのですが、後から聞くと幕内先生や矢崎先生を始めとして、移植をやろうという先生方はかなり苦労されたと聞いております。

 質問用紙をお配りしてありますが、質問がございましたら、適宜書いていただければ挙手していただくと質問用紙を回収しに参りますので、是非とも何か質問がありましたら書いて下さるようお願い致します。

 それでは、次に井形昭宏先生をご紹介致します。井形昭宏先生は平成2年から4年までの間、脳死臨調の委員を務めていらっしゃいました。また今度の10月16日からの法案の施行に向けて、臓器移植ネットワークの準備委員会の委員長をされていらっしゃいます。

 それでは井形先生よろしくお願い致します。レジュメの方にちょっと訂正がございます。「専門学会の移植医療の姿勢」というところで、正しくは「特に学会として取り上げ〈た〉ことはない」です。正しくは〈た〉ですので、これを取り上〈げる〉にすると意味がかなり違ってしまいますので、ご訂正をよろしくお願い致します。井形先生どうも申し訳ございません。

 それでは井形先生、お話の方をよろしくお願い致します。

 

井形昭宏先生

 ご紹介いただいた井形でございます。まずはこのトリオ・ジャパンで、レシピエントの人達が中心になってされている活動にまず敬意を表したいと思います。皆さんがおっしゃることが一番迫力があって説得力があります。今日もいろんな方のお話を聞いて、改めて胸に来るものがありますね。

 今日のお話はまず日本神経学会を代表して話せということでしたが、この話があった時の萬年理事長から、まだ神経学会で取り上げたことはないから、代表として行けということで、私が参りました。従って、私は神経学会全体の空気がこういうものであろうということを代弁させていただきたいと思います。

脳死問題について

 まず私は脳死臨調の委員に選ばれました。これは神経内科が専門で、脳死に若干経験があるだろうということが理由にあったように思います。実際に脳死臨調の委員で、臨床家は私が一人だったのですね。非常にきつい思いをしましたが、お陰様でずいぶん勉強をさせていただきました。この問題は我々全員が避けて通れない問題ですが、まず、脳死という状態が確実に存在しており、医学的に確実に診断が可能であるということを結論として申し上げたいと思います。

 脳死臨調の答申は、皆さんご存じの通りでありますが、この中間発表から最終答申にかけて、かなりアンケート調査を致しました。その一つとして、日本神経学会の臨床に関わっている指導的な先生方、つまり評議員を対象としてアンケート調査をしましたが、「脳死は人の死」ということについて約8割がOKで賛同、2割の人は慎重論でした。これが神経内科医の平均的な考え方と言えましょう。

 その他いろんな所でアンケートを行いましたが、私が大学などで講義をする時は、必ず事前にアンケートを取ってから、私の話を聞いていただいた後でもう一度アンケートを取ります。講義前は平均して70%位が脳死を人の死として理解していますが、終わりますと90%になっていますね。これは、主として学生ですけれども、看護婦さんも同様でした。このように理解が進めば、世の中も変わっていくはずであると強く感じています。

 ただ、脳死に関しては神経内科から見て、二、三の問題があります。一つは6歳以下の脳死判定です。この竹内基準というのは、竹内先生が班長で神経内科の先生も参加して作られました。従って神経学会の意向も反映していますが、6歳以下の人の脳死判定はまだ手が付けられていません。難しいから除外したのではなく、たまたま議論される際に、6歳以下はデータが不足しているので、データを集めて別途にやりましょうということで、除外をしただけです。ただこれだけが一人歩きしていますので、6歳以下の脳死判定は出来ないとされているのです。本人の意思も大きな問題になってくるわけでありますが、もし6歳以下のドナーが出た場合にどうするか。少なくとも6歳以下の脳死判定の基準は、早急に合意を図るべきであると思います。それから、もう一つは脳幹死です。ご承知のように脳には真ん中に脳幹という部分があり、心臓とか呼吸をコントロールしています。つまり、脳幹は生体統御の要になっているわけですね。従って、イギリス辺りは脳幹が完全に不可逆的に全部機能を失ったことを脳死(脳幹死)と言っています。理論的にはこれが正しいと思います。例えば小脳だけが機能を失っても、脳死とは言いません。従って、この問題は今後検討が続くであろうと思います。脳死臨調でもこのことはかなり議論したのですけれども、機能的全脳死ということで皆さんのご理解をいただいているのに、今さら脳幹だけで良いのだというふうな言い方は誤解を招くということで、脳幹死は見送りになりました。しかし理論的には脳幹死の方が正しいと思います。全脳の不可逆的機能停止でも、脳幹死を概念的に含むからこそ意味があるのです。

