元気になる魔法






人気のない機関室で、ジョミーは膝を抱えてじっと蹲っていた。
シャングリラを飛ばし続けている機械たちは、それはもう喧しい音を立てているけれども、雑多な思念をシャットアウトしたいジョミーにとっては、逆に都合のよい場所である。
また、滅多に人が来ないのもいい。
独りきりになりたい時、ジョミーは頻繁にここを利用していた。

自らの口からこぼれ落ちるため息で膝頭を温めながら、ジョミーは一体なんて言い訳すればいいんだろうと考えていた。
今日の失敗は、ちょっと酷かった。
ジョミーには甘すぎるといわれる彼も、流石に眉を顰めるだろう。
そうやって、すぐにかっとするのが悪いとさんざん言われている。
ジョミーだって、もちろん分かっているのだけれども、起伏の激しい感情を如何ともし難いのが現状であった。

その時、不意に名を呼ばれた気がして、ジョミーは膝頭に埋めていた面を上げた。
すぐに意識を船内へ張り巡らせると、ジョミーの反応に気がついたらしい詮索者がダイレクトに思念を飛ばしてきた。

『ジョミー、またそんな所にいるのか?』
『ブルー……だって……』
ちょうど思い巡らせていた人からのコンタクトに、ジョミーは思わず言いよどんでしまう。
どうやら早速、彼の元にも報告がいったらしい。

『いいから、こちらに飛んでおいで』<br>だがブルーの口振りは、どこまでも優しかった。
ジョミーは安堵すると共に、多分な申し訳なさを覚えて、促されるまま彼の元へとテレポートした。

寝台の傍らに降り立ったジョミーが目にしたのは、ヘッドボードに枕をあてて身体を預けているブルーの、微笑を浮かべた面持ちだった。
ジョミーを認めた彼は目を細めると、今日も派手にやったみたいだねと口にする。
ジョミーは居た堪れなくなって、身体を小さくした。

「ごめんなさい……」
「いつも言っているけれど、謝ることはない」
「でも……」
「壊れたものは、直せばいい。――ただし、仲間に被害が及ばないよう、その点だけは注意すること。君のESPはまだまだ危なっかしいからね」

ブルーは一瞬だけごく真面目な表情でそう言うと、またすぐに優しい笑みを湛えた面に戻った。
ぽんぽんと寝台の上を叩いて、おいでとジョミーを呼ばわる。
ジョミーはブルーに引き寄せられるようにして、寝台に腰かけた。
身体をブルーに向けると、どうしてだか彼はちょっと困ったような面持ちで、ジョミーを見つめていた。
ジョミーが首を傾げると、その疑問を察したのか、ブルーが口を開いた。

「僕の、所為だってね」
「違います」
また余計なことを吹き込んだなと長老たちに怒りを向けつつ、ジョミーは即座に否定した。
だがブルーは頭を振る。
「聞いたよ。僕がジョミーに甘すぎるから、君はいつまで経っても力を制御出来ないって、ゼルに言われたんだってね」
ジョミーはむっつりと黙り込んで、否定も肯定もしなかった。
ブルーはジョミーの反応を気にすることなく、先を続ける。

「僕の所為じゃないって、怒ってくれたんだって? それでちょっとESPが暴走してしまったんだろう?」
「……ちょっとじゃないです」
仕方なくジョミーは、彼の優しさからくる歪曲表現を訂正した。
事実、シミュレーションルームは半壊している。
暫く使い物にならないと、ハーレイが頭を抱えて嘆いていた。

「怒らないんですか?」
「どうして? 僕は嬉しいよ」
ジョミーがずっと恐れていたことを口にすると、ブルーはきょとんとした表情で応じた。
「なんて言ったら、またゼルが怒るかな?」
そう言葉を継いで、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
ジョミーは堪らず、ブルーに抱きついていた。
彼もまた、しかと抱き締め返してくれる。

「……貴方は全然悪くないのに……だから僕悔しくて……」
「うん、分かってるよ」
ブルーは小さく肯くと、ジョミーの背中を優しく撫でさすった。
「でも次からは、聞き流して」
「はい」
ジョミーの素直な返事に、ブルーはいい子だと呟いた。
こんな時、ひどく子ども扱いされているようで、ジョミーはちょっとだけむっとしてしまう。
でも実際そうだから、なにも言い返せない。

「もう、大丈夫かな?」
ブルーの問いかけに、ジョミーはこくりと肯いた。
「元気になった?」
「はい」
更なる問いかけには言葉で返して、ジョミーはブルーから、ちょっとだけ身体を離した。
正面から、彼の顔をのぞきこむ。
「でもこうしたら、もっと元気になれます」
そう言ってジョミーは、ブルーの唇に触れるだけのキスをする。
ブルーは瞬間目を見開いたが、すぐに破顔した。

「じゃあ、もっと元気になってもらおう」
ブルーの言葉に、近寄ってくる面に、ジョミーも笑みを浮かべる。
彼の為に、明日も頑張ろうと思った。










私の中の二人の関係の目安は、ひいじいちゃんとひ孫のようです。
拍手お礼でした
20080601



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