中島みゆき 夜会VOL.16 「本家・今晩屋」(赤坂ACTシアター・2009年11月25日)

わたしは中島みゆきのデビュー当時からのファン。かれこれ34年もファンを続けていることになる。
しかしながら、彼女が20年前からやっている「夜会」は残念ながら一度も観覧したことがない。
ひとつは、東京、もしくは大阪でしかおこなわれず、全国ツアーのコンサートのように地方公演が皆無だから、行く機会がなかなかなかった、ということがある。
しかし、現在首都圏住まいとなり、しかも今回の「夜会」の会場は赤坂のTBS内の劇場。勤務地の四ツ谷からは地下鉄で2駅だし、残業の後でも駆けつけられる。
チケット発売日には予約電話をかけ続け、40分ほどしてようやくつながり、チケットを手に入れられました。
本当は週末に行きたかったけど、すでに売り切れで、なんとか水曜日の席を確保。


「夜会」とはその名の如く、夜8時からのスタート。
お勤めの人が残業した後でも見に来られるように、と通常のコンサートなどより遅い時間に開演を設定し、「おとなのための催し」というコンセプト。
そしてこれは中島みゆきが歌うものの、コンサートではない。
彼女の演出・脚本・作詞・作曲で役者たちが登場するが、芝居ともミュージカルとも違う、「中島みゆきの“夜会”」としか言いようのない、ある意味実験的なこころみの音楽劇だ。


「本家・今晩屋」の底本は「安寿と厨子王」なのだという。
とはいえ、ストーリーらしいストーリーはなく、第一幕は古ぼけたお寺のセットが舞台正面に。
中島みゆきは青いキモノ風の衣装で登場。
最近出たアルバム「DORAMA!」の中の曲を何曲も歌い、コミカルに舞台の動きを動き回る。
ファンにはおなじみの、どこか調子っぱずれのお茶目なセリフまわし。
尼寺の庵主、脱走した禿(かむろ)、ホームレスの男なども登場するが、セリフはきわめて少なく、パントマイムのような動き。
だから最初は見ていて、ちょっと退屈でもあったのだが、中島みゆきの歌がシンプルな「芝居」に実体をもたせ、だんだんとふくらんでいくような感覚になってくる。彼女の今回の歌はあえて五七調、わらべ歌ふうで、「和風」を意識したもの。

数多くの鞠が寺から湧き出すようにころがっていく演出がおもしろい。
そして第一幕の終わり、寺が炎上し、崩壊していく。照明の効果なのだが、まるで本当に燃え上がったようなようなセットにびっくりさせられる。


20分の休憩を挟み、第二幕は「水族館」。
舞台上部に下げられた極彩色の魚たちが目を引く。
中島みゆきは今度はピンク色の着物姿。ほかの役者たちは左官、ウエディングドレスの花嫁、スキューバ姿の水族館の館員のかっこうで登場。しかし、なんだか深い海の中のできごとのように感じてしまう。
例によって物語の筋を追っていくような演出ではないが、中島みゆきの歌が、「生き別れの安寿と厨子王」のはかなさ、運命の悲しさを表現しながら、舞台のクライマックスへうつっていくのがわかる。
「額につけられた焼き鏝」、そういえば「安寿と厨子王」にも出てきたが、この舞台でもそのエピソードが悲しく歌い上げられる。

船のセット、そしてお祭りの屋台のような提灯、舞台背景が変わり、ピンクの着物から白装束、そして今回の「夜会」のポスターになっている写真とそっくりの衣装とポーズをとって終盤に近づく。
改めて、中島みゆきの歌の力を実感。やはり観客に訴えてくる歌唱力は素晴らしい。
「十二天」を歌い上げ、搾り出すような声が響くと、思わず背中がゾクゾクするような感覚にとらわれる。
確かに彼女が歌うたびに、舞台の中の物語が動いていくのがわかる。
物語の最後は赦しと回帰なのか。
ラスト、舞台の上に滔々と水が流れ、思わず目を見張った。
さいしょは、水が流れているように見える舞台装置かと思ったら、本当に水を流しているのだ。あふれる水にただただひきつけられてしまい、フィナーレを迎えた。


中島みゆきの実験歌劇とでもいうべき空間。
アルバムもコンスタントに発表し、全国ツアーもやり、映画の主題歌(最近「ゼロの焦点」が封切られたばかり)を作り、はたまたアンチエイジング化粧品のCMに松田聖子といっしょに出演も。
本当にこの人は創作活動に意欲的だ。
基本的にマジメな人なんだなあ、と思う。
人気も出て「大家」になってしまい、クリエイターとしてはイマイチになってしまうアーティストも多い中、みゆきお姉さまは勲章をもらってもやっぱりみゆきお姉さま。
終幕の後、出演者たちと登場し「きょうはあったかくて、外のイルミネーションなんかを見ながら帰るにはほんとうにちょうどよろしいかと・・みなさまきっと日ごろの行いがよいせいではないかと思いますよ。あのぉ、ちょっと時間が遅くなっちゃったけど、なんとかおうちまでたどり着いてくださいねっ!」と心遣いも忘れなった。


来場者の年齢層はかなり高し。
中年というより初老のご夫婦とか多かったな。というのも、「夜会」はチケットが高くて(2万円)、若い子じゃ、ちょっと手が届かない部分がある。う〜ん、価格設定はやっぱり高めかなあ。もう少し安いといいんですけどね。

それから、会場のACTシアターは、音響はいいと思うのだけど、あたらしいホールなのに椅子がちゃちい。もっとゆったりしたシートにしてほしいものだ。


「夜会」は今回も東京公演のみ。
舞台設備などの関係もあって上演会場が限られるのだろうが、東京、大阪以外の地方都市でもぜひ公演を実現してほしい。
福岡だったら「博多座」もあるし、ぜひぜひ検討を主催者、そしてみゆきお姉さまにもお願いしたい。