第4回トリオ・ジャパン・セミナー 1995年9月3日開催


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世界視野からの肝移植治療

場所:キャピトル東急ホテル「竹の間」

Dr横田(司会)
 只今より第4回トリオ・ジャパンセミナーを開会いたします。本日の総合司会を担当させていただきますJR東京総合病院外科の横田と申します。よろしくお願い致します。
 昨年の本会では「明日の命よりも、今日の命をどう救うか」というテーマで、トリオ・インターナショナルの産みの親でありますスターズル先生に来ていただきましてご講演いただきました。また九州大学で行なわれた肝臓移植についてのご報告もありまして、とにかく「今日の命をどう救うか」ということで考えてきましたけれども、なかなか日本の現状というのは難しい、厳しいものがあります。その後、いわゆる脳死肝臓移植がまだ行なわれていない。また現実に臓器移植法案そのものもまだ審議中で、その「参考人意見陳述」に会長の青木さんが出席されましたが、まだ現実にいつ通るか見通しがまったくつかないというのが現状です。
 そういう中で、今回の会を迎えたわけですけれども、明日からは京都で日本移植学会が開催されます。本日のご講演は、アメリカからアッシャー先生、ロバーツ先生をお迎えしまして、「世界視野からの肝臓移植治療」のテーマでプログラムが組まれました。お2人の先生のご紹介については後ほどにしまして、早速開会といたします。
 はじめに開会のことばをトリオ・ジャパン副会長の石井直志さんよりお願いします。石井さんは4年前にフランスで肝臓移植を受けられた方で、現在、早稲田大学で文学部の教授をされております。石井さんお願いします。


石井直志
 このトリオ・ジャパンのシンポジウムも今回で4回目を迎えたわけですが、横田先生からのお話のように、脳死移植に関してはほとんど進展のないまま時間が過ぎたという実感をもたざるを得ません。
 話は唐突ですが、1月に関西で大きな地震があり、5000人、6000人の方々が亡くなりました。救急体制が不備であったということ、つまり救助者が駆けつけられる体制ができていなかったために、多くの人びとが亡くなったということがよく知られています。移植についても同じようなことが言えるというふうに考えざるを得ません。
 例えば、今日来ていただいているアッシャー先生のお国であるアメリカでは、肝臓移植だけでも毎年3000人を越える人びとが、生きるチャンスを与えられています。心臓移植についても大体同じような数だと記憶しています。腎臓移植は原則的に言って、その2倍ほどはいるでしょう。その数だけで震災で亡くなった人びとの数とほぼ匹敵するような人たちが生きるチャンスを与えられ、命を救われているという現状があるわけです。
 日本では、今日、肝臓病関係の団体の方もいらしておりますが、毎年、肝硬変・肝臓癌等で数万人の方々が亡くなっています。これからアッシャー先生がお話になると思いますが、私のようにB型肝炎、C型肝炎を原因とする肝疾患で移植適応になる状況にありながらも、日本では数が多すぎるので、これはすべきではないと、非適応にすべきだというふうな考えを持っている先生がたが多くいます。「命を救う」という思想が、あまりにも稀薄なのではないのでしょうか。
 また、話は唐突ですが、昨年今お話になりましたように、3人の方が「今日の命を救う」というテーマのもとにここに集まりました。3人の現状を一応報告しておきます。うち1人、久米若菜さんは、オーストラリアに行かれて肝臓移植を受け、すでに帰国し、おそらく9月からは学校に通うことになるでしょう。彼女は14歳だったと思います。たいへん元気なっています。同じ地区にいて、やはり去年お母さんと共にここにいらしたので記憶になさった方もいると思いますが、マキちゃん、まだ小さな女の子です。彼女は、現在も移植を受けるチャンスを与えられず、症状が好転しているとは言えません。つまり、おそらく悪くなっているでしょう。現在も移植のチャンスはかなり薄いものと考えざるを得ません。
 九州大学では、彼女に対して移植保留≠ニいう判断をしたと僕は最近耳にしました。まったく理由はわかりません。3人目の方はすでに亡くなりました。これが日本の現状です。
 今日一日こうした現状をふまえ、正しい一歩が踏み出せるような討論ができることを期待して開会の辞といたします。どうもありがとうございました。


Dr横田
 続きまして、トリオ・ジャパン会長の青木慎治さんよりご挨拶があります。また、アッシャー先生、ロバーツ先生についてのご紹介もございます。青木さんは6年半前にアメリカで、本日講演していただきますアッシャー先生から肝臓移植を受けられました。移植後6年ぶりに元気な姿で再会でき、感動もひとしおと言ったところだと思います。青木会長、お願いします。


青木会長
 おはようございます。今日は日曜日にもかかわらず、大勢ご参加いただきまして本当ありがとうございます。横田、石井両氏から大変すばらしいコメントがありましたので、私は、私の主治医であり、私に新しい命を与えてくださったドクター・ナンシー=アッシャーと、ロバーツ先生のお2人の紹介をして引きさがることにさせていただきます。
 思い起こせば、1989年の2月9日に渡米。そして、次の次の日であったろうと思いますが、アッシャー先生にお目にかかり、いわゆるインフォームド・コンセントをしていただきました。その時にたいへん厳しい女医さんであるという感触を受けましたが、日増しにそうではないことがだんだんわかってきました。そのうえ不思議にアッシャー先生をはじめとして、麻酔の先生も内科を担当していただく方も、全部女性の医師というたいへん恵まれた状態になりました。
 幸いわずか6時間程の手術で、もちろん私はわからなかったですが、私がストレッチャーで運ばれて行った後、家内がずっとウエイティングルームで待っていたわけですが、その時にナンシー・アッシャーさんから「あなたのハズバンドはパーフェクトに手術ができたよ」と声をかけていただきました。そして「会いに行ってやんなさい」と。その時に、家内は私と連れそって30年たっていたわけですが、その30年を一気に埋めてしまうような感激を感じたそうです。
 私は、生来わがままな人間ですから、58年の人生は割合感謝の薄い生活をしておりました。ところが、突然感謝にあふれる、神の恵みに対する感謝ということを、非常に心の底に重く持つようになりました。その命を再生させていただいたのが、ここにいらっしゃるお2人なのです。
 皆さんもご承知のことと思いますが、ナンシー・アッシャー先生は、世界でも指折りの移植医であられまして、カリフォルニア州立大学の教授でもあられるし、それから移植部門の部長さんでもあるし、それから病院の理事でもあるし、それから自らが執刀されるというスーパーレディでございまして。もちろん、ご主人のジョン・ロバーツ先生も、この体格からご想像されるように、元アメリカン・フットボールの選手で、ただ私なんかジョンに会うとこうほっとする部分がありまして、患者側からいうと、厳しいナンシー・アッシャー先生とホットな温かいジョン・ロバーツ先生というのは、すばらしい組み合わせのように思いました。
 後でお話があると思いますが、全国肝臓病患者団体協議会で、B型肝炎・C型肝炎でかつての私のように苦しんでいる患者さんが、おそらく全国では200万人近い方々がいらっしゃるわけです。もちろん移植というのは最終的な死ぬか生きるか≠ニいう時の選択でありますから、そこに至らないことが望ましいのでありますが、拠りどころをもたないで、希望をなくして死を待つことの苦しさというのは、私も身をもって味わいました。しかし、そこに一つの光として肝臓移植というものがあったために、私は何千キロも飛んでアッシャー先生のところへ行けたわけです。
 やはり希望を持って病気と闘うのと、拠りどころがなくて病気と闘うのとは紙一重のように見えますが、たいへん違うわけでありますから、そういう意味で十分のちのちのご参考にお2人の先生の話を聞かれて、ご自分たちの選択枝を広げておかれて置く、と。カードをたくさんお持ちになるということは、われわれ患者にとっては大事だと思います。そして、もうそろそろ私どもは「患者」という名前を少しご遠慮申し上げて、「移植健康人」というのを、今回のセミナーを契機に、移植健康人なんだというキャンペーンをはっていきたいと思っております。
 それから、この間国会に参考人として招かれまして、法曹界、お医者さま、その他反対派の方も含めてご質問を受け、それに対して陳述をしてまいりました。そして、おそらくこれは私の長い政治の周辺に生息した勘でございますが、おそらく今国会では移植法は通ると私は思っとります。意外に私の勘は当たりますので、そちらに厚生省のわれわれの担当の室長さんもお見えになっていらっしゃいますが、厚生省さんと共々、国会議員に対するアプローチを再開して、そして何が何でも森井忠良さんが厚生大臣の間に移植法を手中におさめたいと思います。これで私のご紹介兼ご挨拶にかえさせていただきます。ありがとうございました。


Dr横田
 ありがとうございまいした。今の青木会長のお話、アッシャー先生から手術を受けられたカリフォルニア・サンフランシスコでの体験記は、『肝移植 私は生きている』(新潮社)という本になり、移植前後の辛さ、苦しさ……。それと現在こうして元気になられて希望を持って日本に帰られた、新しい命を得たという非常に感動的な自叙伝といいますか、そういう話もありますので、また機会をご覧いただけたらと思います。
 続いてこれから講演と討論の部に入らせていただきます。前半では「わが国の肝移植の現状」ということでご報告いただきたいと思います。後半にアッシャー先生、ロバーツ先生のアメリカでの移植、今お話があったB型、C型肝炎を含めての世界の肝移植の現状をお話しいただけると思います。
 はじめに、高畠譲二さまをご紹介いたします。日本肝臓病患者団体協議会事務局長をされております。肝臓病は慢性疾患の1つでありますが、日本ではB型、C型肝炎の患者さんも多く、難病の1つであります。
 腎臓病の場合ですと、必ずしも移植を受けなくとも血液透析によって現在では10年、20年と長生きできるようになってきましたが、肝臓については末期肝不全という状況になりますと内科的治療にも限界があり、肝臓移植でしか助かる見込みはないということになります。ところが日本の現状では、日本国内にいるかぎりは、移植を受けるチャンスはきわめて少ないと言わざるを得ません。こうした中で、肝臓病の患者さんたちの現状と悩みについてお話しいただけると思います。高畠さん、お願い致します。


高畠氏
 ご紹介をいただきました日本肝臓病患者団体協議会の事務局を担当しております高畠と申します。はじめに、このような席で発言の機会を与えていただいたことに感謝をいたします。私自身、輸血によるC型肝炎の持続感染者でございまして、3年前の病理組織検査で肝硬変、代償期という診断を受けている患者の1人でもございます。早速本題に入らせていただきますけれども、時間の制約がありますので、用意した原稿を読み上げて報告とさせていただきたいと思います。なお、お手元にお配りした資料は直接、移植治療には関係ございません。ただ、私ども患者・ウイルス感染者は、日本では感染症なるがゆえに病気の他にあらゆるところで誤解による差別と偏見を受けている。そういう一面を知っていただきたかったからでございます。
 それでは早速本題に入らせていただきます。会場の皆さまもご承知かと思いますが、わが国の肝臓病患者の大部分はウイルスが原因で、患者は約200万人、ウイルス保有者は300万人以上と推定され、第二の国民病としてその克服は21世紀に向けて大きな課題となっています。なぜこのような膨大な数のウイルス肝炎がまん延したのか。
 主要な感染経路は、母子感染、輸血以外に過去の注射針や筒を一人ひとり変えなかった時代の集団予防接種や、医療行為による感染が肝炎まん延の大きな要因であったことが、疫学調査でも明らかになりつつあります。患者やウイルス感染者は、国の医療行政の被害者といっても過言ではないと思います。
 日本は欧米各国との比較で、肝炎ウイルスの最大の汚染国でもあります。予防対策は1986年からワクチンによるB型肝炎、母子感染防止事業の実施、そしてディスポーなどによる使い捨て注射針、注射筒の普及や精度の高い検査薬の導入で、輸血による新たな感染はほぼなくなりました。治療面では、インターフェロンがC型慢性活動性肝炎の治療薬として1992年2月から健保適用となり、これまで約20万人の患者が治療を受けたと言われています。効果も期待されていますが、治る人は残念ながら3割から4割で、課題も多く残されています。他に国の特定疾患治療研究事業の対象疾患になっている原発性胆汁性肝硬変が厚生省の交付件数によると約5000人、劇症肝炎が約1000人となっています。
 肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、(肝臓病の患者さんは)見た目には普通の人と変わりはないため、一般国民や医療従事者にもなかなか理解されず、ある日突然症状が出てアッという間に他界してしまうという患者も私たちの周りには多く見られます。また患者やウイルス保有者は、病気の進行と肝ガンの不安、それにウイルス肝炎の正しい医学的啓蒙の遅れから、すぐ感染する怖い病気という誤った情報の氾濫で、社会生活のあらゆる場面でいわれのない差別と偏見に苦しんでいます。
 昨年、肝ガンによる死亡数は約2万8700人で、1977年以降急増しています。現在も増え続けていますが、肝ガンのほとんどが肝硬変を合併しており、肝ガンと肝硬変の死亡数を合わせると、胃ガンに迫る勢いでございます。やがてガン死のトップになるのではないかと危惧されています。肝ガンの死亡数の男女比は、男性が女性の約3倍で45歳から64歳の働き盛りに集中しているだけに、総合的な対策が急がれています。
 さて、移植治療の問題ですが、これまで述べましたように肝硬変、肝ガンから肝不全末期となり移植以外に生命を維持できない患者にとって、移植治療は切実で移植を受ける日を待ち望みながら亡くなった療友も数多くいます。しかし対象患者があまりにも多いこと、移植後の再感染やQOLの問題もあり、関心はあっても、なかなか踏み出せなかったのが実状だったと思います。私たちの大阪の会では熱心にこの問題を取り上げていまして、8年ぐらい前ですけれども、移植希望者の調査やドナーカードの作成などにも取り組んだ経緯があります。
 私たちはこの間、肝不全になる以前の予防・治療法の確立を求めて、国会請願や国に働きかけをしてきました。わが国の肝移植待機者数は肝移植研究会の試算によりますと、年間約3000人と言われていますが、1993年3月に心臓および肝臓移植のレシピエントの適応基準が移植関係学会合同委員会で公表されました。それによると劇症肝炎、原発性胆汁性肝硬変、先天性胆道閉鎖症、肝硬変症、その他日本肝臓学会肝移植検討委員会で承認する肝胆道疾患となっており、原則として当面、非ウイルス性、非アルコール性疾患が優先されるとしています。やはりウイルス性の患者は近い将来日本で移植治療ができるようになっても、当分の間、移植を受けられないのではないかと悲観する声もあります。一方、臓器移植法案が国会に提出されてから、予後不良の原発性胆汁性肝硬変の患者や、B型の40歳代の肝硬変の患者さんから移植治療を希望する切実な要望もありました。
 なかでも胆道閉鎖症の患者は大半が幼い子供たちなので、末期症状の患者を持つ親の願いはことばに言い表せないほど切実です。肝臓病の場合、人工肝臓の実現は不可能に近いとこから、肝不全すなわち死であるだけに、末期患者の移植治療に対する期待も切実なものがあります。臓器移植法案は、衆議院で継続審議のまま遅々として審議が進んでいません。さっき、青木会長は長年の勘で今期通ると聞いて少し安心したんですけれども、法案には各方面から問題点の指摘や、論議の余地も残されていることも承知しております。だからこそ国会で徹底した審議をつくして速やかに法案が成立することを望んでいます。
 最後に、移植治療は善意・任意の臓器を提供する第三者があって、成立する医療であります。国民の理解が不可欠の条件です。審議の促進に当たってはこの趣旨を十分に尊重しつつ、国民的合意が得られるような法制化を望んでいます。そして、たとえウイルス性の肝硬変、肝不全の患者でも、わが国で移植治療が受けられるようになれば、希望を持って闘病することができることを望んでいるからです。1992年1月に出された脳死臨調の答申も、臓器移植はあくまで善意・任意の臓器提供者の意志に基づき、移植を必要とする人が1人でも多く救済される方途を講じていくことが今後のあるべき基本的な方向であると結んでいます。患者は何よりも多くの国民に祝福された移植を願っています。ご静聴ありがとうございました。


