レストラン
管理人はこんな人 〜レストランへのこだわりは。。。
昔っから食べることは大好きだった。両親兄弟、家族みんなが食いしん坊だが、祖父がほんとの食道楽だった。
肉にしても刺身にしても、祖母に「みっともないから止めなさい」と怒られても骨の周りが美味しいんだとしゃぶり続けてた
のを思い出す。桃の場合も種をいつまでたっても口の中に入れてた。やがてマグロは中落ちがもてはやされ、
種や骨の周りが本当は美味しいとテレビやマスコミで取り上げられるようになって、祖父の食いしん坊の確かさが
立証された。ほれ見たことかと自慢げだった祖父の顔を今でも思い出す。
食いしん坊の血が遺伝したことは間違いない^^ もう一つ、中学時代から一人暮らしで、人よりはるかに早くはるかに多く
外食に接し、色んなジャンルの食べ物を自由に食べれら環境が、ますます僕を食道楽にしたかな。
僕のレストランへのこだわりはフランス料理だ。例え料理が自分に合わなくても、サービスがひどいと思えても、
そんな店は二度と行かなきゃいいだけで、あれこれ文句を言うこともなかったのだが、フレンチレストランとなると
そうはいかなくなってしまう。
それは10年近く前に、フジテレビで放映されたあるドラマにはまり込んでからのお話だ。
主演が松本孝四郎、ほか、筒井道隆・山口智子・鈴木京香といった出演者によるあるフレンチレストランの物語。
『王様のレストラン』 覚えてる方もいると思う。
このドラマを見るまでの僕のフランス料理の印象は、「高い」「美味くない」「堅苦しい」と散々だった。今思えば、それは
美味しいフレンチを食べてないことからの偏見だったし、ナイフやフォークをうまく使えないことからの言い訳でもあり、
あの独特の雰囲気に飲まれてしまって萎縮してしまう経験のなさからの逃避文句でもあった。
このドラマはまさに僕のバイブルとなった。実は密かに憧れていたワインの世界。ロマネコンティやモンラッシェ・・・
ブールブランやベシャベルといったソース名、ラグーやポワレといった調理方法。まさにそれはフレンチレストランの
ドラマであり、1軒のレストラン内でしか舞台が動かないという極めて稀なストーリだったが、それを極めることこそが
僕にとってステイタスに感じられたのだ!
レストランにおける、客には見えないところでの給仕&料理人の細かいところまで気を配ったサービス。こんなことも
あるのかと、ただただ感動の連続でした。
「裏でどんなことが起こってたか、あのお客様たちは何も知らず食べてる。気楽なもんですよね〜」
という素人オーナーの問いに、松本孝四郎扮する伝説の給仕が答える。
「いいのです。それがレストランです」
この一言は、僕をドラマでない現実のレストランに目を向けさせるのに充分だった。
このドラマの5ヶ月ほど前、ある知り合いの集まりで赤坂アークヒルズの『ル・マエストロ・ポールボキューズ東京』という
レストランのランチに連れて行かれたことがある。
ドラマを見て、現実のレストランに行ってみたいという気持ちを抑えられなくなった僕は、思い切ってこの店に
一人で足を運んだのだ。
メニューを渡される。ドラマを見ただけで場数をこなしてない僕に、難解な(笑)フランス料理の内容がわかるわけが
ない。
困った、料理を説明して下さいというのも恥ずかしいし、説明されて意味がわからなかったらもっと恥だ。。という
素人のクセに余計なプライドをもった僕の頭をよぎったのは、ドラマのワンシーンだ。あれと同じことをすればいい!
給仕を呼んだ。「あの〜 お薦めはどれでしょう?」
今思うと、恥ずかしい言い方したと思う。これだけの高級レストランのメニューで、お薦めじゃないものを載せてるわけ
ないのだ。聞くなら、「今 旬の料理はどれですか?」とか「この中で特にシェフの得意料理はどれですか?」と
聞くべきだったのだ。そう、今となってはあのドラマもそれはないでしょ〜という嘘や現実離れしてることも
もっともらしく描かれてるのだ^^ ドラマだからね(笑)
さて、給仕の答えは衝撃的だった。
「確か、お客様が以前お越しの時にこの料理は召し上がってらっしゃいますから、これ以外の料理をお試し頂くと
嬉しいのですが」
「えええええ 僕が前この店に来たのご存知なんですか?」
「確かお客様は、6名様でお越しになって、あちらの席にお座りになったと記憶してるのですが」
驚いた。びっくり仰天だった。ドラマの中で展開されてるレストランそのままだ。まさかそんなこと??ということが
このレストランではまさに起こってるのだ。
ここから給仕の方と話も弾み、僕もドラマにはまってフレンチの世界に惹かれ、食事に来たことを素直に告げた。
高級レストランできれいなすっきりした黒服に身を包み、きびきびと動く給仕たち。でも、語り口はソフトで
フレンドリー。メニューも運ばれてくる料理も僕でもわかる言葉で説明してくれて、そこに堅苦しさは皆無だった。
デザートは圧巻だった。僕のテーブルが運ばれてきた3台のワゴンに囲まれ、その上には美味しそうなケーキや
コンポート、アイス・シャーベットの数々。まさに夢の世界がそこにはあった。
アミューズ(付き出し)・前菜・メイン・デザート・コーヒー、これにグラスシャンパンがついて3,999円というのが
この店の隔週代わりランチコースの値段だった。
以来とりつかれたようにこのレストランに通った。2週間に一度、時には週に1度行ったこともある。3,999円の格安客
ではあったが、そこではいつも最高のサービスが待っていた。
給仕は客の気持ちを察するのにも長けていた。
「お客様、シャンパンでなくてワインをお持ちしましょうか?」
そう、フレンチを極めたい僕にとっては、毎回同じシャンパンを飲むよりはグラスワインの方が有難かったのだ。
それからは行く度に料理に合わせて違うグラスワインを用意してくれた。今になって思うと、あの頃出してもらってた
ワインはそうそうたるものだった。シャトージスクール88年、1級畑ピュリニーモンラッシェなどなどあのコースの値段からは
ありえないワインの数々。グラスワインとして供されること自体驚異的でもある。
ボルドー・ブルゴーニュなどの地方毎、カヴェルネソーヴィニヨン・ピノノワール・シャルドネなど葡萄の品種による
味わいの違い、本当によく勉強させてもらいました。
時として「シェフからのサービスです」として、料理をプレゼントされたり品質をあげてもらったり。毎回が夢のような
至福の時間でした。
そんな付き合いが1年ほど続いたあと数ヶ月の出張で訪れることが出来ず、久々に行けると喜んで足を運んだある日。
お店は閉鎖されてました。ドアがあった場所は既に新しい壁となっており、側壁も工事の幕で覆われていて。。。
なんでこんなことが・・・・ 涙が溢れました。ここは、僕にとっては「たかが」レストランではなかったのです。
後になって、建物の所有者の森ビルがテナントレストランを高級ではなくカジュアル路線に変更したため、コンセプトが
合わなくなって閉店したとのことでした。
浮気せずに『ル・マエストロ』だけしか知らなかった僕は、この時からその他の色々なレストランに出かけるように
なりました。どのレストランに出かけても、メニューやリストを見て料理やワインのイメージが大体つくようになってたのに
びっくり。また、外に出て、初めて他店では不可能なことを可能にしてくれた『ル・マエストロ』のサービスに気付くことも
多々あり。僕のフレンチの原点はここにあったのです。