ジョミーにそう告げるよう命じた一番の理由は、単に余計な心配をかけたくなかったからなのだけれども、どうやら逆効果だったようである。こんなことならば二番目の理由――万が一、の方を前面に押し出して、僕だけでなくハーレイたちからも彼の行動を諌めてもらえばよかったと、今更悔やんだところであとの祭りだ。
僕は寝台に横たわったまま、はふとため息をついた。視界の中では、朝食が乗っているであろうトレイを手に飛んできた――言葉通り、本当に飛んできた―――ジョミーが、血相を変えて僕の方へと歩み寄ってきている。その慌しさといったら、トレイの上のものを落とさないのが不思議なくらいだ。それとも、サイオンで制御しているのだろうか? だとしたら手放しで褒めてあげたいところだけれど、ジョミーの様子を見る限り、そこまで頭が回っているようには思えない。元来のバランス感覚のよさが、曲芸のような真似をも可能にしているのだろう。
「ブルーっ、大丈夫なんですか?」
寝台の傍らに辿り着いたジョミーが忙しなく問うのに、僕は思わず苦笑を浮かべた。少々体調が優れないけれども、問題はないとジョミーに伝えるよう、ハーレイに命じていたからだ。ジョミーはハーレイの話を聞いていないのだろうか? いや、彼のことだから、聞いた上でそれでも心配でいても立ってもいられなくなり、僕の伝言を無視するに至ったのだろう。こころ優しいジョミーの取りそうな行動じゃないか。今回の件は、完全に僕の判断ミスである。
だが今になってそんなことにとうとうと思いを巡らせていても仕方がない。今一度はふとため息をついた僕は、枕元に佇むジョミーを見上げた。
眉をしかめたジョミーは、不安げな面持ちを隠しもせずにじっと僕を見下ろしている。僕の返答を待っているのだろう。そのまなざしは、適当なことを言って誤魔化そうとしても許しませんよと訴えていた。どうやら僕の体調面に関する自己申告は、まったく信用されていないらしい。まあ己の過去を振り返る限り、それも当然かと納得せざるをえないから、僕はジョミーを安心させるためだけに笑みを浮かべると、大きく頷いてみせた。
「もちろん、少し熱っぽいだけだからね」
僕の所作と言葉を、自らの目で、耳で確かめたジョミーは、ようやく納得したようだった。と同時に緊張が緩んだのか、へなへなとその場にくずおれてしまう。それでもトレイを落とすことも、傾けることもしかなったのはさすがというべきか。そんな僕の思いが届いたかのように、ジョミーは不意にトレイを持ち上げると、床にしゃがみこんだまま、器用にも寝台の空いたスペースにそれを乗せた。次いで両手と、頭を寝台の端に預けると、それはそれは大きなため息をつく。
「よかった……」
体調が優れないから、なんて理由を聞いて、僕が黙っていられるわけがない。ブルーが僕に、余計な心配をかけさせないためにそう言っているのは重々承知していたけれども、居ても立ってもいられなくなってしまった。朝食にかこつけて、様子を見に行こうと思い立ったのも当然だろう。仲間を思うあまり、甚だ自身をないがしろにしがちなブルーに、きちんと食事を取らせて、必要ならドクターを呼んで――。本当にそれだけのつもりだった。すぐに暇を告げるつもりだった。
――熱に浮かされたブルーの状態を、目の当たりにするまでは。
青の間から自分の部屋へと飛んだ僕は、よろよろと寝台へ歩み寄ると、そこに突っ伏した。はあ、とこらえきれない盛大なため息が唇からこぼれ落ちる。
「危なかった……」
気がつけば、そんなことを口にしていた。でも察しのいいブルーのことだから、僕の様子のおかしさになんて、とっくに気がついていただろう。結局僕は、体調の優れないブルーに、余計な心労を与えてしまっただけなのだ。
「あーもうっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」