Dr横田
 肝臓病に悩む患者さんの立場から、明日の命と言わず今日の命を希望するという強いメッセージだと思います。続いて京都大学第二外科の猪俣裕紀洋先生にお話いただきます。
 日本の特殊な移植事情というなかで、生体部分肝移植はすばらしい成績をあげています。現在まで胆道閉鎖症の小児を中心に全国で250例をこえる数が行なわれていると聞いています。中でも京都大学では、180例ほどの手術が行なわれておりまして、これらの症例についてのご報告もあると思います。猪俣先生、お願いします。スライドを使ってお話しいただきます。


Dr猪俣
 ご紹介ありがとうございます。本日はこういう席での発言をお許しいただきまして、どうもありがとうございます。今ご紹介いただきましたように、日本、あるいは京都大学におきましては、生体部分肝移植の数が増えてまいりまして、これが一般的な移植と錯覚しがちになりますけれども、本日のテーマである「世界視野からの移植医療」を考えた時には、私たちも皆海外での移植を勉強して帰ってまいりました者ですが、非常に特殊であると思われます。
 まず、すべて生体ドナーからの移植であり、それからすべて近親者からの移植である点、その他多くの点で、世界で一般に行なわれている脳死の肝移植とはまったく異質のものであるという意識は、常にわれわれが移植の医療をしながら感じていることであります。そういう視点も持ちながら、本日はわれわれが行なっております治療の現状について報告をさせていただきます。
 本年8月までに生体部分肝移植を行ないました症例は、現在183例になっております。ほとんどが小児の症例で、2例を除きまして17歳以下の小児例です。最も多い適応疾患は、先天性胆道閉鎖症144例です。最近少し増えておりますのに、代謝性疾患があり、ウイルソン病が一番多いんですが、それから劇症肝不全。緊急に行なう劇症肝不全に対する生体部分肝移植も増えております。レシンピエントの年齢の分布はこのようになっておりまして、最少が3ヵ月です。成人例は先ほど申しましたように2例だけで、他はすべて小児です。1歳から5歳の年齢が80例と最も多くなっていますが、1歳以下の症例も51例経験しています。
 ドナーは1例を除きまして、すべて両親のどちらかから移植されています。1例は成人例で、妹さんからの移植例ですが、他はすべてご両親のどちらかから移植が行なわれています。最も若い年齢は18歳のお母さんで、今のところもっとも高齢のドナーは57歳のお父さんです。もちろん、ドナーに関しては手術はすべてうまくいって亡くなったケースは1例もないんですけれども、治療を必要とするドナーの合併症もあります。ドナーの安全性というものが生体部分肝移植の一番の基本ですので、本来これはあってはならないことなのですが、さいわいにして再手術をしたというケースは1例もありませんで、すべて薬物の治療、あるいは最も問題があったのは胆汁漏れですけれども、これもお腹の中に針を刺してチューブで出す、ドレナージによって保存的に軽快しています。
 手術前のレシンピエントの状態ですけれども、これは一般的に多く行なわれている分類にしたがいまして分けてみますと、このピンクのバーはICUケアー。すなわち肝障害で意識障害を伴うとか、あるいは大量の消化管出血をきたしているとか、あるいは呼吸障害を呈して、人工呼吸を余儀なくされているケースとか、そういう症例ですけれども、それが41例。最も多いのは入院していて治療を受けていて移植になったというケースが79例です。
 このようなケースが典型的な移植症例で、この子は胆道閉鎖症の葛西術後、減黄が不十分で肝硬変にいたって移植の候補となった患者さんですけれども、非常に低栄養状態で腹水の貯留が認められます。このような子が一般的な状態です。
 このケースは7ヵ月の男の子で、やはり胆道閉鎖症ですけれども、体じゅうの骨が弱くなって骨折を起こしてしまう。それから肋骨の骨折により胸郭の変形が生じ呼吸障害を起こす。しかも大量の腹水が胸を圧迫し非常に息をするのが大変であると、そういうような状況で移植になったケースです。こういう重症の胆道閉鎖症による末期の肝硬変状態での移植が多くみられます。特にこれは1歳以下のケースで多く見られます。
 これは大量の腹水をためた患者さんですけれども、やはり胆道閉鎖症のケースです。腹部の胆道閉鎖症の手術による創の瘢痕ヘルニア、一部筋膜が欠損して、そこが貯留した腹水により飛び出している部分がみられますが、このような大量の腹水も呼吸障害を呈する要因で、このようなケースも移植になっております。
 われわれの行なっている手術の術式のシュエーマですけれども、これが一般的な術式です。われわれのケースではドナー1例を除きまして、すべて肝臓の左側(左葉)を使っております。たった1例だけ右葉を使ったケースがありますが、この場合には手術時間も長くなりますし、輸血量も大量になるということで、生体部分肝移植としては非常にリスクが高いということで、すべてわれわれは左葉を使います。再建する血管は肝静脈、門脈、肝動脈それから胆管ですけれども、そのうち肝動脈だけは、非常に細いので、一番細い場合は1・5oくらいの直径しかないわけですが、それは顕微鏡を用いてこのように再建しております。
 生体部分肝移植の手術の合併症です。レシピエントの手術の合併症ですが、比較的合併症は多くありまして、約20%〜25%の再手術率があります。逆にこのように多くの再手術をすることによって、死亡率を低くすることができます。ちゅうちょなくもう1回お腹を開けて治療するということで、患者さんを救っているという点が否めません。
 特に消化管の合併症が多いんですけれども、これは胆道閉鎖症によって、それまで何回かの手術を繰り返してきているために非常に腸管の癒着等が強くて、その剥離のために消化管を傷つけて合併症が起こるということがよくあります。私たちの免疫抑制療法をここに提示しますけれども、これもおそらく欧米で一般的に行なわれているサイクロスポリン中心の治療とは少し違いまして、タクロリムスが中心で、それに少量のステロイドを加える治療をしております。ステロイドは大体、術後半年程度で中止しております。
 このタクロリムス(FK5O6)の投与量は、手術後年を追うにしたがいまして減少していきまして、だいたい2年を経ちますと体重あたり0.1r/日程度の比較的少ない投与量で維持することができます。
 この時点ではほぼステロイドはやめておりますので、このタクロリムス単剤で朝、晩、1回ずつ、あるいは朝1回という投与量で維持することができます。その際、問題になるのは拒絶反応の頻度ですけれども、拒絶反応は術後半年ぐらいまでに起こることが多いんですけれども、それまでの比率を示しますが、現在用いておりますのが上のバーのタクロリムスを口から飲ますだけの治療方法ですが、それですと大体25%〜28%程度の患者さんに拒絶反応が見られます。ただ多くは薬で治療することができる拒絶反応で、いったん拒絶反応が起こっても、これで肝臓がダメになるということではありません。2例だけ慢性拒絶反応ということになってグラフトを失っています。
 これはその反対に移植後に起こってくる感染症の問題ですけれども、これもそう少ないことではありませんで、特にサイトメガロウイルス、それから、エプスタインバーウイルス(EB)というウイルス。2種類のウイルスの頻度が高くなっております。2番目のエプスタインバーウイルスというのは、これが悪性リンパ腫に移行していくケースがありまして、これによって3例の死亡例をわれわれは経験しております。
 EBウイルスの場合には免疫抑制剤を減量していく治療をして、そのウイルスと共存していくような形にするんですが、どんどん免疫抑制剤を落としていくうちに完全にやめることができたケースが今までに4例あります。うち1例は交通事故で残念ながら失っているんですけれども、他の3例は現在、免疫抑制剤まったくなしで生体部分肝移植後、一番長いケースでもうすぐ中止して2年になりますけど、肝機能正常で維持することができています。
 少し生体部分肝移植のなかで特殊なケースをしばらくお示ししますけれども、再移植したケースが2例あります。第70番目の1歳5ヵ月の女児胆道閉鎖症ですけれども、これは1回目のお母さんからのグラフトが慢性拒絶反応に陥って、術後5ヵ月目に今度はお父さんからの生体部分肝移植を行なった例です。それから2段目の第121番目の12歳のこれも女の子ですけれども、1回目のお母さんからのグラフトが広範肝壊死、これは原因がはっきりわからなかったんですけれども広範肝壊死に陥って、それから2ヵ月後にまたお父さんからの生体部分肝移植を行なったケースがあります。この2例は残念ながら2例ともその再移植後に亡くなっておられます。
 成人の生体部分肝移植症例は、京大では2例経験しております。信州大学ではもっとたくさん経験しておりますが、京大ではこの2例だけです。1例目の第132番目、49歳の原発性胆汁性肝硬変症は妹さんから行ないました。それから第183番目、29歳のウイルソン病に対してはお母さんからこのように移植をしております。この2例はいずれも健在で元気にしておられます。
 これはもう1つ特殊なケースで、自己肝温存部分生体肝移植。自分の肝臓を一部分残したままで、生体部分肝移植を行なうというケースで、これはOTCという一種の酵素欠損症に対して行なったケースですけれども、向かって左側が元々この子が持っていた肝臓で、左葉切除を行ないまして、向かって右側がドナーから入れられた肝臓です。この子は両方の肝臓が2つとも機能しつつ現在も健常に生活をしています。
 われわれのトータルの生存率は現在84.4%です。逆に申しますと100人にすると16人程度の患者さんが亡くなってしまうということになります。これは153例までのもので、現在の死亡総数は全部で27例で、感染症が2例増えて11例、リンパ腫が1例増えて2例となっています。
 簡単に私たちが行なっている移植のタイムコースを示しますけれども、まず移植が必要と思われるような患者さんが出ますと、紹介医から情報が提供され、その時点で家族との直接の面談を行ないまして、お父さんお母さんが移植に対して決定的な意志を持っているかということを確認します。
 それで、移植をしましょう、ということがはっきり決まった段階でウエイティングリストに記載し、レシピエントの術前のケアー、あるいは予防接種、ドナーの肝機能のスクリーニング等がはじめられます。それから入院をして実際にレシピエントの術前検査を行ない、サイズマッチング、サイズマッチングというのは、お父さんお母さんどちらかの肝臓のグラフトとなるべき肝臓の大きさと必要な量とを計算するわけですが、そのサイズマッチング。インフォームド・コンセントを最終的に行なって手術となります。
 術後は、約4週間程度で順調の場合には退院されますけども、その後は紹介先の病院あるいは京大そのものでフォローを続けていくということになります。このようにレシピエント、ドナー、それから紹介先の病院と非常に緊密なコネクトを行なっていかないといけないので、コーディネーターを2人、今日も来られていると思いますが、正式なまだ職員でないというところが問題なんですが、お願いしてこのような仕事を非常に精力的にやっていただいておりまして、患者さんたちの信頼を得て活動を継続していくことができております。
 この子供は先ほどの腹水が大量にたまっていた赤ちゃんなんですが、1年後にはこういう表情で病院に戻ってきます。これを楽しみに私たちは行なっているわけです。


