こちらはオフお試しページです。
さわりだけですが、参考になれば幸いです。
葛藤 〜本文4P〜
ずいぶんぼんやりとした視界を占めているのは、一面の薄青だった。
それがなんなのかすぐには理解できなくて、ジョミーはぱちくりと瞬きをした。
何度か繰り返すうちに、視野はどんどんとクリアになっていく。
と同時に、頭も次第にしゃっきりとしていった。
ああ、眠ってしまったんだなと思う。
「目が、覚めた?」
その時、不意に頭上から言葉が下りてきて、ジョミーはようやく自らが置かれた状況を理解した。
さっと血の気の引くような気分を味わいながら勢いよく顔を上げると、見慣れた広い寝台が目に映った。
ほの白い室内灯に、真っ白なはずの上掛けが薄青く波打っている。
その向こうには、果てしない暗闇が広がっていた。
実のところ宇宙船内なのだから、果てしないなんてことはありえないのだけれども、室内に満ちる濃密な水の香りが、そうと錯覚させるのかもしれない。
間違いであって欲しいだなんてずうずうしくも願ってみたが無駄だった。
目にした光景は、最低の事態を物語っている。
ぐるりと首を巡らせれば、端整な面に笑みを浮かべたブルーの姿が視界に入った。
彼はヘッドボードにあてがった枕に上体をあずけて、ジョミーをじっと見下ろしていた。
溢れんばかりの優しさを湛えた紅玉色の瞳が、すっと細められる。
小首を傾げたブルーは、ひどくゆったりとした所作で口を開いた。
「おはようジョミー」
遥か 〜本文4P〜
ブルーには敵わないと、ジョミーは常々感じている。
ソルジャーとしてはもちろんだけれども、一個人としてでもだ。
どうしてそんなことをしてしまったのか、ジョミーにもいまいちよく分からなかった。
ところは、青の間である。
夕食を済ませてから、いくばくかの時間がすぎた頃だった。
いつものように、一日の報告を建て前にブルーの元を訪れたジョミーは、ずいぶんと具合のよさそうな彼に気をよくして、寝台の端に腰をかけると、報告もそっちのけで他愛のない話を開始した。
それはジョミーに施されている教育に対する愚痴から始まり、口喧しい長老たちのこと、楽しかったこと、面白かったこと、不思議だったことと、多岐に亘った。
ブルーも、日報そっちのけでおしゃべりに夢中になるジョミーを、咎めはしなかった。
端整な面にやわらかい微笑を浮かべて、ジョミーの言葉に聞き入ってくれたのである。
確かに、ちょっと、いい雰囲気だったかもしれない。
でも、だからといって、あんなことをしてしまった理由にはならないだろう。
そもそもジョミーは、気がついてしまった感情を、こころの奥底に閉じ込めておくつもりだった。
だって、どう考えても常識から外れている。
知ったところで、ブルーも困ってしまうに違いない。
もしかしたら、嫌悪をあらわにされるかもしれない。
そんなこと、ジョミーにはとても耐えられそうになかった。
だが問題は、ジョミーの想いがブルーに受け入れてもらえないことではない。
むしろこころ優しい彼が、無理をしてでも受け入れてくれようとすることだった。
それでなくともブルーは、ジョミーに対して、謂れのない罪悪感を抱いているふしがある。
ありえない話ではなかった。
にも関わらず、どうしてジョミーはこんなことをしてしまったのだろうか。
ウィンドウを閉じてください