★ふ く と の 遭 遇★
あれはヤクルト対西武の日本シリーズ第1戦の日だった。
試合を見ようと急ぐわたしの目に、韓国風焼肉「福都園」の前にいる子猫が見えた。大柄な野良猫に頭をはたかれてじっと動けずにいる。見るとだいぶ弱っているし、目やにがべっとりついて、よく見えてないみたいだ。大きな猫のほうを追っ払い、わたしはチャリンコのかごの中に子猫を抱きかかえて入れた。それでも逃げもせずじっとしている。緊急避難のつもりで、わたしはそのままチャリンコをこいでアパートに帰った。このままだと衰弱して死んでしまいかねないし、ほかの野良猫にもいじめられるかもしれない。わたしは人助け、否、ねこ助けのつもりだったのだ。
そのときは拾って来てずっと飼うことは考えていなかった。つい2週間前に居着いてしまった「ごん」という先住猫がいたからである。しかし、子猫はぐったりしてかなり弱っている。目やにで目がふさがってしまっているし、がりがりにやせている。わたしは日本シリーズの試合を気にしながら(なんたってスワローズファンであるから)、見守ったが、このままだとなすすべがない。あした朝いちで、アパートの近くにある動物病院へ連れて行くことに決心した。
翌日あらかじめ郵便局でお金をおろしてから(動物病院に行くのは初めてで、いくらかかるか見当がつかなかったのだ)、子猫をタオルでくるみ、またチャリンコのかごにのせて連れて行く。注射を打ち、目薬をもらい、スポイドでやるミルク状の薬をもらった。実は元気になったらまた放してやろうと思ってたのだが、一晩面倒を見るうち、いわゆる情が移るというやつで、この子もうちで飼ってやろうという気になってきた。しかしなかなか薬をのんでくれない。今まで猫を飼ったことのないわたしは要領が分からず、子猫の口をこじ開け、なんとか薬を流し込み、抱っこして目に目薬をさしてあげるのだが、子猫はまだおびえてよたよたと部屋の中を逃げ回る。
最初はほんとにちっちゃな子猫だったから、子猫や小犬を飼った人の多くがついそう呼ぶように、「チビ」と名前をつけていたのだ。わずか500グラムしかなく、片手の手のひらに載る大きさだった。しかしどんな子猫もすぐ大きくなる。どう考えても「チビ」は季節限定ネーミングである。(最近の若い親が子どもにマンガやアニメの主人公みたいな名前をやたらつけたがるが、いずれはそいつらもおじさん、おばさんになるということを念頭においてたほうがいい)。
スワローズファンのわたしは「アツヤ」とか「ドバちゃん」とか考えてはみるもののなんだかしっくりこない。こういうのはいたずらに凝るより、単純で呼びやすいのが一番なのだ。拾ったのが「福都園」の前、ほんじゃあ「ふく」にしよう、と焼肉屋さんの屋号からのれんわけである。というわけで「動物のお医者さん」の菱沼さんの猫の名前からとったんじゃないので念のため。
病院でみてもらったあとは、ふくもかなり元気になり、子猫のくせに「ごん」が食べてるえさをそばからがつがつ食べる。わたしは「ううっ・・まだお母さん猫のおっぱいが恋しい頃なのに」と勝手に目を潤ませて、ふくが食べやすいようにキャットフードを水でふやかせ、やわらかくして食べさせようとするけど、それじゃまずいのかあまり食べず、結局固いままのを食べてしまう。おまけに先住猫の「ごん」はちびの新参者が気に食わず、「う〜っ」と毛を逆立て威嚇して相性は最悪に見えた。しかしふくはごんをお母さんに見立てているのか、同族がいてほっとしたのか、ごんのあとを慕ってちょこちょこついてまわるようになる。それが面白くなかったのだろう、、とうとうごんはプイと家出してしまった。
わたしは土台べつべつに連れてきた野良猫が仲良くなるわけなかったよな、と後悔し、近所を探し回った。その夜突然、「ミャーオ」とごんが帰還した。この子もしばらく外を歩き回って気が済み、共存共栄の道を選ぶことにしたらしい。その後1週間で2匹はすっかり互いの存在に慣れて、仲良しになった。そうこうするうちに、第7戦を待たず、スワローズは97年日本シリーズで優勝を飾っていた。
(写真は、拾ってきて2日目のふくちゃん)
この項続く・待ちかね福来たる
のページへ
猫の部屋の扉へ
ごんの暗い過去のページへ
ごんふく、ふしぎ発見のページへ
失われた時を求めてのページへ
白毛のアン その1のページへ
白毛のアン その2のページへ
白毛のアン その3のページへ
アン shall return のページへ
さよならをするためにのページへ
ふくちゃん、ご乱心!?のページへ
いつもそばにごんふくのページへ