Dr横田
 どうもありがとうございました。生体部分肝移植、非常に難しい手術です。いわゆる脳死肝臓移植ということで、肝臓全体を植える手術も非常に高度な外科技術ですけれども、それのほうが生体部分肝移植から見ると、私自身外科医の目で見ますと、よっぽど全部の肝臓を植えるほうが楽な手術です。
 そういう点で、京都大学でのこれだけの確率を持った手術をなされているということは、たいへんな技術であり京都の先生方の努力というのは大変なものだと思いますが、そういう技術を日本で持っているけれども、いわゆる脳死肝臓移植まで進まないと、非常にジレンマを感じるわけです。そういった生体部分肝移植に関してだけですが、猪俣先生に特にご質問とかございますでしょうか。後ほどディスカッションしていきますけれども。


Dr平賀
 東海大学の平賀です。まったくすばらしい成績で、ご努力に敬意を払いたいと思います。いろいろ質問したいこともありますし、大変重要なポイントがたくさんあると思います。
 先生のタイムコースの中で、一番最初にご相談に見えた時に適応を決められるということですが、逆に非適応のケースもあると思います。そのポイント、そこの一番大事な点だけをちょっと教えていただけたらと思います。
Dr猪俣
 非適応のケースにつきましては、現在のところ、劇症肝不全の場合の非可逆性の神経症状を伴っている昏睡状態で意識の回復が期待できないと、そういう状況が不適応になった以外、技術的な問題で今のところ私たちができないと言って、お断りしたケースはございません。
 ただ、これは一般的かもしれませんが、肝腫瘍の場合、悪性の肝ガンの場合、これは小児だったんですが、1例移植直前まで行っていたケースがありました。手術の4日ほど前に肺に小さな病変が発見されて、これは肝外病変だということで手術が中止になり、その1年後に患者さんが亡くなったというケースはあります。それ以外ではないと思います。


Dr平賀
 もう一点だけよろしいでしょうか。急性拒絶反応の際、かなり拒絶反応も乗り越えていらっしゃると思いますが、拒絶反応の治療。特に小さいお子さんをたくさんご経験になっているので、拒絶反応の治療の点だけを簡単に教えてください。

Dr猪俣
 トランスアミナーゼをフォローしておりまして、疑わしい場合には、そのFK5O6の量を増量するだけのこともあります。上昇したトランスアミラーゼが下がれば、それでよし。逆にレスポンスがなければ、生検、肝生検を行なったうえで、パルス療法を行ないます。ステロイドのパルスを行ないます。それでもレスポンスがなければOKT3を使います。大体それが一般的なコースです。

Dr横田
 どうもありがとうございました。最後のスライドのほうでコーディネーターの活動が京都大学でも進んできているという話がありましたが、青木さんがアメリカで経験されたように、アッシャー先生の手術の力もすごいんですけれども、それプラスコーディネーター、アメリカではいろんな立場のコーディネーターの方が活躍していると、そういうことで大きなチームの力がより成功率を高めている感じがします。

Drアッシャー
 今、すばらしいご報告をいただきまして、世界的にもたいへんな立派な結果を上げてらっしゃると思います。世界が注目していると思います。ところで、ご両親がドナーになるということですけれども、その中でご両親がB型、C型肝炎のためにドナーになれないという例はどのくらいあるんでしょうか。

Dr猪俣
 今まで具体的な話が出たのは2例だけです、他のケースですね。HBc抗体、HBs抗体がポジティブで、その結果グラフトを移植された患者さんにかなり高率にHBs抗原が陽性になっているケースがあります。これは、これから私たちがその治療あるいは予防に注意していかなくていけないところなんですが、それに関してはこれからの問題だと思います。
 現在のところ、ご両親がHBs抗原がポジティブである場合には、治療を行なって、そのうえでもう1回考えようという具体的なケースが1例だけあります。まだ、はっきり拒絶という段階ではなくて、ペンディングになっています。レシピエントが待てる状態ですので、ペンディングになっています。


Dr横田
 よろしいでしょうか。では続きまして、大阪大学第二外科の北嘉昭先生からお話しいただきます。北先生はトリオ・ジャパンが創立された時に、そのきっかけをつくってくださった先生なんですけれども、北先生からは特に成人の肝移植、それも日本で移植ができないため海外で移植を受けられた方々へのアンケートを中心としまして、日本の肝臓移植の問題点をお話しいただけると思います。よろしくお願いします。

Dr北
 ただいまご紹介いただきました大阪大学の北でございます。今日はこのような立派な会にお招きいただきまして、どうもありがとうございました。今、横田先生からお話がありましたように、日本では特に成人の肝移植に関しては、生体部分肝移植ができない場合はいまだに海外に頼らざるを得ないという現状があります。それと、ウイルス性肝炎に対する肝移植の適応に関しては、再発等の問題もあります。そこで、少し最近のレビューをさせていただきます。
 目の保養のためにスライドを持ってまいりました。サンフランシスコは非常に美しい街であります。ゴールデンゲートブリッジを渡って、ナパバレーに行きますと、このように綺麗な街があってワインの試飲ができたりもします。
 このスライドはトリオ・ジャパンセミナーの第2回と、第3回目に来ていただいたているスターズル先生ですが、スターズル先生は皆さんご存じのように1963年にはじめて人間での肝移植をされた方で、このトリオという組織をつくられた方でもあります。1980年代のはじめになるまではスターズル先生をはじめ、いわば肝移植のパイオニアとも言うべき先生がたが、肝移植の成績が非常に悪いなかで、たいへん頑張ってこられたという経緯がありました。1980年代になってようやくサイクロスポリンという優れた免疫抑制剤が導入されたことにより、肝移植の成績が非常によくなりました。
 このスライドは、その頃にスターズル先生が、最近の成績について書かれた論文の最後のことばですが、「医学の歴史というものは、昨日とてもできそうにないと思ったことが、今日にはようやくできるようになっており、明日にはもうルーティンになっている」と。こういうようなことを言っておられますが、サイクロスポリンという薬が発見されて肝移植の成績が飛躍的よくなったことを喜ぶ気持ちにあふれていると思います。
 次のスライドは、去年トリオ・ジャパンのセミナーに来られたデービット・ヨントーブ君です。スライドにあるようにサッカーの好きな少年でしたが、ウイルソン氏病という肝臓の代謝異常の病気でした。脳神系もおかされて、結局ピッツバーグで1981年に肝移植を受けました。このスライドは肝移植を受けてすぐの時の写真です。このように足がすごく萎縮してますが、今は非常に良くなっています。
 ちょうどその2年後にアメリカで肝移植という手技を、肝臓病の治療として認めるかどうかというカンファレンスが開かれました。1983年6月のことですが、スターズル先生もこの会に当然のことながら呼ばれました。スターズル先生はこういう面に非常に戦略的に長けた方でして、この会でデービット君の症例を紹介されました。その時の写真ですが、肝移植前で非常に状態が悪い時の写真と、肝移植後に状態の良くなったところを示しながら、肝移植という治療法をとにかく認めさせようということで頑張られました。このカンファレンスの後に、アメリカのNIH(米国国立医学研究所:日本の厚生省に相当するもの)というところの出した最終結論が、「肝移植というものは末期肝臓病に対する治療法として認め得る」ということで、心移植よりも早く国家レベルでの結論を出すという結果になったわけです。
 1987年の写真ですが、もうこのように元気になられ、昨年結婚されました。これは、奥様と一緒に、昨年のトリオのセミナーに来ていただいた時の写真です。彼はいまサイクロスポリンを服用しておりますが、1日量はわずか25rです。青木さんが125rですから、25rというのはものすごい少ない量で、ごくわずかの免疫抑制剤を服用するだけで、このように元気に過ごしておられるわけです。
 次のスライドは、イムランという薬を使っていた時代から比べると、サイクロスポリンという薬が導入されて肝移植の成績が非常に良くなったことを示しています。それに加えて臓器保存液の改良や、さらに新しい免疫抑制剤FK506という薬が入ってきまして、どんどん肝移植の成績が良くなっているということを示しています。このように医学の進歩によって肝移植というものの治療法自体の成績が飛躍的な進歩をとげています。また、京都大学の先生が発表されましたように、最近での生体部分肝移植という方法もどんどん導入されています。
 このスライドは、UCLAのデーターなんですが、肝移植の最長生存者がどのくらいかということです。ほとんどがスターズル先生のコロラド・デンバー時代の症例ですが、もうすでに二十何年間も元気にされている方がいるということです。
 先ほど述べました肝移植という手技を治療法として認めるという会議が開かれてから、ちょうど10年後の1993年にパリで肝移植の適応に対する新しい概念を討議していこうというカンファレンスが再び開かれました。この会議には横田先生も参加されたと伺っています。そこでは肝移植という治療法がどんどん進歩して適応も拡大しているけれども、ドナーに限りがあるために、どういうふうに適応をしぼっていこうかという新しい基準づくりのカンファレンスであったわけです。
 B型肝炎に対する肝移植というのは再発率が高いために、成績が非常に悪いと言われているんですが、ヨーロッパの人たちがそれに対してどういうふうにして再発を防ぐかということを努力されています。B型肝炎ウイルスの増殖力をあらわすものにHBV−DNAというものがあるんですが、このHBV−DNAが陽性のものは高率に再発してきます。あるいはHBe抗原陽性の人はまた再発しやすいという具合に、ウイルスの増殖力が強いほど再発しやすいというデーターがありました。そこでB型肝炎のウイルスに対する抗体(グロブリンHBIG)を持続投与することにより、それがある程度防げるのではないかというデータがあります。長い間続けることによって防げる率が高いということが示されています。この方法によって、移植された肝臓が長期間生着できるということを示しています。B型肝炎に関しては適応をHBV−DNA陽性でない症例にかぎって、術後にHBIGの長期投与を行なうと、非常に成績がよくなるということがわかってきました。  さて、C型肝炎に対してはどうでしょうか。スライドは、これはパリのシャズイエール先生がアッシャー先生のところでされた研究なんですが、C型肝炎を持った方に肝移植をしますと、このように移植後にC型肝炎のウイルスの量が増えるという報告があります。これはおそらく免疫抑制剤を投与しているということと、違った抗原の肝臓が移植されるということに起因していると思うんですが、実際にこういう現象が明らかになっています。
 次に、日本人のC型肝炎の遺伝子型というのは、70%の方がU型であります。実はこのU型の遺伝子型のウイルスは、非常にインターフェロン治療に抵抗するということがわかっています。実際、20%しかインターフェロンが効かないという報告があります。つまり、日本の方でC型肝炎の患者さんはU型の可能性が高いので、肝移植した後にもインターフェロン治療というのが効きにくい可能性があります。そのうえインターフェロンというのは、拒絶反応を誘導する可能性があるという報告があります。
 次のスライドは原疾患がC型肝炎による肝硬変で、海外で肝移植を受けて帰国された方の肝臓機能の推移です。3人とも遺伝子型はインターフェロンの効果の期待が少ないU型であり、慢性C型肝炎の再発による肝機能異常が認められました。そこで、3人の方にウルソデオキシコール酸を1日量600r内服してもらったところ、いずれも1ヵ月以内に、肝機能の顕著な改善が得られました。
 以上、B型肝炎、C型肝炎に対する肝移植の適応と問題点について述べてきましたが、今後これらの疾患に関しても何らかの方法がまたこれから研究されることもありますので、必ずしも肝移植の適応からはずす必要はないと思われます。また、日本人はウイルス性肝炎の人が多いのです。しかし、肝移植適応研究会がまとめた報告によりますと、ウイルス性肝炎の患者さんは非常に数が多いので、原発性胆汁性肝硬変や胆道閉鎖症などに当面はかぎろうというふうな結論になってしまいました。
 さて、次は肝臓病の患者さんがどれくらい外国に行って肝移植を受けられているかというデータです。1995年の7月末の時点で、現在まで125名の方が、海外で肝移植を受けられています。ここに書いてあるような原発性胆汁性肝硬変やC型肝炎による肝硬変、B型肝炎による肝硬変、その他いろいろな病気ですね。子供さんに関しては胆道閉鎖症が一番多いです。国別に見ますと、やはりオーストラリアが比較的医療費も安いということもありまして、最もたくさんの方が行かれています。次いでアメリカ、イギリス、フランス、カナダ、スウェーデン、ドイツなどの国に行かれています。
 このうちの成人の方、25人からアンケート調査に対するお答えを得ました。肝移植時の平均年齢は42歳で、移植後の平均経過年数は約3年ほどです。これは新潟大学の市田先生からいただいたデータなんですが、成績に関しましては、やはり、原発性胆汁性肝硬変が最も良くて、次いでC型肝炎による肝硬変、そしてB型肝炎による肝硬変や肝ガンに関しては、やはり成績が悪いということになっています。こういう結果は外国でも得られていまして、やはり、肝移植を受けるのは成績のよいものからということで、先ほど述べましたように、このような原発性胆汁性肝硬変などを一番に適応とするべきだということになるわけです。
 それでは肝移植後のQOLはどうなっているのでしょうか? 体調に関しては「非常に良い」方が48%、「良い」の44%を合わせて9割以上の方は移植によって体調が向上しております。日常生活の制限に関しても、「ない」が16%、「少しある」の76%を合わせて9割以上の方が生活の制限がなくなっております。肝移植によって体調が良くなり、日常生活の制限をなくなったことがわかります。社会復帰の状況に関しても、常勤の仕事についておられる方が48%、主婦、学生、パート、アルバイトを入れて、88%の方が社会復帰をされています。生活状況も非常に改善されているわけです。仕事や勉強の満足度、最終的に移植をしてよかったかということに対しても、ほとんどの方が「良かった」と満足されているようです。ごくわずかの人が精神的な不安があるとか、あるいは移植を受ける前にかなり神経障害が進んでいたということで例外的な方もいますが、ほとんどの方が肝移植を受けてよかったと思われているようです。
 では、「もう一度移植を受けなければいけなくなったら、もう一回希望しますか」ということに関して、「希望する」と答えた方が24%、「その時になってみなければわからない」が48%、「希望しない」方が28%ありました。「希望したい」人の中には、肝移植後に体調は非常に良くなっていいんだけれども、費用が非常にかかって海外へ行くのがたいへんだというものも含まれていました。それでは、「同じような立場の肝臓病の方がいれば、肝移植を勧めるか」ということに関しては、84%の方が勧めるというふうに答えております。
 以上、肝移植を受けてよかったという人が非常に多くて、肝移植に対して希望を与えてくれるデータを示させていただきました。日本の人は肝移植そのものに反対や不満足ではないわけです。それゆえに、できるだけ早く日本国内で患者さんの負担をかけずに肝移植できるような時代が来るように、われわれは努力しないといけないと思います。ご静聴どうもありがとうございました。


