2009年12月 MOVIES
まさにアンジェイ・ワイダ監督の畢生の大作、といってもいいだろう。
映画化されたことは知っていたが、いっこうに日本での上映の情報がなく、内容がシリアスなだけに日本じゃ上映もされず見られないのか? と気をもんでいた。
今年見た映画の中では、わたしにとってはベスト1かな。
1940年に起きたいわゆる「カティンの森」のポーランド人将校虐殺事件は、長らく「ナチスの仕業」とされてきた。ソ連による犯罪だったのだが、ソ連の支配下にあった共産主義ポーランドではタブーとされ、真実をさぐることすらできなかったのだ。
アンジェイ・ワイダ監督の父もこの事件で殺されたという。
まさに鎮魂の意味をこめた映画だ。
クラクフに住むアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)は将校の夫・アンジェイ(アルトゥル・ジミイェフスキ)をソ連軍に連行されてしまう。
夫の帰りを信じて待ち続けるのだが、数年後、死亡したと公報のあったアンジェイの友人・イェジ(アンジェイ・ヒラ)から思いもかけぬ真実を知らされる。
イェジは着ていたセーターを、アンジェイに貸していた。それでそのまま死体は、イェジのものと認識されていたのではないかと。
アンジェイの父で大学教授のヤンは大学の講義室でナチスに連行され、そのまま家族に会うこともできず、収容所で亡くなっていた。
やはり兄をカティンの森事件で失ったアグニェシュカ(マグダレナ・チェレツカ)は墓銘碑に「カティンで非業の死を遂げる」と刻んだだけで、ソ連軍の尋問を受けた。
「自由なポーランドはもう二度と来ない」
そのつぶやきが悲しい。
頭を打ちぬかれ、穴に投げ込まれ、まるで流れ作業のような虐殺。
ここまで人間は冷酷になれるのか。
ワイダ監督のソ連軍への静かな怒りが画面にみなぎる。
ナチスとソ連によって奪われた祖国。
こうやって映像化して、真実を白日の元にさらすまで、実に60年以上の歳月がかかったのだ。
ワイダ監督には「灰とダイヤモンド」「地下水道」「鉄の男」といった名作があるが、きっと「カティンの森」を映画化するまでは死ねない、という執念のようなものがあったに違いない。
「自由なポーランド」は映画の女性の絶望的なせりふに反して、ふたたび日の目を見た。それも1989年まで待たねばならなかったが。
わたしは1991年にポーランドに旅したことがある。
ワルシャワ、クラクフ、グダニスク、どこも美しい街で民主化に向かう人々の表情が明るかった。
ところでわたしが見に行った神保町の岩波ホール、観客は見事なくらいに中・高年ばかり。
ワイダ監督、というネームバリューで、足を運ぶ層となるとこうなるのかな。
できたら若い世代にもっともっと見てほしい映画です。
(12月16日、岩波ホール)
「ボウリング・フォー・コロンバイン」 「華氏911」 「シッコ」などアメリカの暗部をえぐる問題作を連発してきた、マイケル・ムーア監督。
08年秋のリーマン・ショックに端を発した金融危機のあとつくられたのが、そのものずばり「お金」と「資本主義」をテーマにすえた作品だ。
サブプライムローンで家を失った人々、富の偏在を、例によっていろんなニュース映像をまじえて皮肉っぽくナレーションしつつ、「そもそも資本主義と民主主義って相容れるのか? 金儲けのためなら何やってもいいのか? 強欲な銀行が破綻しないためにカネをつぎこんで、家を差し押さえられて途方にくれる人がいるなんておかしいじゃないか!」
マイケル・ムーアの怒りが炸裂、お約束の「アポなし突撃取材」で、ウォール街へ。「国民にお金を返してください。この袋に1億ドルぐらいなら入る?」と、袋を提げて銀行CEOへの面会を求める。
多くの人々の命をあずかるパイロットの給料が非常に安く、アルバイトの掛け持ちまでしなければならない。
一方、ウォール街の面々のケタ違いの報酬。
そして彼らは「大統領にも命令できる」権限を持っていた。ホワイトハウスはすでにウォール街に牛耳られていたのだ。
上映中、観客からは、ムーア監督の皮肉たっぷりのナレーションに笑いがあちこちで起こり、みなが声をあげて不正を正していこう、それでこそが民主主義だ、とのメッセージにはやはり胸が熱くなる。
上映終了後、会場からは拍手がわきおこりましたよ。
娯楽作でなくドキュメント映画で、制作費も掛かってなくて(失礼)、これだけ面白く見せて、いろいろ考えさせられる作品を作る手腕はさすが。
ちなみにムーア監督、封切りの数日前、映画のプロモーションで、日本橋兜町の東京証券取引所に来てたそうです。ニューヨーク証券取引所では撮影・取材は断られたらしいけど。ウチの配偶者の勤務先とは目と鼻の先なんで、「あー、知ってたら東証まで見に行ってたのに」と配偶者は残念そうでした。
それから、公開初日ということもあってか、映画館の出口で「ぴあ」の「映画満足度調査」ってのを初めて受けました。選挙の出口調査みたい。
全国の映画館の一般公開は1月9日からだけど、東京・大阪で先行上映され、東京でも上映は1箇所とあって、場内はかなり混んでいました。
(12月5日、シャンテ・シネ日比谷)