 ちなみにアメリカに見学に行きました時に、多くのアメリカのお医者さんから「何故心臓死と脳死と区別するのか」と聞かれました。心臓は止まったから死ぬのではなく、結果として脳へ行く血流が止まって、脳の機能が不可逆的に無くなり、機能を失うから死ぬのであって、脳死と心臓死とを区別する必要は無い、との意見です。これはかなりの人から聞きましたね。こういう考え方もあるということをご紹介致したいと思います。

 脳死の受け取り方も時代と共に変わりつつあります。昭和50年代のはじめころは、まだ東京辺りでは、脳死とか臓器移植とかで討論会をやると、ゲバ棒を持って襲われた時代がありました。その頃鹿児島で脳死のシンポジウムを開きました。その時のアンケートでは賛否は五分五分でしたね。その時から比べますと時代が変わったなあというのが率直な印象です。やはりいろんな出来事、ディスカッション、あるいはマスメディアを通じて皆さんにいろいろ知識が入っていく間に理解が進み、考え方も変わりつつあるということを感じています。

 それから、今は献血は無条件に良いことで、命の贈り物として、若い人達に理解を求め、献血事業が進んでいます。現在は残念ながら日本で全部まかないきれていないということですが、これからは血液も血液製剤も国内需給で行こうという流れで進んでいます。臓器移植も同じことですから、もっと善意の提供ということを強調すべきであると思います。今新聞を読んでいる感じでは、こういう法律が決まって、さあ嫌がる人に無理やり臓器を下さい、出しなさいというイメージがあると思うんですね。そうではなくて、先程どなたかも言われたように、命の贈り物、人間のやさしさを示すものが臓器提供であるというべきですし、献血と同じような意味で社会貢献であるべきです。曽野綾子さんは脳死臨調の委員でありましたが、人間として最後に出来る麗しい社会貢献が臓器提供だということをはっきりと言っておられました。こういうことを正しく理解していただくことが重要ですね。

 従来2〜3回、こちらから言わないのに、脳死ならば臓器提供はどうでしょうかという相談を患者の側から受けたことがあります。そういう場合、残念ながら法律がこれを阻止しておったと言えましょう。今回の法律はいろいろ問題がありますけれども、少なくとも善意の提供、社会貢献を法律が邪魔していたのが解除されたと言えると思います。今回の立法にはそういう意味を見つけたいと思っています。

 それでもちろん完璧な法律があれば、これに越したことはないわけですが、物事全て走りながら考えるといいますか、一歩一歩前進することが重要です。時代と共に考え方も少しずつ変わってゆきます。これで第一例が非常に見事に成功して、善意や苦労がこういう形で幸福をもたらしたのだということが大々的にPRされますと、社会の理解が一段と進むと思います。まあ走りながら考えるというのが実感です。

 神経内科には、内科全体がそうですが、不可能だと思われた状況になっても、粘って努力することによって、活路を切り開いてきたという自負がありますので、最初脳死にはそろそろこの辺りで諦めようという響きを感じて、若干抵抗を感じた神経内科医がいたと思います。しかし、脳死という必ず死に至る状態が確実に存在し、医学的に確実に診断出来るということになりますと、これは、また新たな考え方が生まれてくるわけですね。学会としても、こういう問題を正式に取り上げて、いろんな議論をして、側面からこの問題に働きかけていきたいと思っています。

 これで私の話を終わります。ありがとうございました。

 

若林

 井形先生ありがとうございました。

 それでは、藤原研司先生、埼玉医科大学の第三内科の教授をされておりまして、日本肝臓学会の理事として、肝移植問題検討委員会の委員長をされていらっしゃいます。それでは藤原先生お話の方をよろしくお願いします。

藤原研司先生

 ご紹介いただきました藤原でございます。朝博多におりまして、午前中欠航でしたので、新幹線で参りました。遅刻して大変申し訳ございません。

日本肝臓学会の対応

 日本肝臓学会の代表として参りましたので、まず日本肝臓学会というのはどういう学会かと申しますと、会員が約9,200名おりまして、特徴が二点ございます。一つは内科医が多く、7割を占めているということ。会員のうち、7割が内科医で、15%が外科医です。そして、もう一つは直接臨床とは関係がない基礎の学者や肝臓研究者、例えば解剖学とかですとか、こういった方々がいらっしゃるということ。この方々が15%です。表向きは臨床の学会といいながら、こういった学会であると。従いまして、ものの考え方としましては、内科中心になろうかと存じます。