Dr横田
 どうもありがとうございました。肝臓移植の総説的な話と、日本人で海外で受けられた患者さんの現在の姿をお話しいただきました。
 海外で移植を受けられて、日本でその後日本のドクターがフォローしておりますけども、その方々の社会復帰の状態が非常によいこと、その後の予後といいますか、成績についてはアメリカ、ヨーロッパの方と変わらないということで、移植そのものがまだ日本でできなくても、フォローについては十分日本でもできるというような現状なわけです。
 先ほど示していただきましたアメリカでの1983年のカンファレンス、その時点ではじめて肝臓移植が臨床的な本格的な治療法として確立された。そうして10年後には、それまでは実験的な治療だったわけですけれども、アメリカやヨーロッパでは治療法としてルーティンの手術になっていること。そういう状況のなかでドナーの不足、提供される肝臓の不足が問題になり、肝臓移植の適応を今後どういうふうに考えていくかということで、1993年パリでカンファレンスがありました。
 その時に、アッシャー先生の発表もありまして、その会全体としてドナーの供給をどう考えていくかという問題になったんですけれども、現実にはドナーのこれ以上の増加は難しいのが現状です。にもかかわせず、また日本人が移植を求めて海外にいくという、より困難な状況が生まれているのではないかと思います。
 ここで突然ですけれども、厚生省の臓器移植対策室室長の貝谷様が今日お見えになっておられますので、一言臓器移植法案のことも含め、ご挨拶いただきたいと思います。お願い致します。


貝谷氏
 ご紹介いただきました厚生省の臓器移植対策室長の貝谷と申します。本日はこのセミナーに参加する機会に恵まれまして、大変ありがとうございます。行政的な立場でこの問題に取り組むことになりました。去る7月に今のポストに就任いたしましたが、これまでいろいろ調べ、またいろいろな方からの話を伺うにつけ、日本での移植医療というものが世界的な状況から見て、やや制限的なといいますか、少数派といいますか、そういう状況にいま置かれているというようなことを聞いていました。
 今日、いろんな方のお話を直接聞く機会を得まして、なるほどそういうことなのかなと強く思っている次第です。司会の横田先生のほうからもお話しがありました臓器移植法案につきましては、日本ではまだ脳死からの移植というものが実施されていない状況の中で、1つの解決として法律的レベルで国民的な合意を得ようと、こういうことを前提にこれまで議論がなされてまいりました。
 残念ながら昨年4月に法案が提案されて以降、法案の審議状態としては早い審議ペースということでは必ずしもないというふうに行政の立場から見ています。いろんなご意見があって当たり前の状況だとは思いますが、また医学的側面以外のいろんな要素も日本では議論されておりまして難しい面もございます。
 私ども行政の立場としては、国会でいろんな議論を尽くしてもらったうえで、とにかく1日でも早く、脳死段階での移植についての一定のルールといったものが成立することが何より大事だなと思っておりますし、行政としても直接、法案に対してコメントすることはできないのでございますが、側面的に最大限の努力をしてまいりたいというふうに思います。
 先ほど、青木会長から、法案の成立に向けてのコメントがございました。私もそういう気持ちを持ちたいのですが、行政の立場からはもう少しシビアな見方をしておかなければならなのかなというふうに、率直に言って思います。国会議員の先生がたというのは、国会議員の立場ということ以外に、国民のみなさまがたの意見、動き、そういったものを肌で感じながら活動されていると私は思います。そういうことからいたしますと、脳死臨調から法案提出に至るまでの、あの時の熱さが、ここにきて少し冷めてきているのではないかと心配している先生がたも多いと私は思います。
 行政としても、これでは法案の成立に向けて大きな課題があるだろうと思いますので、何とか私ども役所としてもやれることを最大限やらせていただきたいと思います。本日は直接移植に関わっておられる方以外にもいろいろな方がいらっしゃっていると思います。今後ともいろんな立場から、移植医療のためのルールが1日も早く制定されることに向けて努力していただければありがたいという気持ちがしております。簡単ですが、そういう気持ちを述べまして終わらせていただきます。どうもありがとうございました。


Dr横田
 どうもありがとうございました。ぜひ早期法案通過をお願い致します。


Dr横田
 ここで祝電をいただいていますので、ちょっと読ませていただきます。
 衆議院議員、武山百合子様より、「第四回トリオ・ジャパンセミナーのご盛会を心からお喜び申し上げます。臓器移植の問題はこれからの日本の医療にとってたいへん重要なテーマであります。移植治療を可能にするための皆様がたの努力に敬意を表しますと共に、微力ながらもこの運動に協力させていただきたいと思っております。移植法の制定が早く実現できますよう心から祈念いたします」。
 それから日米医学医療交流財団理事高瀬様より、「セミナーのご成功とますますのご発展をお祈りいたします」。以上、ご祝電をいただきました。
 本日のプログラム予定としましては、午後1時半を過ぎる予定になっておりますので、移植を受けられた方もいますし、低血糖になるようなことになるといけませんので、受付の方にクッキー、キャンディなどが用意されています。ご自由にご利用ください。ここで次に後半の部、U部に入りたいと思います。
 まず、ナンシー・アッシャー先生をご紹介申し上げます。
 アッシャー先生はアメリカ、カルフォルニア州立大学サンフランシスコ校の医学部教授で、世界でも数名しかいない女性移植外科医でございます。本日ご一緒にお見えになっております、ご主人のジョン・ロバーツ先生と共に移植チームをひきい、現在ではアメリカでも5本の指に入る肝移植センターの長として激務をこなしておられます。
 アッシャー先生のプロフィルにつきましては皆さまのお手元に渡っていると思いますが、昨年8月に出版されました雑誌『正論』に、「肝移植ナンバーワン女性外科医の生き方」というタイトルで、井口優子さんというジャーナリストが女性の目から見た女医さん、女性外科医の生き方が詳しく書かれておりますので、後からゆっくり読んでください。
 その文章の中で印象に残った一節があります。移植外科医としての厳しい日常生活の中でアッシャー先生の感動、あるいは生き甲斐というのは何かということの問いに対して、「人びとに第二の生を与える手助けをしたというところにつきる」というふうに述べられております。こういう第二の生を与えられた、その生き証人がここにいる青木さんということになります。
 本日、通訳をお願いしています野村祐之さんご自身も、アメリカで肝臓移植を受けられて5年になります。現在、青山学院大学で講師をなさっています。では、アッシャー先生よろしくお願いします。


Drアッシャー
 ご紹介どうもありがとうございました。青木会長、それからトリオの皆さま、このような機会を与えられたことに感謝いたします。特に今日はB型、C型の肝炎との関係での移植ということでお話し致します。
 北先生のご報告とはちょっと違うかも知れませんが、最近B型肝炎の移植後の治療ということでもたいへん大きな進展が見られました。ヨーロッパ、アメリカではB型肝炎というのはそれほど大きな問題ではないのですけれども、世界的に見るとこれはたいへん深刻な問題で、たぶん世界で2000万人ぐらいの方がB型肝炎で苦しんでおられると思います。
 B型肝炎の感染というのは、縦、横の両方で起こります。縦ということは母子ということで、横ということは他人からということです。移植するに至るような状況というのは、肝臓の細胞が慢性的に破壊された状態で、それから門脈圧亢進症、腹水、静脈瘤があるという状態、腎機能障害や、あるいは肝性脳症といった状態です。B型肝炎に長期間罹患しておりますと、原発性肝ガンというものができてきたりもします。肝ガンだけに対しても肝移植というのは行なわれておりまして、単に肝不全という状況、要するに肝不全でどうしようもないから移植するということではなくて、まだ肝臓は機能していても肝ガンがあるというだけで移植対象となるということです。B型肝炎のウイルスは、劇性肝炎というものを起こす1つの原因でもあるわけです。
 私たちは分子生物学的な手法を用いましてB型肝炎ウイルスというものが、劇性肝炎を起こすということを証明しています。C型肝炎というものはB型肝炎に比べまして急性肝不全、先ほど言いました劇性肝炎を起こす頻度というものは少ないわけですが、そのほかにまだ調べていないウイルスによる肝炎があり得ます。B型肝炎の感染力(活動性)はHBe抗原があるかないかによってか、または分子生物学的な手法を用いて血中に存在するウイルスの量(HBV−DNA)を定量することによってわかります。
 肝硬変になるまでは、大体20年、30年、40年といった時間がかかります。B型肝炎ウイルスというものは、肝細胞だけに感染するのではなくて、脾臓であるとか、膵臓であるとか、あるいは白血球の中にもある。新しい肝臓というものは、B型肝炎には罹患していないのにもかかわらず、レシピエントの体の中にそのウイルスがありますので、それによってすぐ感染してしまいます。その結果として、また再発することになるわけです。過去にはB型肝炎の人の移植後の結果は、再発を起こし、いいものではありませんでした。この再発の場合というのは、B型肝炎になる進行度がずっと早くて、はじめの時は何十年もかかるわけですけれども、数年にしてその悪い肝ガンの状態になってしまう。
 私たちの初期の成績も惨憺たるものでした。肝移植以外に何の治療も行なわないと、B型肝炎を再発した37人の患者さんの1年生存率は67%にとどまりました。
 最近になりヨーロッパで人のグロブリンですか。高力価、B型肝炎のウイルスに対する高力価のグロブリンというものが、応用されましてそれによっても再発が防げるということがわかってまいりました。その成功のカギを握る2つの点というのは、まず第一点には、ウイルスの増殖力が低いということですね。さっき言いましたDNAのレベルが低いということ。もう1つには、長期間のグロブリンの投与が必要であるということです。
 私たちは、そういった患者さんに関しては、免疫抑制剤を比較的少なく使っているということと、移植の行なわれる手術場でもすぐにグロブリンの投与を行なうということ、生涯月1回ずつグロブリンを投与するということをしております。個人的なレベルが患者さんにありまして、そのグロブリンの血中のレベルを計ることにより、低い方にはさらに投与するということを行なっております。
 それには理由があります。高力価のB型肝炎に対するグロブリンというのは非常に高価でありまして、1年間に大体1万5000ドルかかります。150万円ぐらいですね。この方法を20人の患者さんに使ってみましたが、B型ウイルスが血中にあるにもかかわらず、再発はありませんでした。この20人のうち半分がアジア系の人であったわけですが、3分の1はウイルスの数がとても多い人たちです。そういった患者さんの1年間の生存率は95%でした。ただ、グロブリンは非常に高額なこと、それから薬の量が少ないこと、長時間与えなければいけないこと、それらが現実には使用上のネックになっています。
 同じく抗ウイルス剤としてたいへん可能性のありそうな薬、ルミビリンが新しく開発されました。これはグロブリンほど高価ではありませんで、毎日経口投与、口から飲むことができるわけです。これを投与することによって、数日間で移植前の状態にウイルス量を減らすことができます。カナダで行なわれました臨床治験においては、術後6ヵ月再発せずに大変うまくいっています。
 私たちは、ラミブジンを用いて、この数ヵ月で臨床治療試験を行ないました。8人の肝移植前後のB型肝炎の患者さんが対象になりました。このうち2人は、HBIGのかわりにラミブジンを投与しました。また、別の2人の患者さんの1人はHBIGを投与したにもかかわらず、HBs抗原が陽性になったためラミブジンを投与しました。もう一人はHBIGを投与する前に肝移植を受け、B型肝炎が再発したほうにラミブジンを投与しました。残る4人の患者さん(移植前にウイルスを減少させるため)移植を受ける前にラミブジンを投与しました。
 しかし、長い期間でどういう結果になるかというのを申し上げるにはまだ少し時間が足りません。ですから、これは移植を受ける、受けないに関係なく、そのウイルス性の肝炎にかかっている患者さんすべてにとって、大変すばらしい可能性を示唆する結果だろうと言えるのではないでしょうか。もちろん移植しないで済むならば、それは患者さんにとっては大変すばらしいことになるわけです。
 C型肝炎に関しては、話はもうちょっと複雑になります。C型のウイルスの抗体というのはごく最近に発見されたわけでして、その血液の輸血によってうつるという意味では、これは非常に一般的なんですけれども、感染としては垂直ということも考えられております。垂直、水平両方でうつるというふうに考えられています。アメリカの検査の結果によりますと、インターフェロンの治療はたった20%の人だけに有効にすぎません。そのほかの人たちは慢性化をしていって、肝臓が最終的な状態に追いやられていきます。  C型肝炎で移植をせざるを得ない患者さんというのは、たいてい他のことも併発していまして、例えばアルコール性の肝炎ですとか、他のウイルスによる肝炎があり、果たして本当の原因がC型なのか、それとも別のことなのか判断するのがなかなか難しいところがあります。ただ、少なくともC型肝炎というのが、病気の悪化に対し大きく関与しているというのは確かであります。例えばアルコール性の肝炎の方でもC型である場合は、お酒を飲むのを止めても、ドンドンと肝硬変が進行していくわけです。それに対してC型肝炎がないアルコール性の肝炎の方は、お酒を飲むのを止めると、それからはすばらしい結果というのが得られるわけです。
 私どものところでは、C型肝炎に関しては100例以上の移植をしております。短期の結果は非常に良いものでありまして、1年後の生存率というのは88%、それから3年後が80%の成功率です。イムランが移植後の免疫抑制剤としては使われますが、C型肝炎の移植の患者さんに関しては使わないようにしています。私が前に示しましたように分子生物学的方法によりまして、C型肝炎というのは移植後にまた再発、ほとんどの症例で再発して来るということがわかっています。しかし、ほとんどの患者さんに関してはB型ほど激しい経過をとるのではなくて、緩徐な再発の仕方と経過をとるということがわかっています。それでも5%の患者さんには、劇症型、激しい形での再発が見られており、早いものでは1ヵ月で再発します。
 75%の患者さんに関しては、ゆっくりとした経過で再発肝炎が起こってくるわけですが、10%から20%の患者さんは術後4年から6年で再移植が必要になることがあります。私たちは移植後のC型肝炎再発に対してインターフェロン療法を試みていましたが、あまりいい結果は得られておりません。もともとHCVのRNAウイルス量が少ない人については、インターフェロンによるいい結果が得られています。これは普通のC型肝炎に対するインターフェロン療法でも同じことですが……。
 最近は、少しでも肝機能がおかしくなって再発の兆候が見られると、たとえそれがビリルビンのあがる前であっても、すぐにインターフェロンを投与するようにしています。10の6乗ですね。インターフェロンの効果に関しては、100万単位を1週間に2回投与するのではほとんど効果が見られません。そこで、容量をもっと増やしてみようかと考えています。まだ、われわれの行なった結果は解析できておりませんが、インターフェロン療法やリバビリンという新しい抗ウイルス薬との併用で、移植後のC型肝炎再発の患者さんを治療できるのではないかと考えています。
 私のコメントを申し上げる機会を与えてくださり、どうもありがとうございました。たいへん名誉に思っております。


