彼等が出会った、その理由…2
長い廊下をよろよろと歩き、御影は二人の名を呼んだ。
しかし答える声はどこにもなかった。
「ちひろぉ?はやとぉ〜?」
尻尾を使ってバランスをとりながら御影は廊下の壁にもたれかかって進んだ。
「きょいちぃ、ふたりいないよー?」
しかし鏡一からの返事もない。
「きょいちもいない…」
御影はしょんぼりと耳を落とした。
心なしか腹痛も感じる。
「おなか…いたい…」
そう呟いた瞬間、御影は酷い腹痛に襲われ、耐え切れずしゃがみ込んだ。
「うっ…ああっ」
なんとか立ち上がろうと壁に手をつき足元を見下ろした御影は足元に広がる光景に目を見開いた。
彼女の白いワンピースは真紅に染められ、白い肌もまるで傷を負ったように赤い液体が滴り落ちていた。
「っ、いや…いやっ!たすけて…」
慌てて立ち上がろうとしても、腹痛と歩き慣れない裸足が邪魔をしてつまずき、体中が赤に侵食されていった。
御影はえもいわれぬ恐ろしさにその場にうずくまる。
こんな時に、彼等がいてくれれば…
『たすけて…!チヒロ!ハヤト…!!』
強くそう感じたとき、御影は自分の額が熱く感じるのがわかった。
彼女が自我を失いそうになったとき、彼女のばんそうこうで隠された額によって辺りが白い光に包まれた。
気付いたとき、そこには赤い血の塊が残っていただけだった…
『…ここは…ドコ?』
若い緑の匂いが鼻をつき、御影を正気にさせた。
広がる世界は一面緑の草原。御影一人が血みどろの姿だった。
「中…じゃない…」
御影はスカートをめくり血の原因を探ろうとした。しかしそれらしき大きな傷は見当たらない。
なんとか痛みのおさまった腹部を抑え、御影は立ち上がった。
周囲に建物は見当たらない。『どこ…?!誰か!だれか…!』
こんなとき、自分は誰の名をよんだ?
探すって、何を探していたの?
思い出せない。
大切なことなのに…
それとも実は
…大切な…ことじゃないの…?
再びうずくまった少女はきつく目を閉じる。
『血の…臭いがする…』…肉食の獣に見つかったら一貫の終わりかもしれない。この血臭を一刻も早く拭わなくては…
自然と野性の本能が呼び覚まされる。
その時身をよじった御影の音を聞き彼女を見つけたのは、一人の若い男だった。
彼は肉食の獣ではなく…“吸血鬼”だった…。
少女の中を記憶が走り去っていった。
「チヒロ…ハヤトは?!」
脇にいた研究員は器用に口の動きを観て笑った。
「私はどうでもよしですか。まぁいいですけど…」
「きょいち元気そうだもん」
「はいはい」
鏡一は相変わらず口元に笑みを作りながら硝子を軽く叩いた。
「二人とも貴女の帰りを待ってましたよ。もうすぐ、会えます。楽しみにしていますよ」
「ホント?」
御影は嬉しそうに笑顔を作る。
「そうだよ」
きちんと成熟した証を見せた少女はついに最終実験に臨むことが出来る。
鏡一は少女を見つめにこりと微笑んだ。
<<BACK <TOP> NEXT>> 最終実験への架け橋が出来ました!(後ろからせめてどうするよ。
恭一と影貴のつながりが欲しくてつくった適当な話だったんですが出来上がったら重要な話だった。
051231