 肝臓移植との関わりにつきましては、皆様方もご承知のように、移植学会あるいは肝移植研究会等が中心になって進行していたのでございますが、平成4年6月になり、この私が今委員長を致しておりますが、肝移植問題検討委員会が発足致しました。これまで8回の委員会が開催されておりますが、その主な活動内容と申しますのは、移植関連学会合同委員会の要請課題がございまして、当初、これは平成4年でございますが、例えば移植施設の特定の問題であるとか、あるいはレシピエントの選択基準、それから審査委員会の設置問題、あるいはインフォームドコンセントの試案作りに関する問題、これらについて討議し、答申して参りました。これに平成4年と5年の2年間かかっております。

 同時に脳死問題、あるいは肝移植問題に関する情報交換も行なっております。昨年の4月に臓器移植法案が廃案になってしまったのですが、審議がなされていなかった時期に、学会として他の関連学会と歩調を合わせて、衆議院の厚生委員会の方に嘆願書を提出致しました。

 もう一つはこの肝臓研究者、私ども肝臓学会の評議員を対象と致しまして、肝移植に対する意識調査を行なっております。これは昨年の5月から6月にかけて行なっておりますが、その結果をちょっとご紹介致します。148名の評議員全員に用紙を配りまして、80%の回答率でした。

 まず、この肝移植というものをどう捉えるかということで、「肝移植が治療体系の一環として認知出来るか」ということです。いろんな形の答え方がありましたが、これは94%の方が認められました。それでは、「実際に患者さんから相談を受けたことがあるかどうか」ということに対しましては、半数以上の57%が受けたことがあると。では「患者さんのリストを作っているのか」ということにつきましては、まだ82%は作っていなかったということでございます。おそらくその理由は、その次にあった「法案が成立以前の施行には反対である」というのが62%であったことと関連していようかと思います。昨年の5月、6月の時点ではそういった状況でございます。次に、「この日本での理想的な肝移植はどうあるべきか」という項目につきましては、最近では欧米も若干変わっておりますが、いわゆる欧米型の、脳死者からの肝移植が理想だろうとしたものが77%、それから生体肝移植が良いというのが19%でございました。このような意識調査も致しております。

 また、私が昨年の11月に委員長になりましてから二度程、委員会を開催致しておりますが、その中で脳死肝移植における本学会の立場と今後の方針を討議致しました。

 まず方針を立てる前に、我々の学会がどういう位置付けでものを考えるべきなのかという点に関しましては、内科医が中心でございますので、レシピエントの立場に立つということ。それから移植医も含めた外科の先生方が15%いらっしゃることから、移植医の立場から活動しようということを確認しております。それから方針を立てるに当たっては、いわゆる臨調の答申に添って方針を立てていくということも決定致しております。

 では、具体的にどういう活動をするかということでございますが、レシピエントの適応基準、選択基準を若干見直しましょうと。これは欧米でも同様でありますように、適応基準が時代によって刻一刻変わっていく現状を考えますと、これまでに作られていた移植関連学会合同委員会等による適用基準につきましても、若干細かいことを直していかなきゃいかんのじゃないかと、こういった認識をもっております。また、先日臓器移植ネットワーク準備委員会によって選択基準が作成されておりますが、その原案に対する意見も申し上げてございます。

 次に、臓器移植ネットワーク等につきましては、我々の学会として積極的な動きというよりは、周りの動きに合わせた形で意見を述べるにとどめていこうと。取り敢えずそういった方針でございます。ドナーカードの普及についても、他の団体に協力しながら推進するということでございます。

 それから先程のアンケートでもお示ししましたように、脳死肝移植につきましては、まず本学会会員の理解を深める努力をしなきゃいかんだろうと。例えば、学会での特別企画、あるいは教育講演会、学会の機関誌等を通して普及に務めようとしております。同時に、国民の理解を深める努力も市民公開講座等を開いて活発に行うことを確認致しております。次の委員会は7月10日に予定してございまして、この度の脳死法案成立後の動きといいますか、我々の方針、特に移植医よりはむしろ肝臓内科医がいろんなことを推進しろというようなこともあるようですので、この点に関して検討する予定でおります。以上でございます。

 

若林

 藤原先生ありがとうございました。ここで5分ほど休憩をいただきまして、その間に先生方に壇上に並んでいただきます。また、質問用紙の方を皆様に書いていただきたいと思います。それでは3時50分には開始したいと思いますので、よろしくお願い致します。


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