野村氏
 どうも通訳がおぼつかなくて申しわけありません。今、ご専門の先生がたもお聞きになっていないような薬の名前が出てまいりました。たぶん最も新しい情報ということで、言いわけをさせていただきたいのですが、それくらい一番ホットな情報というのを生の形で伝えてくださったと思います。


Dr横田
 ありがとうございました。非常にホットなニュースで、明日からの移植学会会で発表される、あるいはシークレットなニュースかも知れません。
 私自身も、今日はじめて耳にしたニュースであり、肝臓移植のB型肝炎、C型肝炎の患者さんにとって希望が持てる、移植に対する希望がさらにふくらむ時代がまた来たな、ということを実感いたしました。
 続きまして、アッシャー先生のご主人にあたりますジョン・ロバーツ先生からお話しいただきます。ロバーツ先生は、立場的には、アッシャー教授のもと助教授として働かれておりますが、アッシャー先生と共に非常によいコンビを組んで移植チームをひきいておられます。ロバーツ先生、お願い致します。


Drロバーツ
 トリオの皆さん、アッシャー先生と私を日本に招いてくださり、たいへん感謝申し上げております。私たちにとってはじめての日本への訪問です。青木さんにも特に感謝申し上げたいと思います。もちろん、私どもは6年前から青木さんと奥さまとは個人的によく存じ上げております。
 北先生のご報告の中で、スターズル先生のことばが紹介されていましたが、医学は進歩するものであります。特に移植の世界では、まったくその通りでありまして、昔は不可能と思われていたことが今は可能になるということが次々と起こっております。  京都の先生のご報告もそうです。日本の移植の先生がたがとても難しい手術を見事に実行していらっしゃる。そして、今や日常的なものにさえなってきているわけです。これはもう奇跡のようなことです。日本のお医者さんにとっては、提供臓器さえあれば、このすばらしい奇跡を次々と起こしていかれることになるのではないかと思います。にもかかわらず、一方では移植手術を受けるために日本を離れ外国まで出向かなければならないという事実があるということに、あらためてハッとされられました。
 今日はまた特に、肝臓病の患者さんの団体の代表の方からお話を伺いました。もっと多くの方に移植のチャンスが与えられなければいけない、そういう状況にあるということにも気づかされました。現実には、北先生のご報告にあったように125人の方だけが外国に行って、そういった機会を与えられている。ということは、何千人もの方が機会を与えられずに亡くなっていったということなのでしょうか。
 そういう機会を与えられなかったのか、あるいは肉体的に外国まで出向くことが不可能だったのか、その点については、はっきりわかりません。しかし、手術をしなければ命が助からないといった状況で、外国に旅行するというそのこと自体がつらいことなのです。それから、もちろん経済的にそれをやりくりしなければいけないわけで、預金を全部引き出し、さらにお金をどうにかしなければいけない、そんな大きな問題も背負わされるわけです。幸いなことには、そうした大変な思いをなさっても、元気に日本に戻られれば、その後は面倒を見てくださる日本のお医者さんの技術がしっかりしているということです。
 日本のような世界でも偉大な国が、自国の人びとを救えないでいるというのはとても悲しいことだと思います。移植法が通ればそれでいいわけですが、そうでない場合はまた外国に行かざるを得ないのかも知れません。残念ながら、これにも限界があります。諸外国でも、今は自分たちの国の患者さんに対して十分な臓器提供がない状態と言われています。ですから、日本における希望というのは、近い将来に臓器提供をしっかりできるようにする、そうした法律が成立することであり、青木さんはその希望に対して、すてきなお話をなさったと思います。
 この法律の成立に向けて、実は新しい問題が日本の社会に起こるのではないかと心配しています。やはり、提供臓器の数がかぎられるために、移植を必要とする人に十分行き渡るだけの臓器が提供されないのではないでしょうか。日本でも、現在のアメリカと同様な臓器提供を推進するシステムが必要になってくるでしょう。
 仮にアメリカと同じだとしますと、移植を待っている患者のリストというのが常に提示されています。アメリカの現状では、臓器提供を待っているリストには何千人もの名前が載っているわけです。結局、肝移植の機会が与えられるまで、2年以上待たなければいけないというような状況も起こっています。移植法が通った後でも、日本で臓器の提供がなされ実際に移植が行なわれるようにまでには、これから長い時間がかかると思います。  法律が通ったからすぐにそれができるということではなくて、それが社会に十分理解される、受け入れられるということが同時に起こらないと機能しないシステムです。ですから、移植法が通った後でも、移植が間に合わず命を落とす患者さんがいる。それにもかかわらず、提供された臓器に対応していく、待機している患者さんたちに移植の機会を与えていく大きな責任があります。
 アメリカで私は6年間ほど、臓器提供システム「ユノス」(UNOS)に関わった経験がございます。アメリカの中でどのように、その臓器が配分されるべきかということを決める、そういった委員会の委員長を私は過去2年間しておりました。もちろん、移植を本当に必要としている患者さんがいる。お医者さんのほうからは、うちの患者には今とにかく移植が必要だという声も聞こえてくる。ところが、アメリカ全体として公正に行なわれなければいけない。最善の方法を見つけていかなければいけないわけです。  アメリカの臓器提供の組織というものははじめは小さなものであり、それがお互いに関連をしていませんでした。ですから、本当の意味で全国に公正にバランスのとれた、臓器提供システムというのは今も完成された形になっていないと言えます。過去20年間、このシステムができ上がっていく中で、アメリカでも多くのあやまちが犯されてきました。私たちの間違いから、日本の方が大いに学んでいただきたいというふうに思っていますし、アメリカではこの同じトリオという団体がシステムをより公正なものに、全国的なネットに成長させるうえで貴重な働きをしています。
 日本のトリオも同じ責任を担うべき立場にあるのではないかと思います。
 アメリカの場合は、たとえばカルフォルニアの患者さんとフロリダの患者さんが移植を待つという時に、その両方の患者さんに公平に同じチャンスが与えられるわけではありません。なぜそういうことになるかというと、臓器提供があった場合に地元でまず第一に提供されること。地元で要求がない場合にはじめて、そのほかの地域にも連絡が取られるといった順序を踏むからです。
 そもそも肝臓は摘出された後で数時間しか保つことができず、当初、移植のできる範囲がかぎられたことが理由として挙げられます。今では保存液が大変よく開発されていますので、少なくとも摘出後12時間から24時間は保存することが可能なわけです。これだけの時間があれば、アメリカじゅうどこへでも、その臓器を運んでいくことができます。  そもそも肝臓は摘出された後で数時間しか保つことができず、当初、移植のできる範囲がかぎられたことが理由として挙げられます。今では保存液が大変よく開発されていますので、少なくとも摘出後12時間から24時間は保存することが可能なわけです。これだけの時間があれば、アメリカじゅうどこへでも、その臓器を運んでいくことができます。
 日本の場合は、特に交通システムが合理的にできていますから、全国で同時にどこへでも、臓器が搬送できるようなシステムをつくるのに適していると思います。日本の患者さんの場合は、どこに住んでいようと同じ機会が与えられることになるわけです。そうしますと、患者さんの側としては、自分で一番納得のいった、いろいろ成績の良好な、あるいは近いセンターに行って移植を受けるとか、自分の病状の結果、待ち時間の一番少ない遠くの施設にわざわざ出向くというような必要が必ずしもなくなるわけです。
 そうなりますと、成績のよいセンターでは、多くの患者さんを受け入れる準備をしなければならないかもしれません。臓器提供の全国組織ができますと、その次に問題になるのは、どの患者さんにまずその優先順位が与えられるべきかという公正さです。たとえ、その組織がいくら完璧になっても、おそらく提供臓器の数というのは、移植を必要とする人の数よりもずっと少ないでしょうから、そこでの優先順位の問題が起きてきます。
 アメリカでも大きく議論が分かれるところで、たとえばアルコールの肝炎の人には、その優先的な順位から言いますと、移植後、アルコール飲酒が止められないために、移植の優先性が下げられるといった事態さえあります。あるいは、移植した肝臓が働かなくて、1日、2日のうちに再移植しなければ命が救えない場合にかぎり2度の移植が可能であるにもかかわらず、1度回復した後に、しばらくしてまた再移植が必要になった患者さんに対しては2度目のチャンスは与えられない、とか。結局、できるだけ多くの患者さんに1度のチャンスを与えることを優先せざるを得ないような状況になると思います。アメリカでは数年のうちに、そのような形へ推移していくでしょう。
 もう1つ大事なことは、それぞれの移植センターがどういう成績を上げているか確かめていくことです。移植というのはたいへん高度の技術を要する手術であり、それに対応するだけの技術能力というのがないといけないからです。万一、それだけの技術の裏付けがなくて移植を行ない、しかもその結果、患者さんを失っていくような場合には、残念ながらそれだけ無駄なエネルギーが使われていると言わざるを得なくなります。
 こうした移植の結果に対する要求が、アメリカの病院ではとても高くなっています。それは政府が要求したものというより、保険会社が高い基準を要求する、そのことによるプレッシャーです。結果的に、閉鎖せざるを得ない事態に陥っている移植センターも現れております。
 間違いなく、日本では質の高いセンターが可能でありましょう。なぜなら、腎移植のセンターですとか、京都大学の生体部分肝移植の優秀な結果が、それを約束しているように思えるからです。北先生が努力なさっているように、ウイルス性の肝炎の患者さんをどうやって移植を通して救っていこうかという努力、研究がなされているおかげで、日本ではとても良い成績を出すことになるはずです。
 しかしながら、提供臓器が本当に理想的な形で用いられることを確かなものにするためには、トリオのような組織の働きが是非必要となります。
 最後にもう一度、私どもをトリオの方がお招きくださったこと、それから通訳に対しても感謝を申し上げておきます。ありがとうございました。


Dr横田
 ありがとうございました。ロバーツ先生には少し待っていただいて、ご質問がありましたら。また、アッシャー先生にも肝炎についてのご質問があるかと思うんですが……。B型肝炎、C型肝炎についてのご質問およびロバート先生のアメリカのユノス(UNOS)のシステム、デストリビューションのシステムについてご質問の方ございましたら、お願いします。

Dr平賀
 ロバーツ先生が、臓器の提供に関しては、ネットワークのシステムが非常に重要だと言及されました。米国にはわれわれがよく知った、皆さまがたもご存じのユノス(UNOS)というシステムがあります。
 日本も過去いろいろ努力をしまして、この4月から新しいネットワークが発足したわけです。それにはわれわれ移植医も一緒に協力しておりますし、厚生省の方々のたいへんな努力を中心にしてつくり上げたわけです。腎臓だけのシステムではありますが、ロバーツ先生からの種々のアドバイスはわれわれにたいへん有益であると考えられます。
 そこで、お聞きしたいことがございます。毎年、ユノス(UNOS)では、臓器移植の数や、移植のセンターの数など、あらゆる詳細なデーターを記録した非常に分厚い報告書を出されていますね。それによりますと一番最近のデータでは、肝臓の提供数と、待機リストで肝移植を受けられた患者さんの数がほとんど同じ数か、提供者の数が上回る状態になった。過去何年間かは待機数のほうが当然多かったのだけれど、それが一番最近のデータでは追いつき、提供数のほうが多いのですね。
 それでも、ロバーツ先生は不足しているとおっしゃいました。米国ではいろいろな問題が出ており、また新しい規制をかけようとしているというお話もありましたが、それは一体どういうことなのか。お聞きしたいと存じます。

Drロバーツ
 提供臓器の数が足りているかどうかというのは、その臓器がどう使われるかによるわけです。現実に今までの傾向としては、アメリカの場合、本当に末期的な患者さんに対しては移植をしないとされ、救命の可能性のある患者さんのほうに、ある意味で臓器を融通するといった形で行なわれてきました。
 アメリカンホスピタル・アソシエーションというのでしょうか、スターズル先生がそちらの雑誌にも報告されているわけですけれども、そういう形である意味では移植後希望のある患者さんを優先的に扱い、手遅れの患者さんは諦めるのが当たり前のようになってきました。ところが実際に臓器の数が多数あるならば、手遅れと今まで諦めていた患者さんに対してもチャンスを与える。その結果また、提供臓器と待機患者のバランスが裏返しになるわけです。つまりは、臓器がどういう基準で使われるかということに、不足か十分かということは関わってきます。
 それから、もう1つは先ほど言いましたように、たとえばフロリダの場合だと待っている時間は数ヵ月にすぎませんが、アメリカのその他のところ、カリフォルニアとか、ピッツバーグ、ニューヨークでは何年にもなるというような不均衡があるわけですから、やはりどのように提供された臓器をバランスよく上手に配分していくか、それによってはまた不足かどうかの問題が出てくることにもなります。

Drアッシャー
 このデータの読み方ですけれど、もう2つほど別な読み方があると思います。まず、アメリカで肝臓病のために何人が亡くなっているかという数を確認します。それは6万5000人です。もう1つは、移植を待つウエイティングリストに載りながら亡くなっている患者さんの数がどれくらいか。もちろん、この患者さんたちというのは移植が必要だからこそウエイティングリストに載っているわけであり、そういうセレクションが行なわれた後の数になります。
 そして、ウエイティングリストにあるうちの10%の方が待機しながらチャンスを与えられずに亡くなっている。つまり、日本におけるそういった患者さんの数から比べればはるかに小さい。だけれども、現実に移植を待ちながら亡くなっている人が確実にあるということを示しております。


Dr平賀
 先ほど、保険会社が非常に重要だというお話がありました。保険会社が高額な肝移植の費用を払ってくれないと移植は進まないとのことでした。もちろん、私どもも米国のシステムをある程度は知っております。
 レシピエントとして移植を受けられる方はいいのです。ただ、いつも疑問に思うのは、ドナー側の費用なんです。ドナーに脳死という診断を下されますと、患者さんは亡くなっているわけでして、死者に対して臓器摘出までの間〈管理〉をしないといけない。その費用は誰が払うのか、保険会社の範疇ではないと思うのですね。保険会社は移植を受けられる患者さんに対して費用を払うわけですから。
 一体、提供者側については、どういうふうに費用が賄われるのか、それを少しお伺いしたいと思います。

Drロバーツ  もちろん、臓器提供をした、提供者のご家族にそれ以上経済的な負担をかけるということはできませんので、費用の請求は臓器移植をする病院のほうに回されます。

Drアッシャー
 私たちはもっとできる限り移植医療というのを合理的になされるようにという努力をしているわけです。ところが、主に保険会社からのプレッシャーというのが一方で大きくあるわけです。
 今日、私たちのところで行なわれている移植の費用というのは、青木さんがお支払いになった請求書の額の約半分にまで切り詰められております。それでも、内容としては青木さんの時と同じぐらい良い治療をしております。

Dr平賀
 まとめますと、先ほど質問いたしましたドナーの費用は、移植を受けられた患者さんというか、レシピエントのいらっしゃる病院に請求するということになる。結局はやはり同じように、保険会社が移植を受けられた患者さんを通して、ドナーの費用も支払うということのようですね。


Dr横田
 アッシャー先生に対して肝炎、B型肝炎、C型肝炎についてのご質問がありましたら……よろしいですか。

Drアッシャー
 ロバーツ先生が関わっておられますユノス(UNOS)の委員会に、ある一点で私は賛成しかねるということがございます。私たちの病院ではウイルス性の肝炎が再発した場合に、その再発が最初の手術から2年以上経過したものであっても、再移植を行なっています。
 移植というものを経験なさった方には当たり前のことなのですが、移植医療というのはまだ完璧とは言えないものです。移植をした臓器が一生、最後まで完璧な状態であり続けることは到底期待しようのない事柄であります。青木さんの例だけが例外、特異な例になるということです。


Dr横田
 ここで1回、10分間ほどの休憩に入らせていただきます。その間テーブルのセッテイングを致しますので、ちょっとご休憩ください。ありがとうございました。
   ・・・10分間休憩・・・
Dr横田
 いろいろお話もはずんでいらっしゃるようですが、このあと討論の場を設けておりますので、そこで活発なご討論をいただきたいと思います。また、会終了後にはレセプション、簡単な食事も用意しています。その場で、さらにホットなディスカッションしていただければ幸いです。
 続きまして、これまでの先生がたのご発言、ご講演を踏まえまして討論に入りたいと思います。
 ここで司会を市田隆文先生に交代させていただきます。市田先生は新潟大学医学部第三内科の講師であられまして、肝臓病学をご専門にされておられます。内科のほうでも、肝移植に対して積極的な意見をお持ちの方です。では、先生お願いします。

Dr市田(司会)
 いろいろな質問を是非オープン・ディスカッション形式で行なえば、いろいろ見えないところもわかってくると思います。それと北先生も、猪俣先生も、私も外国へ行った経験がありますので、英語は何とか話せるんですけれど、せっかく野村さんがいらっしゃいますから、日本語で司会を務めます。同時通訳で行ないます。もし、わかりにくいことばがございましたら、遠慮なく手を挙げてください。後で聞くよりも、いま聞いておいたほうがわかりやすいと思います。
 不思議に思われるかも知れませんが、私は内科の分際で移植の分野に携わっています。実は、2年ほど前に、53才の原発性胆汁性肝硬変症の患者さんが信州大学において25才の息子さんからの肝臓の移植を行ないました。私はその患者の主治医ということもあり、ここ2年間、今までの経過を観察しているのです。そういう意味で肝移植に非常に興味があるということと、私自身専門がウイルス肝炎、B型とC型と肝臓ガンですので、興味がやはり尽きません。
 近畿からいらっしゃった先生がたにもいろいろ聞きながら、ディスカッションしたいと思います。まず、ドナーが多いとか少ないとか、移植が多いとか少ないとかというお話ですけど、とりあえずまずアッシャー先生のところではこの1年間で何例ぐらい肝移植を施行されていますか。

Drアッシャー
 1年間で170例の肝臓移植をしています。

Dr市田
 170例というと大体週に3例ないし4例ですか。

Drアッシャー
 そのために私の髪の毛は真っ白になってしまったわけです。

Dr市田
 同じ質問かも知れませんが、ドナーが不足していることに関して、何かほかのオプションを考えていらっしゃいますか。
 例えば、日本でも行なわれている生体部分肝移植とか、あるいはピッツバークで行なわれたヒヒの肝臓を用いた異種間移植などがありますが。実際、単なる死体肝でなくて生体肝を用いるなど、ほかのオプションを考えていらっしゃるかどうかをお尋ねしたいと思います。

Drロバーツ
 アメリカでも、ごくかぎられた範囲ではありますが、生体肝の移植は行なわれています。ただ、生体部分肝移植に関しては、日本のほうがずっと進んでいると言えると思います。
 そこで、もう1つの可能性というのは、1つの提供肝を2つにわけて2人の人に移植をする。限られた臓器をできるだけ多くの患者さんに享受してもらうという方法があります。1つの肝臓を完璧に2つのものとして機能させる技術的にまだ困難な問題が残されております。ですが、未来的な展望でいえば、他の動物からの臓器の提供も考えられます。
 遺伝子工学の発展から致しますと、われわれが期待している以上に実現可能性があるかも知れません。もし、実現すれば、臓器提供に対する見事な答えが得られるということになるかも知れません。すでにアメリカでは、遺伝子工学的に操作されたブタの肝臓を、肝不全末期の危機的な患者さんに、あくまで臓器の提供を待つ間までの一時的なつなぎとして、移植する実験が行なわれております。


Dr市田
 どうもありがとうございます。ドナーの不足に対して、このようなスプリットリバーとか、あるいは生体肝移植とか、そういうオプションがあります。猪俣先生、京都大学では生体部分肝移植を行なっていらっしゃいますが、先生のところは脳死肝移植に備えて生体部分肝移植を施行しているという具合に理解してよろしいですか。
 要するに法案が決まって、十分なドナーがあればほとんどの症例を脳死肝移植に変更していくとお考えですか。それとも2つのオプションを持ちながら、肝移植医療をずっと進められますか。

Dr猪俣
 2つのオプションを持っていくと思います。というのは、生体部分肝移植にもやはり利点、生体部分肝移植が脳死移植に勝る点があります。
 必ずしも脳死が認められたからと言って、さらにはまた十分なドナーがあったとしても、全部脳死肝移植にいくかどうかまだ決めておりません。当分は2つのオプションで行くと思います。

Dr市田
 それに対してアッシャー先生いかがでしょう。

Drアッシャー
 まったく賛成であります。脳死と生体の違いこそありますが、生体部分肝移植についても十分に理解しております。
 まず、相性ということであれば、ドナーとレシピエントは血縁関係にありますから、拒絶反応のおこる可能性が少ない。その結果、免疫抑制剤の量も少なくて済む。また、ドナーがそこに一緒にいてくれるわけですから、ウエイティングの時間というのが問題にならない。病状の深刻な子供にとって、一番手近なところでドナーが現れているということです。
 私どもでも、成人間の生体肝移植を行なっています。結果、私たちは患者さんを失いました。ここで、技術的な意味で申し上げれば、日本の移植医の方々でしたら、先ほどの1つの肝臓を2つに分け、2人の患者さんに移植するということに成功するのではないかと思っています。

Dr市田
 どうもありがとうございました。私は内科医ですから外科的なことはよく知りません。ですが、単純に考えて生体部分肝移植の手術と、脳死肝移植の手術では、生体肝移植のほうが大変だという具合に理解してよいですか。

Drアッシャー
 そう思います。

Dr市田
 これだけ日本の若い外科医が外国ですばらしい修練を得てきているのに、残念ながら現在は生体肝移植しかできません。この日本の状況をご覧になって、先生はどう考えられます。また、日本の社会についてどう思われますか。

Drアッシャー
 それにつきましては、ロバーツ先生からお話があった通り、このように世界でも最も先進的な日本という国が、移植という点では社会的に開かれていない状態にあるというのはたいへん悲しいことだと思っています。
 日本の移植医の技術というのはアメリカと比べて、少なくともアメリカの男性外科医の技術に優るとも劣らない、むしろ先へ進んでるかも知れないと思います。率直に申しまして、日本のそういったパイオニアの方々から私どもが学ぶべきことのほうが多いとも思っております。

Dr市田
 北先生は国内でのアンケートをとられたわけですが、調査結果を踏まえながら、日本の肝移植に対する社会体制に関して、なにかご意見はありませんでしょうか。

Dr北
 どれぐらいのことが言えるかわかりませんが、日本の社会っていうのは基本的に弱い立場にある人間を大切にしないっていうか、強者中心の社会だと感じてしまうことがあります。
 たとえば、東京駅にまいりましてもエレベーターはなくて、すべて階段なんですね。車椅子の人が簡単に上がったりできない。大きな荷物を持って登らなければいけないというようなことがあります。それに日本のホテルはこのようにもう立派につくられているのに、病院の設備はそれに比して必ずしも十分ではない。病気になったときこそ最高の環境が必要なのに。
 医療に関しても、必ずしも患者さん本位になっていない。移植の必要な患者さんがいて、海外にたくさんの人が出かけて行っている。そういう人に対して、たとえば新聞にその人が載った場合には、皆さん、お金をドネーションするようなことはするのですが、日本で何とかしようというふうに高まってはいかない。
 生体部分肝移植がこのようにたくさん行なわれています。これは確かによいことであることに間違いはない。しかし、自分の子どもが病気になったのなら、親が腹を切ればいいじゃないかというような風潮もあるように思えます。たしかに生体部分肝移植は必要な医療です。困っている人たちを社会全体で助けるよりも、「身内のことは身内で処理しろ」と、しかし「知らない人には何もしないんだ」というような、ある意味で見知らぬ人には冷たいような風潮を感じます。


Dr市田
 ありがとうございました。このディスカッションでは、1つはドナーと社会体制の話、それからレシピエントと肝臓の病気の話、それと術後の話など、3つのテーマを設けてそれぞれ議論していこうと思っています。
 最初に「ドナーと社会体制」について何かお考え、何か感じたこととか、もし会場の方でいらっしゃいましたら……。

Dr平賀
 先ほど、生体部分肝移植と死体肝移植のどちらを進めるかというお話がありました。アッシャー先生は生体部分肝移植を進めたいとおっしゃっていますけれども、外国の肝臓移植のドクターは逆に生体部分肝移植に対しかなり批判的な意見を述べます。やはりドナー側の危険性とか移植医療本来の常識から批判的ですね。それについてどうお考えになるか。
 猪俣先生は両方、死体ドナーが出ても同時並行といいますか、どちらが優先かわかりません。そのような積極性を持って進めていくべきものかどうかということですね、批判のある中で、お伺いしたいと思います。

Drアッシャー
 私は、それが腎臓であれ肝臓であれ、生体移植というのを推進していく気持ちに変わりはありません。なぜなら、移植後の予後の成績が生体のほうが明らかにいいからです。

Dr市田
 特に生体部分肝移植の際、術後の無機能肝の出現が圧倒的に少ないということですね。それと、やはり予定手術ができること、血液貯血が可能であるといったように、余計な種々の要因から逃れることがあります。
 しかし、実際に健康な人に手術をするわけですから、もしドナーが何らかの障害を起こしたら、この医療はストップせざるを得ない。そうした危険性はあるのです。この辺いかがでしょうか、北先生。先生の施設は昔から肝移植に関して積極的な意見を持ってやっていらっしゃるのに、どういう理由からか、生体部分肝移植だけはやられません。何かお考えがあってのことなんですか。

Dr北
 私は個人的には生体部分肝移植はやっていくべきだとは思っています。現在、必要な方がいるわけですから、私たち医療従事者の哲学というのは病気と闘うことであって、1人でも患者さんを救うことであるわけですから。やるべきだと思います。しかし、大学全体ということになりますと、倫理委員会とかいろんな社会的な問題があります。昔から阪大では脳死からの移植を推進するということを絶えずいってきた経緯もあり、今更というのがあるのかも知れません。
 でも、個人的には生体部分肝移植はやはりやっていくべきですし、医療サイドとしては症例がないと医者のやる気も落ちます。毎日、手術症例があるのと、いつやるかわからないというのではやっぱりエネルギーの使い方が違ってきます。

Dr市田
 猪俣先生どうですか。

Dr猪俣
 具体的に脳死が日本で認められて、社会に受け入れられるようになった時の場面と、今とはずいぶん違うと思うんですね。要するに生体部分肝移植の基本理念はドナーの安全性です。ということは、逆にドナーの強い意志の働きがあるというのが第一の条件であり、しかもそれは安全性の上に立っての話です。
 では、脳死肝移植が受け入れられるようになったとして、その時のウエイティングの時間のリスクの説明とか、そういうことを全部理解したうえで、もし、今ドナーとなっているご両親の決意が揺らぐようなことがあれば、そのケースでは脳死移植を優先してやらないといけないと思いますし、そうでなくて、その待つ時間というようなことをリスクに入れて、それであれば両親からやろうという強い意志があれば、やはりその時は生体部分肝移植をやらないといけない。
 そういう個々のケースと、周りの状況によってかなり違うんじゃないかと思います。一概に生体の場合はドナーのリスクが高いから、これは捨てていくものだとそれだけで決めてかかるのは、また危険なのではないかと思います。

Dr市田
 特に胆道閉鎖症の場合には、お母さんやお父さんから子供さんへということです。親の愛がある。愛情だけではない、子どもに対しての責任という考えがあります。
 一方、大人の場合は少し背景が異なります。日本では今まで成人の生体部分肝移植は11例ありまして、7例の方が生きていらっしゃいます。最近の7例は全部健在なんです。内訳は、子供からお母さん、あるいは夫から妻、それからお姉さんから妹といった具合に大体が近親者です。そうではないケース、妻から夫というケースは1例だけです。
 ただ、成人の場合の生体肝移植はかなり難しい。ドナーになる方の皆さんは家庭を持っていらっしゃるんです。いわゆる親からの愛情で子供へ、というのとはその辺りの背景が違うので、実際、内科医として非常に困難なことがあります。
 例えばこの2年間で、私どものところに600例の患者さんが入院しています。肝疾患では350人ぐらいでしょうか。そのうち、約30名が亡くなっています。25人は肝細胞ガンですね。残りは原発性胆汁性肝硬変症と劇症肝炎です。うまく話をもっていけば肝移植の可能性はあるのですが、結局、適切なドナーがいらっしゃらないとか、ドナーの手術は100%大丈夫かとか、そういうことを言われますと断念せざるを得ないというのが現実なんです。
 青木さんのほうから何かご意見がありますか。レシピエントとしてのお立場で。

青木会長
 1つ端的に言いますとね、いま猪俣先生がお話になっているのを聞いていて、脳死はまだ社会的に容認されていないというようなご発言のように受け取れたのですが、脳死は死だっていうことは、この間国会参考人で呼ばれて、お話も承り、国会議員さんのご様子も拝見していても、もう社会的には成り立っているんですね。
 そして、脳死臨調の時でもそうだったように、ごく少数の方が依然として反対をしておられるだけなんです。われわれは今日、ドナーカードのサンプルを皆さんに差し上げております。反対の方のご意志も尊重するためのドナーカード、「意志表示カード」というのが非常に必要なんです。反対の方は反対で結構だと思うんです。その論法からいくと、もちろん生体部分肝移植もあってよろしいですね。なぜなら、ご本人たちが了解していらっしゃるわけですから。救急サイドからドナーが出にくい、そのためには移植法が必要なんだという論理で今日まで何年もみんな待ってきたわけです。じゃ反対と賛成を国民投票ではかってみたら、絶対賛成派が多数を占めていると思うんです。
 だから、反対派の方はドナーカードにノーとお書きになれば、そのための選択ではないでしょうか。嫌だという方から頂戴したいといっているわけではないんです。提供してもいいよという方があり、提供してほしいという方があり、そして医師はこれが最善の方法だと、ご判断なさったならば、当然そこに本来法律がなくても成立していなくてはいけないと思うんですね。
 そういう論議が、本当はこういう場でも激しく行き交うべきであって、いささかでもまだ脳死の問題が社会的に容認されていないんだ、ということではないと思うんですね。どうでしょう、猪俣先生、これ猪俣先生に反論してるんではないですよ。

Dr猪俣
 たとえば、1つの例をとってみると、いま劇症肝不全の患者さんがいて、1日以内に移植をしなければ危ないとします。その時に、家族に対し脳死のドナーが出るのを待ちますか、それともあなたのお子さんにあなたの肝臓をあげますか、との選択を迫った場合、どちらをとるか。極端な話ですけれど、おそらく一般的にはお父さん、お母さんの意識としても、脳死肝移植が具体的にどれぐらい行なわれているのか、生体部分肝移植の安全性については問題がないのか、そうした事柄が普通に蓄積されてこないと、判断がかなり難しいでしょう。そういう意味で申し上げたわけです。

Dr市田
 猪俣先生も、脳死肝移植を別に否定されているわけではなくて、当然1つの医療として、治療の1つの選択肢として考えていいと思いますけれど。

Drロバーツ
 一般的な質問としてうかがいます。もし、この移植法が通過した場合に、どれだけの人がドナーとして登録をするのか、あるいは臓器提供の意志を表したいと思っているのか。そうした調査というのがなされているんでしょうか。

青木会長
 なさってないと思います。いまロバーツ先生のご指摘はたいへん胸に痛みを感じました。ここに厚生省の対策室長さんもいらっしゃるわけでありますが、本当にそういうことが大事ですね。

Dr市田
 どうぞ。

Dr平賀
 今、青木会長がおっしゃったとおり、たいへん痛いご質問だと思います。多臓器については、確かにまだ調査はまったくやられてないと思うんです。ただ日本のこれまでのドナーカードの登録状況をみますと、30万人から40万人ですよね。
 ドナーカードといっても腎臓のみを指します。日本における腎バンクのドナーカードの登録者が30万人から40万人。米国や他の国と比べますと、やはり日本の数は非常に少ない。米国などにはドライバーズライセンスでの登録がありますので、ちょっと事情が異なるわけですが。
 やはり、日本の場合は、ドナーカードの配布の仕方とか、普及啓発、一般の方がまだこれについてよく知らないといった問題、社会的問題があると思いますし、そうした数字がそっくりそのまま多臓器の提供者数にはならないでしょうが、その実績からある程度の数字は予測できるとも考えられます。
 具体的には多臓器ドナーの登録は30何万人ですかね、40万弱の数の登録者というのが一応ご参考になるんじゃないかと思います。

Dr市田
 日本肝移植適応研究会という研究会がありまして、そこでの概算で約500人ぐらいのドナーは出るんだろうと言われています。
 現実問題として、肝疾患で年間4万2000人の方が死亡されています。うち2万人が癌細胞ガン、同じく肝硬変で2万人、残り2000人弱がそれ以外の劇症肝炎とか他の疾患で亡くなっている。明らかにドナー数が足らないわけです。

Dr北
 私は三次救命救急センターで働いていた経験があります。実際、臓器提供をお願いしたという経験もあります。はっきりとしたデータではありませんが、何例か臓器提供を経験してみると、日本人はきっちりとインフォメーションを与えられて、お医者さんと患者との信頼関係ができているという前提があれば、かなり高い率で提供にOKしてくださるというふうに思っています。
 ただ1つ問題あるのは夫婦の場合で、たとえば夫のほうがもし脳死になられたというようなことがあったとしますと、奥さんがOKで子供さんもOKであっても、親や親戚の方が1人でも反対するとダメになってしまう。全員一致しないと認めないという傾向があります。


Dr市田
 実際問題として、アメリカではコーディネーターの方々がいろんな議論をしたり、患者さんに説明することができます。
 京都大学からコーディネータの方が1人か2人来ていらっしゃいますね。いらっしゃいますか。

Dr猪俣
 当然ですけど、日本ではオフィシャルな仕事ではないんです。

Dr市田
 その方のご意見をちよっとお聞きしたいのです。遠慮なさらずに。患者さんへの説明を、私たち内科医が自分自身で行なうとものすごく時間がかかり、時にうまくいかないことがあります。コーディネーターの存在はかなり重要と考えます。
 次は、いわゆるレシピエントの問題です。今、4万2000人亡くなり2万人が肝細胞ガンと申し上げました。日本では、ウイルス肝炎のレシピエントが非常に多いという話をしてみたいと思います。
 アッシャー先生の患者さんの内訳で、一番多い順に3つか4つぐらい病気の名前を言ってもらえますでしょうか。

Drアッシャー
 一般的なカテゴリーとしては、肝細胞が機能しないということであるわけですが、小児の場合ですと胆道閉鎖症というのが圧倒的に多く、それから代謝性疾患、外傷性疾患の順ですね。
 大人の方ですと3分の1がアルコールによる肝疾患、それからもう3分の1がウイルス性の肝疾患、最後がその他いろいろ、もっといいタイプの病気の人たちです。

Dr市田
 原発性胆汁性肝硬変とか原発性硬化性胆管炎、そういうものですね。アッシャー先生のところでは、非常にアルコールの方が多いというのが印象的ですね。

Drアッシャー
 もし、アルコールで問題を持っている人がみんな移植対象ということになると、アメリカでは、それ以外の人たちに移植のチャンスがまったくなくなってしまうでしょう。アルコール性の肝疾患の場合には、どの患者さんに移植対象になってもらうか、たいへん厳しい規則があります。
 アルコール性の肝疾患というのは、アメリカの連邦政府がその費用を支払う7つの大きな病気の1つになっていますが、それに当てはまる条件というのは大変厳しいものです。

Dr市田
 たぶん、アルコール性肝硬変に対する肝移植の場合には、1年か6ヵ月ぐらいはアルコール摂取を止めるという条件があったと思うのですが。

Drアッシャー
 まず、アルコールを完全に切ったことの証明が医学的になされなければなりません。それから、家族がその人を支持して、しっかりとした環境にあるということ。移植後の管理が完璧にできる状態にあるかどうかなどが、すべて証明されなければ移植の対象にはなりません。
 肝臓以外の臓器がいい状態であるということも条件です。たえば、心臓のようにアルコールによって影響を受ける臓器に対し、すでに病的な症状が認められる場合には失格となります。こういう厳しい条件が決められています。

Dr北
 先ほどからよく出ている、原発性胆汁性肝硬変症(PBC)という病気についてですが、それにウルソデオキシコール酸というものを投与しますと、その病気の進行を遅らせることができて、結果として肝移植までの時期を延ばせるという報告があります。それがどうして効くのかということで、そのメカニズムというものが研究されています。どうも何等かの抗炎症的な効果、免疫抑制的な効果を持っているのではないかとの報告がなされています。
 最近ではC型肝炎に対しても、インターフェロン療法が使われています。しかし、日本人のC型肝炎を起こしているウイルスの遺伝子型というのは、インターフェロンが効きにくいわけです。70%の人がU型で、その遺伝子型のウイルスを持った人たちがインターフェロン治療に反応するのは、わずか2割程度なわけですね。
 インターフェロン以外に何かよい方法がないかということで、補助療法として、強力ミノファーゲン(グルチルリチン)であるとか、小柴胡揚など使われている。なかなかよい治療法は見つかっておりません。そこで、東大の小俣先生のグループが中心になり、昔から使われているウルソデオキシコール酸というものがC型肝炎の患者さんの肝機能をよくするんじゃないかということで、研究をされました。
 発表された論文によりますと、少なくともGOTやGPT、アルカリフォスファターゼなどの肝機能をよくするということがわかっています。ただし、ウイルスそのものを下げる、ウイルスそのものへの効果はないみたいですね。

Dr市田
 使って見られた感触はどうですか。3例の。

Dr北
 移植後の方は、私はたくさんやっているわけではないんですが、大体600r投与して、1ヵ月もすれば胆道系酵素がぐっと下がってきます。その結果としてでしょうか、GOT、GPTの値も下がってくるように思われます。
 そういうものが下がるということは、肝臓の炎症が少しでも抑えられているということですので、肝硬変になっていくとすれば、そのスピードも抑えられるのではないかと考えています。

Dr市田
 UDCA(ウルソデオキシコール酸)は私たちも内科でよく使っています。肝細胞の膜を安定化させ、利胆作用がある。また免疫抑制作用があるということで、非常に使いやすく、副作用がほとんどないという薬剤です。
 少し便秘ぎみの人には、ちょうど胆汁量が増えて便通がよくなります。あるいは、移植後に拒絶反応を抑えるという報告もあります。そこで、これは1つ使っても悪くない薬ではないかと私は考えています。コストも非常に安いですね。このUDCAの投与の経験はございますでしょうか。

Drロバーツ
 アメリカでは、胆道閉鎖症の人ですとか、あるいは移植後の胆道を広げるため、そうでなければ肝臓の中に胆石ができるというような可能性があるので、それをなくすようにという目的で使った経験があります。
 よく外国を訪れると、まったく意外な、面白いことを教わるということがあります。今回のUDCAの投与についてもそうです。戻りましたら、特にC型肝炎、移植後再発している人たちに、ためしてみようかと思っております。

Dr市田
 実際問題、われわれの投与方法としては、インターフェロンを使った後に、UDCA(ウルソデオキシコール酸)を使っています。インターフェロンは6ヵ月しか使えませんから。

Drロバーツ
 どうして6ヵ月なんですか。

Dr市田
 保険の問題なんですね。厚生省の人に聞いてもらえませんか。普通は4週間連続600万単位、それから後の20週間は週3回ですね。600万か900万単位です。非常に量が多い。
 C型肝炎に関しましては、このほかに有効な抗ウイルス剤がありません。インターフェロンのようなサイトカイン的なものしか、今のところはない。それと、肝移植後、免疫抑制剤とインターフェロンがどのような相互作用をきたすかが問題なわけですよね。
 先ほどアッシャー先生は、週2回でしたか。週2回の100万単位のインターフェロンテラピーとおっしゃいましたが、インターフェロンと免疫抑制剤の相互作用に関して、どのようなお考えですか。

Drアッシャー
 C型肝炎の再発に対するインターフェロンの適応については、本当は900万単位を与えたいところですが、実際は1週間に200万ですか。100万が2つということで、そういう中で果たしてそれが免疫抑制と干渉しあい、拒絶反応を起こす原因になり得るのかどうか。実は2人の例で拒絶反応が起こりました。しかし、それがインターフェロンにより引き起こされたものかどうかというのは、依然として疑問ですね。
 なぜならば、拒絶反応を起こした人たちというのは、免疫抑制をはじめから下げています。そういったいろんな条件もあり、必ずしもインターフェロンの使用と直結しているかどうかは言えません。

Dr市田
 移植後、C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスが、そういう移植後の、あれだけきれいな肝臓に免疫抑制剤を与えているのに、どうしてあんなにも早く再感染し進むのか不思議です。このメカニズムがいまだにわかっていないわけです。ですが、これは肝移植という新しい学問領域における、私たちの使命だと思います。是非、頑張って勉強してみたいと思います。
 それから、次はB型肝炎ウイルスに関しまして、先ほど先生がおっしゃいました抗ウイルス剤は、日本でも使用可能であります。ただ治験段階であり、今は私たちの患者さんにセレクションして使っています。今年か来年くらいにはOKになると思います。使用法としては、HBs抗原陽性の患者さんに肝生検をしてから、1日1錠投与という形になります。こんな便利な薬は今までありません。1年間のトライアルを行なっています。特にまた、DNAポリメラーゼがよく下がるということですので、移植前にDNAポリメラーゼをこの薬によって下げるという意味においては、非常によいと思うんです。しかし、移植後の使用に関しては、何とも言えません。
 移植後ということであれば、抗ヒトHBs抗体グロブリン(HBIG)を定期的に投与しています。今、神戸に1人患者さんがいらっしゃいます。その方は毎週1回、1年半以上継続して射っていらっしゃいますが、肝機能異常がまったくないという状態です。  B型、C型に関しまして、何かご質問はございますでしょうか。

高畠氏
 繰り返しますが、日本ではウイルス肝炎が圧倒的に多いわけですね。肝硬変、肝ガンの2つを合わせましても、その83%はC型、11%がB型、あと残りがPBCその他という色分けになるかと思います。
 特にHCVの方々というのは肝ガン、肝硬変の末期で、将来日本での移植医療をいま非常に待ち望んでおられる方が数として多いわけです。先生のお話では、3分の1がウイルス性肝炎への移植とうかがい、私ども患者を代弁する会と致しましては、たいへん心強く思いました。そこで、2つ質問があります。
 移植後3年の生存率が、80%ということをお聞きしました。1つは、ではQOLの面ではどうなのかということ。2つ目は、C型に感染した私もまたそうですが、感染して37年たってゆっくり肝硬変へ進み、ガン化するまでにはおよばないといったように、病状の進行が遅い。にもかかわらず、なぜ移植後はC型でも進行が早いのか。また、それをどういうふうにクリアするのか。非常に関心を持っています。

Drアッシャー
 ご質問へのお答えというのは、私は持っておりません。  移植後、特にB型の場合は、先ほどのイミュノグロブリンが実際に使われる以前は、移植後すぐに再発しています。ただB型に比べるとC型のほうが非常におとなしい形で現れます。再発そのものは、B型もC型もすぐに見られますが。
 B型の場合は、すぐ再発し、症状がどんどん重くなっていくといった傾向にありました。ですから、最近までは、B型の再発に関しては、私どもでも、再移植はしないというふうに決めておりました。
 C型も頻繁に再発はしますが、さっき言いましたように、大変おとなしい状態でいます。5〜6年たって、状態が悪くなったところで再移植を考慮する対象となります。移植後、その進展が非常に早いというのは、免疫抑制に関係しているものと思われます。しかし、なぜそうかということはわかりません。
 移植の専門家というのは、移植をすることが主な仕事であり、その問題に関しては、肝臓の専門家、内科の先生にもっと頑張っていただかないといけません。


Dr市田
 アッシャー先生は髪の毛が白くなるくらい、肝移植を行っていらっしゃる。やはり、移植した患者さんをどうやってフォローするかが問題ですよね。ものすごく重要な問題だと思うのです。そこで、内科の専門家、肝臓専門医が患者さんを定期的に診察していらっしゃいますか。先生のところでは。

Drアッシャー
 私どもでは、移植後の患者のケアということについて言えば、主に外科の領域にいる先生たちがフォローアップしています。
 C型の患者さんの再発に関しては、肝臓の専門家が一緒に協力をして、予後を見守っております。一般的に、移植の患者さんは、肝臓の専門家がケアをするというのが普通でしょう。私たちの病院ではそうではないわけですが。

青木会長
 ちょうどここに、B型ウイルス、C型ウイルスそれぞれのサンプル、2人がいます。私がC型、それから石井さんがB型です。私のほうは移植後6年7ヵ月ですね。彼が4年で、いろいろありましたが、結論的に言いますとまだ再発をしておりません。  なお、さっき北さんから報告のあったウルソ酸ですね。北さんの推薦で、私がモデルになりまして、かれこれ1年ほど前から飲みはじめました。1日600r、これはたいへん安い薬です。市田先生がおっしゃったようにお医者さんとしては出しても、あまり面白くないという薬かもしれません。これを600r毎日飲んでいますと、GOTもGPTも20台ですね。それからLAPもまったく正常値。ただ1つだけガンマーGTPという、アルコールのマーカーだけが、私の場合は、まだ130台でちょっとノーマルとはいえない。
 ほとんど私たち2人の場合にかぎれば、何の問題もない。再発をそう心配しなくてもよいように思いますがね。どうでしょう、石井さん。

石井氏
 先ほどお話ししたHBIGですか。フランスで移植を受けたということで、ヨーロッパでそういう使われ方をしていたので、使っているわけですね。月に1度。高価なお薬ですが使っております。そのために再発がない状態がずっと続いております。時に凝陽性的な数字を示す場合もありますが、次の月にはマイナスになっていますね。そういうことは今までに2〜3回ありました。ですから、効果があるということですね。
 ウルソ酸については、ガンマGTPが下がらなかったわけですが、私の場合には、アルカリフォスファターゼというのと、ガンマGTPに関しては正常化しました。ガンマGTPは250くらいあったものが40程度になっていますね。相当効果があったと思っております。5〜6ヵ月です。
 質問は、B型、C型の肝炎を持っている患者が移植手術を受けた後、免疫抑制剤を徐々に減らしていくわけですけれども、他の患者と他の肝臓移植の患者と比べて、より速度が早く慣らしていくわけですか。それともなるべくつまり最初から減らしておいたほうがよいということでしょうか。これは直接ほかの患者さんにも関係すると思います。

Drロバーツ
 まず、B型肝炎に関して。B型肝炎が再発した場合には、すぐにイムランを取り除きます。イムランが直接的な原因と考えられるからです。それから、そのほかの場合というのは、必ずしも免疫抑制剤の量を減すことにはなりません。というのは、B型肝炎が再発しやすい時期というのは、移植後たとえば3ヵ月前後であり、そうするとその時にはまだ免疫抑制剤の量も多く、バイオプシー、肝生検をしてみても、拒絶反応なのか、あるいは本当に再発なのか判断がとても難しいのです。


Dr市田
 要するにB型肝炎、C型肝炎が、なぜこれだけ問題になるかというと、せっかく移植した臓器が再感染するということです。私はやはり内科医ががんばって、ウイルス肝炎を撲滅する努力が必要だと思います。そして、どうしても非可逆的な進行性の肝疾患になれば、最後は肝移植を考えるべきでしょう。
 まだまだB型肝炎、C型肝炎のメカニズムそのものがわかっていない状況ですので、まずは基礎学者と一緒に、感染のメカニズムを研究すれば予防できるはずだと思います。したがって、B型肝炎だから、C型肝炎だから、肝移植できませんといった発想ではダメだと、私は理解しています。
 移植後このように元気な方がいらっしゃいます。しかし、最後に1つどうしても知りたいのは、拒絶がどこまで続くのだろうということです。日本では移植を受けた患者さんが少ないけれど、アメリカには20年も生きている人がいらっしゃる。免疫抑制剤をどこまで続けなくてはいけないか、ちょっとお聞きしたい。
 アッシャー先生、お願いします。

Drアッシャー
 拒絶反応というのは、実際に肝生検をして調べてみると、移植を受けた人の65%に何らかの形で起こっています。その可能性というのは時間がたつにつれて、少なくなっていくわけです。
 京都大学の結果によりますと、生体肝の場合には、死体肝の場合に比べて、拒絶反応の率が半分の数字であるということに、たいへんよい印象を受けました。ほとんどの場合、拒絶反応は、移植後の最初の数ヵ月、2〜3ヵ月のうちに起こります。以後は、多くの患者さんが、免疫抑制剤の量を継続的に減らしていけます。免疫抑制剤を完全に途中で、やめることができるかどうかは、大いに議論があるところです。実はそのことが京都でお話をする一番のポイントなわけです。
 それで、ここには多くの患者さんが完全に免疫抑制剤をやめてしまって、その後、拒絶反応にあっているという実際の例があるわけです。


Dr市田
 最後になりましたが、お2方からトリオ・ジャパンのセミナーに対して、今後期待されることと、メッセーシを最後に一言ずついただいて、会を終わりたいと思います。

Drロバーツ
 私の印象では、日本の社会というのは、移植医療について大きな曲がり角に、まさに差しかかっていると思います。そして、この移植法が通り、脳死によるドナーからの移植がいったん可能になりますと、日本の先生方がたの技術レベル等からすれば、未来の展望が開けてくることになるでしょう。その曲がり角にきていると思います。
 結局、最後のところで何が大事かというと、それはあくまでも患者さんであります。  すでに申し上げましたように、アメリカでは、トリオという組織が、移植において大きな指導的役割を果たしてまいりました。日本のトリオも同じような役割を果たしていくことになると確信をしております。

Drアッシャー
 私自身は、青木さんを元気な形で、このお国にお戻ししたんで、この大いなる戦いを戦っていってくださるという。その現実を見てとてもうれしく思っております。

       (一同拍手)

Dr市田
 では、どうも長い間ありがとうございました。これでこのディスカッションを終ります。どうもありがとうございました。

Dr横田
 どうもありがとうございました。これを以ちまして、この会を閉じます。閉会の辞を荒波事務局長よりお願いします。

荒波氏
 長時間、食事もとらずに、ありがとうございました。アッシャー先生、ロバーツ先生、それから総合司会の横田先生、また市田先生、それから猪俣先生、北先生、平賀先生、高畠さん、会場の皆さんありがとうございました。本当に無理なスケジュールのプログラムにもかかわらず、皆さまのご理解のもとにここまで至り、ありがとうございました。  日本の脳死移植医療の進展状態が行き詰まった状態で、多くの方々が移植を受けられずに亡くなっているということを、身をもって感じ、体験している者の1人として、1日も早く日本で脳死からの移植ができるようになってほしいと願っております。

 ここで、最後に1つアピールさせていただきたいと思います。トリオ・ジャパンでは今回、〈意志表示カード〉を作りました。これは、2種類の意志表示カードでありまして、いわゆるドナーカードと同じ意味を持ったものです。
 2種類とも内容は同じでございます。皆さんの意志を表していただきたいと思います。「臓器を提供する」、また「臓器を提供しない」という両方の意志が選択できるようになっておりますので、お持ち帰りになって、身近な方にもアピールしていただければうれしいです。願わくば、この〈意志表示カード〉の配布活動に加わっていただければとも思います。
 また、全国心臓病の子供を守る会でも、同様なカードを出しております。ご活用ください。ありがとうございました。それでは、この後はお隣の部屋で、些少ではございますが、食事、お飲み物等を用意しております。どうぞレセプションの会場に、皆さま、お残りいただければと思います。
 本当に長時間ありがとうございました。(了)

       (一同拍手)